1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

妊婦の目の前の空席を横から奪う…小児科医が気づいた「日本の子育てが息苦しい5つの原因」

プレジデントオンライン / 2021年12月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

子育ては苦労の連続だ。少しでも親の負担を減らす方法はあるのか。2人の娘を育てる小児科医の森戸やすみさんは「小児科医と子育てを両立していて、日本はあまりにも子育てがしにくい国だと感じた」という——。

■小児科医と娘2人の子育てを両立してきた

はじめまして。小児科医の森戸やすみと申します。私は、医師免許をとってから大学病院で研修をし、さまざまな病院やクリニックの小児科で働いたり、NICUで新生児の集中治療にたずさわったりしたあと、東京都内の小児科クリニックで働いています。

そのあいだに娘2人を産み、今も子育ての途中です。誰にとってもそうであるように仕事と子育ての両立は大変ですが、私の仕事は出産や子育てに役立ちました。さらに出産や子育ては、私の仕事の妨げになるどころか、患者さんやその親御さんへの理解を深める上でとても役立ちました。子育てと仕事が相乗効果のあるものであるという点は、とてもラッキーだったかもしれません。

たとえば、診察室でお父さんやお母さんに「赤ちゃんが顔を真っ赤にして手足を交互に伸ばしてムキーっと言うんですが、大丈夫ですか?」と聞かれたときも「ああ、うちの子もやっていたあれね」と思いますし、乳児の授乳とおむつ替えに追われてほとんど眠れない状態を経験しているので、親御さんたちにとって何が現実的なアドバイスなのかわかります。

そんな仕事と子育てをしながらの日常で、最近よく考えるのは、日本はあまりにも子育てをしにくい国ではないか、いうことです。そこで「子育てをしにくい」と思う原因を考えたところ、以下の5つが思い浮かびました。ひとつずつ、お話していきましょう。

■①子育てに寛容でなく厳しい風潮がある

私は第2子の妊娠中、ギリギリまで働いていましたが、ある朝、通勤電車で目の前の座席が空きました。お腹は大きくて重いし、足も疲れていたのでラッキーだと思った途端、スーツ姿の男性が横入りして座席を取られました。もちろん、座席を譲ってくれる人もいましたが、同じような体験をしたことのある妊婦さんは少なくないでしょう。

また、三つ子をワンオペで育てていたお母さんが子供を傷つけてしまった痛ましい事件が起こったときや、ベビーカーでのバスの乗車を拒否された問題が起きたときに、インターネット上では「自分が産んだのだからつらくても自己責任だ」「子供を持ったからには何事も我慢しろ」などといった心ない言葉を発信する人たちがいて「子供を持つことは罪ではないはずでしょう?」と世界に向かって問いたくなりました。

そのほかにも、保育園の建設が近隣住民の反対にあうこと、「公共の交通機関で子供が泣いたら親は申し訳なさそうにするべき」などとSNS上で発信する人もいて、ご自身も子供だったはずなのにと不思議に思います。

■②女性のほうが子育てや家事を多くしている

日本では未だに「家族の世話をするのは女性」というのが、暗黙の了解になっていますね。実際、OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた生活時間の国際比較データ(15~64歳の男女を対象)によると、日本女性の無償労働時間は224分で、日本男性の無償労働時間はわずか41分で、女性のほうが極端に長いことがわかります(内閣府男女共同参画局)。

女性には母性本能があるから子供を産んだ途端に育児法がわかってしまうと誤解している人がいますし、子供に何か起こったらなんでも「母親の育て方のせい」と言われてしまいがちで、お母さん自身もそう思い込んでしまう場合があります。

でも、特に産後すぐの重労働と睡眠不足は、当然メンタルヘルスによくありません。加えてホルモンの影響も大きいため、産後1年までの妊産婦の死因は自殺が最多だという研究結果があります(国立成育医療研究センター「人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状」)。もっと男性も子育てや家事をするべきです。

そもそも子供はあっという間に大きくなりますから、「ママ、ママ!」、「パパいっしょにあそぼう!」などと言ってくれるのは、かけがえのない貴重な時間。お父さんだって、子供と一緒にいたいのに日本の長時間労働が、それを許さないという側面もあるでしょう。実際、先述したOECDの調査によると、日本の男性の有償労働時間は452分と長く、子育てや家事をしたくてもできない状況もあることが考えられます。

屋外で遊ぶ親子
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■③女性のほうが仕事において不利である

「女性は結婚すると、家事・妊娠・出産・子育てなどのライフイベントを1人で背負う義務があるので仕事をおろそかにする」というバイアスを持っている人たちがいるため、女性は採用段階から不利です。2012年にアメリカで、全く同じ経歴のジョンという男性名の履歴書、ジェニファーという女性名の履歴書でどちらが有利かを比較調査したところ、男性名のほうが評価が高く、提示された年収が4000ドルも多かったという報告があります(サイエンスポータル「過小評価続く女性研究者 米国でもマチルダ効果歴然」)。

日本も同様で、男女間の賃金格差はいっこうに改善せず、母子家庭の貧困の大きな原因です(プレジデントオンライン「「世界でワースト2位」日本の男女賃金格差が全然埋まらない理由2つ」)。

このように、能力とは関係なく女性は男性より賃金が少ないので、子供を持つと女性が仕事を辞めたり時短にしたりして働かざるを得ないことが多々あります。そもそも、就職以前に教育の機会が平等に与えられないこともありますし、妊娠や出産の経過が順調でなくて仕事を辞めざるを得ないこともあるでしょう。

これは社会構造が問題なのに、女性の能力のせいや自己責任にされたりするのでは、女性が苦しいばかりです。これでは安心して子育てできるわけがありません。

■④子育てや教育にお金を使わない国である

1990年代から専業主婦世帯が減って共働き世帯が増え、現在では共働き世帯の方が圧倒的に多いのに、未だ保育園不足や待機児童問題は解消されません。今後、子供がますます減って、需要が減るだろうと国や自治体は思っているかもしれませんが、少子化問題を改善するためにも保育園の数と質の向上はまだ力を入れるべきところでしょう。なぜなら、教育は国民に対する投資であり、特に初等教育はとても費用対効果が高いからです(日経ビジネス「教育は早期、供給サイドへの投資が効果的」)。

そして、世帯年収は増えていないのに教育にかかる金額は上がっています。特に大学の学費が高くなっているため、経済的な理由で進学を諦める人が今後も増えていくかもしれません(文部科学省「国立大学と私立大学の授業料等の推移」)。もともと給付型奨学金が少ない日本では、奨学金とは名ばかりで若い人に借金を負わせ、卒業してから何十年も返すはめになることが多く、これは大問題です。

日本はいずれ、ノーベル賞を取れなくなると言われて久しいですが、それは国が子育てや教育、研究などにかけるお金を年々減らしているためです。これでは研究者が活躍できなかったり、国外に流出したりするどころか、まず育たないでしょう。

学費のイメージ
写真=iStock.com/Sadeugra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sadeugra

■⑤子育てに関するデマや誤情報が多い

2016年にDeNAが運営する医療健康情報サイトのウェルク(WELQ)が大問題になりました。がんなどの病気に関する記事を量産していたのですが、ほとんどすべてが素人による医学的根拠のないいい加減なものだったからです。

こうしてまだ人の生死に直接関わるテーマなら糾弾されやすいのですが、子育てに関するおかしな記事は放置されがちです。「母乳の質を高めるのは和食」「アトピーに保湿は必要ない」など、全く根拠のない記事が未だにあります。

さらに「我が社の骨盤ベルトをしていないと胎児の頭が歪んで、出生後にはまっすぐ走れない子になってしまう」、「このハーブティーを飲むと母乳がよく出るようになり、子供が寝付きやすくなる」、「当院のサプリメントを飲むと発達障害が治り、背が伸びる」、「脱ステロイド、脱保湿をして当院で治療すればアトピー性皮膚炎は治る」、「ワクチンは危険、予防接種は選んだ方がいい」などといった不安を煽ってビジネスにする人たちもいます。デマが多くて正確な情報を得られないとなると、子育てしづらいですね。

■「ちょっとした行動」で社会は変えられる

では、子育てをしやすい社会にするには、どうしたらいいでしょうか。特に①〜④はみんなが意識を変え、社会構造や政治を変える必要があるのではないでしょうか。何も国会議員に立候補するとか、会社を作るといった大きなことでなくてもいいのです。私たちにはインターネットという、繋がり合って、意見を発表できる場所があります。ネット上で賛同したり批判したり、実際のちょっとした行動を変えるだけでもいいでしょう。

現在は、以前に比べて、政治家や社会的に力を持つ人たちのおかしな発言や行動、また根拠のない広告などが問題視されやすい世の中です。これは問題だと思う発言・表現があったら、声をあげていきましょう。私たち一人ひとりには小さな力しかなくても、変えていくべきことやものを明確にすることはできます。この連載は、子育てに役立つ医療の正確な知識を伝えるだけでなく、そういった声をあげられる場所にしていきたいと思います。

ぜひ子育てしやすい日本を一緒につくっていきましょう。

----------

森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

----------

(小児科専門医 森戸 やすみ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください