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「グレタさんは利用されているだけ」COP26で浮き彫りになった欧米諸国の二枚舌

プレジデントオンライン / 2021年11月20日 9時15分

2021年11月2日、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)でのジョンソン英首相(イギリス・グラスゴー) - 写真=AFP/時事通信フォト

■石炭火力発電は「段階的廃止」から「段階的縮小」に

スコットランドの首都グラスゴーで10月31日から開催されていた第26回気候変動枠組条約締約国会議、通称COP26が11月13日に閉幕した。2015年のCOP21で採択された「パリ協定」の履行を目指すとともに、さらなる気候変動対策の加速や充実を目指す「グラスゴー気候協定」が、約200カ国・地域の間で締結された。

当初からの懸念通り今回のCOPでは、最大の争点であった石炭火力発電の扱いに関し各国の利害が大きく対立した。単純化すれば、それは温室効果ガスの削減を目指し石炭火力発電の性急な廃止を要求する欧州連合(EU)を中心とした先進国と、石炭火力発電の段階的な削減を主張する途上国や化石燃料の輸出に依存する資源国の反目であった。

当初の会期を一日延長して実施された詰めの協議では、中国とインドが土壇場で共同声明の表現に対して異議を唱えた。米国のケリー特使の調整の下、EUと4者間での協議が行われた結果、非効率な石炭火力発電や化石燃料への補助金の「段階的廃止(phase out)」という表現が「段階的縮小(phase down)」に書き改められた。

廃止から縮小に表現を変えたことで、中国とインドは石炭火力発電に存続の道を残したわけだ。廃止の要求にそもそも無理があったわけだが、結局のところ米国の仲介もあり、EUが中国やインドとの関係を優先して妥協に応じたことになる。グローバルプレーヤーとしての中国やインドの存在感の強さを印象付ける出来事だと言えよう。

■意気込みが空回りした英国のジョンソン首相

採択に当たり、表現の後退に失望した英国のアロック・シャルマ議長はその無念から涙を流し、会場からは拍手が送られた。一方で、ホスト国のメンツをかけて臨んだジョンソン首相は、表現がphase outだろうとphase downだろうと大きな変わりはなく、石炭火力を排除する方向付けを明確化できたとして、今回のCOPの意義を強調した。

ホスト国である英国では環境に対する有権者の意識が高い。支持率低迷にあえぐジョンソン首相としては、今回のCOP26が自らのイニシアチブで大成功を収めたと主張し、有権者にアピールするしか選択肢はない。COPの成果を自画自賛するジョンソン首相だが、そうした背景が透けて見える以上、彼の威勢は「空回り」にも見えなくない。

それに英国は、今回のCOPを通じてEUを出し抜き、米国との関係強化を図りたいところだった。その米国は中国とCOP閉幕の直前である11月10日に気候変動対策で合意したと異例の共同声明を発表したが、このプロセスに英国が積極的な役割を果たしたかは疑問だ。結局、ジョンソン首相の片思いは成就しなかったのではないか。

他方でEUだが、石炭火力発電の性急な廃止を求める声の裏にはフランスを中心とする原発推進の思惑がある。福島原発事故(2011年)を受けて脱原発の流れが広がったEUだが、近年は小型モジュール炉(SMR)を中心に原発を新設する動きが顕著だ。かつて挫折した欧州加圧水型炉(EPR)を含め、EUは原発の輸出再開をもくろんでいる。

■厳しい目標は本当に正義なのか

過激な環境活動家や環境団体はCOP26での合意内容を手緩いと批判している。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏はその急先鋒だ。とはいえ、もともと彼らは過激な主張に終始しており、実現可能性が高い対案を提示しているわけではない。急激な変化に伴う摩擦の問題に関しては、無責任な立場からの発言に終始する。

グローバル気候マーチ2019に登場したグレタ・トゥーンベリ氏
グローバル気候マーチ2019に登場したグレタ・トゥーンベリ氏(写真=Frankie Fouganthin/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

皮肉にもホスト国である英国のジョンソン首相が述べたように、外交の合意とは妥協を意味する。EUを中心とする先進国が一方的に定めた「正義」を途上国や資源国が受け入れることなどできるはずがない。渋る相手に条件を受け入れさせるなら、それなりの対価が必要となるはずであり、途上国が資金協力を求めるのは当然である。

この点について、岸田首相が11月2日の首脳級会合でアジアなどの途上国に5年間で最大で100億ドル(約1兆1400億円)を追加支援すると表明したが、本来なら高く評価されるべきだ。気候変動対策を是としながらも資金協力を渋り続けるEUや英国に比べると、日本は途上国の立場に寄り添った現実的なアプローチで臨んでいる。

エネルギー政策がそれぞれの国の実情を反映している以上、その実情に寄り添った形でエネルギー転換を促さない限り、各国の反発を生むだけだ。EUを中心とする先進国が勝手に引いた線路の上を通るように言われたところで、途上国や資源国がそれに従う義務はない。さらにその速度にまで口を出されても、聞く耳など持たれるわけがない。

そうした意味で、過激な環境活動家や環境団体が成功と評価するCOPなど、まず成立し得ない。妥協をもって良しとされる外交交渉の場で、アクセルを踏みきったような主張など受け入れられるわけがないからである。仮に受け入れられるものだと彼らが考えているならば、それこそがまさに暴力だと言われても仕方がないだろう。

■世界の分断を招いているのは誰か

環境NGOらのネットワーク「CANインターナショナル」は、気候変動対策に消極的な国であるとして日本を「化石賞」に選んだ。石炭火力発電を今後も維持する方針を表明したことがその理由だが、これも冷静さを欠いた情緒的な評価に他ならない。これを理由に日本の気候変動対策が内外で支持を得ていないとする論評も公平さを欠く。

環境活動家やNGOらは日本の現実的なアプローチを手緩いと批判するが、情緒的なアピールだけでは国の姿勢は変わらないし、グローバルなルール作りなど進みようがない。またそうしたゲームのルールを自らに有利な方向に誘導しようとする姿勢がEUなどから透けて見える以上、途上国や資源国がそれについていくわけもない。

気候変動対策が世界的な課題であるのは確かだ。しかしながら、その温度差を生み出しているのは、日本や途上国、資源国の取り組みを手緩いと批判する急進的な立場の方ではないか。万事に共通しているが、性急な変化を求める声には必ずと言っていいほど強い反発が生まれる。物事を進めるためには、反対に回る立場への配慮が欠かせない。

気候変動対策を巡って世界が分断しているとして、その分断を作り上げているのは新興国や資源国ではないし、まして現実的な立場にある日本ではない。欧米諸国は国際協調をうたいながらも、途上国や資源国に対する配慮を軽視していたと言わざるを得ない。むしろ欧米は、もともとそうした配慮を放棄していたのではないだろうか。

言い換えれば、気候変動対策の推進を自称する欧米、特にEUや英国は、本当にその気を持っているのであろうか。結局のところ、彼らを中心に環境活動家を含めた政治ショーが展開されただけだったのではなかったのだろうか。今回の成果である「グラスゴー気候協定」がCOPの有名無実化の象徴とならないことを切に祈りたい。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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