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TikTok経由で世界的大ブームを起こしている日本人にはおなじみの"あるスイーツ"

プレジデントオンライン / 2021年11月18日 12時15分

Little Moonsのアルフォンソ・マンゴー味とチョコ&ヘーゼルナッツ味。 - 筆者撮影

アイスクリームをぎゅうひで包んだ「餅アイス」が、世界中でブームになっている。イギリス在住ライターの江國まゆさんは「ブレイクのきっかけは、イギリスの餅アイスブランドLittle MoonsがTikTokアカウントを開設したこと。特に1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた『Z世代』が夢中になっている」という——。

■イギリス発の餅アイスブランドが話題

アイスクリームをぎゅうひで包んだ日本人にはおなじみのスイーツ、餅アイス(Mochi ice cream)がイギリスを中心に世界的な大ブームになっている。

世界的に見ると、餅アイス市場は主に米国で発展してきた。しかし、今回のブームの発端はTikTok。そして、そこで中心となっているのは、イギリス発のブランド「Little Moons」である。

Little Moonsの人気定番商品の一つ、パッションフルーツ&マンゴー味の餅アイス。(写真=Little Moons公式ウェブサイト)
Little Moonsの人気定番商品の一つ、パッションフルーツ&マンゴー味の餅アイス。(写真=Little Moons公式ウェブサイトより)

■TikTok効果で売り上げが2000パーセント増

Little MoonsがTikTokのアカウントを作ったのは昨年8月のこと。動画をアップし始めるとすぐに注目が集まって口コミが広がり、ユーザーたちによる関連動画が次々とアップされた。その数は約1万5000件。合計で5億回以上再生された。この効果で、売り上げが5カ月で2000パーセント増という驚異的な数字に達した。

また、今年5月12日の英インディペンデント紙の記事によると、TikTok上で昨年12月にできたハッシュタグ#LittleMoonsが5340万回のクリックを記録し、スーパーでの売り上げがハッシュタグができる前と比べて700パーセント増加したという。同社では需要に応えようと生産能力をフル稼働させている状態だ。

■増産のため約5億5000万円の設備投資

急激なLittle Moons人気を受けて、一部のデパートやスーパーでしか取り扱いのなかった商品が、ブレイク後はほぼ全てのスーパーで購入できるようになった。またAmazon、Deliveroo、Ocadoなど大手宅配会社でも取り扱いがあり、全国的に入手が可能となっている。

ブームにのっかり、AldiやLidlなどの大手ディスカウントスーパーが今年の夏、独自ブランドを立ち上げて市場参戦した(2社ともに「餅ボール」と命名)。ニッチ商品だった餅アイスが、ほんの数カ月でメインストリームに躍り出ようとしている。

今年2月18日のThe Modemsの記事によると、事業に手応えを感じたLittle Moonsは餅アイスを年間7200万個まで増産するため、昨年3月の段階で350万ポンド(約5億5000万円)を設備投資したという。

今や日本のスイーツ、餅アイスの認知度はTikTokが抱えるZ世代を中心に急激に高まり、定番スイーツの仲間入りをしようとしている。

■海外の先駆けはカリフォルニア発の和菓子専門店

高級紙から大衆紙を含め、今年春ごろから餅アイス現象をレポートする英オンライン・メディアは後を絶たない。日本の食文化になじみのない読者へ向けて、ほとんどの記事で「餅とは何か」という説明書きを付けていて、餅文化の普及にも一役買っている。

同時に、餅アイスは日本の文化と西洋のアイスクリーム文化が合体したものとして扱われており、特に海外における餅アイスの生みの親として知られる米企業Mikawayaへの敬意は大きい。

海外における餅アイスの製造は、カリフォルニア発の和菓子専門店Mikawayaが先駆けだと言われている。1990年代に7種のフレーバーから始まった餅アイスは、Mikawayaから派生した2015年誕生のブランド、My/Mochiへと発展。現在も米国とカナダの市場の9割を担っているという。

一方、イギリス発のブランドLittle Moonsは10年に創業された。Little Moonsが小売市場で頭角を現し始めたのは15年で、大手オンライン・スーパーや自然食品スーパーへ卸し始めたことで一般にその存在が知られるようになった。最初はバニラ風味、ラズベリー風味などイギリスで受けそうなものからスタートし、次にマンゴーやココナッツなど実験的なフレーバーも取り入れるようになった。

しかしイギリス国内の日本ファンからは、餅アイスはもっと前から知られた存在だった。和食レストランで提供されているからだ。

アジア系の簡易スーパーの棚に収まるLittle Moonsの商品。
筆者撮影
アジア系の簡易スーパーの棚に収まるLittle Moonsの商品。 - 筆者撮影

■高級和食を好む層が最初のターゲット

この20年にわたってロンドンの外食産業をウォッチしてきた筆者は、イギリスで餅アイスを一般に広めた立役者は他にもいると直感していた。97年にアメリカからやってきた高級和食レストランのNobuである。

早速Nobu Londonの広報に問い合わせてみると、思った通りの答えが返ってきた。

「Nobuはロンドンで餅アイスをデザートに取り入れた最初期のレストランだと思います。この10年間、当レストランでエグゼクティブ・パティシエを務めるレジス・キュルサンが、Little Moonsと協働して高品質の餅アイスの開発に取り組んできました」

Little MoonsとNobuには、つながりがあったのだ。

■「雪見だいふく」からもコラボを依頼されていた

Little Moonsでは2010年の創業当時、国内レストランにアプローチし、デザート・メニューに餅アイスを取り入れるよう働きかけていたようだ。一般小売りに卸すようになる15年より前のことだった。Nobu Londonは最初からLittle Moonsとの強い絆を築き上げ、ともにフレーバーを開発してきた歴史があるということだ。

ロンドンのNobuグループのエグゼクティブ・パティシエであるレジスさんに話を伺ってみると、Nobu Londonで餅アイスを初めてメニューに載せたのは10年だったとのこと。

レジスさんによるとちょうどその頃、ロッテが雪見だいふく(1981年発売)のサンプルを持ってNobu Londonを訪れ、メニュー検討を依頼してきたそうだ。レジスさんはすでにLittle Moonsとのコラボを決めていたこと、またイギリス発の独立系ビジネスをサポートしたいという思いもあり断った。

「Little Moons創業者のヴィジョンには、当初から目を見張るものがあった。それで彼らと商品開発のコラボをすることにしたんだ。本当にいろいろなフレーバーを一緒に作った。彼らの商品をロンドンで初めてメニューに載せたのは、Nobu Londonだよ。今でも一緒に仕事をしているし、実は来年創業25周年を迎えるNobu Londonで餅アイスの限定フレーバーを出したいと思っていて、目下、Little Moonsと一緒に開発中なんだ」(レジスさん)

ロンドンにあるNobuグループ全体のパティシエ部門を統括しているレジス・キュルサンさん。彼のお気に入りはマンゴー味の餅アイスだそう。
提供=Nobu London
ロンドンにあるNobuグループ全体のパティシエ部門を統括しているレジス・キュルサンさん。彼のお気に入りはマンゴー味の餅アイスだそう。 - 提供=Nobu London

10年代に5年にわたってNobu Londonのパティシエとして働いていた友人によると、餅アイスは特に日本人以外の客に大人気だったそうだ。現在では餅アイスをデザートとして提供しているアジア系のレストランは多く、ロンドンではすでに定番メニューとして認識されている。

Nobu Londonのデザート盛り合わせに使われている餅アイス。
筆者撮影
Nobu Londonのデザート盛り合わせに使われている餅アイス。 - 筆者撮影

■ドーナツからクッキーまで幅広い商品展開

このように、餅アイスはイギリスでもアジア系レストランに出入りする人ならよく知るスイーツだが、今回の大ブレイクで餅そのものへの興味も高まっている。

今年5月、ロンドン中心部にある日本食材店ジャパン・センターに、英国初のMochi Barが誕生した。店舗1階のフロントに登場しているMochi Barは、餅アイスだけでなく餅粉ドーナツ、餅粉クッキー、大福、餅粉パンなど、餅粉を使った菓子類に特化して販売している。日本の技術で作る独自商品は毎日作りたて。餅アイスの人気急上昇も手伝って、メディアでの注目度は高い。

ピカデリー地区に新しくできたジャパン・センターのMochi Bar。
筆者撮影
ピカデリー地区に新しくできたジャパン・センターのMochi Bar。 - 筆者撮影
飲み物はタピオカ・ティーなどを扱う。
筆者撮影
飲み物はタピオカ・ティーなどを扱う。 - 筆者撮影
日本の伝統フレーバーを扱うジャパン・センターの餅アイス。
筆者撮影
日本の伝統フレーバーを扱うジャパン・センターの餅アイス。 - 筆者撮影

餅人気にさらに拍車をかけそうなもう一つの理由として、アレルギー対策がある。小麦粉に含まれるグルテンに対するアレルギーや不耐性を持つ人たちにとって、餅菓子は安心して食べられるスイーツなのだ。特にアレルギー症状が出がちな小さな子どもたちにとっては見た目もかわいいスイーツとして、またチョコレートよりもヘルシーなおやつオプションとして選ばれていく可能性も高い。

花形のシェイプが目を引く餅粉を使ったドーナツはオススメの品。多種類のフレーバーを取りそろえている。
筆者撮影
花形のシェイプが目を引く餅粉を使ったドーナツはオススメの品。多種類のフレーバーを取りそろえている。 - 筆者撮影
通常の大福餅も人気。
筆者撮影
通常の大福餅も人気。 - 筆者撮影

■なぜ餅アイスは愛されるのか

結局のところ、餅アイスの何がZ世代のTikTokユーザーを引きつけたのか。

背景には、イギリス人を含む西洋人が老若男女を問わず無類のアイスクリーム好きという事実がある。デザートの定番であるのはもちろん、おやつとしてもとにかく大変人気が高い。イギリスでは冬でも晴れればアイスクリーム日和である。

ほかには「一口大のポップなアイスクリーム」というイギリスでこれまで一般に見かけなかった商品であることも要因だろう。目新しさ、かわいらしさ、1個100キロカロリー以下のヘルシーさ、そして試食する様子が動画映えするといったことが、人気の理由なのではないかとにらんでいる。

■味は甘さ控えめでさっぱり系

Little Moonsでは、バニラ、ピスタチオ、チョコレート、ストロベリーなど西洋人が好むクラシックなフレーバーを中心に、現在13種類の餅アイスを提供している。加えて限定商品も随時投入していく予定で、今年の夏はフィッシュ&チップス味を含む3種を発売して話題を呼んだ。

小ぶりの大福大の餅アイスは6個入りで約5ポンド(約760円)。1個80ペンス(約125円)の計算だ。柔らかいぎゅうひの食感と、フレーバー重視の滑らかなアイスクリーム餡のコンビネーションは、初めて食べる人にはかなりユニークな体験であることは間違いない。

味わいはかなりナチュラル。さっぱり系とさえ言ってよく、甘さ控えめ。砂糖たっぷりのスイーツを好むイギリス人が満足できる味なのかは不明だが、Z世代の舌が変化してきているのかもしれない。

Little Moonsのアルフォンソ・マンゴー味とチョコ&ヘーゼルナッツ味。
筆者撮影
Little Moonsのアルフォンソ・マンゴー味とチョコ&ヘーゼルナッツ味。 - 筆者撮影

先に登場したNobuエグゼクティブ・パティシエのレジスさんは、こう分析している。

「餅の歯ざわりは、西洋人にはとても特殊で初めて食べる人には驚きを与えるでしょう。ロンドンはコスモポリタン・シティで、当レストランに来られるお客さまは新しい味に対して非常にオープンな方が多く、それも餅アイスがすぐに受け入れられた土台になっていると思います」

アジア系のスーパーではLittle Moonsだけでなくいろいろなブランドの餅アイスがそろう。
筆者撮影
アジア系のスーパーではLittle Moonsだけでなくいろいろなブランドの餅アイスがそろう。 - 筆者撮影
別メーカーの餅アイス。黒ごま味はLittle Moonsで取り扱いのないフレーバーの一つ。
筆者撮影
別メーカーの餅アイス。黒ごま味はLittle Moonsで取り扱いのないフレーバーの一つ。 - 筆者撮影

■餅アイス=餅と早合点する人も?

餅アイス・ブームの報道記事を手当たり次第に読み進めていると、MochiがMochi ice creamと同じニュアンスで使われている場合も多々あり、ドキリとさせられる。

イギリスでは日本式カレーがカツなしでも「カツカレー」と呼ばれるようになってしまった経緯があり、どうしても言葉が一人歩きしてしまう傾向にある。このことはプレジデントオンラインの記事「イギリス人がカツのないカレーを『カツカレー』と呼ぶようになった驚きの理由」(2021年9月17日配信)でも書いた。餅アイスのことを餅と早合点してしまう人も出てきそうだが、日本文化の普及のためと思って今後の展開を見守るしかなさそうだ。

何はともあれ、TikTokで日本のスイーツが大ブレイクである。この現象に意味があるとしたら、これまで和食レストランなど行ったことがなかった餅バージンのZ世代に、幅広く餅文化が浸透したという点だろうか。

彼らが成長して家庭を持ったとき、餅アイスは日常的に家族全員でいただくスイーツの定番になっているかもしれない。餅アイスは今、まさに世界中で市民権を得るべくその歴史をスタートさせている。

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江國 まゆ(えくに・まゆ)
あぶそる〜とロンドン編集長
岡山県倉敷市生まれ。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社を経て、雑誌編集者・ライターに。1998年の渡英後は英系広告代理店にて翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当。2009年からフリーランス。10年にロングセラー『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。14年9月にイギリス情報ウェブマガジン「あぶそる~とロンドン/Absolute London」を創設、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむ。18年、あぶそる~とロンドンが選ぶ『ロンドンでしたい100のこと~大好きな街を暮らすように楽しむ旅』(自由国民社)を上梓。

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(あぶそる〜とロンドン編集長 江國 まゆ)

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