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「部屋の真ん中で自慰行為を始める女の子」職員も頭を抱える"障害児の学童"の性トラブル

プレジデントオンライン / 2021年11月19日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/South_agency

障害のある子供や発達に特性のある子供は、放課後や夏休みなどに「放課後等デイサービス」を利用している。ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾さんは「そこでは性に関するトラブルが多く発生している。センシティブな問題なだけに学校や保護者と共有しづらく、解決が難しい」という――。

※本稿は、坂爪真吾『パンツを脱いじゃう子どもたち』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■わずか一時間半~二時間の間にさまざまなドラマがある

「子どもの性の問題は、この仕事を長くやっていくと必ずぶつかる問題です」

そう語る新島美菜子さん(仮名・四十代)は、首都圏にある中規模の放課後等デイサービスで働いている。利用登録をしている子どもは約一〇〇名。通常の放デイの定員は一日で最大一〇名だが、新島さんの施設は中規模のため、一日で最大二〇名の子どもたちが利用している。新島さんを含めて一日一〇名強のスタッフで運営している。平日の放課後だけでなく、祝祭日も営業している。「とにかくわちゃわちゃしている毎日ですよ」と新島さんは苦笑いする。

平日の放課後、授業を終えた子どもたちをスタッフが学校まで迎えに行く。低学年と高学年では授業の終わる時間帯が異なるため、放デイに来る時間もそれぞれ異なる。最終的に、一六時頃に全員が集まる形になる。保護者が迎えに来るのはおおむね一七~一八時なので、子どもたちが放デイにいる時間は、短い子どもでは一時間ほど。長くても二時間ちょっとだ。

【新島】「わずか一時間半~二時間ですが、様々なドラマがあります。色々なことが起こって、とにかくいつもバタバタしています」

新島さんの会社では、放デイと合わせて「児童発達支援」も行っている。児童発達支援とは、障害のある未就学児に対して、療育や発達支援を行う通所のサービスである。身体障害や知的障害のある未就学児が保護者と共に通い、日常生活を送るための知識や技能を身につけるための訓練を受けに行く場所である。

児童発達支援を利用する未就学児から、放デイを利用する小学生~高校三年生まで、年齢も自立度も全く異なる子どもたちが集っていることになる。

放デイでは、他害や自傷、てんかんなどの課題があり、自立度の低い子どもが定員の過半数を超えると、国から支給される報酬が上がる。自立度の低い子どもに積極的に利用してもらった方が経営は安定するため、そうした子どもを進んで受け入れる事業所もある。一方で、そうした事業所の現場には、様々な問題や障害特性を抱えた子どもが集まり、様々なトラブルが起きることになる。

■暴れている子の横で自慰行為

【新島】「うちの施設では、一〇〇人の利用者のうち、半分以上がそういう子たちです。中でも強度行動障害の子どもは問題行為が激しい。自分の思った通りに行かないと暴れ出して、男性スタッフ三人がかりでもかなわない子もいます。暴れている子の横で自慰行為をしている子もいる。トイレが自立していない子もたくさんいるので、トイレに誘導したり、食事介助を行ったり……と、常にバタバタしています。

子どもたちは日々成長していくので、半年に一回、個別支援計画を立てて、親御さんと面談を行い、アセスメント(課題の聞き取りと分析)をして、これからどのように支援していくかを協議します。計画を基に年間スケジュールを作るのですが、スケジュール通りに実施していくことは大変です。次々に問題が生まれてくる。

職員も三〇名いるので、LINEワークスなどのツールや終礼などの場を使って、毎日お互いの持っている情報を集約・共有しています。トイレの自立度が上がった・下がった、これができたから次はこれ、といったように、毎日の情報共有の積み重ねがすごい大事です。

ただ、利用者が一〇〇人いる中で、『今日は、この子がこういうことをやって困った』という報告を出すだけで精いっぱいになってしまうことも多いです。『では、そういう時はどうすればいいか』ということについて、具体的な提案や議論を行う時間がないことが悩みです」

おもちゃで遊ぶお子様
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■見て見ぬふりをしている職員も多い

新島さんの施設では、男子が八割程度で、女子は一~二割。多くて三割程度だという。

【新島】「男の子は、無意識のうちに性器いじりが習慣になっている場合がよくあります。寝転がって性器をいじったり、床に性器をこすりつけていたりすることも日常的にありますが、そうした場面は、できれば女の子に見せたくない。でも、ずっとマンツーマンでついていることはできない。

集中して作業をしている時はいいのですが、目を離したすきに自慰行為を始める子もいます。平日の夕方、一~二時間しか預からない場合はそういうことはそれほど起こらないと思うのですが、うちの施設は土日や祝日など、長い時間子どもたちが過ごすこともあるので、そういう行為が目立ってしまうこともあります」

放デイでは、自立度の低い子が人前で性器を触ったり、ズボンを脱いだり、部屋で自慰行為を始めることもある。しかし、職員の中には、見て見ぬふりをしてしまったり、現場で起こった出来事をなかなか報告できない人もいる。女性の職員が多いことも一因だろう。

職員が一人で問題を抱え込まないように、新島さんは、自分から「今日はこんなことがあった」と職員に向けて発信するように心がけている。

【新島】「障害のある子どもの性の問題は、ずっと解決したいと思っていました。ちょっと職員をつつくと、問題がザクザク出てくるので、もっと言いやすくしたい。職員の中にも、言いあえる人と言いあえない人がいる。見て見ぬふりをしている人も多い。

放デイに通っている女の子の中には、恋愛感情を持つまでには至らない知的レベルの子も多いです。そうした中で、性的なことに目覚めさせてしまってもいいのか。自慰行為の方法を教えていいのか。なかなか判断ができないです」

■性的なトラブルを共有しやすくする関係づくり

性の問題は、職員同士でも話しづらいが、保護者に対してはさらに話しづらい。保護者に対しては、どのように伝えているのだろうか。

【新島】「児童発達支援管理責任者になって、保護者の方とのコミュニケーションが非常に大事であることを実感しています。日頃から連絡を取りあい、些細なこともすぐに報告する。そうしたつながりがあれば、性的なトラブルが起こっても、言いやすい関係をつくることができる。日頃からの関係づくりを心がけています。

親の経済状況によって、子どもの気持ちの裕福度や性格は変わると思います。裕福な家庭の子どもは、カリカリしておらず、愛情を受けて育ったんだろうなと思わされることが多い。親にも相談がしやすい傾向があります。

保護者同士のコミュニケーションの場としては、親の会などの横のつながりがあります。このネットワークはすごくて、あっという間に情報が知れ渡る。うちの施設や職員が保護者からどう思われていて、どんなことを言われているかといった情報も、逆にこのネットワークから入ってきたりします。下手なことを言ったりすると、保護者から直接デイを経営している会社にクレームがいく。

ただ、こうした親同士のネットワークには、入れる人と、入れない人がいる。クレームや噂話以外に、本当に大切なこと、デイと保護者の間で話しあわないといけないことは、もっとたくさんあるはずなのに……と思う時もあります」

■外国籍の子どもの性問題はさらに解決が難しい

新島さんの勤める放デイのある地域は、外国籍の住人も多く、その子どもたちも通っている。現在、利用者全体の約三割が外国籍の子どもだそうだ。裕福な家庭で育っている子どももいれば、シングルマザーや生活保護の家庭で育てられている子どももいる。

言葉が異なると、本人や保護者とのコミュニケーションがうまく取れず、ただでさえ対応が難しい性に関するトラブルが、ますます解決困難になる場合もある。

【新島】「両親がイスラム教の外国籍の女の子が、部屋の真ん中で自慰行為を始めるようになりました。日本人と比べても身体の発育が良いので、性的な面での成長も早かったのでしょう。職員が自慰行為を止めようとすると、とにかく暴れまくる。周りにいる他の子どもたちを殴ったり、ひっかいたりする。走り回ってあちこちの壁にぶつかっていき、へこませてしまう。

トイレに誘導しても、そこでは決してしようとしない。みんなのいる共有スペースで自慰行為をしたい、という願望があるようで、かたくなに移動を拒む。そこで、共有スペースの真ん中で布団をかぶせて、その中でしてもらう形にしました。

他の子どもたちが遊んでいる中で、その女の子だけ、部屋の真ん中で布団をかぶって自慰行為をし続ける……という奇妙な時間が毎日続きました。保護者の方に相談しても、日本語が通じない。ただでさえ微妙な問題なのに、保護者の方とコミュニケーションが思うように取れないこともネックになりました」

■ポルトガル語しかしゃべれない母親に翻訳アプリで相談

障害×性×言語の異なる外国人、という三つのハードルが重なると、問題の解決は非常に困難になる。

【新島】「ブラジル人の女の子で、自慰行為のやりすぎで、性器に触りすぎて病気になってしまっている子がいました。トイレも、男の子のように立ってするような状況で。

母親に伝えようとしたのですが、向こうはポルトガル語しかしゃべれない。お互いに片言の英語でやりあって、翻訳のアプリを使いながら『汚れた手で触っているから、病気になっています』『じゃあ病院に連れていきます』と、なんとかコミュニケーションを取ることができました」

ただ、外国籍の保護者は性に対してオープンな人も多く、日本人に比べて話しやすい傾向がある、と新島さんは指摘する。

逆に日本人の保護者は、性に関する問題を話しあうこと自体に抵抗があるケースもある。また、日々の現場で起こっていることを保護者に伝えようとしても、会社から「性に関する話は、保護者に言わない方がいい」と止められることもあるそうだ。

性の問題に対して、放デイと保護者のコミュニケーションがうまくいかないことによって、最も不利益を受けるのは、子ども本人であることは間違いない。大人の都合で問題の共有や解決が先送りされてしまっては、子どもの利益にならない。

■学校との連携の模索

放デイの職員の力だけでは解決が難しいケース、様々な事情で親との連携がうまくできないケースの場合、学校に対して協力を求めることもあるという。

【新島】「学校の相談支援員に相談して、保護者・相談支援員・私の三者で協議することもあります。相談支援員と密に連絡をしていくと、そこを通して学校と話ができる。保護者・学校・放デイの担当者会議を開いてくれる支援員はまだまだ少ないですが、困っている時はやってほしいと頼むこともあります。

ただ、性に関する問題が起こった時に、担当者会議を行って解決までたどり着いた例はありません。相談支援の人とも色々な話をするのですが、性の話は流されてしまう。きちんと話しあえるまでに、何重にも壁があるのを感じます。

先生方の話を聞いていると、学校の現場でも、性に関する問題は見て見ぬふりをしてしまっていることが多いそうです。特別支援学校の先生にも聞いたのですが、特別支援学校の教員になる過程でも、障害のある子どもの性に関する問題については学ばない。性的なトラブルへの対処についても、勉強しない。特別支援学校の先生になるような人でも、そういう勉強はしないんだな……と。でも、実際の現場では、そうした問題はたくさん起きている。

■「どうすればいいか」という議論がなかなかできない

放デイに通っている男の子で、自分で射精をするところまではできるのだけれど、その後に自分で後始末をすることができない、というケースがありました。

まずパーテーションの裏で射精をしてもらい、その後で男性スタッフが後始末をする、という形で対応していたのですが、男性スタッフがいない時に女性スタッフが対応した結果、うまく誘導ができず、途中で精液をかけられてしまった、ということもありました。

本人に注意しても、『なぜダメなのか』が分からない。それでも、きちんと職員全員で対応していかないといけない。高学年の子も多いですし、身体も大きくなる。学校を卒業する日も近づいている。そうした中でも、不意に人前で性器を出したり、いじることがある。注意すると、その場だけは隠したりするのですが、気が付けば、また出していじっている。周りには女の子もいる。

そうした状況下で、どのように対応していけばよいのか。本当に悩ましいです。話しあう場所がない。『こういうことがあったんですよね』という報告だけで終わってしまう。『ではどうすればいいか』という議論がなかなかできない。

学校で話しあえる先生もいたのですが、最近は、先生と連絡を取ろうとしても、『情報の共有は保護者の方を通じてお願いします』と言われてしまうことも多い。難しいです。

性の問題については、放デイだけでなく、家庭や学校を含めて、全員が力を合わせて教えていかないと、障害のある子どもたちには習慣づいていかない。学校を卒業してからもそういうことが続くようだと、社会生活がうまく営めない。場合によっては、性犯罪になってしまう。学校・デイ・家庭での連携が必要だと思います」

■卒業までのタイムリミット

性に関する問題は、共有すること自体が難しく、なかなか根本的な解決にまではたどり着かないことが多い。そうした中で、十分な支援ができないまま、学校と放デイを卒業する時期が来てしまうことに対して、新島さんは危機感を抱いている。

【新島】「放デイはあくまで子どものための施設なので、親に対するケアが少ない。親御さんが本当はどう思っているかについては、なかなか話せない。もどかしいです。

本当は、直接親御さんに『自慰行為が止まらないのだけれども、どうすればいいのか』と聞きたいのだけれど、それについては会社からストップがかかってしまう。

子どもたちに教えられることはいっぱいあるようで、実は少ない。私たちは、子どもたちに対して、本当に大事な話ができているのかな……と考えることもあります。

卒業までの時間は短いです。高校を卒業したら、『障害児』ではなく『障害者』になるため、利用できるサービスが減ります。

自慰行為について、親御さんに伝えることができた場合でも、『とにかく止めてください』と言われることが多いです。しかし、『止める』といっても、止めた後にまたやり始めるので、ずっと止め続けなくてはいけない。

本人の気分転換につながるような支援をしたり、一定の場所や時間を決めたり、パーテーションなどで区切った空間を作って、そこに誘導してやってもらう……といった解決案を議論するところまで、たどり着かない。力ずくで無理矢理止めて、本人が荒れて、他害行為を繰り返す……という状況が続くだけで、根本的解決にはならない。

学校でも家庭でも、性に関する知識やスキルは教えられない。射精行為を教えるべきなのか、それとも知らない方がいいのか、家庭で教えるべきなのか、それとも放デイで教えるべきなのか。子どもの知的レベルによって判断は変わるので、いつも迷います。

一度覚えるとずっと自慰行為をし続けてしまう子どももいるので、悩ましいです」

■「性に関する事柄は親が決める」で本当にいいのか

【新島】「障害のある子どもは、発育の遅い子が少なくありません。性器自体もあまり発育しない子も多い。でも、性に対する欲求はある。

人前で性器を出したりいじったり、という行為に関しては、『やめなさい』と言えば、その場はやめるけれど、ただやめさせるだけでいいのでしょうか。欲求は、身体が大きくなればなるほど増えていきます。大人になってから急に言われてもできないので、小さいうちからルールを教えていかないと、収まらない。

せめて、職員同士では話をしていかないといけない。うちの施設でも、性に関する問題について、職員が報告しやすい雰囲気をつくることはできたので、その先の具体的な解決をどうしていくか、がこれからの課題です。

現在は、自慰行為を含めて、性に関する事柄をいつ・どこまで子どもに教えるのかについてのさじ加減は、親御さんが決めることがほとんどです。

でも、『親が決める』で本当にいいのでしょうか。障害児支援の現場においては、子どもの権利よりも親の権利が大きくなるのは事実です。でも、実際は親御さんにも正解が分からない。そこそこ自立度が高い子の親御さんに、『お子さん、これから恋愛ができるといいですね』と伝えると、『うちの子は無理無理』と言われてしまう。最初から子どもの可能性をつぶしてしまっている。

■「最低限のガイドラインが欲しい」

保護者に向けた教育というか、子育てや自立の方向性を見出すためのサポートをする機関があまりにも少ない。結果として、誰にも相談できずに行き詰まる人が多い。国の制度以外に、有料でもいいから頼れる場所をつくっていかないと、親御さんも行き詰まってしまう。

坂爪真吾『パンツを脱いじゃう子どもたち』(中公新書ラクレ)
坂爪真吾『パンツを脱いじゃう子どもたち』(中公新書ラクレ)

放デイの職員も、普段から親御さんとコミュニケーションの積み重ねがあれば、性に関するトラブルが起こった時も話しやすい。

学校を卒業した後、グループホームや生活介護に入ってから教えていくのか。その先はどうしているのか。いつ、どのようにルールを教えて、どうすればいいのか。

こうしたことに対して、最低限のガイドラインがあれば……と思います。大事なことなのに、日本社会にはルールがない。

性に関する問題は、一生の問題です。まったくそうした問題が起こらない子もいるのだろうけど、多くの場合、必ずぶつかる問題です。そのため、子どものうちからどういう指導をしていけばいいのか、ある程度の方向性が示されていればいいなと思います」

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坂爪 真吾(さかつめ・しんご)
ホワイトハンズ代表理事
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗産業の社会化を目指す「セックスワーク・サミット」の開催など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館新書)、『男子の貞操』(ちくま新書)など。

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(ホワイトハンズ代表理事 坂爪 真吾)

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