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「勉強を続けるにはパパ活をするしかない」21歳GMARCH女子大生の心を削る学費の稼ぎ方

プレジデントオンライン / 2021年12月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pick-uppath

学費高騰などで経済的に困窮し、「パパ活」に身を投じる女子学生が増えている。ノンフィクションライターの中村淳彦さんは「学費が高騰したのは、国が高等教育の公財政支援を減らしたせいだ。自助を掲げる国が、遠回しにパパ活を推奨しているとしか思えない」という――。

※本稿は、中村淳彦『パパ活女子』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■戦後の戦争未亡人のような女子大生

シングルマザーに次いで、深刻な経済的苦境に陥りやすいのが学生だ。特に自宅外通学の大学生は、大変厳しい。彼ら彼女らの貧しさはパパ活市場に大きな影響を及ぼしている。

大手パパ活サイト「Sugar Daddy」は登録会員のデータを公表している。女性会員の職業は、学生が31パーセントと圧倒的。この十数年、大学キャンパスは貧困の巣窟であり、入学難易度に関係なく、ガールズバーやキャバクラ勤務の夜職、風俗嬢、パパ活女子が激増している。いまの女子大生たちと、戦争直後に戦争未亡人による売春が横行した過去の史実は、どうしても重なる。新宿や上野がおもな舞台であることも同じだ。

国の経済成長が止まり、衰退してもいいことはなにもない。男性の貧困は犯罪、女性の貧困は売春に直結する。国が起こした無謀な戦争によって一家の大黒柱を失った未亡人は、唯一もっている女を武器にして性をアメリカ兵に売り、新自由主義路線を進む国の受益者負担の方針によって、経済的弱者に固定された令和の女子大生たちは、強者のおじさんに性を売っている。

親や親戚だけでなく、都道府県や自治体が長い時間を費やして大切に育んだ女子生徒が、大学生になった途端にホステスや風俗嬢、売春婦、パパ活女子になる。

性格、偏差値、金銭感覚、恋愛観など、個人の特性は一切関係なく、その最終手段を選択しているのだ。仮に文部科学省が、現役女子大生に夜職や売春的な行為、パパ活経験者の実態調査をし、現実に即した正しい回答を得ることができれば、信じられない結果となるはずだ。

なぜ学生たちが貧しいのか。恵まれた環境で生きた中高年や高齢者には、まったく現状を理解していない人が多い。簡潔に理由を挙げていこう。

学生が貧しい理由① 学費高騰
学生が貧しい理由② 親世帯の収入減
学生が貧しい理由③ 出席の厳格化
学生が貧しい理由④ アルバイトの報酬減(学習塾など)
学生が貧しい理由⑤ 消費増税
学生が貧しい理由⑥ 受益者負担、親の学費負担放棄
学生が貧しい理由⑦ コロナの影響でアルバイトができない

■一日あたりの生活費は、30年前の75パーセント減

大学や専門学校で勉強をする若者たちは、経済的に苦境に陥る要因がこれだけ重なっている。中高年や高齢者が学生だった頃と比べると、なにもかもが違うのだ。自分たちの利益の皺寄せが若者に行き、孫や娘を夜職や売春、パパ活女子に向かわせてしまっている。公表されているデータだけでも、若者たちの厳しさは読みとれる。

令和元年の民間給与実態統計調査では、給与所得者の平均年収が436万円、国民生活基礎調査では全世帯の所得平均値は552万3000円。さらに家計の金融行動に関する世論調査によると、40代の平均貯蓄額は694万円、中央値が365万円となっている。

そのなかで、私立大学は初年度納入金120万円~150万円、年間学費80万円~110万円の支払いを求める。そんなお金は払えない、または払いたくないという状態だ。

結果として未成年の学生本人が負債を背負う奨学金が流行し、日本学生支援機構の大学奨学金の受給率は大学で47.5パーセント、短期大学で55.2パーセント(平成30年度、日本学生支援機構調べ)と全学生の約半数となっている。家庭に高額な学費の納入が迫られる一方、親世代にはリストラの嵐が吹き荒れている。来年はどうなるかわからない不安定な状況で、いまは収入があっても子どもの学費を負担したくないという親が増えているのだ。

東京私大教連が毎年自宅外通学者への仕送り額の調査をしている。2020年は月8万2400円と過去最低を更新し、仕送り額から家賃を除いた一日あたりの生活費は607円となった。ちなみに親世代が大学生だった1990年は、一日あたりの生活費は2460円である。30年前の75パーセント減という衝撃的な数字となっている。女子学生たちは若さや女性性を換金しないと学生生活を送ることができなくなっているのだ。

■パパ活という「自助」

女子学生たちが続々と参入するパパ活は、お父さんが娘の世代に恋愛を求めて肉体関係となったらお手当をあげる、という市場だ。一歩引いて少しマクロな視点で眺めると、日本はものすごく異常なことになっている。

日本は娘や孫に売春やパパ活をさせる、これは普通ではない事態だ。そして祖父世代はブルセラ少女を買い漁り、父親世代はパパ活女子とセックスを含めた交際をして喜んでいる。どうしてこんなことが起こるのか考えると、国民に指針を与える国が、娘や孫の売春やパパ活を推奨している可能性に思い当たる。売春は違法なので望ましくないが、富の再分配がされるパパ活はポジティブに考えているとしか思えないのだ。

2020年9月16日に自由民主党の菅義偉氏が「自助・共助・公助、そして絆」と国民へのメッセージを掲げた。そして、第99代内閣総理大臣に指名された。メッセージの内容は、まず自分でやり、できなかったら家族や地域が助け合って支えよう。本当の最後の最後にできなかったら、国がセーフティネットで守るという社会像だ。このまず自分でやる「自助」が具体的な現象となったのがパパ活だ。

■パパ活をしないと勉強する権利を得られない

多くの若者たちは高額な学費によって、売春やパパ活をせざるをえない状況に追い込まれている。学費が高騰した理由は、そもそも国が高等教育の公財政支援を減らしたからだ。

公財政支援を減らした代わりに本人や家庭が負担することになった。収入が下がるなかで学費がどんどん上昇し、親は負担しきれなくなり、多くの若者たちは国が勧める大学奨学金の借金を背負った。そして、女子学生たちは最終手段として望まない夜職や売春、パパ活をせざるをえなくなっている。

女子学生たちは勉強するために、国が遠まわしに推奨する自助(パパ活)を頑張っている。

本当は将来の結婚相手と楽しい恋愛をしたいが、欲望に飢えた中年男性の恋愛対象となり、望まない性的関係を結ぶ。男性優位社会で優遇される中年男性の恋人や愛人、セックスフレンドになれば、勉強する権利を与えてあげよう――どうも、そんなことになっているのだ。

■父親が亡くなり学費が払えなくなったパパ活女子

パパ活サイトを通じて、「職業・学生」とあるパパ活女子たちにアポイントをとった。

鈴木綾乃さん(仮名、21歳)はGMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政大学の俗称)に在学する3年生。九州地方出身で大学近くにある家賃7万円の部屋でひとり暮らしをしている。1年前に経済的に支えてくれていた父親が亡くなって、実家は混乱状態だという。

「学費を払ってた父親が……去年の春に亡くなっちゃって。父の遺産から払っていたけど、家族が多いので私ばかりが使うわけにいかない。だから、どうしようって感じです。私は4人兄妹の2番目で、一番下が中学生なので、まだまだお金がかかる。もう3年生なので退学するって選択肢はなくて、苦し紛れにパパ活しているみたいな感じです」

父親からは家賃7万円、仕送り6万円をもらっていた。2年の春に父親が亡くなって、長時間働けるカラオケ店で、みっちりとアルバイトをすることにした。2年時、3年前期の学費は父親の遺産から払って、7万円の家賃は医療関係の仕事をしている母親が仕送りしてくれている。

「生活はできるけど、でも学費って年間100万円とかじゃないですか。さすがにバイトで払えないので、給付の奨学金が欲しいって大学に相談したんです。でも、父が亡くなってるとはいえ離婚してないし、母親の収入があるから全然条件に該当しなくて。母親に申し込んでもらっているけど、貸与型の奨学金も借りれるか微妙のようです。貯金30万円くらいあるけど、学費にするには全然足りないです」

問題のある若い女性のシルエット
写真=iStock.com/Alexey_M
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alexey_M

■友だちから「パパ活やれば?」といわれ…

給付奨学金は家計基準などの条件が厳しく、貧困に近い家庭でないと該当しない。貸与奨学金も親の年収の上限額があり、簡単には借りられない。親の収入だけでなく、資産の報告など、手続きが複雑で親の全面協力がないと申し込みすら困難なのだ。すべての親が子どものために協力するわけではなく、ヒドイ家庭になると、親が子どもの奨学金を使い込んだり、ピンハネしたりする。親の奨学金着服が理由で、在学中や卒業後に風俗で働く女性も珍しくない。

いまの大学生は資金繰りに追われる中小企業の経営者と同じ境遇であり、悩みなく学生生活を謳歌(おうか)しているほうが少数派だ。

「お母さんは看護師なんだけど、これ以上、負担するのは難しいって。私もカラオケボックスで朝から晩まで、夜勤もしたりで働きづめだったけど、コロナでそのバイトもできなくなっちゃいました。もうパニックになって友だちに相談したら、パパ活やれば? っていわれたのがキッカケです」

それまでわからなかったが、大学でパパ活をやっている女の子はたくさんいた。学部のクラスにも、ゼミにも、サークルにもいた。オンラインでパパを探す方法を教えてもらって、綾乃さんはそのままパパ活女子になっている。

「うちの大学ってすごく金持ちみたいなイメージがあるけど、全然そんなことなくて、けっこうみんな学費をどうしようって困っているんです。友だちに相談したら、同じ悩みがあるからすごく話が早くて、解決策はパパ活しかないっていわれました。パパ活をはじめたのは2年の12月から。おじさんとご飯食べるだけで、本当に1万円とか2万円をもらえてビックリしました」

■「肉体関係はどうしても無理です」

パパ活で知り合う男性は40代後半が中心、上は60代。男性の職業は有名企業のサラリーマン、飲食店経営、中小企業の社長などで、待ち合わせ場所に行って一緒にご飯を食べるだけだった。

「関係の進展なしに3回普通にご飯だけ食べたら飽きられるって、友だちからいわれました。それはそうかもって考えたけど、進展させるのは難しいです。そういう気が起こらないというか」

パパ活をはじめに勧めてきたサークルの友だちは、男性を厳選しながら大人の関係をしている。ゼミの友だちは恋愛するフリして、食事デートだけを繰り返していた。綾乃さんは一緒にご飯を食べて、ごちそうさまでしたと挨拶して帰ってきているだけ。なにも考えていなかった。大学で友だちに会うと、パパ活の報告をする。みんな口を揃えて「それじゃあ、長く続かないよ。お金にもならないよ」という。

「パパ活で肉体関係になるって想像したけど、無理です。どうしてもできないと思って、それはしてません。やっぱり、元々カッコいい人が好きだし、細い人が好きなので、おじさんは無理です。おじさんはプロフィールには清潔です、とか書いているけど、ほとんどちょっと小太りで清潔感は感じられない。服が汚いとか、ダサすぎるとか、肌も汚いし」

■ほとんどの人は肉体関係を誘ってくる

綾乃さんは食事のとき、男性の話をおもしろがって聞いている。食事はそれなりに盛りあがる。食事デートを繰り返していれば、関係を進展させようと誘ってくる男性も現れる。肉体関係の誘いは丁重に断っている。「いまのところ、嫌な雰囲気になったことはないです」という。

中村淳彦『パパ活女子』(幻冬舎新書)
中村淳彦『パパ活女子』(幻冬舎新書)

「話が普通におもしろい人もたくさんいて、なので、ご飯食べるのは全然苦じゃない。肌汚いなとか、ちょっと不潔だなとか思いながら食べてます。おじさんの話がおもしろかったことはたくさんで、たとえば飲食経営してる人がフランスに10年間留学して、フランス映画の日本版を翻訳したとか。皇族の誰かと同級生で、皇族の裏話とか。自分の会った女の子の話とか。話は、おもしろいです」

肉体関係は、食事中か、終わって店からでたときに誘われる。「もうちょっと仲良くなってからにしたいです」と先延ばしにしたりしてかわし、ホテルには行かないようにしている。

「大人って言葉は、エッチするって意味みたいで、大人しようっていわれます。でも、ここで私がうーんとか渋い顔をしたり、それは考えてないです、とか返しちゃったら、関係は終わっちゃうじゃないですか。だからもっと親しくなったらとか、次の次くらいにはとか、引っ張れるところまで引っ張って、穏便に断っています。もうダメだってなったら切れるように準備しています。男性はだいたい40代後半の人で、ほとんどの人は肉体関係を誘ってきます」

■「おじさんってお金があるんだなと思って見ています」

最後に男性は、どうして綾乃さんに会いたがるのか、パパ活をすると思うか聞いてみた。

「みんな結婚してるんですよ。だから普通に若い人としゃべりたいのかなって。若い人と一緒にいたいか、若い人とエッチしたいとか。しゃべるだけに価値があるのかわからないけど、普通に楽しそうにしているし、まあいいかって。家庭があっても奥さんと仲が悪くて、お金を払ってもしゃべれる場が欲しいとか、わからないです。でも、おじさんってお金があるんだなと思って見ています」

パパ活をしても食事だけ、関係を進めることはできない。収入はせいぜい月5万円~7万円程度でアルバイトの補塡(ほてん)もできないくらいの金額だ。半期に50万円がかかる学費の問題はまだ解決していないが、大人をするのは「無理だと思う」といっている。

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中村 淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター』(‎コアマガジン)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。

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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)

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