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「いじめを隠蔽する教員ほど出世する」学校現場がいじめ認定に消極的な根本原因

プレジデントオンライン / 2021年11月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

東京町田市で小6の女の子がいじめを苦に自殺した。大津市の事件をきっかけに2013年、「いじめ防止対策推進法」が施行されたが、依然として学校現場ではいじめの隠蔽が続いている。なぜ教員たちはいじめの存在を隠そうとするのか――。

■いじめの構造問題の解決に取り組んだ法律

「いじめ防止対策推進法」(以下、いじめ防止法)は2013年、滋賀県大津市で当時・中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件(亡くなったのは2011年10月)を契機に成立した。この事件では、男子生徒がいじめを訴えていたにもかかわらず、担任の教師が対処しなかったことや自殺後に学校がいじめとの因果関係を否定したこと、学校や教育委員会の遺族に寄り添わない姿勢などに非難が殺到し、大きな社会問題となった。

立法に関わった小西洋之参院議員(立憲民主党)は次のように説明する。

「大津市の事件だけでなく、日本の学校現場では悲惨ないじめ自死事件が繰り返し起きていました。このようなことが起きる原因には、いじめの予防、早期発見、適切な事案対処の実施を妨げている構造上の問題がある。そう考えて、これら三つの対策に関する構造問題を抜本的に解決する仕組みを織り込んだのが、いじめ防止法です」

構造問題とは具体的には、担任や一部の教師だけでいじめを放置してしまう学級運営の閉鎖性のことなどを指す。

「いじめの深刻さに理解が足りない教員、指導力が欠ける教員はいる。そうした限られた教職員の資質によっていじめが見逃されないようにするために、すべての学校に複数の教職員が加わる『学校いじめ対策委員会』という組織を設置することを義務付けました(※1)。学校で起きるいじめはすべていじめ対策委員が調べて、認定して、被害者の子どもを救い出す仕組みです。複数の教員が関わることで、経験年数やクラスの垣根を超えた教員同士のつながりを深めることも目的としています」

いじめ対策委員会には、子どもにとってもっとも身近な学級・教科担任はもちろん、生徒指導担当、学年主任、養護教諭、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーなど学校内の職員だけでなく、弁護士や医師などの外部専門家が参加することができ、いじめ解決に向けて知恵を出し合う。さらに、学校では「学校いじめ防止基本方針」(※2)を策定することになっている。

「学校いじめ防止基本方針には2つの柱があります。ひとつは、いじめの予防のためにいじめが起きにくい環境をつくることに役立つ授業などを年間通じて計画的に行う『いじめの防止プログラム』、もう一つが『早期発見・事案対処マニュアル』の策定です。これらによって、いじめの『予防』『早期発見』、適切な『事案対処』を可能にしていきます。いじめ防止法は、重大事態のための法律だというイメージが広がってしまいましたが、最大の本質はそこではありません。一番の想いは、いじめは起こるという前提で構造問題を乗り越えた実効性のある対策を行い、いじめで子どもが死ぬことをゼロにする。重大事態のようなことを絶対に起こさせない。そのための法律なんです」

※1 「いじめ防止対策推進法」22条 「学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする」。
※2 「いじめ防止対策推進法」13条 「学校は、いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ、当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする」。

■町田の事件では「いじめ防止法」が形骸化

しかし、いじめ防止法制定後もいじめによる自殺は続いている。

町田市で小学6年生の女の子が自殺した事件では、担任がいじめを認識していたが、「いじめ対策委員会」が機能していた形跡はない。学校が町田市教育委員会に「重大事態」として報告したのは2カ月半後のことだ。

そうして、今年3月から町田市教育委員会の下で行われた調査では、遺族から調査委員会の委員について「いじめ防止法」が求める公正・公平等の要件に合致するのかなどの説明を求めたが受け入れられず、教育委員会は「常設委員会」で調査を強行。説明やヒアリングもないままに調査が進んでいくことに危機感を抱いた遺族が、新設の「第三者委員会」立ち上げを求めて9月13日、文科省で記者会見を開くに至った。

この事件は文科省が肝いりで進めるGIGAスクール構想も絡む問題だったこともあってか、文科省は記者会見の翌日という異例のスピードで町田市教育委員会への指導を行った。そうした中、町田市の石阪丈一市長は市長部局に新たな第三者委員会を立ち上げることを発表したが、委員の選定について「遺族の推薦は受け付けない」と明言していた。

小西議員は危機感をあらわにする。

「重大事態の対処については、いじめを受けた児童や保護者から申し立てがあった場合には、適切、かつ真摯に対応するように定められており、このまま遺族に寄り添わない形で調査が行われたら、いじめ防止法が崩壊してしまう(※3、4)。そもそも市長が調査を行えるのは、第28条調査(重大事態が起きたときの調査)に対する再調査のみです。町田市教育委員会の常設委員会が10月13日に報告書を出していますが、その名は『経過報告書』であり、法律が求める事実関係の真相解明及び再発防止策の提言は全くありません。

この報告書を受けて市長が再調査するとしたら、調査は終わっていないのですから法律違反です。本来、市長の再調査は市教委の調査を適正なものにするための重しなのに、市教委と首長が結託してしまっているところにこの事件の異常さがあります。いじめ防止法の運用の歴史のなかで悪しき前例をつくってしまうことになると危惧しています」

町田市庁舎
筆者撮影
町田市庁舎 - 筆者撮影

※3 「いじめ防止対策推進法案に対する附帯決議」(平成25年6月19日 衆議院文部科学委員会) 第五項 重大事態への対処に当たっては、いじめを受けた児童等やその保護者からの申立てがあったときは、適切かつ真摯に対応すること。
※4 「いじめ防止対策推進法案に対する附帯決議」(平成25年6月20日 参議院文教委員会) 第三項 本法の運用に当たっては、いじめの被害者に寄り添った対策が講ぜられるよう留意するとともに、いじめ防止等について児童等の主体的かつ積極的な参加が確保できるように留意すること。

■当事者に調査させる法律の不備

調査のあり方に法律違反があるのなら是正されるべきだが、なぜ、このような事態になっているのか。

いじめで重大事態が起こると、教育委員会が既存の「常設委員会」を用いたり、第三者委員会を立ち上げて調査を行う。この調査手続きやその調査結果について遺族が不十分だと再調査を求めるケースは、町田に限った話ではなく、全国各地で起きている。

この点について、筆者はそもそも法律に不備があると感じた。というのも、小西議員は町田市教育委員会や常設委員会は「いじめ自死事件の責任者でもある」と語っている。

「被害児童の自死の後、いじめの存否について担任と校長の見解が分かれている学校の対応を見ていると、いじめ防止法が求める組織的対応ができていないと思わざるを得ない。また、自死まで保護者にいじめの存在を報告していなかったことも明確な法律違反です。そして、学校に法律を遵守させる責務を有する町田市教委にも責任はあるし、さらに言えば、町田市教委の付属機関である『常設委員会』(※5)の責務は、町田市の学校にいじめ防止法を適切に運用させるべく市教委に意見を行うこととされています。つまり、端的にいえば、『常設委員会』は、そもそも、いじめ自死を防ぐためにその法律上の責務を適切に果たしていたのか調査されるべき対象ですらあるのです」(小西議員)

そうであるとしたら、責任が追及される調査を当事者にやらせるのは無理があるように感じるのだ。

10月8日、教育学者らと立ち上げた「いじめ当事者・関係者の声に基づく法改正プロジェクト」で、いじめ防止法の改正を求める政策提言を発表したNPO法人「プロテクトチルドレン えいえん乃笑顔」代表の森田志歩さんは、次のように話す。

いじめ防止法の一番大きな問題は、重大事態の判断とか、第三者委員会を設立する権限のすべてが、調査対象である教育委員会や学校に委ねられているという点です。だから、中立公正になんかなるわけがない。問題が起きても、そもそも重大事態として認めません。今回、私たちは文科省の中に学校や教育委員会の対応を検証する第三者機関を設置し、不適切な場合には是正勧告できるように文科省の権限を強めてほしいと提言をしています。現状の法律では文科省には何の権限もなく、地方自治体の教育委員会に対しては指導するくらいしかできないのです」(森田さん)

※5 「いじめ防止対策推進法」第14条3項 「前二項の規定を踏まえ、教育委員会といじめ問題対策連絡協議会との円滑な連携の下に、地方いじめ防止基本方針に基づく地域におけるいじめの防止等のための対策を実効的に行うようにするため必要があるときは、教育委員会に附属機関として必要な組織を置くことができるものとする」。

■「いじめを認めるのは怖い」現役教師の声

さらに小中学校の現役の教員たちに話を聞くと、普段、子供に接している教員たちがいじめを隠蔽(いんぺい)してしまう理由が見えてきた。

「なぜ、隠蔽が起きてしまうと思いますか?」という質問に対し、教員たちは皆、口をそろえて「いじめが起きるのは悪いことだと思っているから」と答えた。

「いじめが起きたときに感じるのは、自分の指導力不足です。だけど、それを公に認めてしまうと、管理職や保護者など、いろんなところから集中砲火が来るのが目に見えています。いまの学校現場には、守ってくれる人がいないので認めるのが怖いんです」(神奈川県の市立中学校勤務のS教員)

「いろんなものが壊れてしまう怖さがあります。いじめられている子を守らなきゃいけないのはもちろんですが、担任としては加害者側の事情もわかる。いじめを認めて加害者を成敗してしまっていいのか、判断ができない。担任をしていると、『こいつが悪いです』というのがすごく難しいんです」(神奈川県の市立小学校勤務のF教員)

教員たちが語るいじめを認める恐怖。小西議員は「いじめ防止法に照らせば、本来は感じる必要がないものだ」という。

「第34条(※5)では、いじめが起きたこと自体は悪いことではなく、むしろ、隠蔽などを防ぐために、常日頃のいじめの早期発見などの対策を適切に行っているかを学校評価における留意事項として明記しています。さらにこの評価基準は教員評価にも適用されることになっています。このことを先生たちには知ってほしいと思います。

いじめ防止法の運用の最大の課題は文科省が通達を出しても、現場の先生たちにまでその内容がほとんど伝わっていないことであり、理解を確保する法改正が必要だと思います。その上で、本当に実効性のある対策がなされているかを把握するためには、子供にいじめの有無のアンケートを取るだけでなく、『学校にいじめ対策委員会があるのを知っていますか?』『先生たちは、相談すると話を聞いてくれますか?』など、学校の取り組みについても“子ども目線”で評価する法改正が必要とも考えています」

文科省の調査ではいじめの認知件数自体は増加傾向で、これはいじめがあること自体を問題視しないという「いじめ防止法」の趣旨が浸透してきた結果だと前向きに評価する声も多い。だが、教員たちは「そんな単純な話ではない」という。

いじめの認知件数
昨年度は減少したが、それまでは右肩上がりで推移 出典=文部科学省 令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要

※5 (学校評価における留意事項)第三十四条 学校の評価を行う場合においていじめの防止等のための対策を取り扱うに当たっては、いじめの事実が隠蔽されず、並びにいじめの実態の把握及びいじめに対する措置が適切に行われるよう、いじめの早期発見、いじめの再発を防止するための取組等について適正に評価が行われるようにしなければならない。

■「いじめ解消率」を気にする校長が隠蔽を誘発

東京都内の区立小学校に勤務するY教員は言う。

「年3回行われる『いじめアンケート』に書かれたいじめ案件は、『いつ、だれが、だれにどういうことをされたか』を明記して、教育委員会に提出します。それとは別に『いじめ一覧』もつくります。ここに記載したいじめ案件が何カ月経ったら解消されたのかも報告しないといけません。東京都では3カ月を目途に対象児童を調査して、『いまどう?』『イヤなことはない?』などとヒアリングします。子供が『ない』と答えたら解消、それ以外の解消できなかった案件はオレンジ色にマークして教育委員会に提出します。これを基に、教育委員会が区の一覧を作成し、あなたの学校は区のなかで何番目の解消率なのかと、平均値などとともに示されるんです」

いじめ解消率で、学校のランク付けを行う――。

これが全国の自治体で行われているかは不明だが、平成30年3月に総務省が発表した「いじめ防止対策の推進に関する調査 結果報告書」の中では、「いじめの認知件数に占める、いじめの解消しているものの割合の増加」が成果指標になっていることが報告されている(P52 図表2-(3)-⑤ 平成25年6月14日閣議決定「教育振興基本計画」)。

「教育委員会から解消率で成果を問われるので、学校評価を気にする校長は『いじめ解消率を上げないといけない』となってしまい、それが現場の教員たちへの圧力になっています。解決できないと問題視されてしまうので、子供が正直に『いじめアンケート』を書くと、困る先生はその子を呼んで『ここの丸、こっちじゃないよね、こっちじゃないかな』って誘導するんです。どこのクラスでもやっていて、重大案件の項目のところには丸しないようにしています」(Y教員)

これが本当だとしたらとんでもない話だが、自分の学校にはいじめはない、あっても解決したとしたがる校長は多いと教員たちは言う。

いじめ解消率ではなく、いじめに対応しているかで評価をしてほしい。そもそも、いじめの認定をすることも、解決したと判断することも、基準があいまいで非常に難しいのです。しかも、教師が解決しなくてはいけないいじめの範囲はとてつもなく広い(※6)。何かあると教師が叩かれますが、授業や部活をやるだけでなく、学校外やインターネット空間で起こるいじめ解決にまで学校や教師が責任を持つというのは、実際にはとても難しいことを理解してほしいです」(S教員)

いじめ解消率の取り扱いについて文科省に問い合わせたところ、「現在はいじめ解消率を成果指標にはしていない。解消率が高ければいいということではないということは伝えているが、伝わっていないのであれば引き続き説明を続けていきたい」とのことだった。

※6 いじめの定義「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」。学校の内外を問わず、インターネットを通じて行われるものも含むとなっている。

■「教育委員会も逆らえない」強い権限を持つ校長

教育者なら、校長からいじめ解消率を上げるように圧力をかけられたとしても、きちんと対応してほしいと思うものだ。だが、「校長に逆らうのは難しい実情もある」と教員たちは訴える。

「学校では校長が教員の人事権を握っているので、絶対的な力を持っているんです」(S教員)

「私の学校では指導力のある素晴らしい教諭が、校長先生ににらまれて、結婚が決まって新居を買った一週間後に、東京都の島に飛ばされたことがあります。目標申告シートというのがあるのですが、それに対してSABCDの5段階評価をつけられます。ここで校長にCをつけられると『島流し』、Dをつけられると『センター送り』になるんです」(Y教員)

センター送りとは、水道橋にある「東京都教職員研修センター」のことだ。別名“ダメ教師収容所”で、そこに入れられると教師失格の烙印(らくいん)が押されて後々まで影響があるという。

さらに、学校を監督する立場にある教育委員会も、実際には校長に頭が上がらないのだと教えてくれた。

「校長はたいてい、教育委員会を経てから校長になる。つまり、年次でいうと、教育委員会の職員よりも校長のほうが上。そして、その校長は数年前までは教育委員会にいたわけですから、付き合いが濃いわけです。だから、たとえ重大事態が起きても、教育委員会は校長の責任を追及するようなことはやりにくいんです」(神奈川県の中学校勤務M教員)

■「いじめ」を生み出しているのは誰なのか

絶対的な権力を持って学校に君臨する校長。もちろん、その校長にも屈しない気骨のある教員はいる。だが、「残念ながらそういう先生は昇進しない」という。

「いまの評価制度のなかで昇進するのは、校長にこびて、言われるままにいじめを隠蔽してしまうようなタイプの教師ばかりなんです。一方的な人事評価を変えて、平の教師に校長を評価する仕組みをつくってほしいです」(S教員)

NPO法人プロテクトチルドレン代表の森田志歩さんは言う。

「学校や教育委員会の対応に問題があると責めるのであれば、なぜ、そういう対応になるのか原因を明らかにしない限り、問題は改善しません。私自身の経験では、被害者に寄り添うのはもちろんですが、加害者や教員、教育委員会の話にも第三者的な立場でしっかり耳を傾け、そのうえで彼らの問題点を明確にしていくことでいじめ問題は解決していきます。いまいじめの問題が解決せず、同じことが繰り返される理由は、本当の意味で第三者的に対応できる人がいじめ問題の現場にいないことにあるのです。そういう専門機関をつくることを提案していきたいと思っています」

子供が行う陰惨ないじめは、大人の社会の縮図だ。いじめ自殺をゼロにするには、ただ学校や教育委員会を責めるだけではだめなのだろう。一方的に誰かを叩く構図は、学校で行われているいじめと変わらないのかもしれない。

そして、町田市の事件で遺族が望んでいるのは、小学6年生で自ら命を絶った娘に何があったのか、真相を知りたいということだ。その切なる願いが、しっかりとかなえられることを願っている。

(プレジデントオンライン編集部 森下 和海)

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