リケジョなら偏差値50台で慶應・上智へ「一生食べていける学部vs."高学歴ワープア"リスクが高い学部」
プレジデントオンライン / 2021年12月3日 11時15分
■一生独身でも食っていけるリケジョ、ワープアになるリケジョ
そろそろ入試のシーズン、具体的な出願校を決める時期である。
近年、賢い理系女子高生の中には医師を目指す者も増えているが、国公立大も私立大も医学部合格は至難の業。偏差値は高騰し、「リケジョなら誰でも挑戦すべき」とは言えないが、医学部でなくても、リケジョは文系女子に比べ、十分に食べていける。
経済協力開発機構(OECD)が各国の大学生の中に占める女性の割合を調査したところ(2021年9月公表)、日本は「自然科学・数学・統計学」分野で27%、「工学・製造・建築」で16%と、いずれも最下位と報道されている。国内における理工系の女子学生の少なさは長年の課題で、OECDは「男女で著しい差が生じている。女性に理工系分野に進む夢を与える必要がある」と指摘している。
日本女性の平均寿命は約90歳であり、70代まで働く女性も珍しくなくなりつつある。本稿は、卒業直後の新卒就職のみならず、出産後のキャリア維持や生涯賃金の観点から、偏差値50前後の平均的リケジョの進路について学部別に解説してみたい
■【医学部以外の医療系】
▼歯学部
しばしば「歯科医院はコンビニより多い」「案外、歯科医はワーキングプア率が高い」といった話を見聞きするが、医療の現場で長年働く筆者が思うに、手先の器用な女性にはお勧めである。マジメで出席率も高い女子歯科大生は概して歯科医師国家試験の合格率も高く、最少年限で歯科医師になりやすいことが知られている。
20代はしっかり働いて経験を積めば、出産後のパートタイム勤務や、将来の自宅開業も可能だろう。病院勤務でも、当直や夜間呼出がまれなので医師よりも家庭との両立が比較的容易だ。また、内科医のように将来的にITや遠隔診療に仕事を奪われるリスクも少ないと予想される。
▼薬学部
化学が好きなリケジョはお勧めである。理工学部化学科などは、卒業後の新卒就職率は高いものの、子育て期間中に、例えば地方工場勤務や海外プラント出張などの「大企業総合職」的な働き方を継続できるか疑問である。
近年の理工系では修士課程進学が標準化しつつあるので、同じ6年ならば資格を取得できる薬学部のほうが人生の選択肢が増えるのではないか。「卒業直後は大手製薬会社勤務でバリバリ働き、出産後は自宅近くの薬局勤務」といったキャリアチェンジも柔軟にできるからである。2020年のコロナ禍で「オンライン服薬指導」が解禁されたので、今後は在宅勤務が広がる可能性もある。
■慶應義塾大・上智大の偏差値は60~70超だが、看護系学部は50台
▼看護学部
看護師免許とは、平均的学力の女性にとって「収入を得るための努力」のコスパが最も高いライセンスである。近年では慶應義塾大・上智大などに看護系の学部が誕生し、今のところ偏差値は50台と60~70超の他学部に比べればブランド大合格のハードルは低い。
就職は引く手あまたであり、早慶やMARCHの文系女子が1年以上就活に苦労することも珍しくない中、1週間程度でサクッと決めるケースもある。一般事務職よりも給与水準が高いのに加えて、「都内ワンルームマンションが月2万」「職場内保育所」など福利厚生水準も高い(職場による)。出産後の転職やパート転身も容易で、女性が生涯就業可能な代表的職種である。
▼理学療法士・作業療法士の養成学科
看護師と同様にコスパ良好で、高齢化社会では安定就業が期待できる。近年ではフリーランスで働く療法士も存在する。スポーツ医学と親和性がよいので、「仕事と趣味のスポーツを両立したい」体育会系リケジョにお勧めである。
▼臨床検査技師・臨床工学技士・放射線技師の養成学科
従来は、医療機関において「縁の下の力持ち」的な職種だったが、コロナ禍で「PCR検査」「ECMO治療」の必要性が高まり、その業務遂行役として脚光を浴びた。「接客より黙々と作業するのが好き」タイプにはお勧めである。生物系の研究者を目指す場合も、学部レベルで何らかの医療系ライセンスを取得すると、その後の人生の選択肢が増える。
▼心理学科
大学で学ぶ心理学は統計学を多用し、実質的には理系学科とも考えられる。「ネットの心理分析」感覚で進学すると統計処理で必要な数学で心が折れる可能性が高い。心理カウンセラーとして働くには、臨床心理士もしくは公認心理師の資格が要求される。その場合、大学院修士課程が必須となることが多く、総学費もそれなりにかかる上、就職先はさほど豊富ではない。特に都心部では供給過剰なので、働く場所やネームバリューにこだわれば「週2回」「1年契約」のような非正規雇用に甘んじるリスクが高い。
また、現在のところ看護師が病院勤務5年間を経て試験に合格すれば公認心理師になるキャリアパスもある(※)。実利を考えれば、看護師からのキャリアアップを目指したほうがコスパ良好かもしれない。
※著者註:現状、看護師が実務経験だけで公認心理師の受験資格を得るのは202
■【理工学部】
▼情報系
理工系ではコスパ最強である。かつて、システムエンジニアやプログラマなど情報技術産業で働く人は定額長時間労働が常態化しており「きつい、帰れない、給料が安い」の「新3K」などと呼ばれていた。その頃のイメージで反対する父兄もいるが、スキルさえ伴っていれば、現在ではGAFAMなどの外資系企業や、ITフリーランスなど多様な働き方が可能になりつつある。
在宅勤務も一般的になり、ワーキングマザーや地方移住後も就業継続しやすくなった。医療系ライセンスは国籍の壁を超えることが難しく、日本経済が没落すれば道連れだが、IT系はリモートで海外案件を受注することが可能なので、確かなスキルがあれば日本経済が衰退してもサバイバルできる。
▼数学/物理/機械系
理工系全般でプログラミングは鍛えられるので、新卒での有名企業就職は比較的容易である。また弁理士のような知的財産系の資格習得も、女性の生涯就業の観点からお勧めできる。なお、機械系のように女性率が極端に低い学科は、「地味リケジョが将来の夫を見つける婚活場」として有効活用してもいいだろう。
▼建築・土木系
建築士免許は建築学科のみならず土木学科や住居学科(後述)でも取得可能である。有資格者は公務員採用でも一般事務職とは別枠での採用となることが多く有利である。また自宅開業や在宅フレックス勤務も容易になりつつある。ただし構造計算などで高等数学が必須なので、微分積分にアレルギーを感じるタイプにはお勧めできない。
▼生物農学系
専攻を生かせる就職先が少ない。特に地方では主に学校教諭(あるいは塾講師)で、それも非正規での雇用が増えている。大学院博士課程まで進学して大学教官・研究者になるのは超狭き門であり、運よく教官・研究者になれても高学歴ワープアのリスクを伴う。そのため、生物系研究者を目指すなら学部レベルではいったん何らかの医療系ライセンスを取得して“保険”をかけた上で、大学院レベルから本格的に研究することをお勧めしたい。
■【女子大の理系学科】
あまり知られていないがお茶の水、津田塾、東京女子大などの有名女子大には、「数学・情報科学」系の学科があり就職率も高い。女子大ではないが、国際基督教大学も「情報科学」を専攻することが可能である。いずれも少人数学科なので、きめ細かい教育が期待できる。
一方、東京理科大学などの理工系有名校はハードな教育で産業界では評価が高く就職も良好だが、「大人数教室でドンドン進む数学の授業」「無慈悲に留年させる」というカルチャーのため、のんびりした女子学生だと留年・退学のリスクが高い。
また、日本女子大家政学部には伝統ある住居学科があり、建築士免許が取得可能である。妹島和世(金沢21世紀美術館)、東利恵(星野リゾート)など建築家として活躍する先輩も多い。
「女子大の理系学科」は、総じてリケジョの穴場と言えよう。
■「カッコいい仕事は給料安い」(by 麻生太郎氏)は正しい
2008年、渋谷区のハローワークを視察した麻生太郎総理(当時)が、求職中の若者の相談にのって「何となくかっこいい仕事は給料安いよ」とアドバイスした。皮肉っぽい物言いが目に付く麻生さんだが、この発言に関しては私も真理だと思う。
「コピーライター」「カラーコーディネーター」「心理カウンセラー」のように、何となくキラキラする職業は希望者が多く供給過剰になるので、同業者の競争が激しく、(一握りの成功者を除けば)給与水準が低い。
それに比べ、看護師のように伝統のある資格職には、キラキラ感はないものの、中年以降のキャリアパスも安定感がある。若者がキラキラにひかれるのは自然なことだが、親の立場としては盲目的に若者の進路選択を応援するのではなく、生涯就業の観点から「興味の持てる範囲内で社会的需要の高い分野に誘導」するのが責務なのかもしれない。
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フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)
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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)
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