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「歩きながら飲む文化がなかった」タピオカミルクティーが日本で大ブームになった本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年12月6日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

台湾発のタピオカミルクティーが日本で爆発的ブームをもたらした背景は何なのか。フリーライターの神田桂一さんは「着席してお茶する文化だった日本で、歩きながら飲むというライフスタイルが輸入された。同じアジアの日本がようやく本当のアジア文化圏に入ってきた」という――。

※本稿は、神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社)の一部を再編集したものです。

■日本人から見た台湾とは

いよいよ僕と台湾の物語も終わりに近づいてきた。最後に僕が取材しようと思ったのは、日本人から台湾はどんなふうに見えているのか、そしてどう思っているのかということ。よく台湾を旅行して帰ってきた人は、台湾人は親切だったとか、台湾は日本みたいで懐かしい風景が広がっていたとか言いがちだけど、もっと本質的なところが知りたいし、イメージのひとり歩きがあるならちゃんとした実像を掴みたい。

そこで僕はひらめいた。長年、台湾を行き来していて、僕の中国語の老師でもある、田中佑典くんに聞いてみればいいんじゃないかと。台湾に通い始めて、7年。僕は2019年になってやっと本腰を入れて中国語を学ぶ決意をした。直接中国語で取材したくなったからだ。たとえその道のりが遠く険しいものだとしても。ちょうど田中くんが「カルチャーゴガク」という中国語の語学講座を開いていたので、連絡をとって申し込むことにしたのだ。

ある日、授業が終わったあとに僕は切り出した。それは、田中くんと歩きながら、僕と本書について話をしているときだった。どんな本なんですか、と田中くんが尋ねてきたのだ。

「えっと、旅行記の要素もありつつ、台湾のアイデンティティの問題にも触れて、それは台湾人からだけではなく、中国人側からの意見も聞いて……」
「それは絶対そのほうがいいですね」

田中くんは言った。そしてこう続けたのだ。

「日本人の意見はないんですか?」

僕はこれ幸いとばかりにこう切り出した。

「うーん、部分的には、日本人にも取材しているけど、日本人の意見の章は今のところないかな。田中くん、取材受けてよ(笑)」

田中くんは、ちょっと驚きつつも一呼吸おいて話しだした。

「いいですよ、僕でよければ!」

なんと快諾してくれたのだった。

後日、授業が終わったあと、そのまま、授業が行われた新宿の喫茶店でこのインタビューは行われた。梅雨には入ったものの、それを忘れさせるような、初夏のような日差しの強い昼下がりだった。

■アジアの日本が他国をアジアと呼ぶ違和感

「もともとアジアが好きだったんですけど、特に中国には幼稚園の頃から興味があったんです。大人になるにつれて、日本もアジアの中に含まれるのに、他国のことをアジアと呼ぶのはなぜか? という違和感が出てきて。自分もアジア人だけれども、アジアに憧れがあった。大学は日芸だったんですけど、その時代、周りはアメリカやフランスに旅行に行っていた。でも自分はタイ、香港に行っていました。

自分はバックパッカーではないけど、アジアにはよく行っていました。タイに行ったときは、日本にはない“アジア”があり、それが非日常的で面白かったんです。その一方、台湾に行ったときは、ちょっと違う感情があった。日本の地方にいるような感覚で、海外旅行をしている感覚にはなりませんでした。例えばサブカル系のお店には、『POPEYE』系の雑誌があって、聞こえる音楽は中国語だけど日本に居るような感覚。

外に出るとオートバイとか夜市があって、日本にはないアジアがあった。自分は緩急にやられて、日常と非日常が絶妙に混在していることに気付いたんです。僕は、旅行を自分の生活に入れていく人間ではなかったんだけど、その中でも台湾は、すごく日常の延長線上にあるんですね。それで台湾は居心地がいいなと感じました」

■台湾は「どこか似ているけど違う国」

初めて台湾に行ったのは、2010年。台湾ブームのはるか昔だ。

「その頃の台湾って、〈61NOTE〉――東さんという人がやっているカフェがあるんですけど、そこが日本人で台湾に住んでいるカルチャー系の人や、日本のカルチャーを求めてやってくる台湾人のたまり場だったんです。そこがきっかけで、出会ったのが〈下北沢世代〉という独立系書店で、当時、その字面にびっくりして。繁体字だから、なんとなく読めるんだけど。

誠品書店でも、「草食系音楽家・星野源VS雑食系音楽家ハナレグミ」みたいなPOPがあってなんとなくわかるけど、そうかな? とか。日本と台湾はどことなくベースとなっているカルチャーは一緒なんだけど、アウトプットにズレがあって、それが漢字も一緒で、中国語を見ると日本語よりもどことなく大げさというか、そういう“わかるけどズレがある”ことに、あっ! と気付くときがすごく面白くて。韓国に行ったときの全くわからない感じとか、香港やタイに行ったときの“別世界”とは違っていて、“近いけど、でも別世界”というようなところが好きになりました」

2016年11月、桃園市・中壢のナイトマーケット
写真=iStock.com/Jui-Chi Chan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jui-Chi Chan

わかる気がした。僕はそれをパラレルワールドと表現した。どこか似ているんだけど違う国。

「まさにパラレルワールドです。僕がやっている『LIP』というカルチャーマガジンを再開していこうと思ったのはその後で、でもそういう世界観を取り上げている雑誌はなくて、当時は女性誌で「週末台湾」をテーマに観光や旅行目線で台湾は紹介されていたけれども、僕が出会ったカルチャー目線の魅力的な人はあまり取り上げられていなかった。

その中でたまっている人間も紹介されていない。そのような人と話すと好きな音楽や好きなカルチャーがあって、やっぱり、あー! と思うことが多くて。でもやっぱりアウトプットしているものは、いい意味でズレがあった。

そのあとで僕は雑誌で“台日系カルチャー”というキャッチコピーからやっていくんですけど、まさに僕が“台日系カルチャー”で何が言いかったかというと、“共有しているカルチャーの中でのズレの編集”で、そのズレが面白くて、その後、雑誌だけではなくてそれ以外でも、コーディネートやプロデュースをしてきたんですけど、何をやってきたかというと、それは“ズレの編集”です」

■日本人にとっての良い台湾は台湾人から笑われる

ズレの話で象徴的なことがあった。日本でも結構話題になったアレだ。

『BRUTUS』特別編集 増補版 台湾(マガジンハウスムック)
『BRUTUS』特別編集 増補版 台湾(マガジンハウスムック)

「台湾で日本の仕事をしていくにあたって面白かったのは、やっぱり日本人からすると台湾の何を求めていて、それを台湾人がどう解釈しているか、そこのズレなんですよね、面白いのは。そこを聞いたりしていて。ちょっと前に、『BRUTUS』の表紙が話題になったじゃないですか。あれはまさにこのことを言っている。

僕が日本人として台湾っていいなって思うことは、台湾人からは笑われるんです。僕が台湾ガイドブックとかを出したときに表紙がポスターになっていて、それが台湾のすごく昔からある文房具とか、それを僕は「ゴミシュラン」と言ったんですけど、台湾の田舎町のおばあちゃんがぼーっといて、やってるかやってないのかわからない雑貨屋さんに行って、ほこりまみれの雑貨とか漁る、そこでメイド・イン・タイワンの面白いものを見つけて、いえーい! とかやっているんですけど、台湾人には笑われるんですよ。何やってんの? とか。

でも僕はそういうのが好きで、例えばご飯屋さんとかのオレンジ色の器で魯肉飯(ルーローハン)をガッ! って食べるのがかっこいいと思って、台湾だけじゃなくて、映画で香港とかでもヤクザが食べるじゃないですか、紙の容器で。僕は単純にそれに憧れを持っていて。それが日本にはなかったりしたんですけど。『BRUTUS』の雑誌もそうだし、東京の蔵前で「台感」っていうお店をやったときに、プラスチックの器で魯肉飯を出したら、台湾人の女の子のスタッフから猛反発されて「やめてくださいよ。台湾にはちゃんとした器とかありますから、そういうの出してくださいよ」って言われたり。日本人が求めているのってあの台湾の汚い市場みたいなものなんです」

台湾スタイルのお弁当
写真=iStock.com/KreangchaiRungfamai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KreangchaiRungfamai

僕らは台湾、アジアに無意識に雑然としたものを求めてしまっている。それは僕らの身勝手な思いで、台湾の人からしたら、「自分の国だけ小綺麗にして、何言ってんだよ」と、迷惑そのものなのかもしれない。バンコクの屋台がなくなると言って嘆き悲しんでいる日本人の感情と同様に。

■台湾は人との繋がりで成り立っている

「情に厚いっていうのと、ほんとコミュニティを大事にしている。つながりだったりとか。お金よりも人脈というか、人との関係性をすごく大事にしている。僕もコーディネートをやるにあたって、それだからこそコーディネートで成り立っているのはあるんですけど。別にいい話だから何でもとか、お金が動く話だからとかではなくて、すごく仲間意識があったりとか。

というのが一つと、SNSのリテラシーが高くて、最初びっくりしたのは、日本でまだFacebookが流行っていなかった2012年に、普通に台湾の田舎のおばちゃんもiPadを持ってて「さよなら」と言ったら、「あなたFacebookやってる? 友だち交換しようよ」とか言ってきてそれで友だちになったりとか、そういうリテラシーとかSNSに対しても意識高いなと思ったし、やっぱり人との繋がりといった部分で全て成り立っていると感じました。

でも、仲間意識が強い分、面倒臭い部分もあるんですよ。結構グループごとでいろいろあるし。そういうのがあるからむしろ僕は変にそこに入らないように移住しないでいたんです。「仲悪いのか。知らなかったごめ〜ん」みたいな。あんま入っちゃうとどっちかになってしまう。あとは距離感が良くも悪くも近い。台湾に4、5日間滞在するとき、一回はご飯を食べに行くじゃないですか。台湾人は一日だけではなく「明日はどうする? 一緒に行こう」となる(笑)。

■熟考の末動き出す日本、まずはやってみる台湾

あと、日本と台湾を比較すると、日本は「衣食住」に対して台湾は「衣食住と“行”」があるんです。これが最大の違いです。“行”っていうのは移動とか交通とかの意味。これが生活の四原則として入っているんです。移動とか交通は、いわゆる“変化”の意味なんじゃないかな。これは中華思想なんです。これは日本とアジアの差で。これは僕らが「アジアっぽいね」といっているところ。

神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社)
神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社)

日本はよく「お変わりないですか?」とか言ったり。“変わらない”ことが一つのよさだったりするんですけど、台湾は変わってないことがよくないというか「まだ同じことやってるの?」とか、どんどん変わっていいし、そういった部分で見切り発進っていうのがある。だから「Uber」とか社会的な新しいこともとりあえずやってみるんですよ。

対して日本は、考えて考えてようやく始める。それはまあ遅いんですけど。台湾は一回やって絶対失敗するんですよ。「エアービーアンドビー」もそうだし、「ETC」もそう。台湾はとにかく早いんですよ。一回失敗してもう一回復活して、世に定着していくんです。

僕の雑誌の『LIP』はもともとリップサービスっていう名前で、文化は全て口から出まかせという意味で、ようは口から全部始まると、まさに台湾的な感じだったんですよ。日本は何かをつくるとき、人様に見せるようになってから始まる。それは僕は日本にとっての美意識だったりすると思うんですけど、まず何か口から出まかせでやって失敗して、失敗しながらアップデートしていってどんどん上に行くみたいな、それが僕はすごく台湾というか、アジア的だと思うんです。

■タピオカブームが日本にもたらしたもの

日本に定着した台湾文化というのもあって、タピオカミルクティ人気があるじゃないですか、あれって歩きながら飲む文化が日本にはなかったんだと思うんです。それまでは、日本は必ず着席する文化だった。あのタピオカミルクティブームはそのライフスタイルの輸入だったんじゃないかと思います。日本の台湾化とも言えます。そういう意味では、日本もようやく本当のアジア文化圏に入って、よりフラットになっていくのかなと思いますね」

喫茶店を出るころには雨が降っていた。僕の台湾に対する違和感を「ズレ」という表現でうまく表現してくれた田中老師にとても感謝していた。

日本人から見た台湾。それは、同時に台湾人から見た日本を意識することでもある。その「ズレ」を認識することで、僕らは相互理解を深めていけるのではないだろうか。理解は誤解の総体と言ったのは村上春樹だが、両国ともに村上春樹好きが多いから、それを前提にうまくコミュニケーションを取れるんだろう。わかり合えやしないってことだけをわかり合うみたいに。そんなことを思いながら、僕は、新宿の雑踏に自ら姿を消した。

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神田 桂一(かんだ・けいいち)
フリーライター
1978年、大阪生まれ。写真週刊誌『FLASH』記者、『マンスリーよしもとプラス』編集を経て、海外放浪の旅へ。帰国後『ニコニコニュース』編集記者として活動し、のちにフリーランスとなる。。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(菊池良との共著、宝島社)、『おーい、丼』(ちくま文庫編集部編、ちくま文庫)。マンガ原作に『めぞん文豪』(菊池良との共著、河尻みつる作画、少年画報社。『ヤングキング』連載中)

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(フリーライター 神田 桂一)

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