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行員のリストラ進行中に…「豪華すぎる研修施設」を新設する地銀の愚かさ

プレジデントオンライン / 2021年12月8日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/onurdongel

大手地銀による「研修施設」が次々と誕生している。それも、大ホールや宿泊室、食堂などを備えた大規模なものだ。金融アナリストの高橋克英さんは「業績不振のなかにある地銀が豪華な研修施設を新設する必要はあるのか。収益目線が足りないのではないか」という――。

※本稿は、高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

■大手地銀が加盟する「地銀協」の本部建て替え

地銀では今、本店・本部の新築ラッシュが起きている。そして、地銀業界の総本山である地銀協でも本部の建て替えの話が上がっているのだ。

正式には、地銀協は一般社団法人全国地方銀行協会という。設立は1947年、加盟行は現在62行。横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行、福岡銀行といった各県を代表するいわゆる第一地銀、大手地銀といわれる銀行が加盟する由緒ある組織である。

地銀協では、行員向けの研修だけでなく、会員行の意見をとりまとめて提言をしたり、新たな金融商品や経済の動向についての調査・研究などをおこなったりしている。

地銀協の歴代会長は、かつては、大蔵省事務次官出身の横浜銀行頭取と日銀の理事出身の千葉銀行頭取が交互に会長を務めていた時代もあった。だが、いまは有力地銀5行(横浜、静岡、千葉、福岡、常陽)の生え抜きの頭取による1年ごとの輪番制となっており、現在の会長は、静岡銀行の柴田久頭取が務めている。

一部には、シンクタンクとしても業界圧力団体としても、そして銀行員の研修機関としても、中途半端な地銀協の存在意義を問う声もある。

■三鷹の「合同研修所」の売却話も出ている

日本経済新聞(2021年5月31日)によると、地銀協は、老朽化した地方銀行会館(地銀会館)を建て替える検討に入ったという。

日銀本店から至近の距離にある地銀会館は、築60年で、月1回、第一地銀の頭取が一堂に会する定例会合などに使われている地銀協の本部だ。複数の関係者によると、協会側は補修したうえで継続使用、建て替え、売却の3案を理事会に諮ったという。

また、地銀協が持つ合同研修所の売却話も出ているという。

東京駅から三鷹駅までは、JR中央線快速で33分で到着する。三鷹といえば、かつては雑木林や畑が広がり、当地で暮らし1948年に入水自殺した太宰治の墓や記念碑、ゆかりの地跡が点在する場所でもある。雑多な駅南口界隈からタクシーに乗り、バスに自転車に歩行者が溢れる商店街を通り約10分でたどり着くのが、地方銀行研修所(合同研修所)だ。

広大な敷地に中庭を囲んで宿泊施設や独身寮もあり、まるでホテルのように立派である。地銀協によると、個別行で対応が難しい専門的な集合研修を、若手や中堅、管理職、役員などの階層別、法人取引や個人取引など業務別に、計50程度扱っているという。

■売却資金を本部建て替えにあてる計画

しかし、日本経済新聞(2021年1月7日)によると、地銀協は、この合同研修所を売却する検討に入ったという。同研修所は築40年程で、2030年代半ばまでに20億円近くの補修費が必要となる見込みながら、コロナ禍の影響もあり、加盟行から集める利用料で補修費を賄えない見通しになったからだという。

実際、2019年度の稼働率は25パーセント程度にとどまったようだ。地銀協は、この合同研修所を早期に売却し、地銀協の本部を建て替える場合には、この売却で得られる資金もあてる計画だという。

会議で発表を聞きメモを取るビジネスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■大手地銀を中心に豪華な研修施設が続々誕生

地銀協による合同研修所の売却の裏には、老朽化やコロナ禍のほかに、実は、別の大きな理由がある。それは、大手地銀を中心に、自前で巨大な豪華研修施設が続々と誕生しているからだ。

人口減少と低金利下で、構造不況業種といわれ、政府や日銀による圧力もあり、地銀再編が叫ばれ、店舗や人員のリストラが進行しているにもかかわらず、豪華な研修施設の新設とは、本店・本部の新築ラッシュと併せ、なんとも驚くばかりだ。

特に、地銀の「3大豪華研修施設」として、静岡銀行「研修センター」、京都銀行「金融大学校桂川キャンパス」、西日本シティ銀行(福岡市)「ココロ館」が挙げられる。

地銀協の会長行でもある静岡銀行の研修センターは、新本部棟の南側にある8階建てで、360名を収容できる大会議室や、営業店を模したフロア研修室などを備えている。また、200名以上を収容できる宿泊室や、利便性と快適性に配慮した食堂・カフェ・休憩スペースを併設し、「従業員の成長と満足を実現する施設」「さまざまな人材交流を実現する施設」として活用しているという。

■大ホール、最新鋭システムの模擬店舗、図書室、剣道場…

京都銀行では、2014年4月に、約56億円をかけて新研修施設「金融大学校桂川キャンパス」を完成させた。500人を収容できる大ホール、模擬店舗、機械研修室、和室研修室、241名を収容できる宿泊室、食堂、ラウンジなどを備えている。

西日本シティ銀行は、2017年3月、旧研修所などを建て替え、新しい研修所や独身寮などを備えた「ココロ館」を福岡市中央区に開館している。

地上12階地下1階で、敷地面積8583平米、延床面積約1万8200平米に及ぶ。1階にはエントランス、ラウンジのほか、歴史・文化サロン、学習室、行員専用の図書室には金融関係中心に約2500冊の蔵書がある。

2階は、セミナー開催のための大ホール(288席)、研修室があり、広大なルーフガーデンとカフェは地域交流の拠点となるように開放されている。

3、4階には、実際の店舗に導入している最新鋭システムを用いた研修ができる模擬店舗や端末研修室、PC研修室があり、新人向けの研修など、行員の能力向上や専門人材の育成が図られている。

さらに8階から12階には、男女別の独身寮、コミュニケーションスペース、多目的ダイニングなどがあるという。なお、地下1階には、多目的アリーナ(体育館)、剣道場、柔道場まで完備されている。

剣道の練習中
写真=iStock.com/MediaProduction
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MediaProduction

■ほぼすべての地銀が豪華な研修施設を持っている

これら「3大豪華研修施設」以外にも、北海道銀行の「ほしみ研修センター」、滋賀銀行の「しがぎん浜町研修センター」、紀陽銀行(和歌山市)の「紀陽研修センター」、ふくおかFGの「人材開発センター」など、ほとんどすべての地銀が、グラウンドや宿泊施設に模擬店舗や食堂のある立派で豪華な研修施設を所有しているのだ。しかも複数の研修施設を有する地銀も多い。

地銀の雄である横浜銀行も負けていない。2021年3月に、川崎支店が入る「横浜銀行川崎ビル」(地上10階、地下2階建て)内に宿泊研修施設「はまぎんラーニングセンター」を開設している。

研修室が全12室あり、すべての研修室にWeb会議システムを設置しており、リアルとオンラインを組み合わせたハイブリッド型研修も可能である。4階の一部から10階が研修施設であり、カフェテリアや宿泊スペースもあるという。

このように、都心から離れ、不便な三鷹の地銀協の合同研修所を使わなくても、自前の豪華研修施設を競うように新築したことで、合同研修所が、無用の長物になってしまったのが、合同研修所の売却に関する報道の真相といえよう。

■業務の簡略化が進んでいるのに研修をする不思議

ところで、各地銀は、業績不振のなかにあり、店舗の統廃合や人員削減もおこなっていることは繰り返し述べてきた。それにもかかわらず、なぜ、このような豪華研修施設を新設してまで、研修をおこなうことが必要なのだろうか。

自前の豪華研修施設での缶詰研修ではなく、取引のある地元の老舗ホテルや旅館を借り切っておこなうとか、他県にある業務提携先の地銀の取引先ホテルや施設を利用して研修するとかしたほうが、有意義な機会になりそうだが支障があるのだろうか。

銀行員といえば、研修、研修また研修。立派な設備も完備でそれ研修──。銀行業務とは、そんなに複雑かつ難解なのだろうか。

デジタル化や自動化に外注化で、むしろ行員の業務は簡略化されているはずなのに不思議な話だ。または、銀行員は、そんなにも覚えが悪いのだろうか。余計なお世話だが、研修や勉強で得た知識を実践で活かす前に、異動、定年または退職とならないことを願うばかりだ。

■費用対効果やコスト面に意識が向いていない

当たり前だが、何でもかんでも研修すればいい訳ではない。本人のやる気も、適性もある。そもそも練習と実践はまったく違う。どんなに豪華研修施設で座学研修をし、資格を取得したり、ロールプレイングで研修したりしても、実務や実践で役に立つとは限らない。

高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)
高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)

人事部や営業推進部など、本部主導による過剰な受け身研修や勉強会で均質化された銀行員が、百戦錬磨の企業経営者の貸出ニーズ、金融リテラシーの高い富裕層や資産形成層の運用ニーズに対して、どれほど機敏に対応できるのだろうか。はなはだ疑問である。

地銀は、上場する株式会社であるにもかかわらず、研修施設や研修制度の導入が費用対効果やコストの面から語られることもない。ここでも収益目線がないのである。

研修という名の「お勉強ごっこ」ばかりで自己満足してしまい、稼ぐ力が伴わず、業績にほとんど反映できていないといったら、少し言い過ぎだろうか。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『地銀消滅』『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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