7割超は家の中で起きる…高齢者を寝たきりにする「怖い転倒」の起きる意外な場所
プレジデントオンライン / 2021年11月18日 15時15分
※本稿は、平松類『新版 老人の取扱説明書』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■家庭内で起きる高齢者事故の半分は「転ぶ」
高齢者の事故の中で最も多いのは、外ではなく家の中です。独立行政法人国民生活センターの報告によると高齢者の事故のうち77.1%が家庭内で起こっています。さらに、65歳以上は大きな事故の割合が2倍になります。なぜなら、筋肉・骨が弱くなるからです。
家庭内で起きる事故で多いトップ2は、転落(30.4%)、転倒(22.1%)。つまり半分以上は、転ぶという事故なのです。特に階段で転んでしまうと危険で、最も骨折が多いのは階段での転倒です。
足の骨折というと松葉杖をついて生活するのを想像するかもしれませんが、若い人の骨折と違い、高齢者の骨折はもっと深刻です。要介護4、5という多くの介護を必要とする状態の原因は、認知症・脳卒中の次が骨折です。
足の骨折は、若い人ですと足の長い骨の骨折が多いのですが、高齢者の場合は大腿骨頸部(いたいこつけいぶ)骨折という足の付け根の骨折が多くなります。高齢者がこうなってしまうのは、骨が弱くてスカスカになる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりがちだからです。しかも大腿骨頸部骨折は、松葉杖で歩くことも困難になり、人工関節の手術が必要で、寝たきりのきっかけとなる代表的な骨折でもあります。
高齢者が家の中で転ぶというのは、寝たきりにもつながる一大事と心得て、転倒防止につとめるのが大事なのです。
■年を取るほどバランス能力は衰えていく
高齢者が階段などで転びやすい原因は何でしょうか? それは、「重心(バランス)」と「目」が大きく関係します。
高齢になると、重心は不安定になります。20・30代と比較すると60代で20%バランスを失い、70代では41%、80代以降では80%バランス能力を失います。
しかも高齢者は若い人と違い、軽く前傾するだけで重心が不安定になります。さらに高齢者は階段の上り下りでは前傾しがち、つまり重心をくずしがちとなり、よく転ぶのです。前傾がダメだからといって反り返ったとしても、今度は滑って転びやすくなってしまいます。前傾も反るのも危険なのです。年を取ると難しいかもしれませんが、階段でもどこでも重心を安定させて歩く癖を身につけるのが大事となります。
■転びやすいかがわかる簡単なチェック方法
一度、重心がどのくらい保たれているのかをチェックしてみましょう。目を開けたまま、片足立ちを何秒間できるのかを調べるだけと、とても簡単です。15秒以上なら重心は問題ありませんが、15秒未満なら重心は不安定でかなり転びやすい状態です。
ちなみにこのチェック法は、トレーニングにもなります。片足立ちが何秒我慢できるかを毎日繰り返しているうちに、バランスがよくなってくるからです。ただあまり無理をすると転ぶことがあるので、トレーニングで事故という本末転倒なことにはならないようにしてください。
重心はとても重要ですが、注意が届きにくいかもしれません。重いものが持てなくなる場合は、人は徐々に荷物を軽くしていきます。歩くのが疲れてくれば、次第に歩行距離を短くします。けれども重心が不安定になってきても、階段などバランスをくずしやすい場所に行かないわけにはいきません。ですから階段で急に転んで、そのまま寝たきりになることが多くなります。
■目の使い過ぎは全身に不調をもたらす
目も、高齢者の転倒に大いに影響を及ぼします。年を取ると目が見えにくくなりますが、階段などを踏み外してしまうのです。
目は転倒防止において、とても重要です。先ほど、目を開けて15秒以上片足立ちできるかトライしていただきましたが、次に、目をつぶって同じように片足立ちをしてみてください(これは本当に転びやすいので、絶対に無理をしてはいけません)。すると、10秒ももたない人が多いでしょう。人間は目というものを使って自分の位置を確認しながら重心を安定させている、ということがおわかりになったと思います。
特にここ数年は、YouTubeやNetflixなどを視聴する高齢者の割合も高まり、眼精疲労に悩む人が増えつつあります。これにより、目が見えにくくなるのはもちろん、頭痛や肩こりといった不調をもたらす恐れもあります。さらに、運動不足が筋力低下につながり、転倒リスクを高めるという悪循環にもつながるので要注意です。
■便利なはずの遠近両用メガネが転倒の原因に
高齢者の転倒で目に関係することとしては、「遠近感」「メガネ」「光」が主な要素となります。
まず遠近感ですが、年齢とともに衰えます。近く・遠くの判断がしにくくなるのです。そのため階段を踏み外しやすくなります。
次にメガネですが、よく見えるようにするメガネが何で? と思うかもしれません。高齢者は遠近両用のメガネを使うことが多いのですが、遠近両用が転倒の原因となります。遠近両用メガネはレンズの下を覗き込むと近くがよく見えて、上を見ると遠くがよく見えるようになっています。これは、読書などで近くを見る時は目線を落とすことが多いからです。
この設定が、階段を下りる際に困ります。高齢者は転倒を気にしていますから下をよく見て歩きますが、これから足を伸ばすもう一つ下の段は、遠近両用で近くにピントが合っているとぼやけますので、転びやすくなるのです。そこで顎を引いて下を見るという癖をつけましょう。それから高齢者は、暗い所を見るのが苦手です。
■高齢者は若者より2倍の明るさが必要
20代ですと瞳孔の面積は15.9mm2程度ですが、70代になると6.1mm2と半分以下になります。そのため、2倍明るくないと見えないともいわれています。階段は暗くて影が多い場所ですから、高齢者は階段で転びやすくなります。
最近はオシャレになるという理由で、間接照明で一部だけを灯して全体的に暗くすることが増えているかもしれません。でも転倒のリスクを考えれば、電球を明るいものに変えたり、ライトを追加したりするほうがむしろいいです。夜間にトイレなどで行き来が多いのであれば、つけっぱなしにするのも一つです。電気代をケチって骨折するなんて、もったいない話ですから。
手すりをつけるのもお勧めです。手すり、階段、壁の全部にいえることですが、つるつるした素材よりはざらざらした摩擦力のある素材のほうが、滑りにくいのでよいです。滑り止めの色は階段が茶色なら白色というように、色に差があるほうがいいです。この滑り止めを頼りに、階段の上り下りをしてください。
■カルシウムを摂っただけでは骨は強くならない
先ほど、高齢者は骨が弱いため、転倒で骨折しやすいとお話ししました。弱さの指標としては、骨の強度を示す骨密度があります。年を取ると骨がスカスカになってしまうので、骨密度は減ります。
骨密度低下を予防するには、カルシウムを1日650~700mg摂ることが推奨されています。じゃあサプリメントで摂ればいいか、というとサプリメントでは心筋梗塞になりやすいリスクがあります。
サプリメントですと血液中のカルシウム濃度が急激に上がるため、体に負担がかかってしまうからです。食事で摂取しましょう。どうしてもサプリメントを使いたい場合は、1回にカルシウムを500mg以上摂らないようにする必要があります。
骨というとカルシウムばかりに目が行きがちですが、骨をつくるにはビタミンD、ビタミンKが不可欠です。ビタミンDは5.5㎍、ビタミンKは150㎍摂る必要があります。ビタミンDやビタミンKは実際に処方薬としても出されるぐらい重要です。
ビタミンDは、腸でカルシウムを吸収するのに必要です。ビタミンDの含まれる食べ物としては、鮭が有名です。ビタミンKは骨をつくるための骨基質タンパク質の一つであるオステオカルシンに必要となります。小松菜やほうれん草がお勧めです。
一方、骨を強くするために避けたほうがよいのはリンが多い食品。清涼飲料水や加工食品の一部が該当しますので、これらをあまり口にしないほうがいいです。
・すぐに転ぶし、なんで住み慣れた家の中で? とあきれる
◎周りの人がすべき正しい行動
・「単に転ぶだけ」ではなく「転んだら一大事」と心得る
◎自分がこうならないために
・目を開けたまま片足立ちをしてみる。15秒もたなかったら重心が悪いと肝に銘じる
・片足立ちのトレーニングをする。ただし、無理のない範囲で
・目をつぶって片足立ちをして、目が重心を担っていることを一度実感する
・カルシウムを摂る
・ビタミンDとビタミンKも摂る
・リンを避ける
◎自分がこうなったら
・照明を明るくする
・夜間に電気をつけっぱなしにすることも視野に入れる
・階段で遠近両用メガネをかけている場合は、顎を引いて下を見る
・手すりをつける
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二本松眼科病院 副院長
眼科専門医として、延べ10万人以上の高齢者の診察を行い、現在、全国から患者が訪れる。数多くのメディアへ出演。著書に『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』(時事通信社)など。
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(二本松眼科病院 副院長 平松 類)
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