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「30代でも命を落とすことがある」ヒートショックが起きる"風呂以外の場所"

プレジデントオンライン / 2021年11月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

入浴中の死亡者数は11月~4月が多い。それはなぜか。産業医の池井佑丞さんは「寒暖差により体に生じる“ヒートショック”が大きく関わっている可能性がある。ヒートショックは高齢者が起こしやすいが、どの年代でも起こりうるものだ」という——。

■ヒートショックが入浴中に起きやすい理由

今年は10月半ばまで真夏日が続いていたかと思えば、一気に気温が下がり、秋を飛び越え冬の始まりを感じるような寒さの日もありましたね。急いで衣替えをした方、毛布やあたたかい布団を出した方もいるのではないでしょうか。寒暖差で体調を崩した経験のある方も多いと思います。

「ヒートショック」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。冬に起こりやすい、寒暖差が原因で身体に生じる現象のことを言います。聞いたことのある方は、なんとなく「入浴中に起こりやすい」「高齢者に起こるもの」というイメージをお持ちではないかと思います。どちらも事実ですが、実は、気を付けるべきは高齢者だけではありません。

ヒートショックはなぜ入浴中に起きやすいのか。まずはその仕組みをご説明します。

人間には「恒常性」といって、身体外部の環境や内部の変化にかかわらず、身体の状態を一定に保つ機能が備わっています。そのため、あたたかい環境から冷たい環境に移動すると、身体は熱を奪われまいとして血管が縮み、血圧が上がります。また、冷たい環境からあたたかい環境に移動すると血管が広がって急激に血圧が下がり、血圧が何回も変動することになります。

このような急激な血圧の変化が短時間で起こると、血管や心臓に負担をかけます。これが身体に与える健康被害をヒートショックといい、失神して溺れてしまう、心筋梗塞や不整脈、脳梗塞などを起こし心肺停止につながるなど、さまざまな被害があるとされています。

■11月~4月は入浴中の死亡者数が多い

厚生労働省の人口動態調査によると、令和2年の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」、つまり入浴中の溺死者は5444人もいらっしゃいました。(「人口動態調査」上巻 死亡 第5.31表 不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(5歳階級)別死亡数(2020年))

しかも、入浴中に脳血管疾患や心疾患など、溺水ではなく病気で亡くなられたと判断された場合、「入浴中の」死としては計上されません。そのため、実際には入浴中に亡くなっている人の数は年間約1万9000人とも言われています(消費者庁ニュースリリース「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」)。「交通事故」の死亡者数は3718人でしたから、入浴中の死者数は実におよそ5倍にもなります。

先述のとおり、溺死の場合にもその他の死因の場合にもヒートショックは大きくかかわっている可能性があります。実際「東京都23区における入浴中の死亡者数の推移」で月別の死者数をみてみますと、例年11月~4月に死者数が多く報告されており、1月がそのピークとなっています。やはりこれからの時期はいっそう注意しなければいけません(東京都監察医務院「東京都23区における入浴中の死亡者数の推移」)。

■ヒートショックはどの年代でも起こることがある

次に、ヒートショックを起こしやすい方について。

高齢者や、動脈硬化を引き起こす基礎疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)を持つ方などが考えられます。

その理由として、高齢者は加齢により生理機能が低下し、体温や血圧を正常な値に保つことが難しくなる傾向があげられます。また動脈硬化を引き起こす基礎疾患を持つ方は、動脈硬化がある場合には血圧変動の影響を受けやすく、脳卒中や心疾患などにつながるリスクが通常より高いため、注意が必要です。

動脈硬化を起こしやすい疾患は年齢とともに増加する傾向がありますので、「ヒートショックは高齢者に起きやすい」という認識は間違いではありません。実際、先述の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」による死者の9割が65歳以上の方です。しかし、「30代の男性社員が慰安旅行先でヒートショックが原因と見られる形で急逝された」といったケースもあり、ヒートショックはどの年代の方にも起こる可能性がある、身近な脅威であるということを認識していただきたいと思います。

実は、ヒートショックは飲酒にも深く関係があると言われています。アルコールを摂取すると、アルコールの代謝生産物であるアセトアルデヒドが血液中で増加し、血管を拡張させ、一時的に血圧が下がります。普段より血圧が低い状態で入浴をすると、温度差による血圧の変化の幅が大きくなってしまい、ヒートショックを引き起こしやすくなるのです。

グラスに注がれているビール
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■予防のポイントは「温度を一定に保つ」

では、どのようにしてヒートショックを予防すればよいのでしょうか。

一番大切なことは、「なるべく温度を一定に保つ」ということです。具体的な方法についてアドバイスさせていただきます。

(1)入浴の際の温度管理

・入浴の前に、脱衣所や浴室を温めましょう。脱衣所に暖房を置き、浴室に暖房の機能があれば使用してください。浴室の暖房がない場合は、お湯はりの際にシャワーを使用するのもおすすめです。高いところにシャワーを設置してお湯をはることで浴室全体を温めることにもつながります。

・湯につかる前にはかけ湯をしましょう。

・素足で冷たい床に触れないよう、マットなどを敷くのも有効です。

・お風呂の温度は、41度以下で湯につかる時間は10分以内がよいとされます。熱いお湯や長風呂をすることで体温が上がり過ぎてしまうことがあるため、それを避けることで血圧の変動を防ぐことができます。

・居間や脱衣所の平均気温が18度未満の住宅では、熱め入浴(湯の温度が42度以上、15分以上の入浴)をする確率が高いとされるデータがあります(国土交通省「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」)。さらに、WHOは「住まいと健康に関するガイドライン」で寒さによる健康被害から居住者を守るための室内温度として18度以上を強く勧告しています(WHO Housing and health guidelines:World Health organization 2018.11)。

ヒートショックの予防として、浴室まわりの環境が注目されることが多いですが、家全体の温度を一定に保てるよう、自宅が古い場合は床や壁のリフォームを検討する、窓やサッシを断熱性の高いものに交換するなど工夫をするとよいかと思います。

■おすすめの入浴時間は「日没前」

(2)入浴のタイミング

・日没前の入浴がおすすめです。外気温が下がりきるまえに入浴することで、寒暖差を減少させることができます。

風呂場
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

・食後や飲酒後すぐの入浴は避けましょう。先述のとおり飲酒は一時的に血圧を下げ、ヒートショックの原因となります。アルコールが抜けるまでにかかる時間には個人差がありますが、目安としては純アルコール20g(ビールであれば500ml)でおおよそ3~4時間とされます。より多く飲んだ際にはさらに時間がかかります。アルコールによって危機管理能力も低下しますので、できれば飲酒前に入浴するか、浴槽で溺れるのを予防するため、ぬるめのシャワーにするとよいでしょう。

また、食後も一時的に低血圧となる可能性があるため、少し時間をおいてから入るとよいでしょう。

(3)お風呂に入る時には家族に伝えてから

・入浴中に体調が悪くなり自分で対処ができない場合、周りの人に助けを求めることが必要です。自分が入る前には家族に一声かける。家族もおおよそのお風呂の時間を把握しておき、普段よりも長い場合には様子を見に行き声をかけるなどの工夫が必要です。浴室からまったく音がしない場合や大きな音がした場合もすぐに様子を見に行くようにしましょう。

■ヒートショックはトイレでも起こる

先ほどからお風呂を例にしてお伝えしておりますが、ヒートショックはトイレでも起こる可能性があります。トイレでは衣服を脱ぎますので、体温が下がり血圧を上げようとすることは想像がつきますね。特に夜間などは冷えますので、注意が必要です。

(4)トイレの温度管理

・トイレの暖房便座を利用しましょう。また、トイレに暖房を1台設置し、使う度に使用するとよいでしょう。

・居間や寝室からトイレへ向かう際の服装にも注意が必要です。着ている服の上に一枚上着を羽織る、靴下を着用する、スリッパを履く、など少しの工夫がヒートショックの予防になります。

コロナ対策で換気を心がけている方は多いと思います。窓を開けて換気をすることでどうしても室温は下がってしまうので、室温が急激に変化するのを避けるためには、定期的に窓を全開にするのではなく、常時窓を少し開けて外気を入れつつ、暖房などを利用して室温が下がりすぎないよう調整する必要があります。また、人がいない部屋の窓を開けて、廊下を経由し少し温まった新鮮な空気で換気すること(二段階換気)も有効とされていますので、ぜひ行ってみてください。

ヒートショックには誰しもがなる可能性がありますが、このように対策を行うことでリスクを下げることができます。冬本番前に一度ヒートショックについて理解を深めていただければ幸いです。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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