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「自分は若い人より運転がうまい」免許を返納しない高齢者が根拠のない自信をもつワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月19日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

高齢者に正しくこちらの意図を伝えるにはどうしたらいいか。医師の平松類さんは「高齢者は自分に自信のある人が多く、記憶を改竄しやすい。運転免許の返納や介護など家族で大切な事を話し合う時、あいまいな話や長すぎる話は避けるべきだ」という――。

※本稿は、平松類『新版 老人の取扱説明書』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■高齢者は実年齢より13歳若いと感じている

高齢者は自分を若いと思っている。そう思うことはないでしょうか? 実際、高齢者と接している家族が「もう年なんだから……」などと言う時、本人は「まだまだ若い者には負けない」と思っています。さらには「自分は同年齢の人たちに比べてはるかに若い」とも認識しています。

研究によると、高齢者は自分を実年齢より13歳ほど若く感じているというデータもあります。もちろん、自分自身を若いと感じるのは高齢者特有の現象ではありません。

40歳を超えると実年齢より20%ほど若いと感じるようになるといわれています。20%ということは、40歳の場合、8歳若い32歳程度だと自覚している計算になります。70歳では、14歳若い56歳程度であると感じます。年を重ねるほど、実年齢と主観年齢の差が開いていきます。

■「もう年なんだから」では通じない

理由には、まず時代の変化が考えられます。自分が子どもの頃の60代のイメージと、実際自分が60代になった時とでは、若々しさが違います。これは医療技術や食料・運動などの変化により、実際長生きになり健康的になっているということがあります。自分が子どもの頃見ていた高齢者と自分には差があるように感じるからです。

また、レイクウォビゴン効果といって、ほとんどの人は自分が平均以上であると思っていることも理由に挙げられます。つまりは実年齢の平均よりも自分は若々しいと思うので、まだまだ若いと感じてしまうのです。

そう考えると「もう年なんだから健康に気をつけないと」とか「そろそろ心配だから運転をやめたら?」と言ったところで通じないのも納得です。私は、70歳から80歳くらいの親を持つ外来の患者さんから、「親に車の運転を控えてほしい。そのことを先生の口から言ってくれませんか?」とお願いされることがよくあります。子どもが真正面から説得しようとしても、本人はまだ現役バリバリの気分ですから、聞いてくれるはずがありません。

しかし、年齢以外の理由があれば聞き入れてくれる可能性があります。私が「緑内障で視野が欠けているから運転するのは危ないですよ」と言えば、「病気だから仕方がない」と理解してくれることがあるのです。

■なぜ「自分は運転が上手い」と過信するのか

運転免許証を返納しない高齢者に理由を聞くと「代わりの交通機関がない、または不便だから」と答える人の割合は46.3%にも上ります。これは難しい問題であり、家族が代わりの交通機関を準備しない限り運転免許証を返納しにくいのは事実です。一方で、「運動能力の低下は感じているが、運転免許証を返納するほどでもない」という回答が57.4%を占めています。

つまり、他の移動手段がないからやむを得ず運転している人より、自分は免許返納するほど衰えていないと思っている人のほうが多いのです。そもそも、若い人より高齢ドライバーのほうが「自分は運転が上手い」と思っています。なぜでしょうか?

研究では高齢者のほうが、有能感が高いということが報告されています。もっと言うと「(本当かどうかは別として)自分が有能だと思っている人のほうが長生きする」ということがわかっています。自分が有能だと思っている人は社会とかかわる機会も多く、孤立しません。ポジティブに人生を過ごすことができるので、結果的に長生きしやすいわけです。

しかし、有能感が高く自分を過信する人ほど問題があります。転倒したり他人とトラブルを起こしたりしやすいのです。転倒は自分だけの問題ですが、事故を起こすと他人を巻き込むことになります。ドライビングシミュレーターなどで客観的な事実を提示しない限り、高齢者はいつまでも「自分は運転が上手い」と思い続けます。

そして事故を起こすのは勝ち気で攻撃的な人、というイメージがあるかもしれませんが、高齢者はそうとも限りません。高齢者の場合、むしろ安全に運転しているつもりでも周囲を気にするあまり処理能力に限度が出て事故を起こすタイプの人もいます。

こういった人に「気をつけて運転しましょう」とあいまいなメッセージを伝えても、むしろ逆効果になることがあります。実際にどういった場面が危険であるかを具体的に伝える必要があります。

■高齢者は正しい記憶も間違った記憶も増える

高齢になると糖尿病や高血圧などの持病があるにもかかわらず「自分は健康だ」と思っている人が多くなります。それは記憶が改ざんされているからです。

高齢になると記憶力が低下するという話はよく聞きますが、それだけではなく記憶の改ざんも増えるのです。ある研究で若者と高齢者を対象に学習とテストのセットを5回繰り返して記憶が定着するかという実験が行われました。若者の場合は予想通り、繰り返せば繰り返すほど正しい記憶が増えて、間違えた記憶が減っていきました。しかし高齢者は違いました。正しい記憶は増えるのですが、同時に間違った記憶も増えていったのです。

糖尿病や高血圧の人は、病院で受診するたびに血糖値や血圧についての話を聞きます。けれども「今日は血圧がいいですね」「血糖値がいいですね」などと言われると、自分に都合よく「血圧はいい」という記憶の改ざんを行います。その結果、実は高血圧なのに、家族に対しては「血圧は問題ない」と言ってしまうケースが多いのです。

■大事なことはイラストや短い言葉で伝える

こういった記憶の改ざんを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか? まず、高齢者に伝える時は言葉や文字よりも絵を使ったほうが記憶に残りやすいことがわかっています。

オフィスで紙に書く実業家の手
写真=iStock.com/MangoStar_Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MangoStar_Studio

また、若い人と比較して長い説明は記憶しにくいのですが、短い説明についてそれほど記憶の差がないことも報告されています。また、抽象的な言葉は耳に入りにくく、具体的な言葉は耳に入ってきやすいとされています。ですから、高齢者に伝える時には絵で描いたり短くて具体的な説明を心がけたりする工夫が有効です。

特に注意したいのが、手術や入院などの方針や、家族の今後について話し合う時です。なぜなら、大切な話は基本的に長くなるからです。しかも大切な話は抽象的にもなりがちです。だから、高齢者にはますます伝わりにくくなります。

平松類『新版 老人の取扱説明書』(SB新書)
平松類『新版 老人の取扱説明書』(SB新書)

例えば、家族間で誰が父親の介護をするのか、誰が同居するのかを話し合う時、「協力し合う」「一生懸命やる」といった抽象的な言い回しが増えます。高齢者にとって抽象的な話は「覚えられない」どころか「聞こえにくくなる」ことがわかっています。脳の処理能力や耳の処理能力の問題で抽象的な話は聞こえなくなるのです。

結果として、どれだけ家族が一生懸命父親のことを議論しても、大切な内容は本人には聞こえず、都合が悪いことは記憶に残らず、誤った記憶で塗り替えられてしまう恐れがあります。ですから、誰が介護をするかといった問題は、本人の前で長々と議論するよりも、事前に結論を出してから本人には結果だけを端的に伝えるほうが確実です。

よくあるのが「面倒を見る代わりに家賃を出してくれると約束したのに、いつの間にか聞いていないことになっている」といったケースです。このような「言った言わない」のトラブルが起こりやすいので十分気をつけましょう。

◎周囲がしがちな間違い
・「気をつけて」と注意する
・繰り返し注意する
◎周囲の人がすべき正しい行動
・具体的にすべき行動を言う
・短く端的に伝える
◎自分がこうならないために
・視覚のチェックを行う
・交通機関の確保
◎自分がこうなったら
・話し合いから取り残されていないか確認する

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平松 類(ひらまつ・るい)
二本松眼科病院 副院長
眼科専門医として、延べ10万人以上の高齢者の診察を行い、現在、全国から患者が訪れる。数多くのメディアへ出演。著書に『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』(時事通信社)など。

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(二本松眼科病院 副院長 平松 類)

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