「こんなに生きるとは」高級老人ホームを追われ生活保護を受けた90歳女性の"後悔"
プレジデントオンライン / 2021年11月29日 8時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■日本人女性の平均寿命は87.74歳
日本人女性の平均寿命は世界一位の87.74歳、男性は81.64歳で世界二位。ここ数年、毎年のように過去最高を更新している平均寿命ですが、翻って、今この記事を読んでいるあなたは、自分が長生きすると思いますか。長生きが当たり前になった今でも、自分が90歳まで生きることを想像できる人は多くない気がします。
今回はそんな「寿命の読み違え」によるご相談例を紹介します。
「老後2000万円問題」が話題になったことがありましたね。これは夫65歳、妻60歳から夫婦ともに無職の場合、老後30年の間に2000万円が不足する、というものです。2019年にこの試算をした金融庁がライフプランの最末期の年齢として用いたのも、「夫95歳・妻90歳」でした。
私がお客さんのキャッシュフロー表を作成する際も、寿命は90歳としています。……が、皆さんかなり半信半疑。「日々のハードワークからしてそんなに生きるはずがない」「うちの家系は短命だから」と、リアルに受け止めていない方が多いです。
しかし日本人の4人に1人が90歳以上生きるとも言われている今、「人生100年時代」はかなり現実的な話なんです。
■老人ホーム入居中に貯金が底をついた90歳女性
武藤喜久子さん(仮名/78歳)が私のもとに相談に来たのも、まさに「寿命」が原因でした。
彼女には老人ホームに暮らす姉の畠中富さん(仮名/95歳)がいるのですが、そのお姉さんの寿命を読み違えてしまったことで、老人ホームの資金がショートしてしまったのです。
富さんが老人ホームに入ったのは80歳の時のこと。施設の一時金は400万円で、月額料金は30万円。一時金が抑えられているかわりに月額料金が高めに設定されている、高級な部類の老人ホームでした。
富さんのお金は、毎月の年金7万円と2500万円の貯金。当然、年金だけでは老人ホームの月額料金をまかなえないので、残りの23万円を貯金から切り崩して支払っていくことを決め、施設側の審査も無事に通って入居となりました。
しかしその10年後、富さんが90歳の段階で貯金が底をついてしまったのです。
なぜこんなことが起きたのか? そう、答えは「寿命」です。
妹の喜久子さんも富さん自身も、「人生は85歳くらいまでだろう」と予想していました。そして最期くらいはゆったりと気に入った空間で過ごしたい、過ごさせてあげたいという気持ちから、姉妹で話し合い、少し値の張るこの老人ホームへの入居を決めたのです。
この問題、結論から先にお話しすると、富さんは生活保護を申請し、前よりもだいぶグレードの落ちる、月10万円(居住費のほか、食費、日常生活費など込み)の老人ホームへ移ることになりました。
■意外と多い「予想外に長生きするケース」
老人ホームの方にお話を聞くと、富さんのように自分や家族が予想外に長生きするケースは非常に多く、途中で資金がショートすることもまま起こるそう。その時皆さん口にされるのが、「こんなに生きるとは思わなかった」。
もちろん施設側も、資金がなくなったからといって急に追い出すようなことはしません。おおむね1~3カ月の猶予をくれるので、たいていは、親族の誰かが不足分を肩代わりするといいます。
ただ富さんの場合、彼女自身には担保にできる家や資産はなく、妹の喜久子さんにも資金力がなく助けることが困難だったため、結果的に生活保護の申請になりました。これによって医療費や介護保険の保険料がかからず、住宅費用の補助も受けられるので、本当に助かったと仰っていました。
富さんと喜久子さん姉妹の例から学べるのは、やはり資金を長めに考えておく、ということに尽きるでしょう。といって、「人生の終盤を狭いところで過ごさせるのは不憫で」と家族が感じるのも当然だと思います。
私もいくつかの老人ホームは見て回ったことがありますが、値段と環境は見事にリンクしています。月20万円以上出せば空間にゆとりがでてきますが、ランクが下がればうなぎの寝床のような部屋のことも。キッチンがあって、すてきなインテリアで、というようなハイグレードな施設を先に見てしまうと、ランクを下げるのはかなり苦しい決断になるだろうなと、個人的にも感じた記憶があります。
■現役世代は「非課税の投資」で備える
では、我々現役世代が同じ轍を踏まないためにはどうすればいいのか。今できることをお伝えしていきたいと思います。
まずおすすめしたいのは、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAといった非課税の投資です。
![ideco](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/8/670/img_d8447db9b7babea508bb00aabd0a4ed5712632.jpg)
私的年金制度として知られるiDeCoは、2022年5月に、大きく制度が改正されます。中でもポイントとなるのは、加入可能年齢の拡大。これまで60歳までだった加入可能年齢が、原則65歳まで拡大されます。国民年金に加入していることが条件で、60歳以降も会社員や公務員として働き続ける方は、老後資産の積み増しが期待できます。
一方、基本的に60歳までしか国民年金に加入できない自営業の方やフリーランスの方もチャンスはあります。国民年金を40年間満額で払っていない方は、60歳から65歳までの間に任意加入が可能です。その場合はiDeCoにも加入できますので、ぜひご確認を。
■iDeCoの金融機関選びのヒントは「自分の経済圏」
さらにiDeCoで積み立てたお金は60歳以降、70歳までの間で受け取ることができるのですが、今度の改正で運用期間が75歳まで延長されます。お金に余裕のある方は極力運用期間を長くしてお金を育て、受け取りを後ろ倒しにしていくといいでしょう。
さらにこれまでは企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している方のほとんどはiDeCoに同時加入ができませんでしたが、改定によってこの壁も取り払われることになります。
現在、さまざまな金融機関が参入しているiDeCo。金融機関を選ぶ際には、自分の「経済圏」とリンクさせると、お得になる可能性があります。
たとえば楽天証券では楽天での買い物に使えるポイントが付与されたり、イオン銀行ではイオン銀行のMyステージポイントが付与されたりと、各社がさまざまなサービスを展開しているのです。生活スタイルと合わせて検討してみるといいでしょう。
![ショッピングセンター](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/7/670/img_f73192e09ffcf03ba2e1a23e29b84473974142.jpg)
■まずはつみたてNISA、月1万出せるようになったらiDeCoも
ではいつからiDeCoやつみたてNISAをはじめるのがベストでしょうか。
まずiDeCoは60歳まで引き出しができない、という大きな特徴があります。さらに掛け金は5000円から始められますが、毎月手数料がかかります。ネット証券が最安値で、大手の証券会社になると金額が高くなり、その差は年間にすると5000円程度差がついてしまいます。手数料が高ければ高いほど、掛け金が少額の場合、運用効率が悪くなってしまいます。
iDeCoの場合、「月1万円以上投資できるか」をひとつの目安に、スタート時期を検討するのがおすすめです。
一方、つみたてNISAは手数料もかからず、掛け金100円からできていつでも引き出し可能なので、若い方はまずはつみたてNISAからはじめて、余裕ができたタイミングでiDeCoに参入、というのがいいかもしれません。
ちなみに、親世代もつみたてNISAには加入可能ですが、長期にわたってコツコツお金を育てることで効果を発揮する投資のため、やはり「寿命」問題が出てきてしまいます。
両親の老後資金に不安を感じている方がいたら、まずは国のサポート制度や親御さんの暮らす自治体で受けられる行政のサポートを聞き、情報収集しておくことをおすすめします。
■年金だけでは老後を安心して暮らせない
先日、非正規雇用の多いロスジェネ世代の独身女性は老後に貧困に陥る可能性が高いという予測が報じられ、大きな話題になっていました(朝日新聞デジタル「ロスジェネ単身女性の老後 半数以上が生活保護レベル 自助手遅れ」)。現役世代は老後の心配が尽きません。だからでしょうか。日本ではよく、「若いうちから老後に備えましょう」といったコラム記事を見かけます。
実際、来年4月から高校の家庭科の授業で「資産形成」の取り扱いが始まります。これまでは無駄遣いをしないといった「家計管理」の範囲でしたが、将来の備えとして役立つ投資の仕方等、踏み込んだ資産形成の話を授業で行うとのこと。
現状の年金制度だけでは老後を安心して暮らすことは難しい。だからこそ、国も積極的に資産形成や授業を通しての認知を後押ししているのでしょう。若い時から少しずつお金の知識をつけ、将来に向けて蓄えていきたいですね。
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Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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