酒の"ちゃんぽん"が悪い、汗をかいて酒を抜く…肝臓専門医が解説する「二日酔いの大誤解」
プレジデントオンライン / 2021年11月19日 9時15分
■アルコール感受性が高い人が酒を控えるとどうなるか
「コロナ禍で、めっきり酒に弱くなった」
昨今、私の周辺の酒飲みたちから、こんな声を聞くようになった。
かくいう私もその一人である。コロナ禍以前は、ハイボールからはじまり、日本酒2~3合を飲んだ後に本格焼酎のロックでしめるのもざらだった。しかし、今ではスターターのハイボール1杯で、だいぶいい気分になってしまう。加齢の影響もあると思うが、それ以上に大きいのは、「コロナ自粛の期間中に酒を控えていたから」ではないだろうか?
しかし、「酒豪」とまで言われた人間が、たった2年、酒を控えていただけで、酒に対する耐性が弱くなるものなのか? 「おおつ消化器・呼吸器内科クリニック」院長で、日本肝臓学会認定の「肝臓専門医」でもある大津威一郎医師にお話をうかがった。
「長期間、お酒を飲むのを控えていると、お酒に弱くなるというのは事実です。それには、アルコールに対する“感受性”が関係しています。アルコールの感受性は、アルコール分解に寄与するADH(アルコール脱水素酵素)、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)が関わっています。
アルコール耐性を決定づける酵素の活性の高さは、遺伝の影響を多く受けます。しかし、アルコールの感受性が高く、お酒に弱い人でも、日々飲み続けているうちに感受性が低くなり、酔いにくくなるとも言われています。コロナ禍でお酒に弱くなったという方は、自粛期間中にアルコールの感受性が高い状態に戻った可能性が考えられます」(大津医師)
■体内に貯めておいてはいけない有害物質
やはり長期間、酒を飲まないと弱くなるのは本当だったのだ。となると、コロナ禍で酒に弱くなったことを踏まえ、二日酔いにならないよう、より注意して飲まねばならない。
二日酔いの主たる原因は、言うまでもなく「酒の飲み過ぎ」。酒の飲み過ぎを発端に、さまざまなことがカラダの中で起こり、二日酔いを招く。その原因の1つがアルコール分解の際に生成される「アセトアルデヒド」だ。
「体内に入ったアルコールは、肝臓において主にADH(アルコール脱水素酵素)の働きにより、有害物質・アセトアルデヒドに分解されます。さらにアセトアルデヒドは、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)によって、無害な酢酸になります。このアセトアルデヒドが分解され切れず、体内に蓄積してしまうことが、二日酔いの原因となります。
ここで注目したいのが、ALDHの1種である“ALDH2”です。ALDH2の働きには個人差があり、強い順に活性型、低活性型、非活性型の3タイプに分かれます。活性が低いほど、アセトアルデヒドがカラダに残りやすい。つまり二日酔いしやすいのです。日本人をはじめとするモンゴロイド系人種は、低活性型が40%、非活性型が10%で、遺伝的にもお酒に弱いことがわかっています」(大津医師)
■脱水状態ではいつまでも二日酔いが治らない
遺伝、性差といった、自力で動かしようがない事実は、黙って受け止めるしかない。大津医師によると、「カラダが男性よりも小さい女性のほうが肝臓も小さく、アルコールに弱い傾向がある」という。
そして次に挙がるのは、アルコールによって起こる「脱水」である。
「アルコールによる脱水には、2つのことが関係しています。1つはアルコールの利尿作用です。お酒を飲むと、トイレが近くなるのはそのためです。もう1つは体内のアルコール分解時に水分が使われることです。ダブルで水分が失われることによって脱水が進み、さらにはアセトアルデヒドを尿で排出しにくくさせてしまうため、二日酔いが誘引されやすくなります。
ちなみに急性アルコール中毒の治療で救急受診した際は、点滴での水分(細胞外液)投与です。“ウォッシュアウト”といって、体内に滞留したアセトアルデヒドを尿で排出させるのが目的です」(大津医師)
二日酔いの朝、喉の粘膜がくっつきそうなほど喉が渇き、いくら水を飲んでも渇きがおさまらないのは「脱水」によるものだったのだ。大津医師は「年を重ねるほど、脱水は起こりやすい」と注意喚起する。
さて、二日酔いの原因がいくつか判明したところで、酒飲みの間で信じられていることを大津医師に投げかけてみた。それは「ちゃんぽん(アルコール度数が違うお酒をいっぺんに多種飲むこと)すると、二日酔いになるのか」という質問だ。
■いろいろな酒の「ちゃんぽん」が危険な理由
「ちゃんぽん自体が二日酔いを招くというと、ちょっと語弊があります。一番の問題は飲んだアルコールの総量です。お酒の種類や味が変わると、かなり酔っていてもスルッと飲めてしまいますよね。これが危険なんです。調子に乗って飲んでいるうちに酔いが回り、飲んだ総量がわからなくなるまで飲み続ける。それにより、肝臓の処理能力が追いつかず、結果として二日酔いになってしまうのです」(大津医師)
ちゃんぽんについては、これにて解決。「すっきりした」と言いたいところだが、酒飲みの間で常識になっている「ビールやワインといった醸造酒と比べ、ウイスキーなどの蒸留酒は二日酔いしにくい」という件についてもうかがってみた。
「これは本当です。アルコールには製造過程で生成される“コンジナー”という物質が含まれています。お酒にとってコンジナーは、風味に関係する成分ですが、これが多過ぎると二日酔いを起こしやすいと言われています。コンジナーは蒸留することで大幅に減ります。こうしたことからも、醸造酒より蒸留酒のほうが、二日酔いになりにくいと言えるでしょう。ただし、飲み過ぎれば醸造酒も蒸留酒も関係ありません」(大津医師)
最後の一言は耳が痛いが、ちゃんぽんとともに蒸留酒の一件もクリアになった。蒸留酒ラバーには、嬉しい情報だったのではないだろうか。
■飲み会に行く前にはコンビニでチーズを買おう
こうした二日酔いのメカニズム、原因がわかると、飲み会が増えるこれからの時期も安心である。だが、さらなる安心を得るために、大津医師から二日酔いの予防策を教えていただいた。
「二日酔いの予防策は2つあります。1つは空腹で飲まないこと。胃が空っぽの状態でお酒を飲むと、血中アルコール濃度が急激に上昇し、酔いが一気に回ります。それを防ぐのに有効なのが、油を使った料理。例えばアヒージョや、サラダのドレッシング、揚げ物などです。アルコールの多くは小腸で吸収されます。油は胃で長くとどまる性質があり、油ものを先に摂取することで、お酒が小腸に行くことを遅らせるため、血中アルコール濃度の上昇が緩やかになります」(大津医師)
「油ものがいい」と言っても、居酒屋などでコース料理を頼んだ場合、いきなり油を使った料理を食べるというわけにはいかないだろう。そういう場合は、「飲む前にコンビニなどで、チーズを買って食べてもいい」と大津医師。なるほど、それなら無理なく実践できそうだ。
油もの以外で効果的なのは、肝臓の働きをサポートするタンパク質を多く含む肉、魚、大豆を使った料理。焼き鳥、刺身、枝豆、冷ややっこなど、居酒屋メニューの定番料理が該当する。
■アルコール濃度を下げるにはレモンと梨に期待
「もう1つは水分補給です。アルコールによる脱水を防ぐためにも、お酒と同量、できたらそれ以上の水を飲むように心がけてください。スポーツドリンクも良いと言われていますが、塩分、糖分が入っているので、1本程度に抑えておきましょう。またレモン、梨などはアルコール濃度を低下させる可能性が示唆されるという報告もあります。飲んだ後、フルーツを食べて水分補給するのも効果が期待できます」(大津医師)
日本酒の専門店などでは、オーダーをしなくても水が出てくることが多くなった。これもまた、脱水による二日酔いを防止するためだ。二日酔い防止になるとわかっていても、酒飲みの多くは、飲み始めるとなかなか水に手をつけなくなる。爽やかな朝を迎えるためにも、水分補給を忘れないようにしたい。
しかし、これらの対策を理解していても、つい「やらかして」しまうのが、酒飲みの懲りないところ。酒の魔力に負け、二日酔いになってしまった時には、どうしたらいいのだろう?
■いっぱい汗をかいてもお酒は抜けない
「二日酔いになった時は、とにもかくにも水分補給です。水をたくさん飲んで、体内に残ったアセトアルデヒドを尿で出してください。これが一番の特効薬です。二日酔いの状態は脱水症状に加え、低血糖になっているので、炭水化物を摂るのも有効です。ただし、胃に不快感を覚えるなら、無理に食べる必要はありません。
注意したいのはお風呂やサウナ。二日酔いになると、“汗をかいてお酒を抜く”という方がいますが、これは逆効果です。汗をかくことで脱水がより促進され、重篤な場合は脳梗塞や心筋梗塞を引き起こします。お風呂やサウナは、体調が戻ってからにしましょう」(大津医師)
「汗で酒を抜く」という考えは今日で捨て、「水をたくさん飲んで尿でアセトアルデヒドを出す」と悔い改めなくてはいけないようだ。いや、そんなことよりも、「二日酔いになるまで飲み過ぎない」ほうがずっと建設的である。
最後にコロナ禍だからこそ、気をつけたい酒席のマナーについて、大津医師からアドバイスをいただいた。
「緊急事態宣言は明けましたが、“今はコロナ禍”だということを常に意識しましょう。大人数での宴会は、まだ避けたほうが無難です。これからの寒い時期は、換気も不十分になりがち。粘膜も乾燥しやすいので、今まで以上に感染対策を強化して、お酒を楽しんでほしいですね。
また、これはコロナ禍に限ったことではありませんが、体調不良の時はお酒を控えてください。肝臓の代謝も落ちているので、普段より二日酔いになりやすいからです。お酒の飲み過ぎは、二日酔いを誘発するだけでなく、免疫も下げるという報告もあります。免疫が下がると、感染リスクも高まるので、くれぐれも飲み過ぎには注意してください」(大津医師)
酒が入ると、つい声も大きくなり、人との距離も近くなる。せっかく解除になった外飲みを楽しむためにも、時流に合った飲み方を考慮したい。
※取材協力:日本最大のクリニック経営コミュニティM.A.F
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酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。全国の清酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核にした講演、セミナー活動、酒肴のレシピ提案を行う。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)など多数。
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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)
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