「家じゃ仕事にならない」落ちこぼれだけがオフィスに集結してしまう悲劇
プレジデントオンライン / 2021年11月24日 11時15分
■生産性・効率低下の原因は、本当にリモートワークなのか?
コロナ禍で急速に浸透したリモートワーク。緊急事態宣言解除後の10月以降も在宅勤務者が多く、アフターコロナ後も「全員出社はありえない」と断言する企業も少なくない。そんな中でNTTグループはさらに踏み込んで「転勤・単身赴任」を原則廃止する方針を打ち出し、大きな話題となっている。
NTTの澤田純社長は「リモートワークが増えれば、居住地と働く場所の結びつきが薄くなり、転居を伴う転勤・単身赴任は自然に減る。いまは夫婦共働きの世帯が増え、転勤などはしづらい」(10月20日、日経電子版)と語っている。また「2025年度までにグループの全社員がリモートワークで働ける環境を整えたい」と言っている。
転勤廃止といっても「転居を伴う転勤」のことであり、リモートワークによる「転居を伴わない」転勤はあるということだ。一見、共働き世帯や実家や家族から離れたくない人にとってはありがたいように映るが、実際にリモートワークで業務が機能するのか疑問も残る。
たとえば、東京から地方の支社に課長で赴任したとする。新しく会う部下もいれば上司もいる。プレイングマネジャーとして地方の得意先や顧客とのコミュニケーションも重要になる。テレワークで、部下が起こした突発的なミスの処理を含む部下マネジメントや商談を行うとなると、通常の在宅勤務よりはるかに難易度が高いだろう。
リモートワークによる「転居を伴わない」転勤が今後どうなるか注目していきたいが、今回は、そもそもリモートワークに切り替えたことで生産性がアップしているかどうかを検証してみたい。
2020年の最初の緊急事態宣言で在宅勤務が始まってから1年以上が経過。結論を先に言うと、オンラインツールを駆使した在宅での業務効率化などのノウハウも蓄積されてきたものの、必ずしも全部がうまく回っているわけではない。
日本経済新聞社の上場企業などを対象にした調査(2021年「スマートワーク経営調査」)の結果はこうだ。
「業務効率が向上した」21.4%
「業務効率が悪化した」11.8%
1割超が悪化していると回答する背景には企業の“働かせ方”だけでなく、個人の“仕事の仕方”にも問題があるかもしれない。
個人はどう感じているのか。
■在宅勤務の効率が落ちた要因と、対面仕事に戻りたい理由
ロバート・ウォルターズジャパンの「在宅勤務での生産性調査」(2021年10月)によると、
「生産性が上がった人」50%
「生産性が落ちた人」16%
だった。回答者は同社に登録する外資系企業など高報酬を得るバイリンガル人材が多いが、それでも生産性が落ちている人が1割超というのは無視できない。
一般の正社員はどうか。日本生産性本部の「働く人の意識に関する調査」(2021年10月21日)では、「自宅での勤務で効率が上がったか」と質問している。回答は、
「効率が上がった」「やや上がった」計53.7%
「やや下がった」「効率が下がった」計46.3%
約半数が、効率が下がっていると答えているのは驚きだ。
では、生産性や効率が落ちたと答えている人はどこに要因があると考えているのか。
前出のロバート・ウォルターズジャパンの調査での回答を多かった順にあげよう。
「同僚・取引先とのコミュニケーションが取りづらい」57%
「集中力の維持が難しい」35%
「会社のシステム整備が不十分」22%
同社の「コロナ禍・アフターコロナ時代の働き方意識調査」(10月28日)では、「在宅勤務継続中にオフィス勤務へ戻りたいと思ったか」という問いに対して、6割が戻りたくない派、4割が戻りたい派だった。
なぜ戻りたいのか。
最も多かったのは「同僚などとの対面的なつながり」(49%)、次いで「組織・チームの一体感、対面的な目的の共有」(46%)となっている。対面か否か、コミュニケーションがキーワードとなっている。
日本生産性本部の調査では効率が下がった理由ではなく「テレワークの課題」について聞いている。結果は、
「部屋、机、椅子、照明など物理的環境の整備」37.6%
「仕事のオン・オフを切り分けがしやすい制度や仕組み」25.6%
「上司・同僚との連絡・意思疎通を適切に行えるような制度・仕組み」25.2%
やはり、仕事の効率や生産性が低下したのは、以前の対面時代に比べてコミュニケーションが少なくなったこと、在宅でのオン・オフの切り替えができず、仕事に集中できないというものだ。
■在宅でも対面でも仕事がデキる人はできる、デキない人は…
このコミュニケーション不足に関しては会社も対策を講じている。労働政策研究・研修機構が実施した大手企業14社のヒアリング調査結果(『テレワークコロナ禍における政労使の役割』)によると、コミュニケーション不足対策として、例えばある企業(電気・電子機器、ソリューションなど)の担当者はこう述べている。
「チームの生産性にはコミュニケーションが重要であることに気づき始めた職場もあり、オンラインによるランチ会や、朝夕礼時に積極的に雑談したり、企図してコミュニケーションの時間を確保したりしようとする取り組みが見られ、会社としても推奨している」
一方、ある食品製造業の担当者は皮肉を込めてこう語っている。
「テレワークで仕事がうまく進まなくなったと言ってくるような人や部署には、新型コロナウイルス感染症の問題発生前から、もともと上手くいっていなかったようなところが多い。いわば、たまたま水が引いた結果、底が露呈したような状態。そうしたマネジメントが相談にきたら、昨年から始めた(部下と管理職の)1on1ミーティングのあり方などを研修するむしろチャンスだと捉えている」
つまり、コロナ前からコミュニケーション下手な人がオフィス勤務時代はなんとかなっていたが、対面からオンラインに変わって仕事のまったく進まない人が炙り出されたとの指摘だ。テレワークで効率が落ちたというより、もともと効率が低い人がテレワークで自分の実力を再認識した可能性もある。
コミュニケーション下手な人とは実際にどんな人か。IT企業の人事部長はこんな事例を紹介する。
「チームリーダーの中にもコミュニケーション下手な人は少なくありません。たとえば、メンバーに『リモートワーク中は常にオンライン状態にしておけ』という人がいる。それで『どうしてすぐに電話に出ないんだ、就業時間中だろう』と畳みかけてくる。こういうやり方をマイクロマネジメントと言うが、これではメンバーも含めてチームの生産性が上がるとはとても思えない。当社はリモートワークに際して、個々の社員の自由度や裁量性を高めることで全体の生産性を上げようとしているが、いまだにオフィス勤務時代を引きずっている人も少なくない」
逆に、生産性を上げているリーダーは仕事でどんなコミュニケーションをしているのか。
「コロナ以前からコミュニケーションの総量が多いリーダーはオンラインになってもツールの使い方がうまい。相手の状況を考えて、ビジネスチャット、電話、対面を適切に使い分ける。そもそも仕事はまず目標があり、それに基づく計画に沿って進捗管理が定期的に行われていれば問題はないはずだ。どんなミッションを持ってどんな成果を出すのか、明らかにしておけばどこで働いていようが構わない。週に一回ぐらいコミュニケーションをとることにして、たまにイレギュラーな問題が発生したら、そのときには連絡するよと言っておくことが大事だ」
■「落ちこぼれ」だけがオフィスに集まっても生産性が上がらない
職場内の目標と計画を共有するにはリーダーの資質も問われてくる。このIT企業の人事部長は次のように語る。
「目標も計画も明確ではないから、進捗管理もよくわからない。仕事ぶりが見えないからコミュニケーション頻度がやたらに多くなるという悪循環に陥ってしまう。目標と計画を明確にできない、ゆるいリーダーや上司ほどリモートワークはつらいと思う」
リーダーに関していえば、問題はコミュニケーションだけではない。リモートワーク下の人事評価をどうするかに悩む管理職も多い。通信系企業の人事部長はこう語る。
「成果をどう測定するかについては腹をくくる必要がある。対面の時代でもちゃんとマネジメントできる人と、できない人がいるように、リモートになったからといってそれが変わるわけではない。リモートでも部下のコンディションをチェックできるし、パフォーマンスも計れる。対面でも評価がしっかりできていた人はリモートになっても、どうやったら評価できるかをものすごく真剣に考えるはずだ。対面でもあまり考えてこなかったマネージャーほど、リモート下では余計に難しいだろう。マネジメントできる方法論を一人ひとりがしっかり考えて実践することが大事だと、管理職に常に言い続けている」
管理職も一般社員も、リモートワークで成果を出す人は自己管理に厳しいという共通点があるという。周囲の目がなく、自由裁量がある分、より自律的な働き方が重要になる。
そうなると、そこからこぼれ落ちる人も出てくるだろう。すでに、自称「テレワークのせいで生産性が下がってしまった」と嘆く一部の社員を、フルリモートから一部出社に戻す動きも出ている。
だが、前述したように、テレワークでの生産性や仕事効率の低下は、「通信設備など環境の悪さ」や「コミュニケーションの減少によるチームワーク不足」といった面も否めない。しかし、その一方、テレワークのせいではなく、単純に本人の仕事のやり方がマズいことが原因になっているケースも少なくない。
結局のところ、「落ちこぼれ」だけがオフィスに集まっても、生産性が上がるどころか、さらに下がってしまう恐れもあるのではないだろうか。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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