ダメな上司ほど最初に使ってしまう…「部下との1対1」で避けたほうがいい"ある言葉"
プレジデントオンライン / 2021年12月10日 12時15分
※本稿は、越川慎司『「普通」に見えるあの人がなぜすごい成果をあげるのか 17万人のAI分析でわかった新しい成功法則』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■腹を割って話せる「心理的安全性」を担保するべき
上司と部下の一対一の対話で、かしこまった状況になると、言いたいことが言えなくなります。腹を割って話せる心理的安全性が担保されないと、不必要な気遣いによって生産性が落ちることは25社の実験でもわかっています。
カジュアルな1ON1ミーティングに慣れていない管理職は、どうしても「よろしくお願いします」という言葉で始めてしまいがちです。
一般社員に匿名回答でヒアリングをすると「面談のような雰囲気になると会話ができない」「評価されていると思うと口数が少なくなる」といったコメントが出てきました。
活躍社員や優秀なリーダーの場合はどうかといえば、「よろしくお願いします」と言って会話を始めるケースは少ないことがわかりました。
「よろしくお願いします」と始めると、相手が面談だと思って心を閉ざしてしまうのがわかっているからです。活躍社員たちは「今日は時間をとってくれてありがとう」というような感謝やねぎらいの言葉をかけることから始めていました。
■部下のテンションを最も上げる「間接承認」
最も効果的なのは間接承認です。
「ヤマダさんがあなたのことですごく感謝していたよ、ありがとうね」といった言葉がそうです。こうした間接承認は相手のテンションを大きく上げることがわかりました。実際の1ON1ミーティングの中でも取り入れる実験をしています。
「よろしくお願いします」を禁止して、「ありがとう」や間接承認から始めるようにすると、対話のスタートが順調になることが確認できました。面談のような雰囲気にはなりにくいので、すぐに会話に入っていきやすいのです。
定量的な効果は測れなかったのですが、「よろしくお願いします」を禁止したことに同意した管理職は78%いて、実際に実践してくれました。その効果は実感できていたのだと思われます。
■優秀なリーダーはオンライン会議で座る位置を変える
一対一で対話をする際は、座る場所によっても相手の捉え方が変わることもわかりました。
真正面に座ると対決姿勢になって、言い争いが多くなると活躍社員から聞きました。一方で、面接時や関係構築のできていない新人と話をするときは正面に座ったほうが信頼度を高めやすいと、活躍社員がコメントしていました。
さらに驚かされたのは、ある優秀なリーダーがやっていたことです。その人は、自分の画像をオンライン会議で表示する際には、近づけたり遠ざけたりする工夫をしていたのです。そのリーダーに細かくヒアリングをすると、相手との関係性によって座る位置を変えているのだと言います。
相手と関係性が深ければ少し遠くに座って威圧感を与えないようにします。逆に、初めて話す相手などには、ややウェブカメラに近づいて大きくうなずきながら、相手の心理的安全性を確保しようとしていたのです。
人間関係が浅ければカメラの少し近くに座り、近しい関係にあれば少し遠くに座る。このやり方を他の管理職にも試してもらいました。
■ビデオをオンにしたがらなかった部下が…
1ON1ミーティングでは、空気感が伝わらずなかなかスムーズにコミュニケーションができないものです。とくに部下は、言いたいことが言えなかったり、下手なことを言うと評価が下げられるのではないかと思って口数が少なくなりがちです。オンライン会議サービスを使うと気軽に対話ができるものの、空気感は伝わらず、関係性を深めることは難しいものです。
そこで、前出の優秀なリーダーがやっていたように、相手との関係性によってカメラとの位置を変える方法を他の管理職にも試してもらったのです。
相手とすればなかなか気づきにくいのではないかとも思われましたが、部下がオンライン会議のビデオをオンにするケースは予想以上に増えました。腹を割って話せない部下は、ビデオをオフにして話すことがあるのですが、上司がビデオをオンにして近くで話すと、自分もビデオをオンにする。そういう部下が増えているのが確認できたのです。
「ビデオをオンにして対話することが増えた」と回答する管理職は27%いました。
相手との人間関係の深さを意識すること。相手に配慮してウェブカメラとの距離を調節すること。これは結局、相手に興味・関心を持って、相手を主役として対応しようという姿勢のあらわれです。
そういった思いが相手に伝わると、対話もスムーズになるのではないかと思います。
■「どう伝えるか」ではなく「どう伝わるか」を心がける
対話においても、「伝える」ではなく「伝わる」を目ざさなければなりません。相手が主役と考えたうえで、相手に自分の思いが伝わらなければ、思いどおりの行動を起こしてはもらえないからです。
「伝わる」とはどういうことでしょうか。伝わった状態の定義について行動心理学を専攻する学者に聞いたところ、「イメージングの一致」だと教えてくれました。人は、伝えたいことがあると、まず頭の中で静止画もしくは動画のイメージを膨らませるそうです。そこでイメージした静止画もしくは動画とまったく同じものが相手の頭の中に浮かんだら「伝わった」、つまり「イメージが一致した」ということになるのだそうです。
相手の頭にイメージされたものは、静止画よりも動画のほうが記憶に残りやすいということも教えてもらいました。
相手に同じイメージを持ってもらうためには、手段として言葉や文字を丁寧に表現する必要があります。
たとえば「あのイベントはうまくいかなかった」と言っても、どのイベントを指すかがわからなければ頭の中でイメージができません。一方、「先週の木曜日に名古屋で行ったイベントは、参加人数が少なくてうまくいかなかった」と言えば、名古屋の会場をイメージしてその中で空席が目立つ状況を想像できます。
■優秀な人ほど「あれ」「これ」「それ」を使わない
活躍社員も、とくにテレワーク中は丁寧に言語化することを意識していました。
約2万1000人のチャットやオンライン会議の発言投稿履歴を分析したところ、活躍社員は指示代名詞を使っている比率が低いこともわかりました。「あれ」「これ」「それ」といった言葉を使うことが極端に少ないのです。
![オンラインミーティングをしている人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/d/1200wm/img_cd70c0a00f65063cdbab6693be8f161b294400.jpg)
目の前にメンバーがいれば、「あれ」「これ」「それ」で伝わることもあるかもしれません。しかし、目の前に相手がいないオンラインでは、しっかりと言葉で表現しないと伝わらないのです。
「このリンゴが……」と言っても、それが赤いのか青いのかは、見てみなければわかりません。しかし「私が食べた真っ赤でツヤツヤしたリンゴは」と言えば、赤くて新鮮なリンゴを手にしている状況を相手はすぐにイメージできます。
形容詞や副詞、擬音語や擬態語を使えば、相手にそのものを鮮明にイメージさせられるということも、行動実験でわかりました。
たとえば雑談では、飲食の話で盛り上がることが多いのですが、食べたものを形容詞や副詞、そして擬音語や擬態語を使って表現すれば、相手に伝わりやすいのです。
「サンドイッチを食べた」と言うよりも「セブン‐イレブンで買ってきたシャキシャキレタスのサンドイッチを食べた」と言ったほうが、相手に正しくイメージさせることができます。「ツヤツヤ」や「シャキシャキ」などの擬態語やカジュアルな口語を使うと、なお伝わりやすくなることもわかりました。
■部下のやる気を引き出す「どんどん」「本当に」
上司から「プロジェクトの旗振りをしてくれてありがとうね、このまま続けてくださいね」と言われれば嬉しいものです。しかし、優秀なリーダーは形容詞や副詞、擬音語や擬態語などの言葉を使って、さらにメンバーのテンションを高めていました。
「プロジェクトをしっかりと進めてくれて、本当にありがとうね、どんどん進めていいからね」「ありがとうね」と言うよりも「本当にありがとうね」と言われたほうが嬉しいものですし、「続けてください」と言われるより「どんどん進めてください」と言われたほうが背中を強く押されている感覚になります。
そこで、一対一の対話や社内会議で行う冒頭2分の雑談では、擬音語などを意識して使うようにする実験を行いました。
初めは戸惑って、発言がやや長くなる傾向にあったのですが、擬音語などを意識して使うことによって「相手に伝わるようにしようという思いが高まった」というコメントが参加者から寄せられました。
相手に伝わるようにするためには、擬音語や副詞などが有効だということを意識させることができたのです。擬音語などによる表現がどれだけ増えたかは測定できませんでしたが、「擬音語などを使えばイメージを一致させやすくなる」ということは実験参加者に理解させることができたのです。
■沈黙しがちな相手にはクローズドクエスチョンで
対話を成功させるには、話すよりも聞くことに重点をおいて、相手に話をさせて相手のテンションを高めることが大切です。
![越川慎司『「普通」に見えるあの人がなぜすごい成果をあげるのか 17万人のAI分析でわかった新しい成功法則』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/1200wm/img_e5ca1716cf8c1933d7b8d7080fb3a183289490.jpg)
しかし、全員が全員、饒舌(じょうぜつ)に話してくれるわけではありません。あまり話すことが得意ではないメンバーもいるでしょう。なかなか話さない相手が話し始めるのを待っていると、間が空きます。1秒くらいの間であれば問題なく会話を進められますが、間が3秒を超えると恐怖を感じます。何をすべきかわからず不安に陥るからです。
なかなか話してくれない人に心を開いてもらうために、活躍社員はクローズドクエスチョンという質問技法を活用していました。「はいorいいえ」もしくは選択式で答えられるように質問する技法がクローズドクエスチョンです。
口数が少ない相手には「はいorいいえ」で少しずつしゃべらせていき、少しでも興味に触れる話題になったら、そこで自由に答えられるオープンクエスチョンに切り替える。
■実践した管理職の53%が「部下が話すようになった」
この手法は再現可能だと思い、25社で行動実験を行いました。
会議や上司・部下の1ON1ミーティングで、話に詰まったらクローズドクエスチョンを使い、話が盛り上がったらオープンクエスチョンに切り替えるというガイドを作ったのです。このガイドに従ってくれた管理職のうち53%が、「1ON1ミーティングで部下がこれまでより話すようになった」と答えてくれました。
この実験を2カ月継続したところ、会議でビデオをオンにしてくれる参加者が増えたという声も多数あがってきました。1人で話し続けるシーンが減り、発言する人が増えると対話が活発になり、それまでビデオをオフにして参加していたメンバーがビデオをオンにするようになったのです。
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株式会社クロスリバー代表、株式会社キャスター執行役員
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約2万人が受講し満足度は98%を越える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『「普通」に見えるあの人がなぜすごい成果をあげるのか 17万人のAI分析でわかった新しい成功法則』(KADOKAWA)がある。
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(株式会社クロスリバー代表、株式会社キャスター執行役員 越川 慎司)
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