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西野亮廣「映画、ドラマ、音楽も…日本のエンタメが韓国に負け続ける根本理由」

プレジデントオンライン / 2021年12月3日 18時15分

撮影=森本真哉

イカゲーム、梨泰院クラス、BTSなど韓国エンタメが世界でヒットを飛ばしている。なぜ日本のエンタメは韓国の後塵を拝することになったのか。初めて製作総指揮を務めた映画『えんとつ町のプペル』が国内で170万人を動員し、さらにカタールのアジャル映画祭でMohaq部門 最優秀長編映画賞を受賞するなど、海外でも評価の高い西野亮廣さんに聞いた――。(前編/全2回)

■狙わないと世界一にはなれない

——アジャル国際映画祭の最優秀長編映画賞受賞、おめでとうございます。西野さんは25歳から海外を狙うと宣言されて、映画『えんとつ町のプペル』ではそれを実現させました。そもそも海外を目指した理由はなんだったのでしょうか?

【西野】もともと僕は「世界で一番おもしろくなりたいなぁ」と思って芸人からスタートしました。それでテレビや舞台をがんばっていたのですが、あるとき、ふと、「このまま、この道を走ったとして、世界一になることが可能なんだっけ?」と疑問に思いました。

もちろん例外もありますが、日本語に依存した活動をしている時点で、基本的には海をまたぐことはありません。

あと、自分がプレイヤーとしての才能は無いということは、さすがに5年も活動していれば分かります。だからといって、作り手として才能があるのかはわからないのですが、少なくともプレーヤーとしての可能性が無いことはわかったので、もうやめようと。

そんなこんなで、次に始めるときには世界に続くレールに乗らないとだめだなって、まずは「非言語のエンタメ」か、「翻訳のハードルが極めて低いエンタメ」を“創る”ことに手を出そうと思って、辿り着いたのが「絵本」でした。

——世界に挑むための手段として絵本を選ばれたんですね。

【西野】はい。25歳でタレント活動から軸足を抜くことを決めてからは、「世界で戦うにはどうしたらいいのだろう?」と考えるようになりました。「世界一」はたまたま獲れるようなものでもなさそうなので、まずは優位性を探りました。

「日本は何が強いのだろうか?」という問いです。

エンターテインメント(以下、エンタメ)に限らず、すべてのジャンルのなかで「日本が勝っているものは何なのだろう?」と考えたときに、「制限がある勝負」「規格が統治された勝負」は善戦しているなと。

スポーツでたとえるなら体重別のスポーツ。「55kg級で世界一を競ってください」というようなものだったら結構勝てていますし、料理なんかもそうですね。「この素材を使って一番おいしいものをつくってください」といったときにも世界で勝てている。日本人は工夫力みたいなものは、非常に優れている。そもそも、真面目だし。そういう強みが発揮できる分野に挑めばいいのだろうなと思いました。

「工夫力がモノをいう場所」を言い換えると、「大資本が力を出せない場所」ですね。

最初から映画で世界に挑もうとしたら、ハリウッドやディズニーという大資本と同じ土俵で戦わないといけません。絵本は紙でつくるという制約があるので、100億円の予算はかけられない。絵本ならシンプルに才能勝負になるなと思って、それなら勝ち目はありそうです。

くれぐれも僕に才能があるとかそういう話ではなく、「才能勝負に持ち込んだら可能性がゼロではない」ということです。25歳のガキが予算無制限のエンタメで勝負をかけたら、負けるのは確実なので(笑)。

■日本人のお金リテラシーの低さがエンタメを殺す

——西野さんはご自身の夢として世界に挑んできたわけですが、その間に日本は、国策としてエンターテインメント産業を育成した韓国に水をあけられていきました。西野さんは、いまの日本のエンタメ業界をどのように見ていますか?

【西野】あんまり元気じゃないのは間違いないですよね。

その原因を考えてみると、クオリティに問題があるというよりも、「日本人のお金リテラシーが絶望的に低い」というのはあると思っています。お客さんだけでなく、クリエイターも含めてです。お金リテラシーが低い、いまの日本の土壌では、おもしろいものはつくれないんだろうなと思っています。

たとえば、来年1月に上演する「プペル~天明の護美人間」で3万円のSS席というのをつくったんです。かぶりつきで見られる特等席を3万円で売ると、売り上げが確保できて、3000円の席をつくることができて、歌舞伎のハードルをグッと下げることができます。それに対して、どこかの頭の悪いメディアが「プペル歌舞伎は高い!」というニュースを出していました。ミスリードでアクセス数を稼ぐメディアの品の悪さは今に始まった話ではありませんが、お金リテラシーの低い人が、その記事を鵜呑みにしてしまい、「プペル歌舞伎は高い!」という批判を起こしてしまう。

11月22日、東京キネマ倶楽部で行われた新作歌舞伎「プペル~天明の護美人間~」制作発表記者会見の様子。主演の市川海老蔵さんと。
11月22日、東京キネマ倶楽部で行われた新作歌舞伎「プペル~天明の護美人間~」制作発表記者会見の様子。主演の市川海老蔵さんと。(写真提供=CHIMNEY TOWN)

それって、「累進課税をてやめて、一律課税でいけー!」と叫んでいるようなもので、3万円のSS席を作らなかったら、ほかの席が4500円とか5000円になってしまう。すると、歌舞伎を見るハードルがあがってしまうから、新規のお客さんが入ってこない。これって小学生でもできる算数なのですが、お金教育をトコトンしてこなかった日本人には通用しない。こういうリテラシーの低さでとりこぼしているチャンスがめちゃくちゃあると思っています。

VIP席を作ったことがニュースになって騒いでしまうのって、本当に日本くらいです。飛行機のビジネスクラスとファーストクラスのことは知っているのに、ビジネスクラスとファーストクラスの売り上げで飛行機が飛んでいることは知らない。だけど、「VIP価格はなしでいこうよ」となると、チケット代が高くなって新規のお客さんは増えないし、制作費も減っていきます。

これだけではありませんが、日本人のお金リテラシーの低さから、日本のエンタメは海外勢にお金でマウントを取られてしまっている。韓国のアイドルグループがミュージックビデオをつくるときに、1億円ですと。一方、日本のアイドルグループは500万円でつくってくださいといわれたときに、同じダンスのクオリティだとしたら、韓国側に軍配があがってしまうので。

■日本なりの予算の作り方を考えないといけない

——韓国に負けているのは、国の支援がないというところが大きいでしょうか?

【西野】それもあると思うのですが、国がエンタメを支援してくれないのは、昨日、今日、始まった話ではなくて、何十年も続いている話です。もともとわかっていることなのだから、手を打たなければいけない。日本なりの予算作りの議論をしていかないといけないと思います。

「従来の方法以外で予算をつくる」となれば、当然、これまで売っていなかったものを売らなくてはいけなくなります。自分たちはよく「制作過程」を売ってるんですけど、そこに反発があるんですよ。「そんなのを売ってはダメだ」と。お客さんだけでなく、クリエイター側からも。

制作過程も、DVDの特典で売るのはいいという(苦笑)。なぜ、それがよくて、オンラインで制作過程を売るのはダメなのっていう話なのですが。

——不思議ですね。

【西野】批判する人は感情で反応してしまっているので、理屈は完全に破綻しています。理詰めしていくと確実にゲロを吐くと思います(笑)。

日本人が新しいことや知らないものを叩いてしまうっていうのはすごくあって。いつもなぜなんだろうと考えるのですが、一つ、島国の性格もあるかもしれません。大陸はウエルカムじゃないですか。「なるほど」と受け入れるところから始まって、咀嚼(そしゃく)してから是非(ぜひ)を決める。

僕、10年ほど前に「制作過程を販売して、アウトプットは無料でいい」って言ったんです。アウトプットは制作過程を売るためのチラシであると。チラシであるからといって手を抜くということじゃないですよ。当時、コロンビアに行った時に、地元の美術大学で「インターネットによって情報や技術が共有されると、いずれ成果物の品質に差がなくなり、成果物はお金にならなくなるから、制作過程を売っていくことを学んだ方がいいよね」という講義をしたんです。そうしたら、みんな「うわ、なるほど!」って納得してくれた。だけど、同じ話を日本ですると「何言っているの?」「プロセスを売る?」「詐欺なの?」「宗教ですか?」みたいになって、全然聞いてくれないという(苦笑)。

■「クリエイターの予算獲得手段はある」

——日本人の国民性によってエンタメ業界が苦しくなっていっているということですか?

【西野】それは間違いなくあると思います。

国の支援がなくても、自分たちで予算をつくる選択肢はあったわけですから。

僕は2013年にクラウドファンディングでニューヨークの個展の開催費用を集めていたし、2016年から制作過程を売るオンラインサロンを始めていました。だけど、そのたびに「ネット乞食だ」「詐欺だ」「宗教だ」と言われて炎上していたので、それを見ていたクリエイターさんはなかなか後に続けないですよね。自分は無視できるタイプだから平気ですけど。

海外勢に比べて、日本人がクリエイティブの面で負けていると思ったことはありません。

今回、映画『えんとつ町のプペル』がノミネートされたフランスのアヌシー国際映画祭でも最終ノミネート作品の中の10本中3本が日本の映画でした。世界に約200カ国あるなかで、そんな国は日本くらいで、とても素晴らしいことだと思います。シルク・ドゥ・ソレイユや海外のアニメーションスタジオで活躍している日本人もたくさんいて、皆さん、高い評価を得ています。

だけど、日本国内では、日本人がクリエイターの予算獲得手段をつぶして、才能を殺していっている。その間に韓国ではBTSが、制作過程を売って大成功を収めていたりして。日本でも最近になって「これからは制作過程を売るプロセスエコノミー」だって言い始めましたが、そんなもの10年前からあった打ち手なのですが、そういったチャンスを、ことごとく日本人がつぶした。

もう少し素直に時代に耳を傾けるといいのかもしれません。

■舞台役者はバイトしないと食べられない日本

——才能が殺されているというお話でしたが、いま、クリエイターさんが食べていくのは厳しいのでしょうか。

【西野】食べていけるのは、ごく一部の人だけですね。

たとえば、舞台役者さんは稽古を1カ月くらいするのですが、その間に稽古代は基本的に支払われない。無収入なんです。それが当たり前になっているけど、僕は反対です。なので映画のあとに脚本・演出でかかわったファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」では、稽古代を出すと最初から決めていました。

ファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」
©CHIMNEY TOWN
ファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」 - ©CHIMNEY TOWN

稽古代を出すと決めたら、当然、カンパニーとしては稽古代分の売り上げをつくらないといけません。だけど、そのための取り組みを日本人は叩いてしまう。しかも、叩くのは演劇ファンだったりするので。先ほどから申し上げている日本人の定番ギャグ「なんかよく分からないけど、そんなの良くない」です。

そのときに、ファンの声を無視できるカンパニーだったり、プロデューサーがいるといい。矢面に立って批判を受け止める人です。「あれは西野がやっていて、西野が全て悪い」となって、キャストさんが批判されないよう持って行ければいい。だけど、皆、自分が可愛いので、そういう役目を引き受ける人は、なかなかいません。結果、役者さんがアルバイトとかしながら舞台に立っている。これは健康的な状態とはいえないです。

■挑戦を叩くのをやめないと手遅れになる

——批判を恐れずに挑戦すれば、日本のクリエイターは食べていけるし、世界でも戦っていけるということですね。

【西野】はい、そうです。

人口が減ってきて国内市場が縮小していってはいますが、いまだって日本市場は決して小さくない。世界で11番目に人口が多い国なので、新しいビジネスモデルをつくることができれば、クリエイターは国内市場でも十分食べていけるし、世界を圧倒する作品もつくっていける。

海外勢に比べて負けているのは、ビジネスモデルだけなので。だから、ビジネスモデルをつくる議論をクリエイターがきちんとして、新しい提案をする人を叩くのをやめる。もうそろそろやめないと、本当に日本の才能が死んでいってしまう。

ちなみに、これは「僕を叩かないでね」という話ではないですよ。僕はメディアやアンチに叩かれることで競合が減っているので、得をしている人間です。だけど、日本全体を見渡したら、マイナスになるから、もういい加減やめようよと。それは本当に思いますね。

(後編に続く)

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西野 亮廣(にしの・あきひろ)
お笑い芸人、著作家
1980年兵庫県生まれ。99年梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成。2000年、コンビ結成5カ月後にNHK上方漫才コンテスト最優勝を受賞。05年当時の代表番組『はねるのトビラ』ゴールデン進出時に、絵本制作に取りかかる。4年の歳月をかけて初の絵本『Dr.インクの星空キネマ』を09年に上梓。そのほか国内外の個展、小説・ビジネス本執筆、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰するほか、美術館建設など幅広く活躍。著書に『えんとつ町のブぺル』(幻冬舎)『ゴミ人間 日本中から笑われた夢がある』(KADOKAWA)など。2020年12月に公開された映画「えんとつ町のプペル」は170万人を動員、興行収入24億円の大ヒットを記録。第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞したほか、第1回アジア・パシフィック・ヤング・オーディエンス・アワード、アジャル国際映画祭最優秀長編映画賞受賞など、世界でも高い評価を得ている。

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(お笑い芸人、著作家 西野 亮廣 構成=プレジデントオンライン編集部)

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