「90歳の女性にTikTokを説明しなさい」どんなことも専門用語を使わずに一発で伝える方法
プレジデントオンライン / 2021年11月29日 11時15分
※本稿は、深沢真太郎『ビジネス数学の第一人者が教える 史上最高にわかりやすい説明術』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
■専門的な内容をわかりやすく説明するコツ
【エクササイズ】
90歳の人に「TikTok(ティックトック)」とは何かを説明してください。
若者を中心に爆発的な人気を得たビデオプラットフォーム。その一般的な説明は、このようなものです。「TikTok(ティックトック、中国語:抖音短視頻(ドゥ インドゥアン シーピン)は、中華人民共和国のByteDance社が開発運営しているケータイ向けショートビデオプラットフォーム。
音符状のロゴは『抖音』の拼音(ピンイン)表記“Dǒuyīn”の頭文字“D”に由来する。」この説明では、90歳の方ではピンとこないでしょう。おそらく、プラットフォームという言葉もご存じありません。つまり「読めばわかります」は通用しません。
さて、いったいどのようにして説明しましょう。難易度の高いテーマですが、このようなテーマでも、しっかり説明できるようになることは、ビジネスなどにおいて、専門的な内容を素人にわかりやすく説明できるようになることに直結します。
どうかあなたは、TikTokを知らない人をバカにするのではなく、知らない人でもわかるように説明できる人になりましょう。私も90歳の女性を相手に設定して考えてみました。ですから、それを前提にした言葉づかいになっています。おそらく極めて丁寧に、ゆっくり過ぎるほどにゆっくりと伝えることでしょう。
■「“動くアルバム”ってご存じですか?」
お孫さんと撮ったり、旅行に行ったときに撮ったり。きっと近所にいるお友だちも、みんなそういう自分のアルバムを持っていますよね。いま若い人たちはね、そんな自分のアルバムを、世界中の人に見せることを楽しんでいるんですよ。
しかもね、そのアルバムは写真じゃなくて、テレビみたいに声が出せて動くんですよ。みんな、この“動くアルバム”を携帯電話の中に入れて持っていて、いろんな人に見せることを楽しんでいるんです。
たとえば「いま元気だよ〜」とか、「おいしいもの食べたよ〜」とか、「旅行に行ってきたよ〜」みたいなことが、いつでもテレビみたいにお友だちに見せることができるし、おばあちゃんもお友だちのを観ることができるんです。
さらにね、もっとすごいことがあるんです。おばあちゃんが、これまで観ていたテレビ番組って、テレビ局の人が作っていたでしょう? でも、この“動くアルバム”は、自分の番組を自分で作ることができるんです。ちょっと顔を綺麗にしたり、面白い装飾をしたり、音楽も流せたり、とっても楽しいんですよ。
おばあちゃんが知っている写真のアルバムって、眺めるとその人のことがとてもよくわかりますよね。それと同じように、この“動くアルバム”も、観ているとその人のことがとてもよくわかるんです。名前はTikTokって呼びます。もしよかったら、ちょっと観てみませんか?
■説明の定石は「主張→例→比喩」の順序
相手は90歳の方ですので、おそらくビジネスパーソンではないでしょう。端的に結論から説明をする必要はないと考えます。また、TikTokを、業界用語でちゃんと理解するのは困難と考え、「なんとなくわかった」状態、つまり感覚的にわかった状態を目指すことにします。こんなときに有効なのが、例(Example)と比喩(Metaphor)です。
説明の定石は「主張→例→比喩」の順序です。しかし、ここでは、とにかく感覚的につかめることを重視します。わからない話や知らない言葉が登場することで、それ以降の説明が成立しないことを危惧(きぐ)し、私は「比喩→主張→例→比喩」で説明することを試みました。
まずはTikTokと似た構造をしているもので、かつ90歳の方でも知っている(想像できる)ものを考えます。私は「アルバム(写真)」としました。これを導入に位置づけ、TikTokと似たものを想起していただくようにします。
実際に説明する際には、冒頭で“動くアルバム”というキーワードを伝え、いまから始まる話は「アルバムみたいな何かのこと」であると、感覚的に理解してもらいます。次に、理解してもらいたい主張、つまりTikTokとはどういうものかを説明するため、特徴を3つあげる構成にしました。
■専門的なことを専門用語を使わずにどう説明するか
その後に、具体例で若者がどう楽しんでいるのかを2つの切り口で伝え、最後にもう一度「アルバム(写真)」の話を配置することで、要するに「眺めると、その人のことがよくわかる“動くアルバム”」であることを、感覚的に理解してもらいます。
⬇
主張……いま若者が楽しんでいる“動くアルバム”の特徴を3つあげる
⬇
例………それが若者にとって楽しい理由を2つあげる
⬇
比喩……“動くアルバム”を感覚的に理解してもらう
なぜ、このエクササイズは難易度が高いかというと、専門用語を使わずに(相手の知らない)専門的なことを理解してもらう必要があるからです。たとえば、数学という学問における微分や積分といったテーマは、専門的な内容であると言っていいでしょう。
微分や積分を、教科書に書かれている通りに、専門用語で教えるのは簡単です。でも、それでは多くの学生は理解できません。だから、すぐれた数学講師は、いかに難しい言葉や専門用語を使わずに(相手の知らない)専門的なことを理解してもらうかを、徹底的に考え抜きます。
結果、微分や積分を専門用語は使わずに、噛み砕いてわかりやすく説明できます。その違いは、本項の冒頭でご紹介したTikTokの一般的な説明と、私が考えた90歳の方に向けた説明の違いと、本質的には同じです。
このエクササイズは、あなたにそのことをお伝えする意味もありました。次はあなたの番です。学校や職場の仲間で「誰の考えた説明がいちばん優秀か」を、競うのもアリでしょう。私の説明よりずっと魅力的で伝わるものが誕生するはずです。絶対の正解がない。だから説明という行為は面白い。ぜひチャレンジしてみてください。
----------
ビジネス数学教育家
日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)などがある。
----------
(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
AI時代にこそ必要となる「IQ以外の知性」って何? チャットGTPの答えを「正しくわかる」ための技
東洋経済オンライン / 2024年6月28日 21時0分
-
「うまく言語化できない」瞬時に解決、すごいコツ 「説明下手すぎ問題」の原因は、"型"の意識不足
東洋経済オンライン / 2024年6月20日 10時0分
-
「怪しい数字」にまんまと騙される人に欠けた視点 「数字は嘘をつかない」と「信頼できる」は別問題
東洋経済オンライン / 2024年6月13日 10時0分
-
AI・データサイエンスに関する数学・活用法を学べる解説書「データサイエンス数学ストラテジスト」中級の公式テキストを日経BPから6月17日に発行
@Press / 2024年6月12日 11時0分
-
降水確率50%、傘は持っていく?納得「数学的」解答 「場合分け」と「期待値」で外出前にもう迷わない
東洋経済オンライン / 2024年6月6日 9時0分
ランキング
-
1上海の伊勢丹が営業終了、中国で日系百貨店の閉店相次ぐ…高島屋は売上高が減少傾向
読売新聞 / 2024年6月30日 20時56分
-
2ウイスキーが「おじさんのお酒」から激変したワケ 市場復活に導いたサントリーのハイボール秘話
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 8時20分
-
3「押しボタン式信号」なぜ“押してすぐ青”にならないケースが? 納得の理由があった!
乗りものニュース / 2024年6月29日 16時42分
-
4意外な面倒さも? 財布いらずの「スマート支払い」、店側はどう思っているのか
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月30日 8時10分
-
5毎回"完売"続出。築地銀だこの「ぜったいお得な回数券」は、PayPay併用でさらにお得!
東京バーゲンマニア / 2024年6月30日 9時3分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください