まったくノルマを達成できなくても「会社に捨てられない人」になる"たった一つの方法"
プレジデントオンライン / 2021年11月23日 12時15分
■30の修羅場を想定したケーススタディ集
企業で仕事をする中で、ほとんどトラブルに遭遇しないという人は極めて稀だろう。大多数のビジネスパーソンは、大なり小なりの“修羅場”を経験しながら、業務をこなしているはずだ。
とりわけ中間管理職(ミドルリーダー)は、「上と下との板挟み」になるなど、判断や行動に悩む場面に出くわしがちだ。
本書は、「とうてい達成不可能な、とんでもない目標を課された」「不祥事を隠蔽するよう迫られた」といった、主にミドルリーダーが決断や処理を迫られる30の「修羅場」を具体的に想定し、それぞれにおいてどのように考え、立ち回ればいいのかをアドバイスするケーススタディ集。
ミドルリーダーがさまざまな危機的な場面で間違った決断やアクションをしないためには、常に「長期的・継続的に事業を成長させるにはどうすべきか」という視点で考える、「自分が仕事において一番大事にしているものは何か」という軸を持っておくことなどが大切だという。
著者は経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)マネージングディレクター。ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。著書に『ダークサイド・スキル』(日本経済新聞出版)などがある。
1.対上司・対経営者……人間関係の「修羅場」を切り抜ける
2.ミドルリーダーが陥る「チームの修羅場」
3.あなたの人生を左右する「キャリアの修羅場」
4.リストラ、不正、顧客トラブル……ある日突然起こる様々な「修羅場」
■達成不可能な売上目標が上乗せされたらどうするか
“期末まで残り2カ月。我が部門の売上目標は大幅未達が確実。ただ、そもそもこの目標は上から押しつけられた、実態と大きくかけ離れたもの。しかし、そんな言い訳は通るわけもなく、上からは「ギリギリまで数字を詰めろ」とのお達しが。
ただ、現場は疲弊しきっている。目先の数字に追われることで、次の期にも悪影響が出ることは必至だ。このままでは部門の存続も危ぶまれる……。”
自分たちで決めた目標に対し、経営陣や本社から「これでは足りない」と言われる。そして各部門に何億ずつという、とうてい達成不可能な売上目標が上乗せされる。これは「空箱を積む」と呼ばれ、日本企業でよく見られるケースです。
■経営陣にとっては「空箱を積む」のが一番楽
ここで現場のリーダーがまず考えるべきは、その目標が本当に「空箱」なのかを客観的に判断することです。もし、努力して達成できるものなら、事業責任者としてそれを目指すのがリーダーの本来の姿です。ただし、どう考えてもそれが「空箱」であるならば、ギリギリまで粘って売上を詰めることがむしろ、会社や部門のマイナスになる危険性があります。
そもそもなぜ、会社は「空箱」を積むのか。経営陣にとっては空箱を積むのが一番楽だからです。現場からの数字と目標に大きな乖離があるのなら、本来、思い切った戦略の変更や、部門の縮小やリストラなどの施策を考えるべきです。ただ、こうした決断にはリスクや痛みが伴います。一方、「何も変えずに、みんなで頑張って売上を積み上げましょう」なら、誰も傷つけず、組織の一部に手をつけるようなリストラも先送りできるのです。つまり「空箱を積む」というのは、「問題の先送り」でもあるのです。
こうした会社でありがちなのが、いわゆる「テイルヘビー」な目標です。年間計画のうちの下期の、それも最後の1、2カ月に「新製品が出ます」「大型受注が入ります」と、膨大な目標が組まれる。そうして、どの部門が最後まで粘るかのチキンレースを繰り広げた結果、「頑張ったのですが、残念ながら……」と言い訳をする。それが繰り返されるのです。
これが常態化すると、誰もが目先の売上達成しか考えなくなり、あげくコンプライアンス上問題となるような手段を取ってしまうようなケースも出てきかねません。結局は中長期的に衰退することになってしまいます。
■捨てられる勇気を持てば、捨てられない人材になれる
では、空箱を押しつけられたリーダーは、どうすべきか。まずはあくまで経済合理性に基づいて、中長期的に自分の事業を精査します。その結果、どう考えてもダウンサイジングが必要なら、こちらから先に提案してしまうのです。
一方、大規模な資金を投じれば、必ず業績が上向くという自信があるのなら、いっそ外部と組むのも手です。資金を投じてくれる、あるいは事業ごと買収してくれるスポンサーを見つけてしまうくらいのことをやれば、会社も無視できなくなります。つまり、会社ではなく「事業」を考えるのです。
当然、クビを覚悟でやることになります。ただし、ここまで腹をくくった案を出すあなたを、会社も無視できなくなります。つまり、捨てられる勇気を持てば、結果的に捨てられない人材になれるのです。
今回のケース、そしてこの本すべてを通じてお伝えしたいのは、前例を踏襲すればいい業界などほとんどなく、だからこそリーダーは変化するリスクを取らなくてはならない、ということです。
■「縁の下の力持ち部門」で若手の異動希望が続出
“我が部門は会社の屋台骨を支えるロングセラー商品を作っている。業績は安定しているが、仕事内容は地味で、古い体質がいまだに残っている。そのため、社内の注目はどうしても派手な新商品開発部門や海外プロジェクト部門に集まりがちだ。
そうした状況もあり、配属された若手の異動希望が続出。育った部下からどんどん他部門に流出していく。残った若手社員たちも、「どうせうちは日陰部署ですから」といじけている……。”
一番重要なポイントは、マネジャーである自分が「自部門の価値を、自分の言葉で伝えられているか」を問うことです。例えば、「安定したシェアを誇っているけれど地味な事業」なら、「強者のポジションにおいて、業界リーダーとして市場を牽引していくことを学ぶいい機会になる」などと言い換えることができます。
自部門がどれだけ会社の役に立っているのかを語ること、つまり「役割定義」も効果的です。ただ、これは自分が言うより、例えば社長や他部門のトップに根回しをして、「○○部門が安定しているからこそ、攻めの経営が行える」などと、方針発表会や会議などで語ってもらいましょう。
■若手を異動させ「安定したおじさん」を配置するのも手
ただ、もしマネジャーのあなた自身が客観的に検討した結果、「自分の部門は確かに地味だ。業務内容もルーティン的な要素が多く、若手に十分な成長機会を与えられるわけではない」「ただし、当社にとって重要な部門であり、縁の下の力持ち的役割は、今後も継続していく必要がある」と思うのだったら、どんどん若手を異動させるという、発想の転換も必要かもしれません。
当然、若手を出したら人が足りなくなります。アウトソースも一案ですが、より有効な「一石二鳥」の手があります。それは、御社にもいるであろう、50代になって「すっかり安定したおじさん」を配置することです。
彼らはある意味、先が見えているので、若い時ほどガンガンやる気があるわけではない一方、愛社精神が強く何がしかの貢献をしたい意思は持っています。そうした彼らに会社への貢献実感が得られる仕事として、地味ではあるが確実に利益が上がり、かつ、旧来の仕事のノウハウが活かせるであろうこうした仕事は、まさにうってつけなのです。
■「自分が仕事において一番大事にしているものは何か」
“偶然、社内で過去の「不祥事」を発見してしまった。製品出荷前に決められたチェック手順を踏まねばならないのに、ある工場でその一部を省略していたのだ。検査部課長である私は即時公表することを上司に迫ったが、上司は「待て」と言ったまま放置している。どうやら、握りつぶそうとしているようだ。”
組織を守るためにあえて隠蔽に加担するという選択もあります。しかし、コンプライアンスに対して厳しくなっている昨今、問題はいずれ必ず明るみに出ると考えておいたほうがいいでしょう。そもそも、規格に満たないものを出荷して、もし事故が起これば、顧客に多大な迷惑がかかります。自分たちは何のために、誰のために仕事をしているのかを考えれば、おのずと答えは出てくるはずです。
告発すると覚悟を決めたら、あとはプロセスの問題です。セオリーはやはり、上司のその上、つまりこのケースでは本部長や役員に相談することでしょう。それでもダメならさらに上。最終的には社長に直訴する必要があるかもしれません。
ビジネスの世界には、今回のケースのような「絶対の正解がない問い」があふれています。そんな時、最後に判断基準となるのは「自分が仕事において一番大事にしているものは何か」という「軸」です。もし、自分にとっての軸が、顧客の満足だとするならば、たとえ一時的に窮地に陥るとしても、あくまでその軸に基づいた選択をしなくてはなりません。
修羅場とは自分にとっての正義とは何か、価値観とは何かが問われる「踏み絵」でもあるのです。こうした「踏み絵」は、いつ、どんな形であなたの目の前に現れるかわかりません。だからこそ、普段から自分の軸を意識して、それに基づいた仕事をする必要があるのです。
■コメントby SERENDIP
「若手を異動させてシニアを入れる」といった施策は、外資を除く、たいていの日本企業では人事部門が異動などの人事権を握っているため、現場のリーダーが直接手を下すのは難しい。だが、上層部に進言することはできる。こうしたケースや、自分の軸をぶらさずに行動しやすくするためには、風通しのよい、多様性を許容する「心理的安全性」が確保された職場づくりが前提となろう。その前提があれば、そもそも修羅場は起きにくく、起きたとしても多様なアイデアを検討しながら皆で解決することができるのではないだろうか。
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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)
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