1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「なぜ野党共闘でも政権交代には程遠かったのか」ポスト枝野が盛り上がらない根本原因

プレジデントオンライン / 2021年11月21日 10時15分

記者会見する立憲民主党の枝野幸男代表=2021年10月31日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

立憲民主党は、衆院選の敗北で引責辞任した枝野幸男氏の後任を選ぶ代表選挙を、11月30日に行う。政治学者の菅原琢さんは「代表選では野党共闘の是非が争点になりつつある。野党共闘の効果はあったが、それだけで政権交代の実現は不可能だ。立憲民主党は他党に頼らなくても勝てるだけの力をつける必要がある」という――。

■政局で増やした議席数以上に、支持者を増やせなかった

2021年衆院選は、日本維新の会が議席を大幅に伸ばし、自由民主党、立憲民主党の与野党第1党がともに「改選前議席」よりも議席を減らす結果となりました。これにより枝野幸男立憲民主党前代表が辞任し、代表選が行われることになったのはご存じの通りだと思います。ただ、この選挙結果の評価はなかなか難しいところがあります。

実は、選挙を分析する観点から見ると、多くのメディアが行っている「改選前議席」との比較は有益ではありません。立憲民主党に関して言えば、前回2017年の選挙から今回選挙の直前までの間に国会の議席数は大幅に増えています。これは、前回選挙で当選した希望の党の議員らが旧・国民民主党への合流を経て新・立憲民主党(2020年9月結成)に集った結果、膨れ上がった数字です。

選挙とは無関係の議席数と比較しても選挙結果の分析はできません。実際、旧・立憲民主党と比較すれば今回の新・立憲民主党は獲得議席も票数も増えていますから、立憲民主党は健闘したとする余地もあるでしょう。

もっとも、自ら巨大化させた党を支えるだけの議席を獲得できなかったのですから、その責任を取り代表が辞任することは理解できます。政局で増やした議席数以上に、立憲民主党の支持者、投票者を増やすことができなかったことが問題というわけです。

■候補を一本化した選挙区の勝率は3割を切った

一方、立憲民主党が議席を増やす方策として取り入れた、小選挙区での他の野党との積極的/消極的な候補者調整を含む選挙協力(以下、野党共闘)の評価については難しいところです。今後の立憲民主党の運営方針と関わる問題にもかかわらず意見が分かれており、新聞各紙の報道には混乱が見られます。

一例を挙げると、日本経済新聞は野党が候補を一本化した選挙区の勝率が3割を切ったことを示した記事で「小選挙区で候補者を一本化する共闘態勢をとれば野党に勝機が生まれるとの定説を崩した」と指摘しています(『日本経済新聞』2021年11月2日朝刊)。読売新聞も同様の数字を示して「5党が期待したほどの成果は上げられなかった」としています(『読売新聞』2021年11月2日朝刊)。

ところが、同日の読売新聞の別の記事では、自民党幹部の「薄氷の勝利」という声とともに「野党の候補者一本化の影響を受け、多くの小選挙区が接戦に持ち込まれた。自民が5000票未満の僅差で逃げ切った選挙区は17に上り、34選挙区が1万票未満の差だった。結果は一変していたかもしれない」と述べていました(『読売新聞』2021年11月2日朝刊)。

毎日新聞も1位と2位の得票率差が5ポイント未満の選挙区の数が49から62へと増えたことを示し、「野党共闘が接戦の増加につながったことがうかがえる」としています(『毎日新聞』2021年11月1日夕刊)。

衆議院選挙
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■各紙は我田引水的な数字の使い方をしている

こうして見ていくと、新聞各紙、各記事では、野党共闘を否定的に見る場合には今回のみの勝率や勝数を示し、肯定的に見る場合には得票率差とその前回からの増加を示す傾向があるようです。野党共闘の実際を明らかにするというよりは、我田引水的な数字の使い方をしている印象を持ちます。

何らかの意図があるかどうかはともかく、文意に合わせてデータを「借用」することはマス・メディアではよくあることですし、数字の評価が主観的なのもよくあることです。

しかしその結果、野党共闘の効果がどのようなものかが見えにくくなってしまっています。そして、それにもかかわらず、共闘を見直せ、続けろという大雑把な議論にこうした「分析」が利用されているのは残念なことです。

■共闘区と競合区の単純比較では共闘効果は見えない

それでは、野党共闘の効果を確認するためにはどうすればよいのでしょうか? その基本は夏休みの自由研究と同じで、「比較」を行うことです。野党共闘が行われた選挙区とそうでない選挙区の選挙結果を比較すれば、野党共闘がもたらした効果がわかるはずです。

たとえば毎日新聞は、野党候補が統一された213の選挙区と野党が競合した72選挙区とを比較し、前者が62勝(勝率29.1%)、後者が6勝(勝率8.3%)であったことを指摘し、「一定程度の共闘効果はあったことがうかがえる」としています(『毎日新聞』2021年11月2日朝刊)。

もっとも、この比較は分析の方向性としては間違ってはいませんが、これをそのまま共闘の効果と受け取ることは適切ではありません。野党が候補を統一しなかった選挙区は、そもそも野党側が勝つ見込みが低い選挙区が多いためです。特に共産党は、立憲民主党が勝利できそうな選挙区では候補者を撤退させる一方で、立憲民主党への支持が低く勝利の見込みが低い選挙区では比例区の票の掘り起こしのために候補を残しました。

勝率29.1%と8.3%の差は、共闘の有無以前に野党の支持基盤の厚さ、元々の勝つ見込みで決まっているのです。つまり、偽の相関関係と捉えられる部分が大きいのです。毎日新聞の記事はその点も考慮しており、野党側が敗北した競合区で野党各候補の得票を合算しても与党候補を上回るのは5選挙区に過ぎないことを示しています。

■共産党候補の出馬・不出馬で選挙区を比較する

それでは、どのように比較を行えば野党共闘の効果に迫れるでしょうか。いくつか方法が考えられますが、ここでは前回と今回の野党候補出馬状況で選挙区を分類し、グループ間で比較することで共闘効果を示してみたいと思います。

つまり、時間軸も組み合わせるのです。野党候補の出馬パターンを細かく分類すると前回と今回の組み合わせで膨大になってしまいますので、ここではごく単純に共産党候補が出馬したかどうかで分けて確認してみます。

共産党候補有無の変化と選挙結果の変化
データ出典:総務省(前回選挙)、朝日新聞(今回選挙、速報の確定値)

図表1は、前回と今回の共産党候補の有無に応じて289選挙区を4つに分類し、選挙結果に関するいくつかの指標とその変化を示したものです。ここでは4つのグループのうち表のA(共産党撤退区)とB(共産党連続不在区)とを比較してみます。

なお、AとBを比較する理由は、Cは該当選挙区数が10と少なく、Dは野党勢力が明確に弱い選挙区が多数のため、他のグループと比較しにくいためです。これに対して、AとBは共産党比例区得票率をはじめとして野党の支持基盤の厚さに関する指標にあまり差がなく、似た条件とみなすことができます。

AとBの、野党共闘効果の確認に影響を与えうる最も大きな違いは、共産党の撤退と並ぶもう一つの野党競合の解消パターンである前回立民・希望の競合区です。立希競合区はAに10、Bに20含まれています。これによる野党共闘の効果がBに若干乗るのですが、共産党撤退による効果を過大ではなく過小に見積もる方向に働くため、ここでは許容することにします。

■共産党候補の撤退は野党の成績向上に寄与した

さて、表でAとBを比較すると、共産党候補が撤退したAグループではどの指標で見ても野党側の結果が改善していることがわかります。候補の得票率は上昇し、接戦区は大きく増え、野党側の勝利数は倍となっています。

一方のBグループでは、接戦区は増えたものの得票率は低下し、野党の議席数も減少しています。どの指標を見ても、Bグループに比較してAグループの状況は好転しており、共産党の撤退は野党候補の成績向上に明らかに寄与したように見えます。

両グループの選挙結果の差異は、統計分析を行っても明確です。たとえばt検定という基本的な統計分析を行えば、Aグループの前回野党最上位候補得票率の平均値は今回の値、Bグループの値と統計的に有意な差があることがわかります。

■共産党が候補を撤退させた効果

以上のような説明がわかりにくい場合でも、次の図表2を見れば共産党候補の撤退が野党候補の得票率向上に効果を持ったことが明白であると理解できるでしょう。

野党最上位候補得票率の前回・今回比較
野党最上位候補得票率の前回・今回比較

図表2は、横軸を各選挙区の前回の野党最上位候補の得票率、縦軸を同じ選挙区の今回の野党最上位候補の得票率として各選挙区の値の分布を示しています。この散布図ではAグループ(共産党撤退区)を青、Bグループ(共産党連続不在区)を黄の○印で示しています。

青と黄のマークの分布は重なってはいますが、概ね図の真ん中を横切る斜めの線の左上に青、右下に黄の○が多く配されているように見えます。この赤い線は前回と今回の得票率が同じになる位置に引いており、したがって赤い線の左上側は今回得票率が伸びた選挙区、右下は得票率の下がった選挙区となります。

■野党共闘は野党候補の得票率を向上させた

共産党撤退区は概ね野党最上位候補の得票率が上昇し、共産党候補が連続して不出馬だった選挙区の野党最上位候補は得票率を下げた場合が多かったことを、この図は示しているのです。もしこの効果がなければ、青い○の多くは赤い線の右下側に分布し、野党側は議席を増やすことはできなかったでしょう。

なお、重回帰分析という手法により野党最上位候補得票率の変化幅に対する諸々の要因の平均的な効果も別途確認しましたが、共産党候補撤退は概ね8ポイント程度の得票率上昇をもたらしたという計算結果になりました。立民と希望の競合の解消やその他の野党の候補の減少も同程度の得票率の上昇をもたらしたと考えられます。これら野党共闘の効果により、接戦区が増え、野党の勝利が増えたことも明らかです。

■埋めがたい与・野党の得票率差

細かい注釈をいろいろ付けはしましたが、グループ分けと時間の前後による先の表のような比較はデータさえあればそれほど難しいものではありません。グラフの作成も大して手間ではありません。科学的にはもっと詰めなければならないところはありますが、表計算ソフトさえ使えるのなら、数を主観的に「評価」して大味な議論を誘導する必要はないのです。

よく、他のメディアと比較した際の新聞の長所として、裏取りやデスク等によるチェックなどを背景とした情報の信頼性が挙げられることがあります。しかし、政治・選挙報道における数字の用い方については、いい加減で時に扇動的と感じさせることがあります(ネット・メディアがマシとは言っていません)。年齢や立場に関係なく、数字と分析に関するリテラシーを持った記者やチェック担当者が必要に思いますが、どうでしょうか。

さて、ここで確認した野党共闘の効果を前提とすれば、立憲民主党の今後についてどのように議論できるでしょうか。簡易的なシミュレーションから考えてみましょう。

与党と野党(非維新)の差を理解するシミュレーション
与党と野党(非維新)の差を理解するシミュレーション

図表3は、今回の衆院選の選挙区について、維新を除く野党の候補と与党候補との得票率差の値を左から高い順に並べ、その値を折れ線で繋いだものです。縦軸が0ポイントのところに水平に引いたラインより上が野党の与党に勝利を示します。

今回の衆院選で野党候補が与党候補を上回った選挙区の数は全体の4分の1に過ぎません。仮に5ポイント以内の小差の接戦区を全て逆転できたとしても、合わせて37%の選挙区でしか勝利できません。これを過半数に持っていくためには、13ポイントの得票率差を埋める必要があります。

■政権交代には程遠い結果だった

もし共産党が全選挙区で候補を擁立したら、この結果はどうなるでしょうか。共産党が候補を擁立しなかった選挙区の野党候補から8ポイント減じて選挙区を並べ直すと、野党候補が与党候補を上回る選挙区は12%しかないことがわかります。共闘効果8ポイントが正しいとすれば、共産党との共闘なしに小選挙区で勝てた選挙区は半分もない試算になるわけです。

また、過半数の位置での与党との差は17ポイントになります。共産党が候補を撤退させなかった場合、このような巨大な差を挽回しなければ政権交代が見えてこないことになります。

このシミュレーションは維新の会を考慮に入れないなど簡便なものですが、与党に水をあけられている野党の現状を理解するには十分でしょう。もし共産党が候補を撤退させなければ野党は本当の意味で大敗したはずです。

一方、接戦区が増えたと言っても政権交代には程遠い結果であったことも明らかです。野党共闘の効果は大きいですが、それでも4分の1の小選挙区でしか勝利できないのは、ひとえに野党側の力不足、支持不足のためと言えます。

■立憲民主党代表選の争点は野党共闘の是非ではない

立憲民主党代表選に向けて、マス・メディアは野党共闘の是非が争点だと煽っていますが、政権交代を目標とするならそれ以前の問題です。野党第1党がより多くの得票を集められないなら、他の野党に対する交渉力は弱いままです。野党共闘を見直すにしても続けるにしても、より多くの有権者から支持を集めることが立憲民主党には必須なのです。

したがって代表選は、まず立憲民主党の支持率の向上、勢力拡大の方策をめぐって議論されるべきでしょう。その結果として共産党や他党と相容れない方針を選択するなら、野党共闘を放棄するまでです。

もっともその場合、政権交代を目指す以上、他党に頼らなくても小選挙区を勝ち抜けるだけの得票率向上策を示せなければなりません。17ポイントの差を埋めるには、たとえば9ポイント近い票を与党候補から奪って自党候補の票とする、あるいは投票率を9ポイント近く上げてその分を自党候補の票とするような、大きな票の動きを生み出すことが必要となります。

国会議事堂
写真=iStock.com/istock-tonko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/istock-tonko

■影響力を高めるには支持率向上や党勢拡大のための施策は必須

筆者の見通しでは、現状の立憲民主党が他の野党との協力無くして与党との差を埋めることはほぼ不可能です。

比例区の得票率を見ると、立憲民主党の20%に対して維新の会は14%、共産党は7%超の得票率となっています。国民民主党、れいわ新選組、社民党といった小党も合計すれば10%に達します。したがって、これらの勢力を全て無視して立憲民主党単独で自公に匹敵する50%近い得票率を選挙区で稼ぐことは現状では難しいはずです。

一方で他の野党も、他党と非協力の姿勢を貫いていては議席の維持や勢力拡大は簡単ではありません。おそらく、各党同士それぞれ適度に距離を取り、それぞれ独自の訴えで独自の支持層を確保しつつ選挙区の選挙では協調するというのが、強い与党に対する有効な対抗手段となるでしょう。

このとき立憲民主党が与党に対抗する勢力を主導したいなら、結局、より大きな勢力、高い支持率を得ていく必要があるわけです。その道筋の第一歩として、代表選は試金石となります。

しかし、立憲民主党代表選は告示まで、党内を横目で見ながら出方を伺うような展開となっていました。強大な与党に立ち向かう大きな物語を示し、幅広い有権者の支持をもとめて党外へのアピールを競う選挙とならなければ、野党第1党であっても代表選が盛り上がらないのは当然です。今後の論戦に期待したいところです。

ともかく、小選挙区の結果が全体の勢力比を左右する衆参両院の選挙において自民党と公明党の強力な連合に対抗するためには、「多弱」のままでは無理です。これはここ10年の日本政治の教訓であると同時に、今回衆院選で共闘した野党が小選挙区で獲得議席を増やしたことが示した事実と言えるでしょう。

----------

菅原 琢(すがわら・たく)
政治学者
東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科修士課程、博士課程修了。博士(法学)。専門は政治過程論、日本政治。国会議員の国会での発言、活動などをまとめる国会議員白書を運営。著書に『世論の曲解』、共著に『平成史【完全版】』、『日本は「右傾化」したのか』などがある。

----------

(政治学者 菅原 琢)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください