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「体が弱った時には生魚と生卵がいい」腸の免疫力向上に欠かせない最重要エネルギー源

プレジデントオンライン / 2021年12月3日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hungryworks

免疫力を高めるためにはどうすればいいか。医師の松生恒夫さんは「グルタミンは免疫反応の中心であるリンパ球の働きを活発化させる。生魚や生卵など、グルタミンを多く含む食べ物を普段から意識的に摂ることをおすすめする」という――。

※本稿は、松生恒夫『健康の9割は腸内環境で決まる』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■腸の専門家が教えるグルタミンの重要性

2020年の春は、新型コロナウイルスが世界中の大問題となりました。この新型コロナウイルスに対する治療薬が存在しないため、多くの人が不安にかられました。こうなると個々の人々が新型コロナウイルスに負けないよう、免疫力をアップしなければなりません。

今もさまざまなメディアで「免疫力をアップするには」ということが論じられています。そして、あるメーカーのヨーグルトを食べるといいなどといわれているのです。

では、免疫の基本となるのは、何なのでしょうか。私自身は、免疫学が専門ではなく、大腸内視鏡検査や胃・十二指腸内視鏡検査を施行することが専門です。そこで私自身が免疫学を理解するうえで調べたことを述べていきたいと思います。

一言で免疫と言っても、どこから述べていけばよいのかわかりませんが、免疫反応の中心のひとつは、リンパ球なのです。このリンパ球が活発に働かなければ、免疫力はアップしません。

では、このリンパ球を活発にするためのエネルギー源(栄養分)は何なのでしょうか。

ここから説明していきたいと思います。実は生魚、生卵に多いグルタミンが、リンパ球を活発にするためのエネルギー源なのです。

つまり腸管免疫力を高めるために、一番意識して摂りたい成分は「グルタミン」です。

■体が弱った時は食事からの摂取が必須

グルタミンは、タンパク質を構成するアミノ酸の一種で、私たちの身近にある食品では、生魚、生肉、生卵、発芽大麦などに豊富に含まれています。

この成分は、かつては「体内で合成できる非必須アミノ酸」つまり、体内にあるものの合成で必要量をまかなえ、食事からの摂取が必ずしも必要ではないアミノ酸と考えられていました。しかし、最近、「ある種の条件下では必須となるアミノ酸」であることが解明されてきています。

どういうことかと言うと、健康な状態であれば、体の中にある他のアミノ酸や筋肉などのタンパク質を使って、人は必要な量のグルタミンを合成できます。私たちの体の中では、毎日、この合成がおこなわれているのです。

しかし、風邪やインフルエンザなどによる発熱、無理なダイエットなどによる栄養不足、がんなどの重い病気、外傷、手術後など、体がストレスを受けた状態、さらには過度の運動後(マラソンランナーなど)では、体内で必要な量を合成できなくなります。

さらに、このような状態では、体が筋肉を崩壊させてグルタミンを作ろうとするので、健康維持のために大切な筋肉までもが崩壊するリスクが生じます。そのため、「ある種の条件下では必須となるアミノ酸」とされるのです。

■人体最大の免疫機関を動かす栄養分

グルタミンの重要性が発見され、その働きが解明されるまでには、学者によるさまざまな調査研究がありました。現在までに明らかになっているグルタミンの働きをまとめると、次の5つが挙げられます。

①小腸粘膜細胞の最大のエネルギー源になる。
②大腸粘膜上皮細胞で2番目に重要なエネルギー源になる(1番目は酪酸=食物繊維が分解されてできる成分)。
③リンパ球などの免疫細胞の発育と増殖を促して、免疫力を高める。
④抗うつ作用がある。
⑤傷口が治るのを促進する作用がある。

なかでも注目すべきは、①、②、③の作用です。

小腸には免疫を担う全身のリンパ球の60パーセント以上が集中しています。その人体最大の免疫器官である腸を動かす栄養分となり、さらにリンパ球そのものの栄養分にもなるのが、グルタミンです。

そのため、体内のグルタミンが不足すると、免疫力も低下してしまいます。逆に、グルタミンを意識して摂っていると、病原菌の侵入などの異常事態が起こったときにも免疫機能が活発に働き、病気になりにくいのです。

■グルタミンと一緒に摂りたいグルタミン酸

グルタミンの働きを詳しく説明しましょう。

まず、①の「小腸粘膜細胞の最大のエネルギー源になる」についてです。「エネルギー源」と聞くと、ブドウ糖を連想する人も多いでしょう。確かに、糖質(炭水化物)が分解された最小単位であるブドウ糖は、人の体の主なエネルギー源です。

しかし、ブドウ糖は、腸管のエネルギー源としてはあまり利用されない、と考えられています。小腸のエネルギー源の割合でいうとブドウ糖は約5~7パーセントにすぎません。

ブドウ糖に代わり、腸管、特に小腸の最大のエネルギー源になるのが、グルタミンです。その割合は全エネルギー源の約50~60パーセントを占めています。

食事から摂取したグルタミンは、小腸で吸収され、免疫機能が集中する小腸粘膜細胞でエネルギー源として使われます。グルタミンが全身の血液循環に入ることはほとんどなく、腸以外の組織では利用されないのです。

たとえば、私たちが食事を摂らずに長期間絶食すると、小腸の粘膜上皮が萎縮し、絨毛(じゅうもう)の高さが短くなります。それにつれて腸関連リンパ組織(GALT)のバリア機能が衰え、全身の免疫力も低下してきます。

これは、絶食によって、小腸粘膜細胞のエネルギー源となるグルタミンの供給が断たれた結果なのです。この状態が続くと、腸管にある病原菌や毒素が血液中に移行しやすくなり(バクテリアルトランスロケーション)、全身の血液循環に病原菌などが入って、病気につながります。

また、このメカニズムでグルタミンとともに働くのが、名前がよく似ている「グルタミン酸」です。グルタミン酸は、小腸の酵素などによってグルタミンからも分解されますが、食品としては、昆布、鰹節、干ししいたけなどに含まれ、和食の「旨味」を作る成分です。グルタミンと一緒にグルタミン酸も意識して摂ると、腸管の働きがますます高まります。

鰹節、干ししいたけ、昆布、小魚
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

■対外から侵入した病原菌対策にも欠かせない

グルタミンの特徴として挙げた、②の「大腸粘膜上皮細胞で2番目に重要なエネルギー源になる」というのも、重要な働きです。

大腸の最大のエネルギー源は、食物繊維が分解されてできる酪酸ですが、その次がグルタミンです。酪酸やグルタミンは、小腸粘膜細胞と同じように、大腸の粘膜上皮が円滑に働くエネルギー源となり、そのバリア機能を増強します。

つまり、グルタミンは小腸で1番目、大腸で2番目のエネルギー源となり、腸全体で見ると、「腸管最大級のエネルギー源」といえるのです。

さらに、③の「リンパ球などの免疫細胞の発育と増殖を促して、免疫力を高める」という働きも、大きなポイントです。グルタミンは小腸粘膜細胞だけでなく、小腸に集中する免疫細胞の栄養分にもなります。つまり、体外から侵入した病原菌など病気の元凶を攻撃して無害化するリンパ球やマクロファージなどが発育・増殖するための栄養になるのです。また、病原菌(抗原)を攻撃するIgA抗体の量を保つ効果があることもわかっています。

グルタミン
写真=iStock.com/ayo888
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ayo888

■マラソン選手がグルタミンのサプリを摂るワケ

マラソンのランナーが、競技終了後に風邪を引きやすいという報告がありますが、これは過度の運動によって、体内で必要な量のグルタミンを合成できなくなったことによる免疫力の低下が関わっていると考えられます。これを防ぐために、競技後にグルタミンのサプリメントを摂る場合もあるようです。

グルタミンのこのような働きを最初に発見したのは、オックスフォード大学のエリック・ニュースホルム博士です。博士は、リンパ球とマクロファージの働きがグルタミン濃度の異なる環境でどう違うかを研究し、グルタミン濃度が低い環境では、リンパ球が正常に分裂しないことと、マクロファージの働きが低下することをつきとめました。逆に、グルタミン濃度を高めると、リンパ球が活発に細胞分裂を始めて増殖し始め、マクロファージの働きも活発化しました。

グルタミンは、免疫細胞そのものの数と働きにも関わっているのです。

少し、話が専門的になりますが、グルタミンに関する近年の研究成果として、「GFO療法」を紹介しておきましょう。

■腸の健康によいとされる3つの成分

GFO療法とは、「グルタミン(Glutamine)・食物繊維(Fiber)・オリゴ糖(Oligosaccharide)療法」の略で、藤田保健衛生大学医学部の東口髙志教授らが開発した方法です。

この療法の注目すべき効果は次の3点です。

①腸管繊毛上皮の萎縮抑制、増殖促進作用、およびそれに伴う免疫機能の促進を認める。
②消化機能を正常化することで便秘に有効。
③腸内細菌を正常化してMRSA腸炎(メチシリン耐性ブドウ球菌腸炎は外科手術後や免疫状態の低下に伴い発症する重篤な腸炎)や偽膜性大腸炎(クロストリジウム・ディフィシル菌と呼ばれる細菌が引き起こす腸炎、抗生物質が原因となって起こる)などにも有効である。

東口教授らはグルタミン9グラム、食物繊維(ポリデキストロース)15グラム、オリゴ糖7.5グラムを3分割して、1回に30~45ミリリットルの水に溶解して、1週間以上の絶食を要した患者に投与して検討しています。その結果、MRSA腸炎の発症率は、GFOを投与した群で約3分の1以下となっていたのです。

また、腸管粘膜の萎縮を見る目的で、代謝酵素のひとつであるDAO(ジアミンオキシダーゼ)活性を測定すると、GFOを投与した群では、ほとんど正常で変化しませんでしたが、投与しないと小腸粘膜が萎縮している可能性が指摘されました。

また、1週間以上の絶食が予測される症例を2群に分けてGFO投与群、GFO非投与群に分類して末梢血中リンパ球数を計測しています。

その結果、GFO投与群31例ではGFO非投与群38例に対して有意にリンパ球数が増加していることを証明しています。つまり、GFOを摂取した方の免疫機能が増加しているのです。腸によいとされる3つの成分を含んだGFO療法の今後に注目です。

■1日にグルタミンはどれくらい必要なのか

これまで、グルタミンの重要性を述べてきました。

では、通常の毎日の食事で摂取できるグルタミン量はどれくらいなのでしょう。それは1日にたった5グラムほどにすぎないと考えられています。

体に感染症や手術などの負担がかかり、食事を摂れないときなどは、1日に20~30グラムほどの補充が必要だとされます。しかし、体が健康なときは、体内のアミノ酸からグルタミンが合成されるため、このように差が出るのでしょう。

しかし、5グラムと20~30グラムの数値の差は、絶食後にすぐにグルタミンが足りなくなることを示しています。

よって、毎日の食事で意識的にグルタミンを摂り、体内にあるグルタミンの量(血液中のグルタミン濃度)を維持することが、腸管の免疫機能を高め、それをキープするために大切なのです。

■タンパク質の多い食べ物はグルタミンも補給できる

グルタミンを多く含む食品は、生魚、生肉、生卵、発芽大麦などの、タンパク質を多く含む食品群です。

1日に何グラム摂ったらよいかは、まだ明らかになっていませんが、毎日の食事で、以下のような良質のタンパク質を含む食品(タンパク質リッチな食品)を意識して摂ると、グルタミンも自然に補給できます。

ただし、グルタミンは40度以上の熱を加えると、成分が変性するため、生または生に近い状態で摂りましょう。

鰹節は75パーセント以上がタンパク質で、グルタミン酸およびイノシン酸などの旨味成分を大量に含むとともに、ビタミンB群に富んでいます。食用として利用する際には、鰹節削り器(鉋(かんな))で削って削り節とするのが伝統的です。現在では荒節から削り出し、密封パックとして販売されています。削り節は豆腐や青菜の煮物などの和食全般に使われますが、削り節をたっぷり振りかけたお好み焼きや焼きそばの愛好者も多くいます。

■魚も卵も「生」で食べるのがおすすめ

牛や豚などの動物の脂は低温で固まってしまいますが、魚は冷たい水の中でも泳ぐため脂肪が固まらない性質があります。しかもEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という血液をサラサラにする成分も多く含まれているのです。魚やアザラシを食べるイヌイットは、肉食のデンマーク人と比較して心疾患の死亡者が極めて少なかったという研究結果もあります。脂肪たっぷりの魚には、特にEPAやDHAは豊富です。

松生恒夫『健康の9割は腸内環境で決まる』(PHP新書)
松生恒夫『健康の9割は腸内環境で決まる』(PHP新書)

ほかにも、魚の身には良質のタンパク質やカルシウム、ビタミンが多く含まれ、腸の働きをよくしたり、リンパ球の栄養分となるグルタミンも多く含まれたりと、健康長寿に欠かせません。魚の油もグルタミンも、熱に弱いので生で食べるのがおすすめです。

タンパク質の構成成分であるアミノ酸にはいくつもの種類がありますが、腸にとって大事な成分が「グルタミン」です。だしなどに含まれるグルタミン酸とは別で(これも腸によいのですが)、生卵や生魚に多く含まれています。グルタミンは腸を動かすエネルギーになるだけでなく、白血球の中にあるリンパ球の栄養分なので、免疫力の増進にも大きな役割を果たしています。

卵そのものも「完全食品」といわれるほど栄養豊富なのですが、腸の健康を意識するのであれば、ぜひ生で食べましょう。

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松生 恒夫(まついけ・つねお)
松生クリニック院長
1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、同大学第三病院、松島病院大腸肛門病センターなどを経て開業。医学博士。便秘外来を設け、5万件以上の大腸内視鏡検査をおこなってきた第一人者。著書に『血糖値は「腸」で下がる』(青春新書インテリジェンス)、『「腸寿」で老いを防ぐ』(平凡社新書)など多数。

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(松生クリニック院長 松生 恒夫)

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