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テスラ、トヨタ、くら寿司まで…米国で進行中「カリフォルニア→テキサス」という"大移動"

プレジデントオンライン / 2021年12月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dszc

テスラが本社をカリフォルニアからテキサスに移転することを発表した。なぜテキサスなのか。金融アナリストの高橋克英さんは「テキサスには世界的な大企業が集まっている。それには3つの理由がある」という――。

■テスラがシリコンバレーから本社移転

テスラは、世界一の大富豪でもあるイーロン・マスクCEOが率いる今や時価総額世界一の自動車メーカーだ。そのテスラが、本社をカリフォルニアから、テキサスに移転するという。なぜ世界最先端のシリコンバレーから移転するのだろうか。

実は、テスラだけでなく、時価総額でテスラに次ぐ2位の自動車メーカーであるトヨタの米国本社も、2017年にカリフォルニアからテキサスに移転している。日米2トップの自動車会社がなぜテキサスに移転したのか、その背景を探ることで、知られざるテキサスの実力を明らかにしたい。

テスラのマスク氏は2021年10月7日、本社をカリフォルニア州パロアルトからテキサス州オースティンに移す考えを表明した。マスク氏自身も、一足早く2020年12月、カリフォルニア州からテキサス州に移住したことを明らかにしている。

また、テキサス州ボカチカでは、同じくマスク氏がCEOを務めるスペースXの施設があり、宇宙船の製造や発射実験が行われている。

マスク氏は、「(テスラの)カリフォルニア(の拠点)も拡張を続けるが、それ以上にここテキサスで事業を拡大する」としている。なお、2021年内に稼働予定の米国第2工場「ギガテキサス」稼働により、2022年にかけて1万人以上の新規雇用が生まれるとされている。

2020年3月9日、米電気自動車メーカー、テスラのイーロン・マスク氏(アメリカ・ワシントン)
写真=AFP/時事通信フォト
2020年3月9日、米電気自動車メーカー、テスラのイーロン・マスク氏(アメリカ・ワシントン) - 写真=AFP/時事通信フォト

■トヨタ、オラクル、HPEもテキサスへ

テスラ以外にもカリフォルニア州からテキサス州へ本社を移転する企業が相次いでいる。

2020年12月には、オラクルがオースティンに、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)がヒューストン近郊のスプリングに、それぞれ本社移転している。両社ともにシリコンバレーで創業した企業だ。そのほかにも、デル・テクノロジーズの本社はオースティンにあり、ダラスには、半導体大手のテキサス・インスツルメンツの本社、通信大手のAT&Tの本部もある。まさに、米国を代表するIT企業がこぞってテキサスに移転してきているのだ。

日本企業では、先述の通りトヨタ自動車が2017年にカリフォルニア州トーランスから、ダラス近郊のプレイノに米国本社機能を移転している。テキサス州自体が、巨大な自動車マーケットであることも背景にある。実際、日本でも人気のJEEPラングラーが本家米国で最も売れているのがテキサス州であり、米国車の象徴であるピックアップトラックが最も売れているのもテキサス州だ。なお、トヨタは、2006年にサンアントニオに完成車工場を建設し、ピックアップトラックの生産を開始している。

デンソーが2019年にプレイノに研究開発センターを開設するなど、関連企業の進出も続いている。そのほか、三菱重工業が2016年にニューヨークからヒューストンに本部機能を移転したほか、日本製鉄も2021年に米国本社をニューヨークからヒューストンに移転している。

■くら寿司、牛角、丸亀うどんも出店

IT企業や製造業だけではない。実は、日本の飲食店も多数進出しているのだ。

くら寿司は、なんとテキサス州内に9店舗も展開している。そのほか、牛角、丸亀製麺、ペッパーランチ、陣屋などもある。

その多くも、同じように最初はカリフォルニアなどで店舗展開したあとに、テキサスに進出しているのだ。

例えば、東京やロスアンゼルスなどで焼肉店「まんぷく」などを展開するテイクファイブは、今年6月に「Manpuku Dallas(まんぷく ダラス)」をテキサス州ダラスにオープンしている。同社米国法人の井伊晋也CEOによれば、「当初シリコンバレーなどへの新規出店も計画したが、より成長性あるテキサスを新天地に選んだ。開業以来、予約で埋まりお陰様で繁盛している」という。

なお、ヒューストン総領事館によると、テキサス州の在留邦人数は1万2205人(2020年10月1日現在)となっている。

焼肉
写真=iStock.com/JackJack1965
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JackJack1965

■テキサスに企業が集まる3つの理由

一体、なぜテキサスに企業が集まるのだろうか。テキサスは、もともと、人口・面積・経済力ともに、カリフォルニア州に次ぐ屈指の規模を誇っている。それに加えて、①交通の要所、②所得税ゼロ、③割安な生活環境という条件から人口が増加し、企業進出が相次ぐことで、さらなる雇用や経済成長を生むという好循環が生まれているのだ。ひとつずつ説明していこう。

1.交通の要所

テキサス州は、ダラス、ヒューストン、サンアントニオ、オースティンといった大都市を抱え、面積ではアラスカ州に次ぐ広さで、日本の約1.8倍。人口も2914万人(2020年)を数え、カリフォルニア州に次いで全米2位の規模だ。

米国東海岸と西海岸の中央に位置し、メキシコと国境を接しており、全米のみならず、南北アメリカ、アジアとの物流の要になっている。

ダラス・フォートワース国際空港には、アメリカン航空の本社があり、ヒューストンのジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港はユナイテッド航空のハブ空港だ。また、ヒューストン港は、全米2位の取り扱い貨物量を誇る。日本からは、ダラス―東京間は日本航空、ヒューストン―東京間は全日空の直行便が就航している。全米各地との時差が少ないのでリモート会議が容易なのも今や大きなメリットだ。

なお、ダラス―ヒューストン間の385キロメートルを約90分でつなぐテキサスの高速鉄道計画には、JR東海が中心となって技術支援を行っている。これは2026年の開業を目指している。

■所得税がかからず、物価や家賃も低め

2.所得税ゼロ

テキサス州では、法人所得税、個人所得税がともにゼロだ。税収を補うため、フランチャイズ税や売上税、固定資産税が、比較的高めに設定されているが、カリフォルニア州などと比べれば、総じて税負担は軽い。

3.割安な生活環境

そのうえ、物価や家賃などの生活費も比較的低めであり、暮らしやすい割安な生活環境があるといえる。もっとも、夏は暑く、冬は寒くなるなど気候は厳しいようだ。なお、ハワイやカリフォルニア、ニューヨークと比べれば物件価格は安く、かつ物件価格の上昇率を見込んで、住宅不動産の建設も盛んであることから、オープンハウス、東急リバブル、リスト サザビーズなど日系の不動産専門業者もテキサスに拠点を設け、日本人向けに米国住宅不動産投資を仲介し実績をあげているという。

冒頭に紹介したテスラは、2003年の創業以来、本社と米国工場をシリコンバレーにおき、発展してきた。そのテスラが本社移転を決断した直接的な要因は、シリコンバレーにおける、物価高と住宅不足に起因するデジタル人材などの採用難といえる。オースティンでの株主総会後の質疑応答において、マスク氏は、シリコンバレーでは、「人々が家を買うのも、遠くから(工場などに)通ってもらうのも大変だ」と指摘している。逆にいえば、こうした問題は、テキサス移転で大きく改善されるのだ。

高級住宅の外観
写真=iStock.com/hikesterson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hikesterson

■好条件がさらなる人口増加を生む好循環

こうした、①交通の要所、②所得税ゼロ、③割安な生活環境、といった好条件もあって、テキサス州での人口増は今後も続く見込みだ。バージニア大学人口動態研究グループの推計では、テキサス州の人口は2010年の2515万人から2040年には4002万人へ59.1%増えると予測されている。同期間の全米平均が22.9%で、テキサス州は50州中、増加率で1位になるという(ヒューストン日本商工会、在ヒューストン日本国総領事館、JETROヒューストン「テキサス経済概況」)。

■独立国だとしたら「世界9位」の経済規模

人口増加やテスラなどの進出もあり、テキサス州の2020年の名目GDPは1兆7756億ドルで、カリフォルニア州に次いで、堂々の全米第2位である。先述のヒューストン日本商工会らの「テキサス経済概況」によれば、仮に、テキサス州を独立国と見立てた場合、経済規模は米国、中国、日本、ドイツ、英国、インド、フランス、イタリアに次ぐ世界9位となり、カナダ、韓国、ロシアを上回ることになる。また、人口、雇用数、農林水産業生産額はそれぞれ全米第2位、輸出額は全米第1位など、主要指標の多くが全米トップレベルである。

テスラの本社移転もあり注目を浴びるテキサス。カウボーイの巨大な田舎州という先入観をもつと、その実態を見誤ることになろう。①交通の要所、②所得税ゼロ、③割安な生活環境、などがそろっていることで、人口が増加し、企業進出が相次ぐことで、好循環が生まれているテキサスは、ますます勢いある州となっていくはずだ。現在進行形の米国市場をより理解したければ、シリコンバレーやニューヨークだけでなく、テキサスのことも知っておいて損はなさそうだ。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『地銀消滅』『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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