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「あなたは親をゴミ扱いしていないか」老人ホーム選びのプロが"転ホーム"を勧めるワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shapecharge

「老人ホーム」はどう選べばいいのか。老人ホームコンサルタントの小嶋勝利さんは「ずっとこのホームにいてもらえば安心、という考えは親をゴミ扱いしているのと同じ。身体の状態の変化に合わせて最適なホームを探し、住み替えてもらうことが本当の親孝行になる」という――。

※本稿は、小嶋勝利『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■子どもを絶望させる問題行動は徐々に消えていく

これからの老人ホームを考えたとき、「転ホーム」という選択が大切になってきます。多くのケースで、子世代が親を老人ホームに入れる決断をするタイミングは、認知症による問題行動が動機になっているはずです。細かい話をすれば、親の排せつ障害です。これが老人ホームへの入居を考えるスイッチの一つでしょう。しかし、逆に言うと、これ以外の理由で親の在宅生活に絶望することは、そう多くはないはずです。

この場合、認知症対応が得意なホームを探すということになるはずです。だからというわけではありませんが、多くの老人ホームは「認知症なら当ホームへ」といったうたい文句が、パンフレットに踊っています。ですから、それほど困らずに老人ホームを見つけ出すことができるはずです。認知症で問題行動を起こす親が老人ホームに入居さえしてしまえば、家族にとって、また、平穏な日常が戻ってくるのです。

多くの認知症高齢者の場合、短ければ数カ月以内、長くても数年以内に、実は問題行動は消失していきます。理由は、ADLが徐々に低下していくからです。

ADLとは、日常生活動作のこと。簡単に言えば、日常生活を送るために必要な機能のことを言います。排せつや入浴、食事、着替えなどが代表的な日常動作に当たります。それまで、元気にホームの廊下を徘徊していた認知症入居者のADLが低下していって、やがて、足腰が弱くなり、車いすでの生活が始まります。さらに、ADLが落ちていくと、ベッド上で過ごす時間が長くなります。多くの高齢者は、このプロセスを踏んで、徐々に寝たきり状態になっていくのです。

■認知症対応と医療行為が得意なホームは違う

ここで、考えなければならないことがあります。「転ホーム」の必要性です。認知症対応が得意なホームが、他の介護支援も得意だということは、けっしてありません。医療的な対応が苦手なホームは、現実にたくさんあります。リハビリについてまったく知識のない老人ホームも、数多くあります。皆さんは、このことを理解することができるでしょうか?

認知症は病気です。だったら「医療対応でしょう」という方がいると思いますが、たしかに、認知症を根治させる行為は医療行為ですが、多くの老人ホームは認知症を根治させることに取り組んではいません。取り組んでいるのは、認知症の高齢者を「預かれる」という行為だけなのです。

認知症高齢者を得意とするホームは、問題行動に対する知見が高く、問題行動をさまざまな経験値でねじ伏せていくことができるホームです。しかし、そういったホームが医療的な処置が得意かと言われれば、そうではありません。また、リハビリ的な行為が得意なのかといえば、それも得意ではありません。

介護
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■寝たきりになったら家族のもとに帰ったほうが良い

要は、加齢や他の病状の悪化などにより認知症の問題行動が消失し、ADLが低下した高齢者に対する対応が得意であるというわけではないのです。

また、ベッド上で一日の大半を過ごす入居者の対応が得意だ、ということでもありません。それはまた違うスキルの話です。

原因が認知症だろうとなんだろうと、常時、車いす上で生活することが決まってしまった高齢者の場合、体が不自由な高齢者を得意とするホームを探すべきなのです。具体的には、リハビリテーションに力を入れているホームということになるのではないでしょうか?

ADLが徐々に低下していくと、最後は寝たきりです。皆さんは、もし自分が寝たきりになったらどうしますか? 私は、寝たきりになったら家族のもとに帰ればいいと思っています。何を馬鹿げたことを言っているのか! と思われる方も多いと思いますが、寝たきりになったら、在宅にて訪問介護などのスキームを利用すれば、対応は十分可能です。

■一度入居させたら終了、はゴミ扱いと一緒

話を転ホームに戻します。私は次のような流れがベストだと考えています。

認知症状の悪化によって問題行動が発生し、自分たちの生活が脅かされてきた→認知症状への対応が得意なホームに入居→ADLの低下(身体機能の衰え)により認知症状による問題行動が消失→生活機能の向上が得意なホームに転ホーム→その甲斐もなく寝たきり状態に→自宅へ。というような流れになると思います。

または、寝たきりの状態から看取り期に入った場合、自宅から改めて老人ホームへ転ホームするという流れもあると思います。

親を老人ホームに一度入居させたら、それで終了。という発想は、親を捨てているのと同じです。私は、こんな現象を見ていると、老人ホームはゴミの処分場と同じであると、言わざるをえません。なぜなら、「一度入れたら、死ぬまで放置」ということだからです。もし、親はゴミではない、というのであれば、ぜひ、親の状態に合わせて、最も適切なホームを探すという行為をしてほしいと思います。

■洋服や家のように老人ホームを住み替える

今は、私が介護職員をしていた時と比較しても、入居一時金の不要なホームがたくさんあります。つまり、「転ホーム」をすることに、躊躇する環境は、かなり改善されているはずなのです。

毎年洋服を買い替える人は、たくさんいます。体形が変化してサイズが合わなくなれば、買い替えざるをえません。家だって、家族構成が変わったり、収入が増えたり減ったりすれば、買え替えたり、建て替えたり、引っ越したりします。

なぜ、親の老人ホームだけは、それをしないのでしょうか? 面倒だから? もしそう考えているのであれば、考えを変えて、「本当の親孝行をしてください」と言いたいのです。そのためには、少しだけ自分の時間を使って、老人ホームのことを考えたり、勉強してほしいと思います。

親の状態変化に合わせてホームを住み替えること。これが「転ホーム」です。しかし、みなさんにはこんな疑問もあるでしょう。「1、2年で何度も転ホームをすることは、不経済ではないのですか?」「ぎりぎりまで待って、老人ホームに入居をした場合、死に向かって衰えていく高齢者を次のホームに移すことは本当に良いことなのだろうか?」と。

■「人間関係」「居心地」を考えて柔軟に決めれば良い

私の考えはこうです。引越費用は、20平米程度のスペースに入るだけの荷物しかないため、特別な経費が掛かることはありません。老人ホーム入居者は、実は、今はやりのミニマリストなのです。したがって、経済的な話は考える必要はないと思っています。

小嶋勝利『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社)
小嶋勝利『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社)

さらには、何が何でも「転ホーム」ということではなく、状況を見極めるということが重要になってきます。たとえば、当該ホーム側と良好な人間関係が構築できている場合は、無理な「転ホーム」をする必要はありません。最後まで、当該ホームに託す、ということも重要です。たとえ介護看護能力が足りなくても、老人ホームは医療機関ではないため、知識や技術のほかに「居心地」というものが重要になってくるからです。

考えてもみてください。医療の場合、仏頂面で感じが悪いがスキルの高い医師と、いつもニコニコ感じは良いが、スキルが低い医師とでは、どちらに治療をしてもらいたいでしょうか? この場合は前者ですね。介護ではどうですか? 介護スキルは高いが感じの悪い介護職員と、介護スキルはおぼつかないが、いつもニコニコして感じが良い介護職員とでは、どちらに介護支援をしてほしいでしょうか? おそらく後者でしょう。

したがって、入居している老人ホーム側と良好な人間関係が構築できているという場合は、入居者の身体の状態を考えながら、「転ホーム」を見合わせるという判断もあり、ということなのです。

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小嶋 勝利(こじま・かつとし)
老人ホームコンサルタント
神奈川県生まれ。長年、大小さまざまな老人ホームに介護職員や施設管理者として勤務後、有料老人ホームのコンサルティング会社AFSONを設立。介護施設紹介センター大手「みんかい」の経営スタッフとして活躍中。(株)ASFON TRUST NETWORK常務取締役。公益社団法人全国有料老人ホーム協会業務アドバイザー。著書に『誰も書かなかった老人ホーム』『老人ホーム リアルな暮らし』(共に祥伝社)、『老人ホームの金と探し方』(日経BP)、『もはや老人はいらない!』(ビジネス社)など。

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(老人ホームコンサルタント 小嶋 勝利)

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