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西野亮廣「『いつまでプペルをやるんだ』という批判ほど的外れなものはない」

プレジデントオンライン / 2021年12月4日 11時15分

撮影=森本真哉

お笑い芸人の西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプペル』が、エンタメ作品として大成功している。絵本は累計70万部を突破。自身が製作総指揮を務めた同名の映画は、国内で170万人動員、興行収入24億円。さらにカタールのアジャル映画祭ではMohaq部門 最優秀長編映画賞を受賞した。西野さんの次の狙いを本人に聞いた――。(後編/全2回)

■世界戦では国内マーケティングは通用しない

——映画『えんとつ町のプペル』は最初から世界展開を狙ってつくられたわけですが、どのようなことに留意しましたか?

【西野】「商品」と「作品」の違いを明確にすると分かりやすいかもしれません。お客さんのニーズの奴隷になっているものが「商品」で、作家の衝動の奴隷になっているものが「作品」です。

いずれにしてもお客さんに届けないと食っていかないので、マーケティングは挟まってくるのですが、それで言うと、先にマーケティングがあるものが「商品」で、後にマーケティングがあるものが「作品」と言えるかもしれません。

そして海外展開を狙うなら「作品」に手を出さなきゃいけない。

たとえば、実写版の映画なら、企画段階で「人気イケメン俳優と人気美人女優をキャスティングする」という話になりがちですが、世界に持っていった場合、背の低い日本人のイケメン俳優には、なかなか興味を示してもらえない。日本のマーケティングは、万国共通語ではないということです。さらにマーケティングを優先してしまうと、クリエイティブが二の次になって中途半端なものができる。だから、負けてしまう。

だから、国内でヒットするアニメーション映画のセオリーがあったとしても、そんなものは全無視して、極めてエゴを詰め込んでつくりました。イケメンも出てこなけりゃ、恋愛もない。誰の原風景でもない「えんとつ町」が舞台で、誰も共感する事ができない「ゴミ人間」の物語。「さあ、このままだと絶対に売れないぞ」というところからのスタートです(笑)。

——でも、西野さんはその作品をヒットさせました。どのように届けたのですか?

【西野】それは、もういろんな手を使って届けました。それこそ、僕が運営するオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」のなかでは制作過程を見せて。

目標にしたのは、オープニングタイトルが出た瞬間に泣く人をたくさんつくることでした。

娘のピアノの発表会で、舞台袖から出てきた瞬間に泣いてしまうみたいなことです。親は、ここに至るまでの成長の記録を重ねて涙している。映画をその状態に持っていこうとしたら、制作過程をバンバン出す。現時点での作品の絶望的な認知度もサロンメンバーさんと共有して、「このままでは大コケする」というところから知ってもらって、どうやって届けるんだっけって考えるところも共有しました。

その結果を見届けようと劇場に足を運んでいただいた人が、ある一定の人数まで達したら、その周辺の人たちにも作品が見つかるようになります。それが、たしかな強度を持った作品なのであれば、見つかりさえすれば、あとは大丈夫。

一度、見つけてもらうってことがめちゃくちゃ大事で、日本では「いい作品がただ見つかっていないだけ」ということが本当に多いと思います。

■何十年もかけて作品をアップデートさせる

——クリエイティブと届ける作業の両方ができて、はじめて世界に届くのですね。

【西野】はい。本来、クリエイティブに全振りした作品は、コアファンくらいにしか届かないのですが、そこをなんとかしてお客さんを呼ぶ。メガヒットを作り出すことはできませんが、プチヒットは知識と根性でいけます。そして、それを名刺代わりに世界へ持っていく。この流れをつくることが大事なんだと思います。

あと、アップデートですね。

——アップデート?

【西野】継ぎ足しです。

新作をつくるのではなく、ひとつの作品をアップデートしていく。コアファンは新作を期待しますが、その期待に応えて新作ばっかりつくっていくと、「同じコアファンに違うネタを出している」の連続で、裾野が広がっていかない。裾野を広げるには、同じ作品をアップデートさせていく事が重要だと思います。「えんとつ町のプペル」なら、絵本から映画、ミュージカル、歌舞伎と転々とし、その都度、アップデートしていますが、そうやってお客さんを広げていく。

ブロードウエイのミュージカルを見るとわかりやすくて、まずはワークショップのようなことをして、お客さんの前で上演してしまう。次にリーディング公演があって、本読みを見せる。それでお客さんの反応を見て、アップデートして、その次にまたプレ公演があってという具合に、ずっとやっているけど「新作」といっている。新作をつくるのに、何年も、何年もかけているんです。

だけど、これを日本でやると、「同じネタに何年しがんどんねん」となる。でも、基本的に僕が見た限り、同じネタにしがむことを覚悟したエンタメしか世界を獲っていません。

新作でいきなり「世界1位です」なんて聞いたことがなくて、「ライオンキング」にしても、「ストンプ」にしても、何十年もやっている。そうして何十年もアップデートされ続けたものと、日本の新作が同じ商品棚に並べられる。

結果は言うまでもありません。

■新作至上主義で疲弊する日本

——なるほど。日本では、常にまったく新しいものが求められるんですね。

【西野】これも日本人の気質かもしれないのですが、「0→1」をつくる新作信仰が強い。新作至上主義なんです。

建物とかも、日本では新築がもっとも価値が高い。でも、ヨーロッパでは年数が経った建物のほうが価値は高くなるケースが少なくありません。50年もったということは、100年もつのではないかというように、経過した時間が信頼に変わる。だけど、日本は「とにかく新しいものが素晴らしい」という考えです。

日本の環境が関係しているのかもしれません。台風や地震とかでおじゃんになってしまうので、「0→1」をずっとやり続けてこないといけなかった。

新作信仰だと予算の回収を急ぎすぎるという弊害もあります。10年かけて回収していくという発想になっていないので、スケールの大きなものがつくれない。すぐに回収しないといけないとなると、セット費も衣装費もかけられなくなるので。

ミュージカル「えんとつ町のプペル」
©CHIMNEY TOWN
ミュージカル「えんとつ町のプペル」 - ©CHIMNEY TOWN

ファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」では、セットや衣装も妥協せずに作りこみました。その結果、上演期間(2021年11月14日~28日)は全席完売しましたが現時点では1億円以上の赤字です(笑)。だけど、それは想定済みで、そもそも上演期間だけで回収しようと思っていないので問題ありません。オンライン配信チケットを売り続けていて(※現時点で1万枚以上を販売)、このままいけば余裕で回収できそうです。

「えんとつ町」の世界観がつくりこまれた舞台セット
©CHIMNEY TOWN
「えんとつ町」の世界観がつくりこまれた舞台セット - ©CHIMNEY TOWN

■クリエイティブとお金の話は分けられない

——海外では長期間かけて回収していくという考え方になっているのですか?

【西野】シルク・ドゥ・ソレイユの「O(オー)」とか「KÀ(カー)」だと、制作費が100億円です、160億円ですとかっていう話なので。いったい何年かけて回収するんだと。

これだけの予算をかけてつくるなら、どこに建てて、チケット代がどのくらいで、ランニングコストがどれくらいかという計算を徹底的にしないといけない。経営と一緒です。エンターテインメントに一流のビジネスマンがしっかり入っているというのが大きい。そこがとても大事ですね。

日本はクリエイティブとビジネスを分けすぎている。クリエイターがお金の話をすることは超タブーになっています。だけど、そんなの日本くらいです。クリエイターがお金の話をしていかないと世界では確実に勝てません。

西野亮廣氏
撮影=森本真哉

■オリジナルを「コピー不可なもの」と再定義しよう

——これから日本が海外でお金を稼いでいこうと思ったら、どんな分野が強いと思われますか?

【西野】月並みですが、エンタメと食、スポーツ、ゲームとかは強そうですね。

——ビジネス全般を通じて、日本が世界で戦うときに意識したほうがいいと思われることはありますか?

【西野】「オリジナル」の定義を変えないといけないと思っています。

ネットで世界がつながって、いい商品、いいサービスは、あっという間にコピーされるようになりました。エンタメなら、AmazonプライムやNetflixでつながって、完全に世界の作品と同じ商品棚に並ぶ。こちらが望んでいなくても、勝手に世界戦が始まっている。

そのときに僕たちが見直さないといけないとのは、「オリジナル」の定義で、これまでの「オリジナル」の定義は、なんとなく「0→1」だったんですよ。自分の中からゼロから生み出したアイデアを「オリジナル」と呼んでいた。ですが、翌日には中国が50億円とか、100億円かけてコピーしてしまう。すると世界の人にとっては、それは中国のアイデアだととらえるわけです。

なので、オリジナルというのは「自分の中からゼロから生み出したもの」ではなく、「コピー不可なもの」と再定義する。じゃあ、コピー不可なものは何なのかと考えたときに、僕は「時間」だと結論しました。

■日本の最大の資源は歴史

——時間?

【西野】歴史とも言い換えられます。清水寺をハリウッドはつくれない。つくったところで、それは偽物の清水寺で、そこに流れた時間までは再現できません。

だから、時間を味方にしていく。世界戦では時間を味方にしていくしかないですね。これは日本の最大の資源。歴史が浅い国はいっぱいあるんで、そこそこマウントを取れます。

たとえば、歌舞伎には400年以上の歴史がある。こんなに長く続いているエンタメなんて、なかなかない。そういったものを味方にしていく。

■歌舞伎のビジネスモデルをアップデートする

——来年1月からは市川海老蔵さん主演の新作歌舞伎「プペル~天明の護美人間~」が控えていますね。歌舞伎に取り組まれてみて、現状をどのようにご覧になっていますか。

【西野】コロナの影響は大きく受けていますね。歌舞伎座は今年8月に再開したのですが、客席の稼働率45%でも客席が埋まらなかった。歌舞伎に限らず、年配の人をターゲットにしたエンターテインメントは厳しい状況にあるようです。

——歌舞伎もアップデートしていかないといけないでしょうか?

【西野】当然、若いお客さんがくるように仕向けていかないといけない。どんな舞台もそうですが、お客さんの膝が悪くなったら劇場には足を運べなくなるので。年配のお客様も大切にした上で、若い人を常に入れていかないといけません。

新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』。西野氏は原作・脚本に加えて、空間・美術演出を務める。
新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』。西野氏は原作・脚本に加えて、空間・美術演出を務める。©松竹株式会社

当たり前のことを堂々と言っちゃてごめんなさい(笑)。

でも、それもあって、海老蔵さんは「えんとつ町のプペル」に声をかけてくださったのだと思います。本来、歌舞伎は新しいものをどんどん取り入れていくメディアだったので、海老蔵さんがやられていることにはすごく意味があるんだろうなと思っています。

だからとにかくいい作品にして、できれば配信もやっていきたい。多くの人に、まずは見ていただかないといけないので。そして、世界に持っていく。こうした新しいビジネスモデルを、西野が言うならのってみようと思っていただけるように信頼を獲得することが、僕の宿題だなと思っています。

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西野 亮廣(にしの・あきひろ)
お笑い芸人、著作家
1980年兵庫県生まれ。99年梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成。2000年、コンビ結成5カ月後にNHK上方漫才コンテスト最優勝を受賞。05年当時の代表番組『はねるのトビラ』ゴールデン進出時に、絵本制作に取りかかる。4年の歳月をかけて初の絵本『Dr.インクの星空キネマ』を09年に上梓。そのほか国内外の個展、小説・ビジネス本執筆、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰するほか、美術館建設など幅広く活躍。著書に『えんとつ町のブぺル』(幻冬舎)『ゴミ人間 日本中から笑われた夢がある』(KADOKAWA)など。2020年12月に公開された映画「えんとつ町のプペル」は170万人を動員、興行収入24億円の大ヒットを記録。第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞したほか、第1回アジア・パシフィック・ヤング・オーディエンス・アワード、アジャル国際映画祭最優秀長編映画賞受賞など、世界でも高い評価を得ている。

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(お笑い芸人、著作家 西野 亮廣 構成=プレジデントオンライン編集部)

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