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本当はやりたくないけれど…母親たちが熱心にPTA活動を続ける本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年11月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

PTAは保護者と教職員による任意加入の団体だ。結成や加入を義務付ける法的根拠はない。ところが、実態は必ずしもそうではない。ノンフィクションライターの大塚玲子さんは「ある保護者は、加入しない意思を伝えると『お子さんに不利益がありますよ』と役員に言われたと証言した。多くのPTAでは、活動の強制があることも知らされないまま、加入を強制されるという状況が続いている」という——。

※本稿は、大塚玲子(著)、おぐらなおみ(イラスト)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

■「決まらないとお子さんの教室に行けませんよ!」

——入学式の後に体育館に軟禁状態でクラス役員決め。「決まらないとお子さんの教室に行けませんよ!」と言われた。(コアラさん)
——夫婦とも残業休出アリのフルタイム正社員。本当に無理なのに「共働きは、できない理由にならない」と言われた。(ぷにさん)
——委員に選ばれたが「下の子が小さいのでできない」と話すと、自分で代わりを見つけるよう言われ、結局見つけられず、やらざるを得なくなった。(冬子さん)
——シングルマザーで仕事が忙しく学校行事にも出られないが、一部の保護者から怒った口調で「係はみんな1度はやるんです!」と突然話しかけられた。(新しい下水道さん)
——転入したてのお母さんが役に当たって泣いてしまい、「代わりにやる」と手を挙げたが「あなたはもう何度もやってるから」と他の人たちに止められた。(Nさん)

PTAが嫌われる最大の要因、それは「活動を強制すること」でしょう。

強制の対象はなぜか母親のみ。「自分も我慢してやったんだから、他の人もやらないのはズルい」という怨念から生じる強制力は、ある種、呪いのようです。多くのPTAでは、活動の強制があることも知らされないまま、加入を強制されるという状況が続いています。

活動強制が一番目立つのは、入学式の後や、4月の保護者会の後に行われる「クラス役員決め」(委員決め)のときです。多くのPTAには「6年間に必ず1度(か2度)は委員をやる」「各クラス(または各学年・各地区)から必ず◯人の委員を出す」などの謎ルールがあるため、長い沈黙が続いた末、じゃんけんやクジ引きで役を決めたり、休んだ人に役を押し付けたりすることになりがちです。

なかには役員を「できない理由」をみんなの前で言わせ、他の保護者たちがその理由を認めるか否かを挙手で決めたり(「免除の儀式」と呼ばれることも)、病気の人に医者の診断書を提出させたりするPTAもあり、泣く人が出ることも珍しくありません。保護者同士のつながりをつくるどころか、関係を悪化させている面も少なからずあるのです。

■当たり前になっているPTAの「活動強制」

また、毎年全員が何らかの役につく「一人一役」のルールを採用しているPTAでは、全員に役が行き渡るよう、必要以上に「仕事」をつくり出していることもあります。PTA全体の取りまとめ役、本部役員を決めるときや、委員長(部長)を選ぶときも、クラス役員決めと同様、またはもっとシビアな状況になりがちです。

もちろん、こんなのは間違ったことです。PTA活動は任意ですから、無理をして役員や委員をやる必要もなければ、「できない理由」を人に言う必要も、本当はありません。でも保護者たち、特に母親たちは活動に参加しないと他の保護者から陰口を叩かれることを恐れ、自ら活動強制に従い、且つ他の人たちに活動を強制し続けてきました。

活動の現場でも、強制は起きます。委員長さんが「必ずこの日に来てください」というタイプの人だと、ヒラの委員は従わざるを得ません。「未就学児を連れてきてはいけない」と言われ、小さい子を家に留守番させて参加するようなケースも見られます。

■会長は父親ばかりで現場の活動は母親の義務

——「会長は男性。副会長の父親は何もしなくてよい」と引継ぎがある。(ふーたさん)
——運動会の“お母さん”による来賓への「お茶汲み」は時代錯誤だからやめようと提案。もちつき大会で「お父さんの手洗い、指先チェックは、お母さんが行ってください」という項目を「男女差別なので削除してほしい」と提案した。(うめさん)
——ママ友にPTAの愚痴を話していたら、友人の夫が横で「おやじの会は飲んでるだけだから楽しいよ!」と言い、殴りそうになった……。(暴力反対さん)

ジェンダーバランスが異様に偏っていることも、PTAの最大の問題点のひとつです。

まず大半の地域では、会長は男性ばかり。公立小中学校のPTAの女性会長の割合は、たった14.8%です(内閣府調べ2020年12月時点)。対照的に、会長以外は母親ばかりです。活動への参加は、なぜか「母親の義務」と思われており、父親はほぼ想定されていません(稀に、シングルファザーが「母親」カウントされるケースも見かけますが)。

湯飲みに注がれたお茶
写真=iStock.com/masa44
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masa44

単発で参加できる「係」の活動は多少、父親も増えているものの、継続的な参加を求められる「委員会」活動は、今も母親がほとんどです。ただし、単純に「父親のせい」ともいえません。PTAはあまりにも母親が多く、平日の日中の集まりに参加する父親は「ぼっち」になりがちです。

そこで、父親たちが参加しやすいよう「おやじの会」をつくった、という話もよく聞くのですが、これによって「PTA=母親」「おやじの会=父親」という棲み分けが固定化してしまった面もあります。ときどき「母親代表(ははだい)」や「母親委員」といったポストを設けているPTAもありますが、これも「おやじの会」と同様の問題があります。

「会長は父親(男性)」という前提のもと、ある種「女性活躍」のために設けられた役職でしょうが、むしろ「会長は父親」という縛りを強化することにもつながってしまっています。

■「子どもがイベントに参加できなくなるがいいか?」と言われ…

——退会届を提出したら「子どもがPTA主催のイベントに参加できなくなり、配布物をもらえなくなるが、いいか?」と言われた。(にゃんまげさん)
——総会で、任意の告知や入会届の導入を求め、強制をやめるよう提案した。却下され続け、翌年度は退会の意思を会長に伝えると「退会はできない」と言われた。3回目でやっと認められたが、退会を周囲に言わないよう口止めされた。(ちゃーさん)
——入らないと担任の先生に伝えたら「原則全員参加」と言われた。(ゆらころりさん)

一昔前と比べるとPTAが任意加入、つまり入会も退会も自由であることはだいぶ知られるようになり、最近は非加入を選択する人も増えてきました。でも実際のところ、ほとんどのPTAにはまだまだ「やめづらい空気」が漂っています。

「退会する」「入らない」と伝えると、会長や役員さんから「非会員家庭の子どもには不利益がある」と言われてしまうケースも、いまだにあります。

「子どもに配る卒業記念品をあげない」「登校班から、はずれてもらう」などと言われ退会をあきらめた、という話も、なかなかなくなりません。しかし、PTAはその学校に通うすべての子どものための団体ですから、このような対応は不適切です。

そもそも会員は保護者や教職員であって、子どもは会員ではありませんし、保護者が会員か非会員かで子どもの扱いを変えるのは、PTAの趣旨に反します。公共性のない団体が学校という公共施設を優先的に使うことには問題があるでしょう。

たとえば「読み聞かせサークル」の保護者たちが、メンバーの家庭の子どもだけ集めて図書室で読み聞かせをしていたら? 「おやじの会」が、会員家庭の子ども限定のイベントを学校の校庭でやっていたら? 「何それ」と感じる人がほとんどではないでしょうか。

少なくともそれは、学校の敷地内でやることではないはずです。もし記念品などモノを配るなら、保護者が会員かどうかにかかわらず、すべての子どもに配る必要がありますし、もしそれができないなら、最初からモノは配らなければよいのです。

欲しくない品をもらうより、自分で好きなものを買いたい人もいます。

■「PTAは誰かがやらなくてはいけない」という思い込み

これまで長い間、PTAは全員強制加入だったため、会員家庭のための団体だという誤解が根強いですが、本当はPTAは任意加入であり、且(か)つその学校に通うすべての子どものための団体であることを、みんなが理解する必要があるでしょう。

そもそも教職員の会員は、その学校に自分の子どもが通っていなくても、会費を払っています。また、各地の教育委員会やP連(PTAのネットワーク組織)が発行した手引きや通知も、非会員家庭の子どもが不利益を受けることがないよう、配慮を求めています。

ここまで見てきたように、PTAには理不尽な慣習がいろいろあるのですが、その理不尽さの源は「強制」にあると考えられます。なぜか「必ずやれ」と言われ、意思を尊重してもらえず、参加を強要される。だからモヤモヤするのでしょう。

下を向いている人
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

強制の背景には「PTAは誰かがやらないといけない」という思い込みがあるわけですが、根拠はありません。もし本当に誰かがやらないと困るような仕事があるなら、それは国や自治体が税金でやるべきこと。

「やらないといけないこと」は実際にはなく、もしやる人がいないなら、その活動はやめていいのです。ただ、いくら「強制はダメ」と言っても「ずっと強制だったんだから、いいじゃない」と思う人もいるでしょう。

たまたま気のいい人が集まって、楽しくやっていることもあるでしょう。でも、それはほぼ運によるものであり、強制をベースとする限り、いつか誰かが泣くリスクはあります。

■強制することによって辛い状況の保護者を追いつめてしまう

さらに強制には、こんなデメリットもあります。

1.「楽しくない」「やる気をなくす」

強制というのは、参加者が「自分の意思を尊重してもらえない」ということであり、楽しくないし、やる気もなくしてしまいます。単純ですが、このデメリットは、思いのほか大きいと思います。

2.「根本的な問題が解決しない」

たとえば、何かの集まりで手伝いを募集して人が足りなかったとき、ふつうの団体なら「なぜ人が集まらないか」を考えます。でも強制だと「足りないなら学年委員さんにも出てもらおう」で話が済んでしまいます。すると「そのお題が適切だったか」ということが検証されず、翌年も同じ問題が起きがちです。

3.「辛い人を、より追い詰めてしまう」

家庭の状況は、それぞれ本当に違います。「下に乳幼児がいる」「親の介護がある」「実は病気で生きているのがぎりぎり」等々。そこで「必ず全員平等にやって」と求められたら、ぎりぎりの人はより大変になります。「なら、そうならないよう理由を言わせよう」というのがPTAでは「常識」でしたが、本当はそれは、一番やってはいけないことでしょう。言いたくない人もいるのです。

■活動に参加することで人間関係が悪化した保護者も

4.「生産性のない仕事が発生しがち」

他の人に対して、本人がやりたくないことをやらせるのは、とても手のかかることです。何度も連絡を入れたり、「来なかった人チェック」をしたり、やたらと労力がかかるわりに何も生みださず、誰も得をしません。

5.「保護者の関係を悪くする」

PTA活動をきっかけに友達ができたという人も、特に役員さんでは多いかもしれません。でもその一方で、強制によって保護者同士の関係が悪化する経験をした人もたくさんいます。

大塚玲子(著)、おぐらなおみ(イラスト)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)
大塚玲子(著)、おぐらなおみ(イラスト)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)

活動に参加しなかったために悪口を言われ、学校行事に足を運びづらくなった、という人の話はよく聞くものです。以上が、強制がもたらす主な弊害です。

強制は体罰とも似ています。昔は「子どもは殴らないとダメ」と信じられていましたが、今は誰もそんなことを言いません。「最低限の強制は必要だ」というのは、「最低限の体罰は必要だ」というのと同じでしょう。

「強制がダメなのはわかる、でも強制をやめたら、PTAがまわらなくなるじゃないか」と不安に思う方も、まだまだ多いかもしれません。たしかに、今これだけPTAが嫌われている状況で、ただ強制加入をやめたなら、会員が激減することも考えられます。もしそれを避けたいなら、一般の団体と同様に運営方法や活動内容を改善し、且つそれをアピールして、「入りたい」と思ってもらえる団体にする必要があるでしょう。

■「人が集まらない活動はやらない」という覚悟が必要

同時に、発想を切り替えることも必須です。

これまでPTAは「前年通りの活動をするために、人やお金を(強制的に)集める」という考え方でしたが、これをひっくり返すのです。つまり「強制をやめ、任意の募集で、集まった人とお金で、できることをやる」と考えるのです。

この頭の切り替えをできれば、強制は手放せるはずです。これはつまり「人が集まらない活動は、やらない」ということでもあります。会長さんにとっては、ちょっと覚悟がいることでしょう。やめたら文句を言ってくる人もいるかもしれません。でも、どうか負けないでください。

誰かが我慢して、いやいや続けるほうが、よほど悲しいし、間違ったことです。

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大塚 玲子(おおつか・れいこ)
ノンフィクションライター、編集者
1971 年生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。PTAなどの保護者組織や、多様な形の家族について取材、執筆。著書は『ルポ 定形外家族』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』(晶文社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)など。東洋経済オンラインで「おとなたちには、わからない。」、「月刊 教職研修」で「学校と保護者のこれからを探す旅」を連載。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。

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(ノンフィクションライター、編集者 大塚 玲子)

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