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「さらなる安定と保守を求めて」地方銀行に見切りをつけた若手が"次に選ぶ職場"

プレジデントオンライン / 2021年12月15日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

地方銀行は厳しい状況に置かれている。金融アナリストの高橋克英さんは「地銀に見切りをつけて、多くの世代の銀行員が流出している。元銀行員が選ぶ職場には共通点がある」という――。

※本稿は、高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

■デジタル人材の育成と確保は喫緊の課題

地銀では、人員削減の一環として、新卒採用者数を絞り込んでいる。その一方で、デジタル化に対応できるデジタル人材を揃える必要にも迫られている。

デジタル化に関する研修は、どの地銀も緒についたばかりだ。もっとも、こうしたデジタル人材に関しては、特に、自前の人材をいくら行内研修や外部派遣で育成しようとしても限界があるのも事実である。外部からの中途採用や、既存行員に対して専門職としてのインセンティブ供与が本質的な解決策ともいえる。

フィンテックやキャッシュレスを導入したものの、動かす仕組みを理解し、アップデートできる銀行員は数える程しかなく、結局、提携するシステムベンダーや新興IT企業など異業種に丸投げし、ブラックボックス化するという。基幹システム開発でもみられた過去の二の舞を避けるためにも、自前のデジタル人材の確保は欠かせない。

デジタル人材とは、具体的には、システム企画開発はむろん、クラウド、システム、ビッグデータ、サイバーセキュリティ関連の専門職、データサイエンティスト、金融工学・統計学専門職、アプリなどデジタルプロダクトデザイナーなどを指す。

世間でも大きく批判されたみずほFGの大規模なシステム障害(2021年2月)に隠れているが、同時期に前後して、静岡銀行や鹿児島銀行(鹿児島市)、NTTデータによる地銀アプリなどで、システムトラブルが発生している。メガバンク同様、地銀におけるデジタル人材の育成と確保は喫緊の課題である。

デジタル人材以外では、コンプライアンス専門職、資産運用アドバイザー、事業承継・相続に関する専門職なども、地銀にとってこれから中途採用が必要な人材である。

■あえて地銀を選んでもらうには高待遇が必須

デジタル人材の採用は、比較的若い年代の採用者に高額の報酬を支払うことになるケースが想定されるため、人事制度・職種構成の再構築、人件費の効果的な配賦の見直し、事実上の年功序列制や終身雇用を前提としてきた地銀カルチャーそのものの変化をもたらすことになる。

もっとも、「なぜGAFAや大手DX企業でなく、わざわざ地銀に」「なぜ、起業するのではなく、地銀に就職するのか」という素朴な疑問点が解決されない限り、地銀のデジタル人材の採用は苦戦するはずだ。

優秀とされるデジタル人材にとって、あまたある選択肢のなかで、特別な事情か思い入れがない限り、わざわざ地銀という硬直化した組織に好んで入るもの好きはいないだろう。

解決策は、シンプルながら、高待遇の提示だ。報酬はむろん、デジタル人材が求めるのは自由度だ。業務における権限、勤務体系、勤務時間、副業や兼業是認、福利厚生など柔軟な対応が必要となるだろう。

デジタル人材の受け入れを見越して、地銀各行でも副業・兼業を解禁する動きが出てきている。行員が、自ら経営する事業や起業、業務の委託、他社の役員就任、親族の事業への参加に加え、一定条件のもと他社と雇用契約を結ぶことなどが想定されるだろう。

■いきなり「クリエイティブになれ」と言われても

地銀におけるデジタル化の最大のメリットは、顧客の利便性向上ではなく、人員削減によるコスト削減効果だろう。

銀行は、AIやRPA(ロボットによる業務効率化)導入などに伴う業務量削減によって生じた余剰人員を営業現場に投入し、コンサルティング業務を強化するという。だが、果たして事務やバックオフィス、本部にいた人材が、いきなり営業の最前線で、従来以上に専門知識や顧客配慮が求められる法人向けビジネスや、個人の資産運用の相談において活躍できるのだろうか。また、本人はそれを希望しているのだろうか、という疑問が残る。

いままでずっと長期的な安定を重視し、ジェネラリストとして働いてきた銀行員に、急にコンサルティング力やIT力にクリエイティブまで、すべてを求めるのは酷であり、一種のパワハラだといってもいい。

近年、「ジェネラリストに価値はない。全員がスペシャリストになれ」「これまで比較的単純な作業に従事してきた行員を、よりクリエイティブな仕事に振り向ける」といった銀行トップの発言も目につく。

しかし、事実上の年功序列と終身雇用という暗黙のルールのなかで、2年から3年での異動を繰り返し、様々な研修を受け、色々な職場を体験するジェネラリストを意図的に養成してきた地銀とその行員に、急にそんな大転換が可能なはずもない。

デジタル人材育成のため、行内での研修を充実させるというが、クリエイティブな職種であればあるほど、研修や資格ではカバーできない経験とセンスといったものの比重も大きくなるのだ。

■一律の新卒採用をやめる時が来た

地銀には、デジタル人材の中途採用を強化する一方、新卒採用を原則廃止する施策も必要となろう。銀行業務のスマホ化・デジタル化で店舗が削減され、余剰人員が増えているのに、新卒一括採用を続けるのは背任行為ともいえる。

とりあえず新卒を採用しておくという体質は、とりあえず老朽化した本店や研修所は建て替えておこうという発想と同じで、愚策であり、とりあえず採用された者はたまったものではない。

面接を待つ女性
写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

地銀が、地元での新卒採用を率先して廃止し、通年採用と専門職採用を主とすれば、形骸化している大学生や高校生の就職活動のあり方も大きく改善されるはずだろう。減少しているとはいえ、大量採用をおこなっている地銀には、地域の就活を変える力があるはずだ。

地銀のスマホ化と業績低迷が進むなかで、新卒採用の抑制や定年退職など自然減だけでは対応できず、雇用維持が前提のビジネスモデルは間もなく崩壊する。

その結果、先にも述べたが、中京銀行が先陣をきった早期退職制度という名の人員削減が、現実化している。他の地銀でもこれから雪崩を打って進むことになろう。表向きは、セカンドキャリア支援制度、チャレンジ・キャリア制度、起業・独立応援などもっともらしい前向きな名前となろうが、要は早期退職制度である。

■銀行が「地域の人材供給バンク」になる必要がある

また、限られた予算内で、デジタル人材の採用にあてる高額な人件費を捻出するためにも、銀行の余剰人員に転職を促す仕組みが必要となる。転職・起業独立・キャリア支援に加え、銀行による人材紹介業が解禁されたことで、銀行員に地元企業などへの転職を促す「地域の人材供給バンク」となることも必要となってくる。

銀行による人材紹介業が2018年に解禁され、横浜銀行、広島銀行など多数の地銀が参入している。その多くは、リクルートやパソナなど大手の人材紹介会社と提携し、後継者や人材不足で困っている地銀の取引先企業を、業務提携したリクルートやパソナに繫ぎ、彼らの人材登録リストから最適な人材を紹介する。そして、成約した場合には、地銀は、紹介手数料を受け取るという形になる。

もっとも、この形だと「なぜ、わざわざ地銀を経由する必要があるのか」という疑問が浮かぶ。当然、ダイレクトに大手人材紹介会社に依頼したほうが、早くてシンプルだ。メインバンクである地銀には知られたくない、という取引先も多いからである。

多くの地銀は勘違いをしているが、地銀による人材紹介業務の本丸は、銀行員を人材登録し、地元の取引先などに供給することにある。

若手行員から脂の乗った中間管理職や幹部行員を、幹部候補、管理職、財務・経理職、金融・不動産営業職、経営コンサルタントといった形で、後継者不足や人材不足に悩む地元の中小企業や新興企業などに紹介するのだ。

■地域の労働流動性を生み出すことが地方創生だ

この結果、地銀は、適正人員を実現できるだけでなく、人件費の圧縮と人材紹介手数料の収入を得ることもできる。人材不足に悩む地元の企業にとっても問題解決になる。もちろん、当の行員本人にとっても悪い話ではないはずだ。地域社会全体での適材適所の実現といった効果も期待できよう。

「企業はいま、モノやカネではなくヒトを求めている」という環境からも、地銀がその豊富な人材を派遣して、人手不足に悩む地元中小企業への「地域の人材供給バンク」となれるだろう。

デジタルマーケティングと顧客
写真=iStock.com/tadamichi
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後継者不足や財務などの専門家不足に悩む地元企業、介護職不足に悩む地元社会への人材供給による地域の労働流動性を生み出すことこそ、いま地銀ができる地方創生であり地域貢献ではないだろうか。

労働流動性の創出には別の効用もある。政府主導で働き方改革が進められているが、その施策の多くは、機能しているとは言い難い。残念ながら、どんなに啓蒙したり、規制したりしても、パワハラもセクハラも超過残業も不正もなくならない。地銀においても例外ではない。SNSや週刊誌などには真偽は不明ながら、多くの地銀の事例や告発内容などが掲載されている。

これら深刻な問題の唯一の解決策は、「イヤなら辞められる」環境を整えること、つまり、いつでも転職できるという労働流動性の創出に尽きるのではないだろうか。イヤなのに辞められないから、当人は我慢して問題が深刻化し、相手(企業や上司、同僚など)もつけ上がることになるのではないだろうか。

■雇用維持を前提にしたビジネスモデルは諦めるべきだ

地銀にとって人員の削減は不可避の状況ながら、むろん、人員削減は簡単におこなうべきものではない。

地銀にとって、新卒採用して、多くの研修・勉強会を施し、資格取得を支援し、福利厚生を充実させてきた人材である以上は、経営の根幹を成す大切な資源となる。

一方で、人材への支援を充実させ丸抱えすればするほど、人材は手放せなくなる。経費もかかる。実際、第一地銀全体の経費2兆2000億円のうち、人件費は1兆1000億円で49.3パーセントとほぼ半分を占めている(2020年度)。ちなみに、ネット銀行大手の一角である大和ネクスト銀行の営業経費に占める人件費の割合は、なんと17.0パーセントに過ぎない(2020年度)。

地銀は、雇用維持→店舗維持→貸出量の追求→競争激化→金利低下→収益低下→コスト削減→商品・サービスの低下→顧客離反→店舗と雇用の維持が困難、という悪循環に陥っているのだ。

もう人材を過保護に最後まで囲わないことだ。多様な雇用形態が生まれている現在社会において、地銀は、雇用維持を前提としたビジネスモデルからの脱却を決断する時期に来ている。

多様な働き方を受け入れ、勤務時間ではなく、生産性や成果で評価される人事体系を作るしかない。そして、組織の肥大化や会議の重複化の是正、株式会社として収益や業績をより意識した経営を目指すことが必要になる。

根本的な、職場の構造や銀行カルチャーを変えない限り、地銀の内部崩壊は進み、「地銀消滅」へのカウントダウンが止まることはないだろう。

■地方銀行員が県庁や市役所に転職している

三重苦に苦しむ銀行に見切りをつけて、地銀でも多くの世代の銀行員の流出が続いている。20代から30代だけでなく、40代にも及んでいる。実際、「銀行員、転職」とネットやスマホで検索すると、ずらりと様々な転職サイトやSNSの体験談やアドバイスが出てくる。

かつての銀行員の転職や退職では、家業を継ぐことを除けば、銀行から銀行、銀行から証券会社や外資系金融会社などが主流だったが、いまは様変わりをしたようだ。

高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)
高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)

流行りのスタートアップ企業やベンチャー企業の立ち上げや独立、コンサルティング会社やDX企業に転職かというと、メガバンクはともかく、地銀ではそうではないという。

地銀の場合、県庁や市役所といった地元の自治体や、JAバンクグループや日本政策金融公庫などの政府系金融機関などに転職するケースが増えているというのだ。自治体採用においては、20代であれば、一般的な公務員試験を、30代や40代であれば、社会人経験者採用枠をパスして採用されたりするということだ。

地銀を選んだ若者は、あくまで保守王道を極めるため、より保守的な転職先を選んでいるのが興味深い。もともと、地元では保守的で安定的だった地銀を見限り、さらなる安定と保守を求めるという。若手行員の嗅覚は敏感である。

地銀はともかく、確かに、県庁、市役所、JAバンク、政府系金融機関がこの先も簡単に消滅することはないだろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『地銀消滅』『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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