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「猫13匹を焼き殺して"神"扱い」日本から動物虐待動画がなくならない根本原因

プレジデントオンライン / 2021年11月30日 15時15分

日本において犬や猫は「愛玩動物」だが、ドイツ人にとっては「家族の一員」だ - 筆者撮影

■犬や猫を飼う人はどんどん増えているが…

日本では犬や猫を飼う人が増えている。ペットフード協会の「2020年全国犬猫飼育実態調査」によれば、全国の推計飼育頭数は、犬は848万9000頭、猫は964万4000頭であり、1年以内の新規飼育者による飼育頭数は増加する傾向にあるという。

一方で、犬や猫の「虐待動画」もたびたび問題になっている。

2021年10月、子猫を浴槽に入れ無理やり泳がせ虐待した茨城県取手市の無職の男が、動物愛護管理法違反の疑いで愛知県東警察署に逮捕された。8月には沖縄県で、ボロボロの体で顔から流血するなどひどい虐待を受けた猫をYouTubeチャンネルで配信した2人の男が警察に通報された。それより前には、埼玉県の元税理士が、猫13匹に熱湯をかけバーナーで焼くなどして虐待死させた動画を撮影、有罪判決を受けた(筆者注:犯罪が証明されたのは13匹であり、実際はもっといたと言われている)。

■虐待した飼い主に戻される日本は「あり得ない」

香港でペットの保護活動を行っている戸張綾香さんがオンラインで署名を収集するサイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で声を上げたのは2021年8月25日、沖縄県在住のユーチューバーが子猫の虐待現場を配信した“事件”をヤフーニュースで見た直後のことだった。

戸張さんが愕然としたのは、注目を集めたいばかりに、子猫の虐待現場を撮影し公開しようとするユーチューバーの存在と、沖縄県警が最終的にこの子猫を元の飼い主に戻してしまったことだった。

「日本では虐待した飼い主の元に犬や猫が戻されるケースが見られますが、香港ではこのようなことはあり得ません、動物愛護団体がこれを許さないのです」と戸張さんは話すが、残念ながら日本の民法では、動物は「物」とされ、ペットは飼い主の所有物とされるため、動物を所有者から離して保護することができない。

戸張さんはいてもたってもいられず、香港にいながら日本や世界に向けて「動物虐待をやめよう」と呼びかけ、署名活動に乗り出した。これには香港のみならず、米国、英国、フランス、ドイツ、タイ、フィリピン、インドネシアなどアジアや欧米各国の多くの国の人々が反応し、ユーチューバーの残虐性に「ノー」を突きつけ、多数の署名を寄せた。ちなみに、香港では動物保護に対する市民の意識はかなり高い。

■毎週のように動物愛護のイベントが開催される

「香港では町全体に動物愛護のチャリティー活動が浸透しています。住宅地などでは里親探しのプロモーションなど、毎週のように動物愛護のイベントが開催されます。子どもから親まで参加できるチャリティーイベントがたくさんあり、先日もビクトリアピークに犬と一緒にハイキングに行くといった活動がありました。こうした活動を通して、子どもの頃から動物に対する愛情を育んでいます」

香港は1997年に中国に返還されるまで英国による統治を受けたが、その英国では1824年に、世界で最初の動物福祉を目的にした動物虐待防止協会(現・英国王立動物虐待防止協会、RSPCA)が設立された。1911年、英国が欧州の各国に先駆けて動物保護法を立法化したのは、この団体の強い働きかけがある。

店番をする猫。香港でも生活の中に動物が溶け込んでいる
筆者撮影
店番をする猫。香港でも生活の中に動物が溶け込んでいる - 筆者撮影

香港の動物保護団体の積極性は、こうした背景も由来しているのかもしれない。戸張さんも「香港も動物愛護団体の力や影響力はかなり強いです」と語る。

■13匹を殺した男は“神”として崇められていた

日本では、動物の福祉向上を目指して果敢に活動する動物愛護団体に「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」(理事長:杉本彩氏、以下Eva)がある。事務局長の松井久美子氏によると、「実は、“金儲(もう)け”だけではなく、虐待そのものを目的にして公開動画を楽しむ“虐待愛好家”もいるのです」という。

虐待マニアの間で賞賛を浴びたい……そんな“歪んだ名誉欲”が虐待をエスカレートさせる。典型的な事件に“さいたま猫虐殺事件”がある。2016年1月から2017年4月にかけて起きたこの事件は、捕獲器に閉じ込め何度も熱湯を浴びせたり、ガスバーナーで焼いたりなどして多数の猫を虐待死させるというもので、それを動画撮影した埼玉県の元税理士の男が有罪判決を受けた。

「動画への書き込みなどをたどると、元税理士は、残虐な行為をするほど視聴者から“神”として崇められ賞賛され、『もっとやれ』という視聴者のリクエストに応えようとした可能性があります」と松井氏が話すように、虐待の背後にあるのは「みんなの注目を浴びたい」という稚拙な動機のようだ。

■2年以下の懲役刑が「5年以下」に厳罰化

その欲求を満たすために行ったのが、文字通りの“虐殺”である。しかし、元税理士に対して下った判決は「懲役1年10カ月、執行猶予4年」(求刑は懲役1年10カ月)だった。

Evaはこの判決に対し「とうてい納得できる処罰でない」と罰則強化のための運動を始め、全国から集めた請願署名を国会に提出した。2019年6月に動物愛護法の第44条1、2項が改正され、「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する」こととなった。従来の「二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金」からいっそうの厳罰化が図られた形だ。改正にこぎつけた裏にはこうしたEvaの活動もあった。

■ドイツでは犬にもパスポートが与えられる

これから日本のペットは法律でどう守っていけばいいのか。ひとつのモデルになるのは“犬中心の社会”であるドイツだろう。ドイツ在住の知人は「ドイツの犬はまるで天国のような環境で日々を送っている」と話す。

筆者は10月にフランクフルトを所用で訪れたが、ドイツの犬には「パスポート」もあり、飛行機での移動の際は「貨物扱い」ではなく、飼い主と客室でフライトを楽しむケージに入った小型犬もいて、人間並みの待遇を受けていることに驚かされた。しかも、ドイツにはしつけの行き届いた犬が多い。

ドイツでもコロナ禍でペット販売数が増加。ドイツ食糧・農業省は1日2回の犬の散歩を義務付けた
筆者撮影
ドイツでもコロナ禍でペット販売数が増加。ドイツ食糧・農業省は1日2回の犬の散歩を義務付けた - 筆者撮影

ドイツ社会の動物に対する接し方は根本的に何かが違う。その1つが動物保護の歴史の長さであり、法律の中身だ。ドイツでは1837年に動物保護協会(現・ドイツ動物保護連盟)が創設され、19世紀には動物保護の法制度が存在していた。

ドイツの動物保護法については、早稲田大学法学学術院名誉教授で弁護士の浦川道太郎氏が執筆した論文「ドイツにおける動物保護の生成と展開」に詳しい。

1977~80年にかけてニーダーザクセン州のゲッティンゲン大学に留学し、現地での生活経験を持つ浦川教授は、「ドイツの動物保護法は、動物の苦痛というものを強く意識し、微に入り細を穿つようにして書かれている。脊椎動物は脊柱に神経が通っているので痛みを感じるという考えのもと、脊椎動物に苦痛を与えることに反対の立場をとり、動物実験にも厳しく違反者への刑罰も重いのが特徴です」と語る。

浦川教授の論文によると、ドイツの動物保護法は「合理的な理由なしに脊椎動物を殺害した者、粗暴な行為により著しい痛み・苦痛を脊椎動物に与えた者、または、比較的長時間持続し、反復する著しい痛み・苦痛を与えた者は3年以下の自由刑(自由を奪う刑)、または罰金に処される」と規定されている。罰金は、被告人の収入日額に日数を掛けて計算するといわれ、被告人の収入により異なり、同じ刑の程度でも、高額所得者は多くの罰金を支払うことになる。

■処罰の重さはドイツ並みなのに逮捕もされない

一方、日本の「動物愛護管理法」で定められる刑罰は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」で、ドイツに負けず劣らず重い刑であることが分かる。それなのに、沖縄のユーチューバーによる子猫虐待事件では、動画の中に虐待の事実が残されているにもかかわらず逮捕もされなかった。沖縄県警は筆者の取材に対し「動物虐待の嫌疑はなかった」と回答したが、「たかが猫」だと思っているからなのだろうか。

浦川教授は「改正された『動物愛護管理法』の刑罰は相当厳格であり、しっかり取り組めば処罰できるはず」と話している。

ちなみに、ドイツの動物保護法の刑罰により保護されるのは、飼い主がいる動物に限らない。ドイツではあまり野良猫、野良犬を見かけないが、もし虐待を加えれば、動物保護法第17条で処罰される可能性がある。

■動物は愛玩ではなく、生き物としての権利がある

なぜ、ドイツはここまで動物に関する法整備や社会の仕組みづくりが進んでいるのだろうか。それは歴史的、風土的な由来もあるが、国民の意識の高さもある。近年では「アニマル・ライツ」という考え方が浸透し、フランクフルトの目抜き通りなどでも、動物愛護団体が「動物の権利」を訴える活動を行っている。このアニマル・ライツについて浦川教授は次のように語っている。

「愛玩の対象というより、生き物としての権利があるということ、つまり『動物はものではない』ということを意味します。もし『所有者のもの』であるならば勝手に処分できますが、ドイツではそうはいきません」

ドイツの公園の動物たち。人間を怖がらない
筆者撮影
ドイツの公園の動物たち。人間を怖がらない - 筆者撮影

日本では、動物は人の所有物であるため、沖縄のケースに見るように、子猫は虐待した飼い主に戻されてしまう。この「所有権」が壁となっていることは、多くの動物保護団体が問題視している。現行の法律では、ペットは飼い主が虐待者であっても所有者の元に返さなければならないことになっているためだ。浦川教授も「これについては法律の整備が必要。虐待が起こったときには所有を奪い、必要な処置を講じることができる法律があるべきです」と語る。

ドイツでは、1990年に行われた動物の法的地位の改善に関する法律で、「動物はものではない」と定める条文が挿入された。また、動物保護施設(ティアハイム)では虐待された動物も預かる。日本でもこうした制度作りが待たれている。

■警察も動物虐待に注目するように

東京都内にペット動物に関する法と政策を研究する「ペット法学会」があるが、同学会の事務局長で弁護士の渋谷寛氏は、近年、警察も動物虐待に注目するようになった背景について次のように語っている。

「『東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(1988~89)』や『神戸連続児童殺傷事件(1997)』などの事件では、犯人は犯行に行き着く過程で動物虐待していた経歴があることが判明しました。動物虐待は将来において殺人につながるのではないかという観点から、警察も動物虐待を重視するようになっています」

動物虐待を放っておけば、大きな犯罪を招くことにもなる。浦川教授も「社会的に動物虐待を排除していかないと、人が住むコミュニティすら危うくなる」と警戒する。動物虐待は犯罪であり、動物をいじめることを動画にして金銭や注目を集めようとする行為は、どう考えてもおかしいことだ。「そういう法律違反に警察も注目すべきであり、犯罪としてこれを立件していかなければなりません」(同)。

動物虐待シーンの動画配信は、子どもたちの健全な発育にも影響を及ぼす。このような動画は子どもの目には絶対に触れてほしくないと思う一方で、インターネット上では簡単に検索でき、また意図しないところで偶然に見てしまうケースもある。

■YouTubeは「虐待動画を報告して」というが…

「こうした動画を目にした後、泣きながらEvaに通報してくる方々もいます。中には食事も食べられない、眠ることもできないと、精神的に不調をきたすケースさえあります。動画を思いがけず目にしてしまったショックは計り知れません」(Eva事務局長の松井氏)。

YouTubeなど動画サイトの管理者に対しても、問題ある画像や動画を自主的に排除するべきだ、といった声もある。YouTubeは「暴力的で生々しいコンテンツに関するポリシー」として動物虐待のコンテンツ投稿を禁止し、発見した場合は報告するよう呼びかけているが、現実はいたちごっこが続いている。浦川教授も「人間であれ、動物であれ、虐待シーンは『表現の自由』などとは関係がない、1つの立派な犯罪です」と述べている。

もっとも今の日本には、動物虐待シーンを動画で公開することへの規制はない。目下、Evaはここへの規制強化に向けた活動にも取り組んでいる。

ドイツのペットショップでは犬や猫の販売を行っていない
筆者撮影
ドイツのペットショップでは犬や猫の販売を行っていない - 筆者撮影

私たち個人にもできることはある。すでに多くの国民が自分の力で警察や動物愛護団体に通報するなどのアクションを起こしている。日本には日本動物福祉協会のように各地に拠点を持つ団体もあり、動物に関する相談を電話で行うことができる。また、私たちには警察に法令違反者の処罰を求める「告発する権利」が与えられており、これを駆使することもできる。

本稿では動物虐待の動画配信に注目したが、動物との共存を目指すための課題はまだまだある。運動を起こし、声を上げ、「生きとし生けるもの」を無益に殺傷しない、そんな社会を築いていきたい。

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姫田 小夏(ひめだ・こなつ)
フリージャーナリスト
東京都出身。フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。1990年代初頭から中国との往来を開始。上海と北京で日本人向けビジネス情報誌を創刊し、10年にわたり初代編集長を務める。約15年を上海で過ごしたのち帰国、現在は日中のビジネス環境の変化や中国とアジア周辺国の関わりを独自の視点で取材、著書に『インバウンドの罠』(時事出版)『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)など、近著に『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)がある。3匹の猫の里親。

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(フリージャーナリスト 姫田 小夏)

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