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中国共産党のほうが全然いい…EU版の「一帯一路」が大失敗に終わりそうな理由

プレジデントオンライン / 2021年12月6日 18時15分

2021年12月1日、ベルギーのブリュッセルにあるEU委員会本部で、新たな欧州戦略である「グローバル・ゲートウェイ」を発表するウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長。 - 写真=AA/時事通信フォト

■「グローバル・ゲートウェイ構想」に魅力はあるのか

欧州連合(EU)は12月1月、執行部局である欧州委員会と外交安全保障を司る欧州連合外務・安全保障政策上級代表の連名で、途上国向けのインフラ支援策構想を発表した。EUが2021年から27年の7年間で3000億ユーロ(約39兆円)の資金を拠出するこの構想は「グローバル・ゲートウェイ」(Global Gateway)と名付けられた。

この構想は、対外拡張志向を強める中国の習近平政権へのEUの対抗策とされる。言わばEU版の「一帯一路」構想なわけだが、EUがこのような途上国向けインフラ投資構想を立てることは、これまでなかったことだ。グローバル・ゲートウェイ構想の立案は、それだけEUが中国への対抗意識を強めていることの証左と言えるだろう。

クチは出すがカネは出さない。それが、これまでのヨーロッパの基本的な途上国へのスタンスだった。それはまだEUに未加盟だが身内に準ずるバルカン半島の諸国や、ウクライナやジョージアといった黒海沿岸の諸国に対する態度に顕著に表れていた。そこに現れたのが、クチは出すがカネも出す中国。どちらが魅力的かは一目瞭然だった。

そのEUが、ようやくクチだけではなくカネも出すようになったわけだ。EUがグローバル・ゲートウェイ構想で念頭に置く支援先は、上記のバルカン半島や黒海沿岸といった周辺諸国に加えて、歴史的なつながりが深いアフリカ諸国のようだが、こうした諸国にとって、果たしてグローバル・ゲートウェイ構想は魅力的なのだろうか。

■価値観を前面に押し出すEUの途上国向け支援パッケージ

EUは昨今、イデオロギーを前面に立てた外交を推し進めている。基本的人権や民主主義、法の支配などEU流の考えを普遍的な価値観と定め、それを守ろうとしない中国やロシアに対する敵意を強めている。もちろん加盟国によって温度差があり、ポーランドとハンガリーが公然と反旗を翻しているが、全体としてはEUの価値観を重視している。

デジタル化と脱炭素化を推進し、環境保全との両立目指すというのが近年のEUの経済成長の戦略観だ。ここにもEU流の価値観が強く反映されているが、それが環境保全には顕著だ。欧州では左派を中心に、環境に対する意識が強い。それ自体は良いことだが、そうした価値観を金科玉条のように他国へ押し付けようとすることは問題だろう。

欧州委員会のプレスリリースを読むと、この構想にもまたEUが重視する価値観が色濃く反映されている。あえて原文のままを引くと、冒頭に“the new European Strategy to boost smart, clean and secure links indigital, energy and transport and strengthen health, education and research systems across the world.”とある。

さらに“It stands for sustainable and trusted connections that work for people and the planet, to tackle the most pressing global challenges, from climate change and protecting the environment, to improving health security and boosting competitiveness and global supply chains.”と続いている。

繰り返すが、デジタル化と脱炭素化を推進し、環境保全との両立目指すというのが近年のEUの経済成長の戦略観だ。要するにそうしたビジョンにかなうように、途上国のインフラ支援を進めるというのが今回のグローバル・ゲートウェイ構想だ。供給側であるEUの意向が反映されるのは当然だが、途上国側の需要にどれだけマッチするのか。

■デジタル化と脱炭素化…途上国には酷な投融資の条件

中国の拡張志向に基づく途上国への投融資に対しては、スリランカのハンバントタ港のケースを引き合いに、いわゆる「債務の罠」という観点から否定的に評価されることが多い。そうした側面は否定できないが、一方で中国による投融資が途上国の資金ニーズを満たしてきたこともまた事実であり、評価に値する側面も実は少なくない。

一般的に、途上国のインフラ計画は政治的な性格が強く、経済合理性だけでは説明がつかないものが多い。ヨーロッパで問題となったケースに、モンテネグロとセルビアの高速道路計画がある。採算性を重視するEUはこの計画に対する投融資を渋ったが、中国がそれを肩代わりした。このようなインフラ計画は、途上国に数多く存在する。

2019年3月3日、高速道路の建設現場
写真=iStock.com/Luka Banda
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Luka Banda

そうした途上国の要望に、デジタル化と脱炭素化を通じて経済成長と環境保全を目指すというEUの投融資が合致するとは考えにくい。途上国としては、もっとシンプルに自らのニーズを満たしてくれるスポンサーを探したいところだ。あるいは投融資の条件を課されるにしても、政治的なイデオロギーが近しいスポンサーを好むだろう。

それに、デジタル化や脱炭素化の技術を、受入国側がどれだけ活用できるか定かではない。当たり前だが途上国の教育水準は低く、最新の技術を使いこなせる人材は不足している。日本もかつて政府開発援助(ODA)の一環として途上国にトラクターを贈ったが、現地に維持・管理ができる人材が不足、野晒しにされた苦い過去がある。

国盗り合戦的な思考で物事を考えるなら、中国よりも先に途上国を仲間に引き入れる必要がある。そのためには経済合理性などお構いなしに、途上国が企図するインフラ投資プロジェクトに対する投融資を推し進めるべきだろう。そこまで割り切れれば大したものだが、EUがそのように方針を大転換させることはまず考えられない。

■「EU版一帯一路」構想は早々に空転するだろう

それよりもEUは、途上国に対し投融資の条件と基本的人権や民主主義、法の支配などEU流の普遍的な価値観への配慮を要求すると考えられる。特に、EUの立法府であり理想主義に燃える欧州議会の意向が強く反映されるはずだ。現実志向が強い欧州委員会に比べると、欧州議会はEU流の価値観に拘りを見せており、強硬である。

欧州議会は欧州委員会の人事権を持つため、欧州議会は欧州議会の意向を無視することはできない。先日も欧州議会は、法の支配を軽視するポーランドに欧州委員会が強い圧力をかけるように、欧州委員会を欧州司法裁判所(ECJ)に提訴した。これを受けて欧州委員会は、ポーランドに対する復興予算の執行を停止せざるを得なくなった。

基本的人権や民主主義、法の支配は確かに大切だ。しかしそれをEU各国が確立するまでには、長い歳月を要した事実を忘れてはならない。経済と同様に、政治や社会もまた段階的な発展のプロセスを踏むものだ。支援を通じて国の発展を促すことができても、その過程は紆余(うよ)曲折を必ず経験するし、物事は決して単直線的に進まない。

EUが支援先の念頭に置くアフリカ諸国には、社会が未成熟な中で普通選挙が実施された結果、部族間の対立構造が議会に反映され、かえって国の混乱が長期化した歴史がある。これはEUの近隣諸国であるウクライナや東南アジアのミャンマーの混乱にもつながる議論だ。イデオロギー先行の開発支援は不幸な結果をもたらすことになる。

そもそもEUは、その価値観に基づきデジタル化と脱炭素化を支援の中核に据えるが、途上国にはそれ以外に優先順位が高い課題が山積している。その点、理念よりも実利を重視する中国との方が途上国は与しやすい。その中国による一帯一路構想さえ順調ではないというのに、EUのグローバル・ゲートウェイ構想が成功する展望など描けない。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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