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「アメリカ最高のCEOはアマゾン創業者である」伝説の投資家バフェットはなぜそう断言したのか

プレジデントオンライン / 2021年12月4日 11時15分

ブリッジのゲーム中に話すウォーレン・バフェット(2019年5月5日、持株会社バークシャー・ハサウェイの株主総会にて) - 写真=AP/アフロ

10兆円以上の個人資産をもつ伝説の投資家ウォーレン・バフェットは、グーグル、アマゾン、フェイスブックなどのIT企業を原則として投資対象としていない。だが、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスについては「アメリカ最高のCEO」と褒めちぎっている。バフェットはベゾスのどこを評価しているのか――。

※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」 資産10兆円の投資家は世界をどう見ているのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■アップルやマイクロソフトは買っているが……

バフェットはマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツとは長年の友人であり、自身が経営するバークシャー・ハサウェイはアップルの株を大量に保有するなど、巨大IT企業と無縁ではありません。その一方で、グーグル(親会社はアルファベット)やアマゾン、フェイスブック、テスラモーターズなどには特段の関心を示していません。

バフェットにとってiPhoneやMacなどを販売するアップルは「メーカー」であり、その圧倒的なブランド力も含めて長期間にわたって保有したい企業であるのに対し、グーグルやアマゾンなどはやはり「能力の輪の外」(『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」 資産10兆円の投資家は世界をどう見ているのか』中の「哲学3」参照。自身が真に理解できる範囲、すなわち投資可能な範囲を超えているという意味)にいる企業なのでしょう。

今後はグーグルがiPhoneに対抗する高額のスマートフォン(ハイエンドモデルのPixel 6とPixel 6 Pro)を発売したり、アマゾンが小型の百貨店を出店したりといった、バフェットの理解が及ぶ戦略もとるだけに、将来的にはどうなるかはわかりませんが、少なくとも今の段階では、バフェットの「能力の輪の中」に入ることはなさそうです。

こう書くとアップルを除くGAFAとバフェットは縁がないかのように誤解する人もいますが、GAFAの創業者たちにバフェットが与えた影響はとても大きなものがあります。

■「ウォーレン・バフェットは言っています」

グーグルは2004年に株式を公開していますが、そのやり方はウォール街の常識に反するものばかりでした。創業以来、「常識を疑う」ことでグーグルを成長させてきたラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンらしいやり方でしたが、2人は自分たちの経営のやり方を正当化するためにバフェットの言葉を引用しています。

桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」 資産10兆円の投資家は世界をどう見ているのか』(KADOKAWA)
桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」 資産10兆円の投資家は世界をどう見ているのか』(KADOKAWA)

2004年4月、証券取引委員会に新規公開株式を申請した際に開示したグーグルの財務状況や業務の詳細と一緒に、2人は自分たちの経営姿勢を示す手紙を添付、その中でこう書いています。

「経営チームがさまざまな短期的な目的に気を散らすのは、ダイエット中の人が三十分ごとに体重計に乗るのと同じくらい的外れなことです。ウォーレン・バフェットは言っています、四半期や一年の業績を『わたしたちが平らにすることはない』。決算の数字が本社に届くときにでこぼこしているのなら、あなたに届くときもそれはでこぼこしているのです」(『Google誕生 ガレージで生まれたサーチ・モンスター』デビッド・ヴァイス、マーク・マルシード著、田村理香訳、イースト・プレス)

それはグーグルの創業者2人の「長期的に最善であると思えることなら何でもする」という意思表示であり、バフェットが長く関わってきた『ワシントン・ポスト』同様に、付与される議決権が異なる2種類の株(A株とB株)を発行することにより、創業者である自分たちの経営権を確固たるものにして、グーグルの経営をウォール街の好きにはさせないという決意表明でもありました。それを正当化するためにバフェットの力を借りたのです。

■目先の株価が下がっても動じる必要はない

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスもまた、会社が困難に直面した時にバフェットの力を借りています。1994年に創業し、95年からサービスを開始したアマゾンはわずか2年後の97年5月に株式を公開しています。当時はネットバブルの時代であり、スティーブ・ジョブズ率いるピクサーなどもこの頃に上場するなど、利益が出ているかどうかよりも会社の成長性が重視された時代です。

当時、アマゾンは「インターネットのイメージキャラクター」であり、べゾスも「時の人」としてもてはやされましたが、2000年にネットバブルが崩壊したことでアマゾンの株価は106ドルをピークに下がり続け、2000年6月には33ドルにまで下がっていました。

財務チャートの分析中
写真=iStock.com/tntemerson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tntemerson

当然、社内には動揺が広がり、ウォール街からは利益を出すようにという圧力が強まりますが、この時、ベゾスは全社集会で「株価が30%上がったからといって30%頭がよくなったと君たちが感じることはないはずだ。それなら、株価が下がったときも、30%頭が悪くなったと感じなくていいだろう」と呼びかけるとともに、バフェットがしばしば引用していたベンジャミン・グレアムの言葉を紹介しています。
「株式市場というものは、短期的には投票機、長期的にははかりである」(『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』ブラッド・ストーン著、井口耕二訳、日経BP社)

バフェットが指摘しているように、株式市場というのは気まぐれなもので、その企業の価値に相応しい株価が常につくわけではありません。しかし長期的に見れば、会社が持つ真の価値が株価に反映されるだけに、目先の株価に振り回されてはいけないというのがバフェットの考え方でした。

■ベゾスを「アメリカ最高のCEO」と評価

当時、ベゾスはバフェットについて「だいたいウォーレンの言うことには耳を傾けないといけないんだ。かなり手厳しいことを言うが、何しろ天才だし、これまでずっと言うことが当たってきた」(『スノーボール(改訂新版)〔下〕』アリス・シュローダー著、伏見威蕃訳、日経ビジネス人文庫)と高く評価しています。

そして2012年に『ワシントン・ポスト』の社主であるドナルド・グラハムが会社の売却を考えた際、株主で相談相手でもあるバフェットに何人かのリストを見せて誰が相応しいかを尋ねたところ、バフェットはベゾスを「アメリカ最高のCEO」と評価、その後、アマゾンではなくべゾス個人への売却がまとまっています。

■ザッカーバーグもバフェットの「孫弟子」

フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグとバフェットに直接の接点はありませんが、ザッカーバーグは、バフェットからさまざまな教えを受けたドナルド・グラハム(ワシントン・ポスト社主の後、フェイスブックの独立取締役)から、CEOとしての心得を教えてもらっています。

バフェットは、ドナルドの母親であるキャサリン・グラハム(元ワシントン・ポスト社主)の相談相手でもありました。大学の学生寮で起業したザッカーバーグは創業からしばらくして、「会社のCEOになるのは、大学の寮で誰かと同室になるのとは大分違う経験だ」と気づき、グラハムに「ポストを訪問してCEOとしての仕事ぶりを見学させてもらえないだろうか」(『フェイスブック 若き天才の野望(5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』デビッド・カークパトリック著、滑川海彦、高橋信夫訳、日経BP社)と依頼、数日をグラハムと一緒に過ごしています。

ザッカーバーグはこの時多くを学んでいますが、なかでも、ワシントン・ポストの株式がA株とB株に分かれていて、会社を長期的な視点で経営するためにはこうした制度が有効であることを知り、「将来、このような仕組みが必要になる」と感じています。

バフェットは日々の株価がどうか、四半期決算がどうか、また業績見通しがどうで、見通しと実績の差異がどうだといった細かなことには関心を示しません。ウォール街の人々はこうした数字に一喜一憂し、四半期決算の数字が見通しと比べて良かったか悪かったか、来年度の見通しはどうかといった一つひとつを自分たちの商売の種にしようとします。

もちろんバフェットは、利益を出す必要などないと考えているわけではありません。求めているのは、目先の利益や目先の株価に一喜一憂することなく、会社そのものの価値を高めることであり、長期にわたってみんなが必要とするものをつくり、サービスを提供することです。

そんなバフェットの考え方や、バークシャー・ハサウェイやワシントン・ポストが行っているA株とB株に分けるような長期的視点での経営を可能にする会社の経営手法は、グーグルやアマゾン、フェイスブックなどに強い影響を与え、これら企業の急成長を後押しすることになったのです。

■2011年11月、東日本大震災後の日本を訪れていた

バフェットは日本食が大の苦手で、かつてソニー創業者の盛田昭夫さんとの食事では出された日本食にまったく手をつけることができなかったほどです。もっとも、以前からソニーには興味があったようで、2000年に行われた『日経ビジネス』のインタビューでは「ソニー株に興味はあるが、割高」と購入を見送る姿勢を示しています。

日本株よりも韓国株や中国株への関心が高かったというのも事実ですが、そんなバフェットが福島県いわき市の工具メーカーの新工場完成式典に出席するために初来日したのは2011年11月だったというのは驚きです。

同年3月、日本では東日本大震災が起きており、原発事故の影響もあって、多くの外国人が日本を離れたり、来日をためらったりするなか、バフェットはあえて日本に来ています。その少し前にはテスラモーターズとスペースXを率いるイーロン・マスクも来日、福島を訪れて太陽光発電の設備を寄贈していますが、こうした勇気ある行動は日本人を励ますものとなりました。

当時の日本企業を取り巻く環境はとても厳しいものでした。輸出産業にとって急速に進む円高ドル安に加え、ユーロ安も加わったことで、かつて頼みとした欧米市場は利益の出にくい市場と化していました。韓国企業や中国企業、台湾企業の躍進も著しく、かつて日本が得意とした半導体や電気製品などの分野でも苦しい戦いを強いられていた時期です。

少子高齢化によって進む国内市場の縮小と、厳しい輸出環境に、さらなるダメージを与えたのが東日本大震災でした。これだけ悪条件が重なれば、日本企業の将来に悲観的にならざるを得ないところですが、初来日したバフェットは投資先の企業の設備の見事さや、社員の優秀さを称賛したうえで、「日本人や日本の産業に対する私の見方は変わっていません」として、次のように言い切っています。

自分たちが本当にやりたいのは日本の大企業の買収であり、「もし日本の大企業から明日電話をもらって、バークシャーに買収してほしいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐ駆けつけますよ」(『日経ヴェリタス』No.194、日本経済新聞社)

■「日本は前に進むことをやめない国だ」

日本の株式市場が長い低迷から抜け出せないなか、なぜバフェットはこれだけ自信を持って日本企業への投資を言い切れたのでしょうか。彼は、会見でこう話しました。「私だけではないと思いますが、世界中の人たちが今回の震災および原子力発電所事故後の日本を見て、やはり日本は前に進むことをやめない国だなという気持ちを新たにしたと思っています」

震災を経てもなお、バフェットの日本に対する見方は変わっていませんでした。社会や消費者にとってなくてはならないものをつくる会社で、長期にわたって競争力を持つことのできる企業であれば喜んで投資したい、というのがバフェットの考えでした。

株式市場でディスカッション
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

■コロナ禍のなかで日本の五大商社に投資

それから9年近く経った2020年8月、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の五大総合商社の株式取得を発表したことが大きなニュースになりました。

金額にして約60億ドルの投資です。バフェットにとっては、日本への投資としては過去最大級のものでした。しかし、その後、5社すべての株価が値下がりしたことで、「なぜバフェットは今さら日本の商社に投資するのか?」という疑問の声が聞かれるようになりました。バフェットは自らの口ではっきりとその理由を説明していません。

世界的なコロナ禍によって商品需要が損なわれ、有り余ったお金がバリュー(割安)株よりもグロース(成長)株へと向かうなか、日本の商社株は利益を上げていても、株式市場では取り残された存在となりました。しかし、ワクチン開発などで少しずつ落ち着きを取り戻していた世界で、忘れられていた分野の割安株が再評価されるようになるのではという期待から、バフェットは投資に踏み切ったのではないかと考えられています。

実際、バフェットは5%の持ち株比率を10%近くに高める可能性もあると認めたうえで、「将来、お互いに利点があることをしたい」(『日経ESG』、日経BP)とも話していただけに、その可能性を感じていたのでしょう。

■資産構成をよりグローバルにする一環か

翌2021年2月、バフェットはバークシャー・ハサウェイ恒例の「株主への手紙」を公開しましたが、それによると同社の上場株の保有額上位15銘柄には、日本企業として初めて伊藤忠商事が入ることになりました。保有額は23億ドルで、保有比率は約5%でしたが、バフェットは同社に関しては約5億ドルの含み益があると明かしています。

バフェットはアメリカの経済が弱体化すると見ているわけではありません。しかし、上位15銘柄には他にも中国の電気自動車メーカーのBYDが入るなど、それまでのアメリカ株偏重から少しずつ脱しつつあるようにも思えます。日本の五大商社への投資も、割安株だったことに加え、資産構成のバランスを変えていく一環とも考えられます。

震災後の福島を訪問した際、バフェットは被災地の人々を励まし、地元メディアの要請に応えて、「頑張っぺ、福島」(『日経ESG』)と日本語でも応援したといわれていますが、主要先進国中、日本だけ経済の回復が遅れるなか、バフェットが日本株に投資しているという事実は励みであり、「日本もまだまだ捨てたものじゃない」と思わせてくれる、そんな存在がバフェットなのです。

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桑原 晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。

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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)

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