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「財政難なのに10万円バラマキは必要なのか」そう心配する人は"国の借金"に騙されている

プレジデントオンライン / 2021年11月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHK2303

日本の財政は危機にあるといわれる。今年6月末の「国の借金」は過去最大の1220兆円、国民1人当たり約992万円と報じられた。京都大学大学院の藤井聡教授は「それは財務省のデタラメだ。政府が借りているのは『政府の負債』であって、『国の借金』でも『日本の借金』でも、ましてや『国民の借金』でもない」という――。

※本稿は、藤井聡『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■「国の借金」ではなく「政府の負債」

――藤井先生、岸田総理は真っ先に数十兆円規模の経済対策を実施するとおっしゃっていましたが、大丈夫ですか?

日本はバブル崩壊後から、ずーっとひどい財政赤字なんですよね。政府も政治家も経済学者もマスコミも、「日本には大量の借金があって、このままなら破産する!」といい続けています。さらに、新型コロナウイルス対策で赤字が膨らんで、2021年6月末時点では、「国の借金は過去最大の1220兆円、国民一人当たり992万円になる」と報道していました。だから政府は大金を出したくても出せないんじゃないですか?

【藤井】いいえ、出す気になりさえすれば、出せます。彼らのいってることは、真っ赤なウソなんですよ。

――えっ、どこがウソなんですか?

【藤井】全部。1から10まで。何もかも。どれだけ、この一連のウソにだまされている人が多いか。それがコロナ対策にも、大きな弊害をもたらしています。たとえば給付金にしても、政府が出そうと思えばまだまだ出せるんですよ。でも、文句が噴出しないのは、ほとんどの国民がこのウソにだまされているからです。

――10万円給付が決まったとき、私も友人たちも日本は財政難なのに構わないの? と心配したくらいでした。それでも私はしっかり給付金をいただきましたけど、友人のなかには遠慮して給付金の申請をしなかった人もいました。

【藤井】すっかりだまされていますね。まず、「国の借金」という表現からして間違いで、正しくは「政府の負債」です。「国の借金」っていうと、私たち国民も借りているような錯覚に陥りますが、完全な間違い。そもそも「国」のなかにはいろんな人、主体がいます。私たち国民もいれば、いろんな会社もあります。そして、それらとは全然別の存在として「日本政府」というものもあるわけです。マスコミなんかでいわれている「国の借金」とは、国でも国民でもなく、「日本政府の借金」のことなんですよ。

日本銀行の資金循環統計でも、「政府の負債」と書かれています。「政府」が借りているのが「政府の負債」であって、「国の借金」でも「日本の借金」でも、ましてや「国民の借金」でもありません。

■財務省は政府の財布のことだけを考えている

――それならなぜ、「国の借金1220兆円」とか「国民一人当たり992万円」などと喧伝するのですか?

【藤井】詳しいことはおいおい説明していきますが、財務省は小泉純一郎政権のころから、何よりも「政府の負債」を減らすことに血道を上げているんですよ。なんといっても財務省は、政府という一つの組織の金庫番だからです。いわば彼らは、政府という法人の経理部さんなんです。日本国家「全体」のことを考えているのではなくて、単に自分が働く「政府」という組織の財布のことだけを考えている人たちなのです。

要するに、彼らは自分の組織のことだけを考えて、国民や国全体のことなんてな~んにも考えず、新聞社や通信社、テレビ局の記者たちが常駐する財務省内の記者クラブ「財政研究会」を通じて、記者に資料を配り、政府の負債を「国の借金」と呼ばせて、国民感情をあおる。これが、財務省のプロパガンダ、つまり政治的な意図を持つ「宣伝」です。

記者は疑うどころか、新聞によっては政府の負債をわざわざ日本の人口で割って、「国の借金1220兆円、国民一人当たり992万円!」と見出しをつけたり、「日本は借金まみれで財政破綻する」などと、まことしやかに書き立てたりする。大半の政治家や経済学者も、口をそろえて「このまま借金が膨らむと日本は破綻する」と主張してきた。「嘘」とは「真実でないこと」という広辞苑の定義に従うなら、彼らはみんな、ウソつきなんですよ。

日本の財務省
写真=iStock.com/7maru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

■「財政破綻論」は意図的につくられている

――そんな! いったい、どうしてそんなデタラメがまかり通っているのですか?

【藤井】一言でいえば、財務省が天下を取っているからです。国会が持っているはずの予算決定権を実際は財務省が握っている。大雑把にいえば、「財政=政治」って側面がありますから、財政を抑えられると、政治家はやりたいことが何もできなくなるんです。しかも、財務官僚は自分たちの主張を国会議員に繰り返し「ご説明」に上がります。国会議員の先生たちはたいてい財務省のいいなりです。さらに、財務省は自分たちに都合のいいことを唱える経済学者を集めています。つまり彼らは財務省のお先棒をかつぐ「御用学者」なんですよ。

そういう政治家や学者や記者たちの報道が世の中にあふれると、人のいい国民は、「どうにかして借金を減らさないと、日本はめちゃくちゃになる。将来世代にツケを回してはいけない。消費増税も仕方がないか」と思い込んでしまう。その結果、財務省の「増税路線」に抵抗することができなくなってしまうんですね。そうして、意図的につくり上げられた「財政破綻論」に、多くの国民がまんまとだまされてしまうわけです。

■日本政府が財政破綻することはあり得ない

【藤井】ご存知のように、日本の政府は「国債」を発行して、資金を調達しています。国債には「返済期限」が決められていて、政府はその期限が来たら利子をつけて、国債と引き換えにおカネを返済します。こう聞くと、まさに「借金」なのだから、その返済のときに政府の手元にそれだけのおカネがなかったら、「破綻」しちゃうじゃないか⁉ とみなさんは普通に考えるのだと思います。

しかし、政府が借りているのがドルやユーロではなくて「円」である限り、そんなことは絶対に起こらないのです。なぜなら政府はいつでも、どんなときでも、「円」であるならば、どれだけでも用立てることができるからです!

――えっ、どうしてそんな離れわざができるのですか?

【藤井】理由を一言でいうなら、そもそも「円」を発行しているのは、他の誰でもない「政府」だからです。だから必要なときに、いくらでも「自分」で円を発行して、円を用立てることができる。

もうちょっと厳密にいうと、政府には「通貨発行権」があります。その権限を行使すれば、いくらでもおカネをつくり出すことができるのです、円である限りにおいて。もっと具体的にいうなら、次のようになります。

■政府は日本銀行を使ってお金をつくり出すことができる

まず、十円玉や五百円玉などの硬貨は、文字通り政府が実際につくり出しています。だから、借金返済のときに五百円玉を大量につくって返してしまうということも可能です。また、やろうと思えば、百万円玉、一千万円玉なんて硬貨を、政府が政府の権限を使ってつくり出し発行して返してしまう、ということもできるわけです。

一方、千円札や五千円札、一万円札などのいわゆる「お札」は、正式には「日本銀行券」と呼ばれるのですが、その名が示しているように、「日本銀行」という日本の中央銀行がつくり出したものです。この「日本銀行」というのは、普通の銀行と全然違って、「銀行の銀行」ともいわれるように銀行それ自体におカネを貸し付けるというスゴい権限を持っています。何よりスゴいのは、彼らが「おカネを自分で何もないところからつくり出して、そのつくり出したおカネを貸し出す」という行為です。わかりやすくいえば、「お札を刷って貸し出す」ということ。そもそも、そういうことができる仕組みになっているわけです。

で、お札をどれだけでも好きなだけつくり出せる日本銀行という存在は、実は、政府の「子会社」なんです。日本銀行は株式を東京証券取引所に上場しているのですが、株式の55%を保有しているのが日本政府です。しかも日本銀行法という法律の第四条には、政府から完全に独立した振る舞いをしちゃだめだ、ということも明記されています。つまり、政府は子会社の日本銀行を使って貨幣をつくり出すことができる。これをしっかり、覚えておいてください。簡単にいえば、要するに「政府は、おカネをつくり出すことができる」ということなんです。

■「家庭の借金」とは別のもの

――へえ~、初めて聞きました。

【藤井】「財政破綻論」を信じ込んでいる人のほとんどは、この事実に気づいていません。だいたい「政府の借金」と「家庭の借金」を同じように考えてしまうことが間違いのもと。政府の財政は、家計とは全く違うのです。

藤井聡『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)
藤井聡『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ新書)

当然ですが、私たち個人や民間の会社はおカネをつくることができませんよね。もし私たちが借金をしていたら、一生懸命におカネを稼ぐか、誰か別の人に頭を下げておカネを貸してもらうかして、返済しなくてはならない。しかし、政府にはその必要はありません。なぜなら、さっきからいってるように自分で貨幣を発行することができるからです。したがって、政府が借金で破綻することなど、あり得ないのです。

ちなみに、「日銀と政府は別の存在じゃないか、日銀は独立してるだろ!」という人もいますが、仮にそう考えるにしても、政府は子会社の日銀からいくらでもおカネを借りることができるので、破綻することなんてあり得ない。というわけで、結論は何ら変わりません。

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藤井 聡(ふじい・さとし)
京都大学大学院工学研究科教授
元内閣官房参与。京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年、奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助教授、東京工業大学教授等を経て現職。2012年より2018年まで安倍内閣・内閣官房参与にて防災減災ニューディール政策を担当。専門は経済財政政策・インフラ政策等の公共政策論。文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞等受賞多数。著書に『MMTによる令和「新」経済論』(晶文社)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)など。「正義のミカタ」(朝日放送)、「東京ホンマもん教室」(東京MXテレビ)等のレギュラー解説者。2018年より「表現者クライテリオン」編集長。

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(京都大学大学院工学研究科教授 藤井 聡)

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