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今世紀中に追いつくことは不可能…日本のドラマが韓国ドラマに大きく差をつけられたワケ

プレジデントオンライン / 2021年12月8日 15時15分

第一次韓流ブームを作った韓国の俳優ペ・ヨンジュンさん(左)とチェ・ジウさん。2009年9月29日、アニメ「冬のソナタ」の完成披露会見に出席した(東京都江東区の東京ベイコート倶楽部) - 写真=時事通信フォト

なぜ韓国ドラマは世界中でヒットしているのか。『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)を書いた藤脇邦夫さんは「韓国には、2006年以降、次々と誕生したケーブル局が従来とは異なる意欲的な作品を作ってきた土台がある。スポンサーに配慮したドラマばかり作る日本とは企画力で大きな差がある」という――。

■「ドラマロス」状態の日本の視聴者に刺さった「冬のソナタ」

日韓ワールドカップに沸く2002年、最後の家族テレビドラマといわれる「北の国から」のスペシャル版「2002遺言」が終わった後、日本のテレビ視聴者は一種の「ロス」状態に陥った。

筆者も1980年代からのトレンディ・ドラマにはそれなりに夢中になった世代だったが、同時期の「ふぞろいの林檎たち」(1983~97年 TBS)が終わった頃から、筆者と同世代を対象にしたドラマはほとんど作られなくなった。少し上の団塊の世代にとってはなおさらだっただろう。

従来であれば、その頃からNHK大河ドラマ辺りに移っていくのだろうが、ロック世代でもある筆者としてはまだそこまで老け込む年代ではなく、映画DVDやアメリカテレビドラマ「24‐TWENTY FOUR‐」(シーズン1 2001~02年 FOX/日本放送 2004年 フジテレビ)等のレンタル視聴に移行していた。

そんな頃、アメリカテレビドラマ(以下、アメリカ・ドラマと略)の日本上陸と同時期、もう一つの未知の世界のドラマが、視聴者の心の片隅に寄り添って忍び込むようにさりげなく日本に紹介された。いうまでもなく、韓国ドラマ「冬のソナタ」(韓国KBS 2002年/日本放送 2003年 NHK―BS)である。

今振り返っても、「北の国から」の終了直後に、韓国ドラマが日本に紹介されたのは、ほとんど象徴的といっていい。

歴史は後から考えるとまるで作られたかのようにうまくできているというが、それからほぼ20年、韓国ドラマはレンタルショップの定番商品となり、BSテレビ放送の毎日視聴できる番組の一つとして、NHKテレビ小説より身近な映像として定着した。我々の生活の中に不可欠な存在となったわけだ。

■若者向けに作られる日本のドラマに対する不満

日本で紹介された初期の韓国ドラマにおいて、女性は恋愛ドラマ、男性は時代劇に特化していったのは、筆者と同世代にとって見るべきドラマがなくなった、日本のテレビ番組に対する不満をよく表している。2017年になって、倉本聰が「やすらぎの郷」を書いたのは、その揺り戻しと捉えるべきだろう。

その後も依然として、日本のドラマは若者向けに作られる傾向が強くなり、定年を迎えた筆者の世代はますます韓国ドラマに傾倒していく二極状態が続いていた。当の韓国にしても、いつまでも「冬のソナタ」「宮廷女官 チャングムの誓い」のようなドラマばかり作り続けていたわけではない。

2010年代に入ると、日本でも韓国ドラマを見る視聴者層は必ずしもシニア世代だけではなくなった。若い世代にも訴求する、傑出した韓国ドラマが数多く登場し、K―POPの隆盛もあり、韓国エンタメは日本中を席巻する一大現象となる。

■ケーブル局放送の登場が「韓国ドラマ」の質を変えた

2000年代以降の韓国ドラマ史上、最大の変化は、何といっても2006年からのケーブル放送局「tvN」の開局、2011年からのCJENM経営による有料ケーブル局「OCN」のテレビドラマ製作開始、同年の韓国の新聞社4社(中央日報、朝鮮日報、東亜日報、毎日経済新聞)による総合編成チャンネル(同順に、JTBC、TV朝鮮、チャンネルA、MBN)の開局である。

これによって、今まで地上波独占だったKBS、SBS、MBC以外の局からのドラマ製作が可能になった。

放送用機器
写真=iStock.com/PRANGKUL RUANGSRI
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PRANGKUL RUANGSRI

2010年代の話題番組は、ほとんど地上波以外のケーブル局によるもので、特に、総合編成チャンネルのJTBC、専門ケーブル局のtvN、OCNの3局が間違いなく台風の目である。同時期の地上波ドラマは明らかに後手に回ってしまい、意欲的な番組はすべてこの3局から発生したといっていい。

日本における韓国ドラマブームは、俳優が話題の中心となった「冬のソナタ」出現の2003~10年を第1次とすると、2011~15年の第2次はシナリオ・発想・シノプシス・プロットの充実期であり、2016年から始まった第3次ブームは、K―POP人気に加えて、前出のケーブル3局の躍進が加わり、これによって「韓国ドラマ」のクオリティはアメリカ・ドラマに匹敵するほどの水準にまで引き上げられた。

■今世紀中に日本が韓国ドラマに追いつくことは不可能

そして、2019~21年の第4次ともいえるブームは、まさに第3次以降の成熟による一大ルネッサンス期──黄金期であり、後述する「愛の不時着」「梨泰院クラス」「賢い医師生活」といった秀作を続々と生み出した。

現在、世界の映像ソフトの中で、テレビドラマ(ネット動画配信全盛の今、実はこの定義さえ怪しくなっているのだが、とりあえずテレビによる放送、及びモニターで視聴するために製作された映像の総意)に限っていうならば、最高峰は、アメリカ・ドラマと韓国ドラマといって差し支えない。

この点だけでも、広義の映像(テレビドラマ・映画)のジャンルにおいて──日本最強の映像ソフトである「アニメ」を唯一の例外として──、21世紀中に、日本が韓国に追い付くことは、もはや不可能といっていい。

韓国ドラマが日本のドラマよりずいぶん先を歩いていることは誰の眼にも明らかな事実であり、この距離感を埋めることは、これから先もおそらく無理だと思われる。

■ネット配信の成否を左右するのはドラマ映像

前作『定年後の韓国ドラマ』(2016年 幻冬舎新書)を刊行して5年になるが、その間の最大の変化ともいえる、第4次ブーム到来の理由として、次の2点が挙げられる。

一つ目は先述したケーブル局と映像配信による、視聴環境の大幅な転換である。特に、tvN、JTBC、OCN等を始めとするケーブル放送局製作ドラマの一部をネット動画配信の最大手Netflixに配信委託したことにより、韓国ドラマの特異性を否応なく、日本も含めて、全世界の国、地域に強烈にアピールすることとなった。

タブレットを操作する女性
写真=iStock.com/hocus-focus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hocus-focus

1963年のケネディ暗殺を告げる日米初の衛星同時中継、衛星放送の時代は彼方に去り、実質的に、現在世界の放送事業業態の趨勢(すうせい)は、電波事業から、インターネットを中心とした通信・配信事業に移行しつつある(民放テレビ局がネット事業者と手を組まないのは、認可業種である放送業の既得権益を守るためであることは業界の常識だが──テレビ放送と同時のネット配信は年内に一部の民放が予定している──、5年、10年先の状況はもうわからない)。

その最も顕著な象徴として、例えばNetflixは2020年に全世界の契約者数が2億人を突破した。配信アイテムの一つとなった韓国ドラマは「愛の不時着」を筆頭に、190カ国で視聴可能な最強の映像ソフトの地位を手に入れたわけで、ネット配信の効用と意義は大いにあったことになる。

テレビ放送であろうと、ネット配信であろうと、その成否を左右するのはドラマ映像というソフト・コンテンツに他ならない。

■テレビは既に単なる端末のモニターにすぎない

現在、Netflixで視聴している限り、韓国ドラマとアメリカ・ドラマは、視聴ソフト・コンテンツとしては、ほぼ同一線上にあるといっていいだろう(その意味でいえば、現在、日本の民放テレビ局で、Netflix、Amazonプライム、ディズニープラス等の配信番組のCMが流されているのは、将来のライバルの手伝いをしているようなもので、全く理解できない)。

特に、「愛の不時着」「梨泰院クラス」「賢い医師生活」は未だにNetflix独占配信となっていることもあり、独占配信契約が順次自動更新されていくのであれば、日本はもちろん、世界でも、テレビ放送・DVDのいずれでも永遠に見ることができないソフトとなる(配信契約に配信期間内のソフト化を禁止する条項があると思われるが、そもそもソフト化という概念自体が最初からないのかもしれない)。

また、韓国・日本を問わず、今まで通常の流れだった、放送後にDVD化(レンタル・セル)という図式が崩れ、ネット配信等によって、最初から「ネット有料動画配信で視聴して終わり」という流れで完結してしまうと、テレビドラマ(韓国ドラマに限らないが)を取り巻く視聴環境は一変する(というか、完全に一変している)。

さらに、映像ソフトとしては、家庭でのテレビ視聴だけではなく、パソコンでもスマホでも視聴可能な(さらに映画館でも公開できる)「ドラマ映像」という意味に入れ替わっている(単なる「テレビ番組」として作られた「テレビドラマ」ではないことから、本書でもそういう意味も含んで使用している)。テレビは既に単なる端末のモニターにすぎない。

■時代遅れの地上波ドラマと刺激的なケーブル局のドラマ

二つ目は、韓国ドラマにおける基本的なテーマの変容である。

当の韓国でも地上波放送を見ているのは相も変わらず旧世代が多く、ケーブル放送ドラマは若い世代専門の作品だけではないにしても、特定の世代で共感を得た意欲的な作品──例えば「応答せよ」シリーズ──が多いことは誰の眼にも明らかだ。

特に、WEBマンガを原作とした刺激的なドラマ製作は地上波では到底考えられないためか、ケーブル局の特性の一つとさえなっている。

2020年に限っていうならば、先述の3作品を見た後で、地上波の家族ドラマを見ると、あまりにも古色蒼然(こしょくそうぜん)なのに唖然(あぜん)とする。

毎日の日日ドラマ(NHK同様、毎日放送される連続ドラマのことで、現在はいずれも地上波だけで、朝の時間帯7~9時にSBSとMBC、夜の時間帯19~21時にKBS‐1、2の放送枠がある)に特に顕著なのだが、古い時代の家族ドラマを未だに見ているようなもので、時代遅れの感は否めない。

韓国ドラマでさえそうなのだから、そうした眼で見ると、日本のシニア視聴者にとって、我が日本のドラマはほとんど論外の産物である。

■まず企画ありきで、俳優をキャスティングする

俳優側の事情もある。2000年代初頭に出演していた主役・脇役がそのまま年齢を重ね、相も変わらず同じような役柄を何度も演じている限り、地上波ドラマでは物足りない視聴者層が出現するのは当然である。

地上波が従来のままのセオリーとパターンで同じ俳優をもとに企画を考えているのに対し、ケーブル局はまず企画ありきで、俳優のネームバリューに頼らず、企画に合わせて俳優をキャスティングするのが基本である。意欲的な作品を生む土壌は何年も前から整備されていたといえるだろう。

そういった視聴環境の変化に同調し、新たな視点で製作されたケーブル局から前述の傑作群が量産されていくのであれば、韓国・日本はもちろん、どこの国の視聴者も、従来視聴してきた「地上波の韓国ドラマ」だけでは満足できなくなる。

恋愛ドラマ「冬のソナタ」で一世を風靡(ふうび)した、日本における韓国ドラマ人気は従来「女性」によって語られることが多かった。商業番組である以上、視聴者のほとんどを占める女性の人気獲得は必須といえるものだったが、2010年代以降の韓国ドラマはそうではない。

いつの時代になっても、ブーム的な人気獲得はその商品性を左右する重要な要素だが、それ以外の視点で語るに足る作品が続出してきたといえばいいだろうか。概して、女性は分析に興味がないといわれるが、それだけに「感性」については突出しているわけで、だからこそ、これまで韓流ブームを牽引することができたのだと思う。

だが、今回の第4次ブームともいえる韓国ドラマの傑作の数々は「男」の視点で見ることも十分可能であり、先述した要素をもとに、一つの「ドラマ作品」として虚心に分析することは、間違いなく、新しいドラマ世界の発見に結び付く。

■日本のテレビドラマが韓国ドラマに追い付けないワケ

本書では2010年代からの韓国ドラマの特性を分析しているが、その比較として日本のテレビドラマを挙げていることについて他意はない。

現在の日本のテレビドラマのクオリティが韓国ドラマに比して格落ちしているように見えるのは厳然たる事実だが、誤解しないでほしいのは、日本のテレビ製作のスタッフ・演出・脚本・俳優が劣っているわけではないということだ。

日本独自の才能は確実に散見できるし、筆者はある意味、人材の宝庫だと捉えている。

しかし、現実的にスポンサーが付くドラマの企画が、2、30代の若い女性の視聴者層向けの作品しか要求されず、それ以外のドラマを製作する機会がないのであれば、いくら才能のあるスタッフ・俳優がいても、意欲的な作品の展望は見付けにくい。単に作品の企画に恵まれていないだけだ。

「半沢直樹」のような作品がそうそう作れないのは当然にしても、特定の年代を対象にしたドラマ作りにはやはり限界がある。それ以外の年代を対象としたドラマが放送されないのであれば、シニア世代が韓国ドラマに向かうのは必然ともいえる。

藤脇邦夫『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)
藤脇邦夫『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)

この現状を打開するために、選択肢の一つとして、日本のどこかのテレビ局が、韓国のドラマ製作会社と提携することも十分考えられる(と思っていたら、実際に、2021年6月15日、TBSとCJENMが製作提携する旨のニュースが伝えられた)。

現在、日本の映像作品とは、必ずしも日本資本で製作されたものだけを指すのではなく、日本人監督を始めとした、日本のスタッフによって製作された映像全般(映画・ドラマ)と捉えるべきなのかもしれない。

日本のドラマが停滞している最大の理由は、俳優・スタッフではなく、企画(特定の、若い年代層だけを対象としたドラマを作り続けなければならない制約)の硬直化にあるのだから、斬新な企画による、日本のテレビドラマ作品がNetflix配信作品として選定されれば、突破口となる可能性は大いにある。

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藤脇 邦夫(ふじわき・くにお)
ノンフィクション作家
1955年広島県生まれ。大学卒業後、専門学校、業界誌を経て、82年、出版社入社。2015年定年退職、以後、文筆業。著書に、『仮面の道化師』(弓立社) 、『出版幻想論』『出版現実論』(いずれも太田出版)、『出版アナザーサイド』(本の雑誌社)、『定年後の韓国ドラマ』(幻冬舎新書)、『断裁処分』(ブックマン社)などがある。

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(ノンフィクション作家 藤脇 邦夫)

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