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上野千鶴子さん、祖母が「東大に行ったらお嫁に行けない」と言いますが本当ですか?

プレジデントオンライン / 2021年12月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんは「女の子だって人生の主役なのに、女の子がどうやって人生の主役として生きるかを書いた本は、たくさんはない」として、若い女の子に向けた本を書きました。そして「女の子の意欲をくじかないで」と説きます――。

※本稿は、上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)の一部を再編集したものです。

■女子だって東大を目指す!

【Q】浪人して、東大を目指している姉にむかって、祖母は「もうお嫁にいけない」と愚痴をこぼします。男の子だったら言わない気がします。どうして女の子が東大を目指したり、浪人したりしてはだめなのですか?

【A】ふーむ、そうなんですねえ、女子も大学へ行ったほうがよいけれど、トップ大学の東京大学は避けた方がよい、なぜなら「お嫁にいけない」からって?

女子の四大進学率は50.1%に増えました。なのに、東大だけはずぅーっと女子学生比率が2割を越しません。へんでしょ? あなたの祖母のようなひとがいて、女の子は東大に行かない方がいいって、クソバイス(クソのようなアドバイス)をするからです。

でも、いまお姉ちゃんは浪人して東大を目指してるんでしょう? ということは、あなたのご両親は、お姉ちゃんが浪人することをサポートしてくれたんですね。東大を目指せる成績なら、ランクを落とせばそこそこの大学に入れるのに、「くやし~、再挑戦したい!」というお姉ちゃんの気持ちを、ご両親は汲んでくれたんですね。予備校だってお金がかかる、それに社会人になるのが一年遅れる、履歴書に浪人経験を書いたら就職に不利かもしれない……というハンデを押して、「がんばってみれば!」ってお姉ちゃんに言ってあげたご両親はごりっぱ。おばあちゃんとは意見が違います。そう、祖母、母、娘の時代は確実に変わってきました。

とはいえ、おばあちゃんの言うことにも一理あります。兄と比べて妹も成績がよいけれど、お兄ちゃんを上回らないほうがよい、とか、成績のよい女の子が「バカなふり」をするとか、聞いたことがありますか?

東大には東大男子と他大女子だけが入れて、東大女子が入れないインカレ(インターカレッジ、つまり大学の垣根を越えた)のテニサー(テニスサークル)がいくつもあります。わたしが学生だった半世紀まえにもありましたが、今でも続いていると知ってびっくりしました。相手にする大学は、東女(東京女子大学)や聖心(聖心女子大学)のような女子大が多いようです。つまり世間一般の平均よりはちょっと上を行っていてほしいけれど、ボクを凌駕しないでくれ、って、下心が見え見えですね(笑)。

■東大男子はなぜ東大女子が苦手なのか

東大男子は東大女子が苦手です。なぜって、自分と同じぐらいかそれ以上優秀かもしれないから。なぜ男子は女子が優秀だと困るんでしょう? これも答えはかんたんです。

「オレサマ」になれないからです。その点、他大女子は、「東大生、すごいわねえ」と目にハートマークを浮かべて「オレサマ」を見あげてくれるでしょう。

こういう男性を、オッサン、と呼びます。そのとおり、東大男子は若いうちからオッサンなんです(ここでいうオッサンとは、中高年のオヤジのことではありません。自己チューでオレサマ度が高く、オンナコドモや立場の弱いひとを差別する、想像力がなくて鈍感力の高いひとを言います。年齢も性別も問いません。女のひとのなかにも、たまにいます)。おばあちゃんはまわりにオッサンばかり見てきたから、お姉ちゃんに「オッサン受け」するには東大へ行くと不利だよ、とアドバイスするのでしょう。

ですが、おばあちゃんのアドバイスがクソバイスである理由は、世の中はオッサンばかりではないからです。心配しなくても東大女子の婚姻率は高いですし、むしろ女子が少ない分だけモテるともいえます。それにそんなオッサン度の高い男子に選ばれてもうれしいですか? オッサン男子と結婚したら、一生「オレサマ」の自尊心のお守り役をしなければなりませんよ。

いまはおばあちゃんの時代とちがって、「お嫁にいく」んじゃなくてふたりが選びあって新しい家庭をつくるのが「結婚」。それなら頼りになるかしこい女性を選びたいと男子が思うのも当然でしょう。東大にチャレンジするお姉ちゃんを、応援してあげてください。そしてあなたも次に続きましょう。

■東大に女子学生は2割しかいない

【Q】東大入学式での上野先生の祝辞をSNSでみました。それで東大における女子学生の割合が2割と聞いてびっくりしました。だって、世の中の半分は女性なのに。そもそも東大に女子が入学できるようになったのも戦後になってからと知り驚いています。ほかの先進国もそうなのでしょうか?

【A】そうなんです。わたしもびっくりしました。

いまは18歳女子の約半分が四大に進学します。なのに東大だけはいっこうに増えず、2割前後で低迷したまま。実は東大の先生方も頭を抱えています。どうしたら増えるだろうか、って。

念のため言っておきますが、東大には入試不正はありません。東大の女子学生が増えないのは、東大の女子受験生が増えないから。受験生の女子比率と合格者の女子比率がほぼ同じなら、差別がないと言えます。男子と女子の偏差値分布は全く同じですから、東大に受かるくらい偏差値の高い女子が、東大受験をしてくれないから東大女子が増えないんです。

卒業
写真=iStock.com/nirat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nirat

■東大に女子が増えない理由

その理由は? 前の質問のおばあちゃんみたいなひとが、女の子の意欲を挫(くじ)くから、なんでしょうねえ。おばあちゃんだけじゃありません。進路指導の先生だって、「女の子だから無理しなくても」と言うし、東大受験するって言ったら周囲が「女子なのにすげぇ」ととくべつな目で見るし、地方の女子だったら親が県外には出さない、って言うし……。

もっとちっちゃい内からこのアスピレーション(達成欲求)のクーリングダウン(冷却)は始まっています。「女の子だからそんなにがんばらなくても」「できすぎると可愛(かわ)いくないよ」とか。周りがよってたかってあの手この手で、女の子の意欲を挫いているんですね。自分も加担していないか、反省してみましょう。

■女子は低い教育しか受けられなかった

東大に女子が入学できるようになったのは敗戦後の1945年。戦前は大学に入るには旧制中学から旧制高校へ進学しなければなりませんでしたが、旧制中学も旧制高校も全部男子校でした。女子は高等女学校へ。そこから先は女子師範学校(先生になるための専門学校)しかありませんでした。東西にふたつあった東京女子高等師範学校と奈良女子高等師範学校が、現在のお茶の水女子大学と奈良女子大学の前身です。国公立の女子大学はありませんでしたから、日本女子大学校(現、日本女子大学)だの女子英学塾(現、津田塾大学)だのという民間の高等教育機関ができました。

旧制中学・高校と高等女学校の教育課程は違っていましたから、女子は男子より低い教育しか受けられませんでした。「キミ、こんなことも知らんのか」と言われても、教育を受けていないのですから、しかたありません。

旧帝国大学で女子学生の入学を初めて許可したのは東北帝国大学です。1913年、創立間もない東北帝大が、独自の判断で4人の女性の受験を認め、3人の女子学生が合格。3人は日本ではじめての女性の学士になり、さらにそのうちの2人が博士になって研究生活をつづけました。医者になるための医専(医学専門学校)に入る道も、女性には閉ざされていました。

医学校の門を叩き続けてようやく入学を許され、男子学生のなかに混じっていじめに遭(あ)いながら、日本初の女性医師になったのが、荻野吟子(おぎのぎんこ)です。医学校を出てからも、医術開業試験をなかなか受けさせてもらえませんでした。女性は能力があっても、チャレンジさえ許されなかったのです。敗戦後の新制東京大学では、初の女子学生は新入生898名中19名、2.1%でした。男性がものめずらしい目で見るのを、ひとかたまりにかたまって耐えていたといいます。

■海外では女子の進学率の方が高いのに…

いやはや、女子学生の歴史は苦難の歴史です。今日あなたたちがふつうに大学進学を考えることができるようになったのは、こういう先輩たちが道を切り拓いてきてくれたおかげだって、ときどきは思い出してね。

上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)
上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)

外国は日本とは大きく違います。OECD加盟国では18歳人口の大学進学率は、男子より女子が高いです。なぜって、女子の方が成績がいいもんね~(笑)。その中では日本が最低。他の国には、学生だけでなく、教授や学長にも女性がたくさんいます。欧米の名門大学、ハーバード大学にもケンブリッジ大学にも女性学長が誕生(2007年、2003年)しました。東大には創立以来ひとりもいません。東大に「初の女性教授」が誕生したのは1970年。わたしは東大文学部2人目の女性教授でした。日本は諸外国の趨勢(すうせい)に取り残されているだけでなく、東大はとくに遅れているのです。

女性が高等教育を受けにくいのは、前問で答えたように、まず、教育をつけても元がとれない(教育投資のリターンがない)と親も周囲も考えているからです。どうせ家庭に入るなら、せっかくの教育がムダになる、それなら席を空けて、男子に譲ってやったらよい、と。

女子学生が次第に増えてきた1962年、早稲田大学の暉峻(てるおか)康隆教授は『婦人公論』に「女子学生世にはばかる」という論文を書きました。同じ頃、慶応大学の池田彌三郎(やさぶろう)教授が書いた「大学女禍論」とあわせて、「女子学生亡国論」として、世間を騒がせました。その頃の女子の大学進学率は2.5%。現在(2018年度)、早稲田大学の女子学生比率が37.1%だと知ったら、暉峻先生、草葉(くさば)の陰(かげ)でなんていうでしょうね。ちなみに早稲田大学における教員の女性比率は16.5%です。

■「女はバカであってほしい」

もうひとつ、女子の高等教育をきらう理由があります。「高等教育を受けると女は生意気になってろくなことにならん」と思われているからです。これが「東大行くとお嫁にいけない」神話のもとです。男が主、女が従の男尊女卑の社会では、女は男より何につけても劣っているほうがよい、なぜって? その方が男が女を扱いやすい、からです。

夫が妻に「おまえみたいなバカなヤツが……」と罵る。そんなら「なんでバカなヤツを妻に選んだの?」って言えば、「(オレより)バカなヤツ」だからこそ、選んだのでしょう。なぜって、ずぅーっと一生、相手をバカにしていばれるからね。男って単純なヤツ。こういう単純なヤツは上手にあやつって「バカのふり」をしなさい、って親切に「忠告」してくれるオバサンやオネエサンもいます。だから東大女子は、男子より賢くても「バカのふり」をします。

でもね、「単純なヤツ」をころがして、「バカのふり」をしながらつくる関係って、おもしろいですか? 一生のあいだ、そんな関係を続けたいですか?

もしあなたが相手の才能や努力をリスペクトできるような男性とつきあいたいなら、相手の男性からもあなたの才能と努力をリスペクトしてもらいましょう。お互いにリスペクトしあえる相手との関係ができるほうがずっといいですよ。

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上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者
1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。

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(社会学者 上野 千鶴子)

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