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2030年代に入っても「EVが主流になることはない」これだけの理由【2020年BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年12月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

2020年(1~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。ビジネス部門の第1位は──。(初公開日:2020年12月18日)
2020年12月17日、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)がオンラインで記者団の取材に答え、政府が2050年に温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にする目標を打ち出したことに対し、「自動車業界のビジネスモデルが崩壊してしまう」「日本は火力発電の割合が大きいため、自動車の電動化だけでは二酸化炭素(CO2)の排出削減につながらない」と懸念を示し注目を集めた。電気自動車(EV)へのシフトは本当に現実的なのか? 戦略プランナーとして30年以上にわたりトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わり、話題作『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)などの著作で知られる山崎明氏は、メーカー・ユーザー両方の状況をよく知る立場から、世界的にEVが主流になるとの見方に対し4つの疑問を投げかけ、中国もHVを重視する方向に転じた事実に目を配るべき、と指摘する──。

■「2030年代に自動車の主流はEVに」への大きな疑問

日本も2030年代半ばには販売される自動車をすべて電動車とする方針──こんなニュースが駆け巡った。一部で「ガソリン車販売禁止」と報道されたこともあり、混乱もあったが、ただし、電動車にはハイブリッド車(HV)も含まれるため、純粋な電気自動車(EV)がどの程度の比率になるかは不明だ。

一方、イギリスは2035年にはHVも禁止し、すべてをゼロエミッション車とする方針を打ち出し、米カリフォルニア州も同様に2035年にすべてをゼロエミッション車にすると表明している。

このような方針の下、向こう15年ほどで急速にEVシフトが起き、EVが自動車の主流になる、という論調が最近目立っている。しかし本当にEVは主力になるのだろうか。私はいくつかの理由で疑問に感じている。

■第1の疑問:果たしてCO2対策の切り札といえるのか

EVを普及させる目的は、ひとえにCO2排出量削減である。それ以外の目的はない。そのための切り札がEVだ、と一般的には考えられている。しかし、果たして本当にそうなのだろうか?

EVは確かに、走行時に一切CO2を排出しない。しかしCO2排出量を考える時、一つ考慮しなければいけない重要な点がある。リチウムイオンバッテリーの生産には多くの電力が必要で、その電力が火力由来の場合、生産時に大量のCO2を排出してしまうのだ。

バッテリーの搭載量が大きければ大きいほどCO2の排出量は多くなる。ノルウェーのようにほぼすべての発電が水力の国や、フランスのように原子力発電が多くを占める国を除けば、まだ火力発電の比率はかなり高いのが現状である。

■EV化によるCO2削減効果は思いのほか小さい

これは生産だけの話ではなく、実際の走行に使われる電気もカーボンフリーではないことを意味する。またリチウムイオンバッテリーはリサイクルの際に加熱処理が必要で、多くのCO2を排出する。

生産から使用、廃棄にいたるライフサイクル全体で見た場合の試算がいろいろ出ているが、概してみると、現状の発電構成でもEVのほうが一般的内燃機関車よりCO2排出量が少ないという結論が多いようだ。

どの程度削減できるのだろうか。EVSmartBlogというサイトが行った試算では、新世代ガソリンエンジンであるマツダSKYACTIV-X搭載車とテスラ・モデル3の比較で走行9万~11万kmでEVのCO2排出量が少なくなるとしている。

ボルボのEVブランド、Polestarも同様の試算をしており、現在の世界の発電状況ではEVがガソリン車を下回るのは11.2万kmとしている。ちなみに100%クリーン発電になっても、5万kmまではEVのCO2排出量のほうが多いという。どちらもEVに積極的な立場での分析の結果である。

最近の車は耐久性も向上し、10万kmどころか20万km近く走る例も少なくないようなので、長期的に見ればEVのCO2排出量が少なくなるのは間違いない。また、今後クリーン発電が増えればより短い距離でガソリン車と肩を並べるようになるであろう。

しかし思いのほか差が少なく、EV化によるCO2削減効果はそれほどでもないという見方もできないだろうか。

■「バッテリー性能問題」と「既存システムの進化の可能性」

さらに、バッテリー寿命は使い方によって大きく異なるため(急速充電が多いと寿命が短くなる)20万kmもつかどうかという問題もある。もし10万km程度で交換ということになれば、CO2削減効果はチャラになってしまう。そもそも日本では、13年以上の古い車は重課税がかかるので、10万km走る前に廃車になってしまう車が依然として多いのだ。

またテスラのような大型バッテリーを搭載した車は、バッテリー保護のため空調機能を搭載している。これは駐車中にも動作することがあり、車を一切使っていなくても一定の電気を消費している。

テスラの場合、さまざまな情報を総合すると1日あたり1~4%の電力を消費するようだ。つまり、乗らなくても25~100日放置すればバッテリーは確実に空になる。これは内燃機関にはないエネルギー消費で、この点も考慮する必要がある。

一方で内燃機関も効率を上げており、ハイブリッド機構と組み合わせた場合、たとえばトヨタ・ヤリスは実際の走行でも30km/Lを超える数字を出しているようである。

上記ライフサイクル比較ではガソリン車の燃費を15.3km/Lと仮定しており、それより2倍燃費が良いHVとの比較なら、EVは20万km程度でようやくガソリン車を越えることになる。もちろん、サイズが異なるテスラ・モデル3とヤリスハイブリッドとの比較はフェアではないが、現在モデル3は最も電費の良いEVなのである。

これらの事実から考えると、さまざまなデメリットのあるEVを普及させる価値があるのかと疑問がわいてこざるを得ない。一方、HVなら、通常のガソリン車とまったく同じ使い勝手で使えるうえ、バッテリーは小さくて済むので価格の上昇もそれほどでもなく、バッテリー廃棄の問題も少ない。そして、SKYACTIV-Xのようにまだまだ内燃機関が進歩する可能性も、HVシステムがより効率化する可能性も残っているのだ。

■第2の疑問:電力を賄えるのか

一般家庭の電気消費量は、夏場でも1日15kWh程度。EVの電費を6.5km/kWhと仮定し、月1000km走るとして、1日あたりの電気消費量は約5kWh。EVが3台増えると1世帯分の消費電力が増える計算になる。EV化が一気に進むとすれば電力供給は逼迫(ひっぱく)するだろう。

原子力発電所の増設は見込めず、グリーン発電も設置場所が限定され簡単には増やせないうえに、発電量は天候に左右されるため安定供給は望めない。だとすると、EVが急速に増えてしまうと結局、火力発電を増やさざるを得なくなるだろう。

これではなんのためにEVを普及させるのかわからなくなってしまう。

■第3の疑問:EVは安くなるのか

EVは、普及期に入ればコストダウンしてガソリン車と変わらない価格になるだろうと一般的にはいわれている。EVはパソコンやスマホとイメージが重なるので、なんとなくそうだろうと信じたくなるが、はたして本当にそうだろうか。

自動車の給油用ポンプと充電用コネクタを持つ手
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

EVの価格が高いのは、ひとえにリチウムイオンバッテリーが高いからである。パソコンやスマホと比べてEVが必要とするバッテリーの量は圧倒的に多い。

パソコンのバッテリーは40Whくらい、EVは大型バッテリーだと100kWh、少ないものでも40kWhくらいなので、パソコンの1000~2500倍くらいのリチウムイオンバッテリーが必要だ。もしEVが本格的に普及すると、必要となるリチウムイオンバッテリーは膨大な量となる。

リチウムイオンバッテリーの生産にはリチウムのほか、さまざまな希少資源が必要だ。その需要が一気に高まった場合、原材料価格は下がるのではなく上がると考えるのが自然だろう。大量生産で生産コストは下がるかもしれないが、原材料価格が上がるならばバッテリー価格の大幅低下は期待できないと考えるべきではないか。

容量や充電時間の問題だけでなく、ローコストの資源で生産できるバッテリーの開発がEV普及のためには必要不可欠のように思われる。

■第4の疑問:実用性の低さ

私は数年前、当時勤務していた会社で社用車としてあったBMW i3というEVを使ったことがある。とても軽快に走る車で、右足の踏み加減で自由自在に加減速でき、都内の一般道を走る分にはガソリン車より運転を楽しめる車であった。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)
山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

会社の充電器で充電し、その電気の範囲内で行動する分には申し分ない車だった。しかし安心して走行できる距離は120km程度であり、勤務地から55kmほど離れた自宅まで往復するのはギリギリで、さらに遠くまで行くには出先での充電が必須だった。最近はより航続距離の長いEVも発売され、実際の使用でも400km程度走れる車種もあるようだが。

問題は充電にかかる時間とそれで充電できる電気の量だ。一般的に普及している急速充電スタンドは1回の充電時間が最大30分に制限されている。自動車専門誌のテストでは大型EVの場合、30分充電してもそれで走れる距離は100kmにも満たないケースが多いようだ。

■都市居住者やグランドツーリングに向かない欠点

欧米メーカーから発売されている大型で高性能なEVは、航続距離こそ長いが、いざバッテリーが空になったあとはきわめて不便なものとなるのだ。またEVは、スピードを出せば出すほど電費が急速に悪化するので、高性能EVの性能を楽しんでしまうと電気を一気に消費する。日本よりはるかに車の流れが速く、走行距離も長い欧州ではこの問題は深刻だろう。

そのうえ、自宅に充電設備を設置できて夜間充電できるユーザーはいいが、そうでなければ一般充電スタンドに頼らざるを得ず、30分充電しても100km以下しか走れなければ日常使いでも支障をきたすだろう。

マンションの駐車場、特に機械式の場合は充電設備を設置するのは不可能か、可能でも多くのコストがかかるだろう。EVは自宅に充電設備がある人の短距離シティコミューターには向いているが、都市居住者やグランドツーリングにはまったく向いていないのだ。

■「プロパガンダ」に惑わされないことが重要

このように、考えれば考えるほど、EV化の促進に対して疑問ばかりわいてしまう。

CO2削減という主目的にさえ疑問符が付くのに加え、急速なEVシフトは産業構造も大きく変化させることになり、自動車産業が中核をなす日本やドイツなどでは雇用問題にも大きな影響を与えるだろう。

価格も安く、容量も大きく、充電に時間もかからずリサイクルも容易なバッテリーが開発されれば話はまったく変わってくるが、現在のリチウムイオンバッテリーを前提に考えるとEVの普及は限定的にならざるを得ないというのが自然な考え方ではないだろうか。

都市内のコミューター的な用途、地方の高齢者の限られた範囲の足としては向いているが、一般的な自動車の使い方と社会全体のエネルギー構成を考えた時、現状のCO2対策の最適解はHVの普及と性能進化なのではないだろうか。

ガソリンと電気に分岐した道で悩んでいる人の絵
写真=iStock.com/wildpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wildpixel

プラグインハイブリッド(PHEV)という選択肢もあるが、中途半端に重く高価なバッテリーを積むので価格が高くなるうえに、ユーザーが頻繁に充電しないとガソリン主体の運用となり、通常のHVより燃費が悪くなるという欠点がある。

■中国もEV集中戦略を転換

それに気がついたか、中国は今までのEV集中戦略からHVも重視する方向に転換した。これにはトヨタがハイブリッド関連特許を無償で提供することを決めたことが大きい。

そもそも、日本以外の国がHVに冷淡なのはトヨタの技術にまったく追いつけないからだ。おそらく欧米も結局はHVを重視せざるを得なくなるだろう。

日本メーカーは冷静かつ客観的に判断していると思う。ユーザーとしても海外のプロパガンダに左右されずに、冷静に何が正しいのかを見極める必要があるだろう。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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