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「腰痛を絶対に放置してはいけない」痛みの専門医がそう断言する"医学的な理由"

プレジデントオンライン / 2021年11月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

腰痛には、絶対に放置していけないタイプがある。横浜市立大学附属市民医療センターペインクリニック内科の北原雅樹医師は「眠れないほど腰や背中が痛む、やたらつまずく、急に体重が減る。これらの症状があったら今すぐ病院に行ってほしい」という――。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

■「たかが腰痛」その油断が命取りになる

腰痛に悩まされている日本人は2800万人に上ると推定されています。これは4人に1人が何らかの腰痛の症状を持っていることになります。腰痛人口は他の病気やケガよりも多く、まさに国民的な症状だと言えます。

最新の厚生労働省『国民生活基礎調査』(2019年版)によると、病気やけがの自覚症状を持つ人のうち、腰痛を訴える人が男性は1位、女性は肩こりに次いで2位となりました。一方の通院率は男性では6位、女性では5位という結果になりました。このデータからも、日本人の多くが腰痛に悩まされている実態が分かります。

腰痛と言えば、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症(きょうさく)などが知られています。ところが、そのようなケースは実は少ないのです。原因が特定できる「特異的腰痛」は15%。残りの85%は「非特異的腰痛」と呼ばれる原因不明の腰痛です。医師にも原因が分からないのです。

本稿は、意外と知られていない腰痛を取り上げます。最初は「絶対に放置してはいけない腰痛」がテーマです。腰痛の原因は腰ではなく、実はがんや大動脈瘤などの命に関わる病気がかくれている恐れがあります。

■「急性の腰痛」と「慢性の腰痛」

腰痛は、2種類あることをご存じでしょうか。眠れないほどの痛みがある「急性の腰痛」と、長引く「慢性の腰痛」です。

絶対に放置してはいけない腰痛は「急性の腰痛」です。大きく2つあります。1つはがんや大動脈瘤などの原因がある「二次性の腰痛」。これは命の危険も伴いますから、痛みが強かったら、直ちに医者に行き精査・治療をしてください。

もう1つは、ごくたまに起こるギックリ腰で「急性一過性」と呼ばれます。普段は腰の痛みなど気にしなくても大きな問題にならないことが多いですが、このギックリ腰だけは初期対応をしっかりすることが肝要です。その意味で、放置せずすぐに医者に診てもらうことが大切になります。

長引く慢性の腰痛も大きく2つのタイプがあります。1つはいつも何となく腰痛がある人のギックリ腰で「慢性腰痛の一過性増悪」と呼ばれます。急性、慢性合わせてギックリ腰への対処は極めて重要です。

もう1つは、いわゆる「慢性腰痛」で原因は複雑で多くの人が苦しんでいます。「急性痛と慢性痛の違い」は(図表1)をご覧ください。本稿では命に関わる急性の腰痛とギックリ腰について解説します。

出典=YouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」第29回より
出典=YouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」第29回より

急性腰痛の原因は分かりやすいです。主な原因は、骨折などのケガや病気、身体が傷ついたり腫れたりすることです。痛みは身体に対する警告システムです。何かがおかしいと知らせ、身体に有害なことが起こらないようにするのです。

CT検査などで診断することが有用です。手術などの治療で傷や腫れが治るとともに痛みも消えてゆきます。薬物治療が顕著に効くことも特徴です。

■急性腰痛は“命の危機”を知らせるアラーム

「寝ていても目が覚める」ほどの痛みが急性の腰痛です。安静にしていられないというのは極めて危ない状態です。痛みで七転八倒するというのは、痛みに耐えかねて、楽な姿勢を探しているからです。慢性の腰痛のほとんどは寝ているときには痛みません。痛くて目が覚めるのではなく、目が覚めた時に痛むのが慢性の腰痛です。

もしも熟睡しているときに足の裏に画びょうを突き刺したら、飛び起きますよね。急性の腰痛はそれ以上の痛みで、全身麻酔などをかけないと眠れないような強い痛みです。

一方、慢性の腰痛では、痛みの刺激自体は画鋲(びょう)の針1本分もないことが多く、ごく少量の睡眠薬で痛みを忘れ、眠れます。そのような小さな刺激でも慢性腰痛の方々が苦しむのは、大げさに反応したり、我慢が足りなかったり、ということでは決してありません。痛みの刺激自体がそれほどではなくとも、脳が痛みを増幅し意識を集中させるためです。

急性の腰痛は何らかのインパクトがあって始まります。椎体(ついたい)骨折でなければ悪性腫瘍(がん)、大動脈瘤、骨粗しょう症などが疑われます。一刻の猶予もありません。

すい臓がんや腎臓がんは、これらの臓器が背中に近いところにあるため背中に痛みが出ます。胃がんや肝臓がんではお腹に痛みが出ます。大動脈解離、大動脈瘤などの大動脈系の病気は、大動脈が脊椎のそばに位置するため初期症状が胸背部や腰背部の痛みとなって現れます。

これらはすぐに医者に行き精密検査をして原因を突き止めて、必要な治療をすべきサインです。

■薬で痛みをごまかしてはいけない

腰椎(ようつい)がやられると、腰だけではなく下半身全体、広範囲に神経症状が出ます。足の力が弱くなったり、足がしびれたり、膝が崩れたり、ひんぱんに足のつま先がテーブルの脚にぶつかったり、つまずいたり、尿漏れなどの膀胱・直腸障害といった神経所見があることも、腰痛に何か危険な原因があるというサインになります。

特に40歳以上になって、急に背中やお腹が痛くなった、ダイエットをしているわけでもないのに急に体重が減った、疲れやすくなった、微熱が続くなど、今までになかったことが起こる、これは臓器の異常のサインです。

厄介なことに、すい臓がんや腎臓がんは痛みそのものが出にくいケースもありますので、なおさら体重の減少を見逃してはいけません。腰痛が始まったのと前後して急に体重が減った時は、問答無用、待ったなしで医者に行って画像診断を含む精密検査を受けましょう。

いつもの筋肉痛だから「そのうち治るだろう」と放置したり、「数時間は効くから少しはラク」と言って、ドラッグストアで買った痛み止めの薬でごまかしたりなど、素人判断は禁物です。

白い錠剤を飲む女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

痛み止めは、原因のある臓器の異常に効く場合があります。だからといって痛み止めの長期に及ぶ多用は、危険な症状の早期発見を阻害します。

手遅れを招かないためにも“その場しのぎ”を続けてはいけません。ましてやマッサージや自己流ストレッチなどで痛みを和らげるレベルを超えていると見るべきでしょう。

北原式 すぐに医者に行くべき急性の腰痛を見極める6つのポイント
1.眠れないほど腰や背中が痛む。
2.やたらつまずく(下半身の神経所見がある)。
3.急に体重が減った。
4.とても疲れやすくなった。
5.今までになかった痛みである。
6.痛み止めが有効で、多用するとしばらくは耐えられる。

■すい臓がんで命を落としたある50代女性のケース

ある50代女性の症例を紹介します。初診の時、女性は「明け方にみぞおちの奥から背中に突き抜けるような痛みにうなされて目が覚める」「体重が少し減少している」とおっしゃいました。

明らかにすい臓がんの痛みの特徴で、「これはまずい」と思い、すぐに大きな病院でのMRI撮影をお勧めしました。すると末期のすい臓がんが判明し、もはや手遅れで、3カ月後に亡くなりました。

女性は「痛みで目が覚める」「体重減少」という危険な、特徴的な2つのサインを2年間放置していたそうです。近隣クリニックでの毎年の血液検査とレントゲンで異常がなかったためでした。しかし、すい臓がんは血液検査とレントゲンではわからない腫瘍なのです。本当に残念な自己判断でした。

悪いことは重なります。女性はもともと腰痛持ちで、「痛みで目が覚める」というアラームも、これまでの腰痛の延長の症状と思ってしまいました。「体重減少」というアラームも、やせ型でしたので気にしませんでした。

さらに悪いことに、痛み止めで何とかしのいでいました。ロキソプロフェンを1日6錠飲み続けたのです(筆者註:1日3錠以上の服用は危険です)。飲むと3、4時間は楽になり、ごまかしながら日々を過ごしていらっしゃったのです。

一時しのぎであればまだしも、長く続けると真の原因がごまかされてしまいます。悪性腫瘍を疑うには遠回りする条件がそろってしまっていました。薬の副作用として胃粘膜の糜爛(びらん)(=ただれること)も起っていました。

早めにキャッチして画像診断、早期発見、早期治療していれば、もう少し長く生きられたのではないか、夫婦の念願であった「日本一周ドライブ」の夢もかなったはずだ――。60代の夫は無念そうに涙を流していたことを今でも忘れられません。患者の医療リテラシーとともに、かかりつけ医の総合診療能力の向上も1つの課題と感じさせられました。

発見が難しく遅れることが多いすい臓がんですが、早期発見、早期治療ができていればもう少し長く生きられたかもしれません。長く天寿を全うするためには、死に至る腰痛のサインには即時対処する大切さが浮き彫りになります。

■ギックリ腰は48時間“だけ”絶対安静

絶対に放置してはいけない腰痛。二つ目はギックリ腰です。

ギックリ腰が起ったら、24~48時間は徹底的に安静、ひたすらに寝ましょう。温めないほうが良いので、シャワーのみにして、風呂も控えましょう。トイレ以外はじっとしているのです。捻挫したら冷やして安静にしますよね。それと同じです。

腰に強い痛みを感じる男性
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

こじらせるよりは仕事も休んだほうがいいでしょう。痛みがこじれてその後の仕事や生活の大いなる負債(=厄介な慢性腰痛)を抱え込むよりは、たったの2日間です。休んでください。眠れなかったら軽い睡眠薬を飲んでもいいでしょう。

「痛みが残っているのに48時間でいいの?」と疑問に思うかもしれません。現在は、さまざまな臨床研究で「ギックリ腰の急性期を過ぎたら、じっと横になって寝ているよりも、体を動かしたほうが、むしろ痛みを感じなくなる」「安静にしてるより、外に出て人と接し、情報に触れるほど、痛みを感じにくくなる」ことがわかってきました。

しかし、多くの医者は、「痛いうちは炎症が治まっていないから、痛みが治まるまでじっとしているように」という誤った指導を続けています。

以前、ある会合で田村憲久(たむらのりひさ)元厚生労働大臣に、「ギックリ腰は最初の48時間は安静にしますが、そのあとは痛くてもゆっくりと動かしたほうが早く回復するというのが、今や世界の常識です」とお伝えしたところ、「そんな大切なことを大臣時代に誰も教えてくれなかった!」と大きな声を出して驚いていました。

慢性痛対策議員連盟の野田聖子会長も隣席していましたが、「私も知りませんでした」とおっしゃっていました。厚生労働関連のトップの方々でも知らないのですから、いわんや一般の人たちに正しい情報が伝わるはずもありません。いまだに誤解が続いているのが今の日本の痛み治療の現状です。

ごくたまに起こる「急性一過性」のギックリ腰も、いつも何となく腰痛がある人の「慢性腰痛の一過性増悪」のギックリ腰も、どちらもギックリ腰への対処は極めて重要です。複雑にこじれた慢性の腰痛への道を水際で食い止めたいからです。長すぎる安静時間はNGです。

■ギックリ腰からの回復と予防のためには

絶対安静の後は、少しずつ激痛が走らない程度にストレッチを始めます。ギックリ腰には「マッケンジー体操」が効果的です。腹ばいになって腕を伸ばし上体を反らすストレッチで、「現代人は椅子に座っているが多く、前屈の姿勢によって腰を痛めている」ので、「後屈の姿勢をとるストレッチで、固まった筋肉を柔らかくする」ものです。

寝る時の姿勢は、仰向けではなく横向きで、軽く足を曲げてエビのように丸まって寝るのが腰への負担が少ないと言われています。

どんな人がギックリ腰になりやすいか、それは今でも解明されていません。朝、あわただしくシャワーを浴びているとき、立ったままギックリ腰になり動けなくなった事例もよくあります。

運動の有無や体型、筋肉量、性別さまざまな人がなりますが、高齢者よりも働き盛りの年齢が多い傾向があります。また再発するとクセになりやすい傾向もあり、1回目の発症で徹底的に治すことが大切です。経験上、何事も慌てないこともお勧めします。

ギックリ腰の予防にはオーストラリアで始まった「ノーリフト運動」も効果的です。重いものを持たないように気をつけて、腰痛の発生を防ぐことを推奨しています。

人間は移動できればいいという考えもありますが、自分の筋肉を増やすことは長い人生、ギックリ腰予防だけではなくいろいろな意味で大切です。ただ、今は筋力アップをさせる器具も販売されていますが、筋肉がアンバランスになってしまうので頼りすぎには注意が必要だと思います。

次回は、腰痛編第2回、長引く慢性の腰痛の真の原因について解説します。

(詳しく知りたい方はこちら)
・慢性痛に関する医療者(患者・家族)向けYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」(毎週水曜日に更新)
第29回:慢性痛と検査
*MRIから腰部脊柱管狭窄症を指摘され、それが腰痛の原因だ、と説明される患者さんがいます。慢性痛における画像診断の位置づけについてお話ししています。
第57回:慢性痛講座 神経痛概論
第58回:神経痛概論② 神経痛の診断基準ほか
第59回: 神経痛各論 坐骨神経痛ほか
*腰痛の原因として、坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症という病名をつけられる人が結構います。そのような、「神経痛」の診断がしっかり行われていないことについて、指摘しています。
・慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント」
*私が一般の方向けに総合監修しています。動画「あるペインの少女クララ」は必見です。

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。
(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の▼集学的痛みセンターの一覧をご参照ください
(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口は▼こちらです

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北原 雅樹(きたはら・まさき)
横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授
1987年東京大学医学部卒業。1991〜1996年、米国ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに臨床留学。帝京大学溝口病院麻酔科講師、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授を経て、2017年4月から横浜市立大学附属市民総合医療センター。2018年4月から現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。複雑な要因が重なる痛みの「真犯人捜しの名探偵」。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」を日本に導入した。日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医、日本疼痛学会、日本運動器疼痛学会所属。公認心理師の資格を持つ。著書に『肩・腰・ひざ…どうやっても治らなかった痛みが消える! 原因解明から最新トリガーポイント治療法のIMSまで』(河出書房新社)、『慢性痛は治ります! 頭痛・肩こり・腰痛・ひざ痛が消える』(さくら舎)、『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム、共著)などがある。

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(横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授 北原 雅樹 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

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