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「中国に依存してきたツケ」韓国のバスやトラックが大混乱に陥った"尿素水不足"というワナ

プレジデントオンライン / 2021年11月15日 12時15分

2021年11月09日、韓国南西部の全羅北道益山市にある屋内体育館で、尿素水を買うために列を作って待つ買い物客たち(写真=EPA/時事通信フォト)

■中国から供給できず、バスやトラックが大混乱

現在、韓国でディーゼル車の排ガス浄化などに用いられる、“尿素水”の不足によって経済が混乱している。その背景には、尿素水の原材料となるアンモニアの輸入を、過度に中国に依存してきた韓国経済のある種の偏りがある。

中国では主に石炭からアンモニアを精製して尿素を作り、それを水に溶かすことで尿素水が生産される。最近、中国では石炭不足が深刻化しアンモニア生産が減少した。10月中旬、共産党政権は国内需要を優先するために尿素水などの輸出を制限した。

尿素水が不足した結果、韓国でディーゼルエンジンの乗用車やバス、貨物トラックの運行に重大な支障が出た。物流や市民生活への不安は高まり、韓国経済は大きな混乱に直面している。韓国国内では不足が続くとの見方から尿素水の価格が高騰しており、インターネットなどで個人間でも尿素水の高値での取引が頻発している。

これまで、韓国は経済の効率を高めるために、欲しいものを必要な時に、必要なだけ輸入すればよいという考えだった。結果的に、その姿勢が特定の国からの輸入依存度を過度に高め経済構造を歪めてしまった。わが国は、そうした韓国の教訓を他山の石として、経済安全保障の強化を真剣に考えることが必要だ。

■輸出量の97%を中国に頼っていた結果…

報道されている内容を見ると、尿素水を補充するためにトラックや商用車がガソリンスタンドに続く路上で長蛇の列をなしている。また、尿素水の販売所にはタンクを持った人が列をなしている。韓国社会に重大な影響が出ていることは間違いない。

その背景には、韓国が尿素水を中国からの輸入に頼り過ぎたことがある。過去には韓国企業も尿素水の生産を行っていたのだが、中国企業との価格競争の激化による採算の悪化や純度の高い尿素水を生産するコスト負担などを理由に、2011年頃に韓国国内での尿素水生産を止めてしまった。現在、韓国は国内で需要される尿素水のすべてを輸入に頼っている。そのうち97%が中国から輸入されている。実質的に韓国の尿素水の調達は、ほぼ中国一国に依存している。

ところが、中国で石炭の不足が深刻化し、尿素水の原料であるアンモニアの生産が落ち込んだ。中国では経済成長に伴う電力供給などのために石炭の消費が増え、大気汚染が深刻化した。大気汚染対策のため、共産党政権は石炭の消費を減らすべく炭鉱の閉鎖に取り組んでいる。さらに、世界的な脱炭素への取り組みに対応するため、共産党政権は石炭火力発電所を減らしている。

■国内需要を優先した共産党政権は輸出を制限

それに加えて、新型コロナウイルスの発生源をめぐって中国はオーストラリアと対立し、豪州産石炭の輸入が一時止められた。中国の主要な石炭産出地である山西省で、洪水が発生して炭鉱が閉鎖された。感染再拡大による国境封鎖によって、モンゴルなどからの石炭輸入も一時停滞した。短期間で中国国内における石炭生産を増やすことはできず、石炭不足に拍車がかかった。

その結果、中国では石炭火力発電が減少し、産業向けの電力供給が不安定化している。アンモニアの生産は減少し、中国国内でも、肥料やディーゼル車の排ガス浄化などに使われる尿素および尿素水の需給が逼迫している。共産党政権は国内需要を優先し、尿素水の輸出を制限し始めた。こうして中国からの輸入に依存してきた韓国は尿素水不足に陥っている。

■確保している在庫はもう1カ月分しかない

尿素水不足によって韓国経済はかなり混乱している。影響が深刻なのが自動車だ。韓国ではディーゼル車の割合が高い。韓国メディアの報道によると、韓国国内には2600万台の自動車のうち1000万台がディーゼル車とみられる。ディーゼル車が走行時に排出する有害物質の窒素酸化物(NOX)を分解する触媒として尿素水は欠かせない。

特に、尿素水の不足によって、貨物トラックが走行できなくなり物流が混乱している。公共交通や観光のためのバスが走行できなくなるとの懸念もある。ごみ収集車の運行への不安も出ている。建設機械や物流施設で使われるフォークリフトの稼働、さらにはセメントなどの生産活動への悪影響も懸念され始めた。

それに対して文政権は、オーストラリアやベトナム、メキシコからの尿素水の緊急輸入や、安全保障体制維持のために軍が備蓄している尿素水の放出を検討し、急場をしのごうとしている。韓国では、バス会社が確保している尿素水は1カ月分程度と報じられている。また、韓国の野党である“国民の力”は、発電会社5社のうち3社で尿素水の在庫が1カ月分しか残っていないとみている。

■10倍もの急騰に目をつけて転売する人も

短期間で韓国が尿素水不足を克服することは困難だろう。そのため、過去1カ月間で韓国国内の尿素水価格は10倍程度上昇しているようだ。韓国では価格の急騰に目をつけて尿素水を買い、ネット上で転売する個人も増えている。失業率などのデータが示す以上に厳しい雇用・所得環境さらには物価が上昇する中で、尿素水価格の高騰を利得獲得につなげたいと考える人は多いのかもしれない。

韓国が不足に陥っている基礎資材は尿素水だけではない。石炭不足を背景とする電力不足によって、中国ではマグネシウムやアルミの生産が減少し、韓国の輸入量が減少している。基礎資材の不足は、企業の生産活動や市民生活を混乱させる要因だ。尿素水不足を背景とする物流への懸念などは、徐々に社会の不満を増加させるだろう。

■基礎資材の安定調達の重要性を軽視してきた

欧州でも、韓国同様に効率性の高いクリーンディーゼル車の普及が重視されてきた。足元でEV車が普及し始めているものの、欧州の自動車市場でディーゼル車の重要性は依然として高い。しかし、欧州各国では尿素水の不足による物流や市民生活の混乱懸念は高まっていない。それは、欧州各国が安心して市民が日常生活を送れるよう、経済運営に必要なモノを安定して調達する体制を恒常的に見直し、強化してきたからだ。

車の排気ガス
写真=iStock.com/ElcovaLana
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ElcovaLana

逆に言えば、韓国はそれをしてこなかった。尿素水不足に直面した文政権は、外交ルートや大手財閥系企業のネットワークを使って、中国以外の国からの尿素水確保を急いでいる。しかし、世界経済全体でエネルギー資源などが逼迫する状況下、各国のメーカーが韓国の要請に迅速に応えることは困難だ。実際に不足が発生するまで、韓国は基礎資材などの安定調達の重要性を軽視してきたといえるだろう。

■「金を出せば自由にモノが買える」という発想の危うさ

その背景には、韓国の政府と企業が輸出競争力を高める効率を最重要視したことがある。韓国は半導体など利益率の高い分野での生産体制を強化する一方、採算が悪化したり製造技術力が十分ではなかったりするモノは輸入に頼る方針だった。結果として、尿素水のような汎用的な資材に関しては対中依存度が高まった。ある意味では、効率性を追求するあまり経済構造に一種の歪みが出た。

そうした方針の背景には、資金を出せば、常に、自由に、必要なだけのモノが買えるとの発想があっただろう。尿素水不足によって、その考え方が常に通用するとは限らないことがはっきりした。本来であれは、韓国は資材の不足が起きる前に特定の品目が、特定の国からの調達に依存しすぎていないかを検証し、問題が発生する以前に調整をする必要があったが、それができなかった。

天然ガスや原油、農産物などを輸入に頼るわが国は、韓国の教訓を他山の石として活かすべきだ。政府や企業は特定の国への輸入依存度が高止まりしていないかを入念に検証し、必要に応じて調達先の分散などの対策をとる必要がある。それが経済安全保障体制の強化に欠かせない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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