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「女性の独身はさびしくて不幸」そんな価値観を押しつける日本社会の息苦しさ

プレジデントオンライン / 2021年11月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OkinawaPottery

ずっと単身でいること、結婚しないことに理由は必要なのだろうか。ノンフィクション作家の吉川ばんびさんは「世間では独身者より既婚者を持ち上げる風潮がある。だが、どちらの生き方も本人が納得して選択したのならば、他人が口を挟む問題ではないはずだ」という――。

■「結婚『できない』人」という言葉

ネット記事や雑誌の特集などで「結婚できない人の特徴○パターン」のようなタイトルを見るたび、最近では「まだこういう価値観が世間に通じる段階なんだな」と小さく絶望するのをくり返している。

男性の知人から「お前が30歳になって独身だったら指さして笑ってやるよ」と言われたときから10年がたち、私は30歳になった。もちろんその間に結婚した友人はたくさんいて、新しい家族が誕生した人も、けんかしつつも夫婦であり続けている人、離婚した人、みんな多種多様な生き方をしている。

独身のままでいる友人の中にも、いろいろな考えの持ち主がいる。「恋人はいるけれど、お互い特に結婚を考えていない」「誰かと一緒に過ごすより一人の方が向いているので特定の相手を作らない」「いつかは結婚も考えようと思うが、今は一人がいい」など、それぞれが自分の人生をしっかりと考えた上で、選んだ道を歩いている。

にもかかわらず、世間ではまだ「結婚していない人」より「結婚している人」を持ち上げる風潮があって、冒頭に書いたように「結婚『できない』人の特徴」なんて、まるで「結婚していないこと」を本人が望んでいないかのように、ましてや彼ら彼女らが結婚を焦っているかのような言葉を使って書かれてしまうことに違和感を覚える。ドラマやバラエティー番組だけでなく現実世界でも、独身の人に対して「だから結婚できないんだよ〜」と揶揄(やゆ)したり、まるでそれが弱点かのように指摘したりする場面を見ることもある。

■「結婚したら幸せになれるよ」

「この間、仕事関連の知り合いで40代半ばの男性から『○○さんも結婚したら幸せになれるよ』ってアドバイスされたんです、すっごいモヤモヤしちゃって」

そう憤る知人女性のエピソードが最悪すぎて、つい苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまった。その知人は20代後半の女性で、小学生の頃から母親の再婚相手から虐待をされて育った過去がある。話の流れからその生い立ちを男性に話したところ、酒を片手に「大変だったね。でも、女性は結婚したら幸せになれるよ」と諭されたのだという。

彼女は虐待を受けた経験によって「男性と一緒に暮らすこと」について、学生時代から大きな不安を抱えていた。そのため、将来は経済的に自立できるよう勉学に励み、今は自分一人で生きていくのに十分な収入を得ていて、自分の人生やキャリアに満足している。にもかかわらず、「結婚をしなければ幸せではない」といったレッテルを貼られ、その俗っぽい物差しで勝手に人生の満足度を測られたことに、怒りを感じたのだ。

■専門家ですら結婚を押し付けてくる

彼女がこのような発言によって傷付けられたのは、これが初めてのことではない。就職と同時に実家から逃げて一人暮らしを始めた頃、フラッシュバックによって気分が落ち込みがちになったときに通った精神科でも、似たようなことが起きた。50代半ばの男性カウンセラーから、突然脈絡もなく「もっと明るく振る舞えば彼氏ができるよ」と言われ、母親の再婚がきっかけで虐待を受けた過去のことも知っているはずなのに、まるで「結婚をすれば全て解決する」かのようなアドバイスまでされてしまったという。

彼女は「当時、結婚は考えてませんでしたけど彼氏いたんですよ。なぜか彼氏がいないと決めつけられちゃったみたいで、二重に失礼ですよね」と苦笑したあと、「専門家ですらそんな認識なのかって思うと、もうカウンセリングにお金を払って通うのも嫌になって」と小さくこぼした。

■「結婚は人生におけるゴール」だという刷り込み

私自身、世間一般に「ゴールイン」という言葉があるように、結婚がまるで人生のゴールのように扱われていたり、あるいはチェックポイントかのように考えられていたりすることについて、疑問に思うことが多い。

「結婚できなければ幸せになれない」という刷り込みは私たちが生きている社会の非常に根深いところで行われていて、「結婚」のあとには「出産」、そのあとには「マイホーム購入」が、誰しも通らねばならない通過地点として考えられている文化圏も存在する。しかしながらそうした価値観は現代の日本にはそぐわないものであり、今に至っては、家父長制の中で女性が家に閉じ込められていた時代の負の遺産そのものだと思っている。

もちろん、結婚する人や出産、マイホームを購入する人のことを否定しているわけではない。能動的に自分に合ったライフスタイルを選択したりタイミングを考えたりすることは素晴らしいことだ。問題なのは、そうではない人たちのこともひとくくりにして「結婚こそが幸せだ」とか、独身の人を「結婚できない」と言い表すなど、彼ら彼女らの「独身で生きていく方が自分に合っているから結婚しない」という選択を尊重せず、存在を無視し、価値観を押し付けてしまうことだ。

結婚指輪をはめた新郎新婦が小指をつないでいる
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

■「女の幸せを逃している」というおせっかい

かくいう私も機能不全家族で生まれ育ち、虐待や家庭内暴力を受けた被害者である。就職と同時に実家から逃げ出し、一人で暮らすことを選択してきた。子供の頃は将来、“自分の”家庭を持つことを夢見ていたが、大人になるにつれ、家庭という閉鎖的でかつ簡単に逃げられない空間で誰かに主導権を握られることが不安になり、やはり今でも新しい家庭を築くことが怖い。

「いい人いないの? 早く結婚しなよ」と他人から言われるたびに、自分の生きてきた人生や価値観を無視され、「大衆的なステータス」を押し付けられていることを痛感して飽き飽きしている。私は自分の意思で、自分のタイミングで、無限の選択肢の中から「最適解」を選ぶことを連続してくり返しているのだ。

かれこれ10年以上、トラウマによるフラッシュバックに苦しめられ、うつと複雑性PTSDの症状と戦い続けている。今でも男性の高圧的な態度や、大きな声を聞くと体がこわばってしまう。精神科や心療内科にはもう5年以上通院を続けていて、投薬治療に加えてカウンセリングも受けているが、寛解にはほど遠い。毎日毎日、殴られる夢を見て、悲鳴をあげたり叫び声をあげながら暴れて起きることもある。家族から連絡があったり顔を合わせたりすると症状が悪化して自殺衝動が強まるので、自分を心から安心できる場所に置くために、現在家族とは絶縁状態にある。

こうして必死に生きているのに「女の幸せを逃している」と言われることがある。余計なお世話だ、と心から思う。新しい家庭を作ることで不安が増幅される人も存在するのに、人を「女」という記号で見ているからこそ出てくる言葉なのだと思う。

■「結婚しない」理由がなくても

当然、私や知人女性のような複雑なバックグラウンドがなくとも、結婚をしない選択をする人々はたくさんいる。単純に「一人でいる方が楽」「パートナーがほしいとは思わない」と考える人たちも当たり前に存在している。もちろん、彼ら彼女らがその後「この人となら(このタイミングなら)結婚しよう」と思うようになる場合もあるだろう。高齢になってから初めての結婚をする人だっている。結婚せず、人生に終止符を打つ人も多い。

「結婚適齢期」に「結婚できなかった」人たちは、本当に幸せではないと思うだろうか。結婚しなければ、女性は幸せになれないだろうか。私は全くそう思わない。自分自身の生きたいように生きること、「結婚すること」を選ばずに生きること、結婚して生きること、結婚してまた独身に戻ること。それらはすべて等しく、本人の選択あるいは納得いく形として行われるならば幸せなことであり、他人が口を挟む問題ではないと私は思っている。

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吉川 ばんび(よしかわ・ばんび)
ノンフィクション作家
1991年生まれ。作家、エッセイスト、コラムニストとして活動。貧困や機能不全家族などの社会問題を中心に取材・論考を執筆。文春オンライン、東洋経済オンライン、日刊SPA!他で連載中。著書に『年収100万円で生きる 格差都市・東京の肉声』(扶桑社新書)。

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(ノンフィクション作家 吉川 ばんび)

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