「マイナポイント配布は経済対策にならない」それでも政府が"バラマキ"を続ける本当の理由
プレジデントオンライン / 2021年11月17日 9時15分
■「経済対策」は支出以上の効果を生む必要がある
「新型コロナ対策」「経済対策」と言えば、どんな大盤振る舞いも許されると、政治家も官僚も思っているのだろうか。政府が11月19日にまとめる「経済対策」は、財政支出ベースで40兆円超になる見通しだと報じられている。新型コロナ前の年間の予算、一般会計予算が100兆円強だったので、追加の対策で使う金額としては、まさに大盤振る舞いだ。衆議院総選挙の際に与党が声高に叫んできた「手厚い給付」などを実行すれば、国民は皆喜ぶと思っているのだろう。だが、その大盤振る舞いのツケは、いずれ国民に回ってくる。
「経済対策」というのは言うまでもなく、政府が支出したものが、それ以上の経済的な効果を生むものを言う。つまり、政府が財政支出する以上、その経済的効果が明らかに期待できるものだけを本来、「経済対策」と言う。さらに「乗数効果」といって、政府が使うカネはいわば種銭で、これが刺激を与えて数倍も国民の懐を潤わせることが本来の経済対策には期待されている。所得が減った分を補填するだけでは厳密に言えば経済対策ではなく、福祉政策だろう。
「新型コロナ対策」も新型コロナ感染症の拡大防止や、それに伴う医療崩壊の阻止などに直結する政策を言う。かつて東日本大震災からの「復興予算」が、関係のない沖縄県の道路建設などに使われていたことが発覚、大きな問題になったが、新型コロナ対策という以上、新型コロナの封じ込めなどに役立つ政策でなければならない。
■マイナポイントが「新型コロナ対策」になるはずがない
今回の「経済対策」の中で、またしても噴飯物の政策が紛れ込んでいる。マイナンバーカードを取得した人に現金同様に使えるポイント「マイナポイント」を配るというものだ。新聞などによると「新型コロナウイルス感染拡大に対応するための経済対策」の一環というのだが、マイナポイントを配ることが「新型コロナ対策」になるはずもないし、経済対策としてもどれだけ乗数効果があるか不明だ。
当初、公明党からは、カード保有者に一律3万円分を支給するよう求める声が出ていたが、最終的には最大で2万円分の支給になるという。総額2兆円の事業である。
カード取得者に恩典を与えるのは、「カードの普及促進」が政策目的であって、経済対策は後付けの理屈だろう。新たにカードを取得した人に5000円分、カードを健康保険証として使うための手続きをした人に7500円分、預貯金口座とのひも付けをした人に7500円分をそれぞれ支給するという話になっている。
■利便性を感じられないから、普及しないのも当然
マイナンバーを普及させたいという政府の意図は分かる。だが間違ってはいけないのは、マイナンバー自体はすでに全国民に発行され、番号は割り振られている。番号自体は普及しているのだ。ところがマイナンバーカードが政府の思惑どおりに普及しない。これまでもマイナポイントの付与などカネをばらまいてきた結果、普及率は上昇しているとはいえ、総務省の集計によると2021年11月1日現在のマイナンバーカードの普及率は全人口の39.1%にすぎない。
カードが普及しないのは当然だ。マイナンバーカードを持っていることによる利便性を感じない人が多いからだ。コンビニで住民票が取れますと言われても、住民票が必要になること自体、年に数回あるかないかだ。ようやく、健康保険証としても使えることになったが、健康保険証すべてがマイナンバーカードに置き換わるわけではなく、どちらも使えるから、わざわざ不便なマイナンバーカードを持ち歩くのは煩わしい。運転免許証としても使えるという話もあるが、まだ先の話だし、従来の免許証が無くなるのかどうかも分からない。
そもそも、マイナンバーを他人に知られてはいけない、という話から始まったため、マイナンバーカードを持ち歩くことにも多くの人はリスクを感じている。家の金庫にしまっているという高齢者もいる。米国の社会保障番号や北欧の個人認証番号などは、多くの人が暗記していて、聞かれればその場で答えている。マイナンバーが使えない仕組みになっているのは、最初の設計から間違っているのだ。
■政府の説明は「便利です」ばかり
まして、物理的なカードである必要が本当にあるのか、はまともに議論されていない。民間のポイントカードは今やカード型ではなく、スマホの中にアプリとして入れるものが主流になりつつある。財布の中にカードがいっぱいで、新しいカードはいらない、という消費者が増えていることも背景にある。
民間のクレジットカード会社が、新たにカードを作った場合、5000円分のポイントを付与する、というのはよくあるサービスだ。5000円のインセンティブを与えても、その分、いずれ利用してもらう中から回収できるからだ。では、マイナンバーカードの普及に2万円を払って、政府はどうやって回収しようとしているのか。
皆さんの所得が完全把握できますので、捕捉率が上がり税収が増えるんです。そう説明してくれれば理解できる。ところが、政府の説明は「便利です」と言うばかりで、まともに本当の狙いを明かさない。もし「カードを普及させる」ということだけが、政策目的になっているのなら、官僚が自分たちの失敗を認めたくないために、「経済対策」に名を借りてカード普及を進めようとしているということなのではないか。
■「Go To」のほうが経済対策としては効果があった
ポイントを配ることで消費を喚起するというのも無理な話だ。経済対策は前述の通り乗数効果が生まれなければ意味がない。2万円分のポイントを配って、2万円しか使われなかったら、乗数効果は1倍である。ポイントを配るためには当然、さまざまな手数料や官僚の人件費などのコストがかかっているわけで、財政の実質負担から見れば、乗数効果は1倍を下回ることになる。
バラマキだと批判を浴びたGo To トラベルキャンペーンの方が、実際に2万円の助成で4万円以上のところに宿泊するわけだから、個人の懐から2万円以上が支出されていた。助成率の大きさや金持ちばかりが得をしたという批判は別として、経済対策としてはそれなりに効果がある政策だったと言える。それに比べるとマイナポイントはまさにバラマキそのものと言えるだろう。
■18歳以下の子供に対する給付金も「目的」が不明
他にも政策目的が曖昧な「経済対策」が目白押しだ。例えば18歳以下の子供に対する給付金。全員一律に配るのは不公平だとして上限960万円の年収制限を設けたが、またしても世帯主ひとりの年収なのか世帯年収なのかで不公平論が燃え盛っている。ひとり親で年収が980万円の家の子供は支給されないが、両親がそれぞれ950万円もらっている世帯は合算で超えていても支給されるではないか、というのである。また収入がなくても資産がある人は山ほどいる、という話になっている。
この給付の目的は何なのか。新型コロナで打撃を受けた人の救済なのか、経済対策なのか。はたまた少子化対策なのか。少子化対策で子供を増やしたいというのであれば、年収制限など付ける必要はなくすべての子供に一律に配るべきだろう。一方、弱者救済というのなら、世帯年収や資産状況を調べないと不公平になる。
昨今の「対策」は政策目的が不明確で、何でもばらまけば良い、カネを配れば経済対策になる、と思われているフシがある。いわゆる「国の借金」は1200兆円を突破し、GDPの2年分以上になった。そんなことはお構いなしに、何しろどんどん支出を膨らませるのが政治の役割だと言わんばかりに予算支出を続けている。政府が使うカネは本当に効率的なのか、政策目的の達成のために必須なのか、それを厳しく検証していくのが政治家の本来の仕事だろう。
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経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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