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パンダ、トラ、シマウマ、イヌ…中国人がいつまで経ってもゲテモノ食をやめない理由

プレジデントオンライン / 2021年12月10日 11時15分

中国南部の広西チワン族自治区玉林市では、毎年恒例の「犬肉祭り」が開かれる。この祭りには世界の団体がこぞって抗議し、数百万人分の反対署名も集まっているが、地元住民たちはこれが逆の効果を生んでいるという。=2016年6月20日 - 写真=EPA/時事通信フォト

中国では野生動物を食べる文化がある。ジャーナリストの高口康太さんは「珍しい肉を食べてみたいという好奇心だけではない。中国伝統医学には、食材に応じた健康が得られるという『補品』という概念がある。そのことがゲテモノ食の背景になっている」という――。

※本稿は、高口康太『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集しています。

■野生動物を食べる「野味」という食習慣

「4本足は机と椅子以外、2本足は両親以外、空飛ぶものは飛行機以外、なんでも食べる」

どんな動物でも食べる。悪食(あくじき)な中国の食文化を端的に示すフレーズだ。なんでもというだけあって、犬やヘビといったメジャーどころだけではない。野生動物を食べる「野味(やみ)」の対象には、SARSや新型コロナウイルス感染症が人間に感染する媒介となったと見られているセンザンコウやハクビシン、はてはトラやパンダといった絶滅危惧種まで含まれる。

新型コロナウイルス感染症の流行によって、野味は排除すべき悪習だとして、中国共産党は禁止する姿勢を明確にしているが、早くも腰砕けの感がある。トップの一存で14億の民(たみ)を右に左に動かせる権威主義体制でありながら、SARSや新型コロナウイルス感染症があっても食習慣一つ変えられない。

4本足は机と椅子以外……というフレーズは、もともと中国南部、広東省の人々の食を指すものだという。

なるほど、確かに広東省にはヘビやネコなどを食べるレストランが多い北部の食文化はまったく違う。

■北京の貴族もゲテモノ食を愛していた

私の妻は中国北部の天津市出身だが、ネコはおろか比較的ポピュラーな犬すら食べたことがない。日本に住んでいる今でも、馬肉や鯨肉を食べようとしない。「ゲテモノを食べるのは中国南部の人だけ。一緒にして欲しくない」と言うのが妻の主張だが、個人的には怪しいものだと思っている。

というのは、広東省は改革開放以後に中国でもっとも早く豊かになった地域であり、その経済力がゲテモノ食という“趣味”を広めた可能性が高いとにらんでいるからだ。金がなければゲテモノは食えない。その余裕のある人間が相当数いるため関連産業が発展した広東省と、悪趣味な金持ちが少なかったその他の地域、という対比のほうが腑に落ちる。

そもそも、中国料理の最高峰とされる満漢全席、各種のご馳走と珍味を集めた清朝時代の宮廷料理にもクジャク、ゾウの鼻、ラクダのこぶ、猿の脳みそ、ヒョウの胎児、オランウータンの唇などのゲテモノが入っている。広東省から遠く離れた北京の皇族や貴族たちもゲテモノを愛していたわけだ。

■動物園で死んだ動物の肉を提供するレストランもあった

「さすがにゾウやオランウータンは食べられなかったけど、シマウマは食べたよ」

そう教えてくれたのは、あるカナダ人の大学教員だ。1980年代には北京動物園の近くに、死んだ動物の肉をこっそりと提供するレストランがあったのだという。にわかには信じがたいが、実は2010年にもクジャク肉やカンガルー肉を提供する野味レストランが園内にあると話題になった。

目だけではなく胃袋でも動物とふれあう……。さすがに悪趣味だとして中国でも批判されたが、かなりの高級レストランで、それなりの客を集めていたという。公然と主張はしづらいが、野味好きは少なくないのだ。

なぜ、野味好きが多いのか。珍しい肉を食べてみたいという好奇心だけではない。中国伝統医学には「補品」という概念がある。

食材に応じた健康が得られるという発想で、肝臓が悪い時はレバーを食べればいいし、強い動物を食べればその力が身につくということらしい。事故死したシマウマの肉などおいしいはずもないが、アフリカのサバンナを駆け回る元気がもらえると思えば、高い金を払っても食べる価値があるというわけだ。

■闇市場で流通する“中国の国宝”

たくましい動物の力を我が物としたい……。このニーズがもっとも強いのが精力剤で、そのため各種動物の鞭(ペニス)が出回っている。

私が食べたことがあるのは牛や馬で、街中の串焼き屋で普通に売っていた。もっとも効果が高いとされるのがトラだが、ワシントン条約で取引が禁止されているため、まるでドラッグのようにこっそりと売買されるという。トラの鞭を食べた中国人によると、なじみの料理店が闇ルートで食材を入手し、常連客に連絡。こそこそと集まって食したという。

うまくもなければ効果も感じなかったそうだが、違法食材を隠れて食べる背徳感は何年たっても話のネタにできるほどのインパクトがあるらしい。こうした違法食材のなかでも、おそらく頂点に君臨するのが中国の国宝ジャイアントパンダであろう。闇の世界ではその肉も流通しているというから驚きだ。

パンダ肉流通が表に出た事件がある。2014年のこと、雲南省昭通市水富県の森林警察は「パンダ肉が販売されている」との通報を受けた。捜査したところ、出所不明の冷凍肉が押収された。容疑者はクマ肉だと言い張ったが、DNA鑑定の結果、まさにパンダの肉であることが判明した。

ジャイアントパンダ
写真=iStock.com/irakite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/irakite

このパンダ肉はどこから入手したのか。取り調べの結果、近隣の農民、王兄弟が捕殺したことが明らかとなった。飼っていた羊が猛獣にかみ殺されたため、追いかけて害獣を退治したら、それがパンダだった。これが容疑者の主張だ。

家畜を殺されてかっとなったという弁明だが、銃殺した後は手際よく解体し、肉を仲買人に売っていたのだから弁解の余地はないだろう。ちなみにパンダ肉35キロに4本の手足をセットにして、わずか4800元(約8万1100円)という安値だったことも話題となった。

もっともこれは仲買人の仕入れ価格で、末端価格がいくらになるのかは見当もつかない。なお、王兄弟は兄が懲役13年、弟が懲役11年という重罰を受けている。

■中国全土200カ所で6000頭を飼育していた「トラ牧場」

なるほど、野生動物の密猟はリスクが高い。ならば人工繁殖してしまえ、と考えるのが中国人の起業魂だ。こうしてできたビジネスの一つが「トラ牧場」だ。

2017年時点で中国全土に200カ所、6000頭ものトラが飼育されていたという。先のとおりトラで商売はできない。そこで、絶滅を防ぐべく繁殖基地を設立し、基地を維持する財源として、不慮の事故で死んだトラの部位を販売する……という、とんちのような名目でビジネスが行われてきた。

トラ牧場があれば、クマ農場も存在する。農場と名乗るのは、クマは食肉ではなく、珍重される漢方薬・熊胆(くまのい)の採取を目的としているためだ。檻にいれたクマにカテーテルをつなげ、生きたまま胆汁を採取するのである。北朝鮮で発明された手法と言われるが、その後中国で大々的に広まった。

あまりにも残酷だと中国国内からの批判も強く、伝統中国薬の製造企業で1000頭以上のクマを飼育する帰真堂薬業は、抗議活動によって2012年に予定していた上場を撤回したほどだ。

ちなみに、中国では2003年に商業利用のための人工繁殖を認められた野生動物のリストが制定されている。54種の動物が掲載されているが、トラやクマは入っていない。トラ牧場もクマ農場も合法的な商売とは言いがたいわけだ。

■感染症の原因となった動物も人工繁殖が認められている

掲載されているのはイノシシやダチョウといったわかりやすいところから、クジャクなどの鳥、ワニやスッポン、カエル、さらにはサソリやムカデといった昆虫や節足動物も入っている。興味深いのはハクビシンがこのリストに入っている点だ。

というのも、2002年から翌年にかけて中国で流行したSARSは、もともとコウモリが持っていたコロナウイルスが人間に感染するよう変異することで広まったが、コウモリから人間に直接伝染するのではなく、ハクビシンが中間宿主として介在したとされる。

ハクビシン
写真=iStock.com/kwanchaichaiudom
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kwanchaichaiudom

そして新型コロナウイルスのCOVID-19もセンザンコウが中間宿主だった可能性が示されている。長期にわたり大量に食されてきた牛、ブタなどは生態が熟知され感染病リスクに関する知見も多い。一方、ハクビシンなど家畜化されなかった動物はまだ不明なことも多く、人間との接触機会が増えることで新たな病気が生まれかねない。

SARS流行後に制定された、人工繁殖認可リストにハクビシンが入っているのはさすがにまずいと、各地方で暫定的に繁殖禁止にしたが、これもいつの間にかなし崩し的に養殖が広がってしまった。SARSという大きな教訓があったにもかかわらず、同じ過ちを犯しているわけだ。

■コロナ対策のためゲテモノ食の規制を強化

新型コロナウイルスの感染被害は甚大で、さすがの中国政府もこの状況はまずいと考えた。国際的にコロナの起源論争が始まるや、ウイルスは他国から持ち込まれた、武漢市の野生動物市場が発端ではないと主張する一方で、かつてないほどに強力な野味規制を実施している。

中国全土でまだコロナ対策のための経済活動停止、外出自粛が続いている最中の2020年2月24日、全人代常務委員会は、野味規制の法案を可決した。従来の規制は希少動物の保護が中心で公衆衛生の観点がなかった。貴重だから保護すべき、毒があるので食べてはいけない、という決まりはあっても、それ以外は放任されていた。

そこで同法案では、家畜認定を受けた動物以外は、食べることも繁殖させることも禁止するというホワイトリスト方式が採られた。

ホワイトリストに掲載されたのは以下の33種である。中国で古くから扱われてきた伝統畜禽として、「ブタ、牛、コブウシ、水牛、ヤク、ガウル、羊、ヤギ、馬、ロバ、ラクダ、ウサギ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ハト、ウズラ」の17種類。

これにくわえて外来種だが繁殖手法が確立している特殊畜禽として「ニホンジカ、アカシカ、トナカイ、アルパカ、シチメンチョウ、ホロホロチョウ、キジ、鷓鴣(シャコ) 、ノバリケン、マガモ、ダチョウ、エミュー」が選ばれた。

さらに「ミンク、ギンギツネ、ホッキョクギツネ、タヌキ」は非食用、すなわち毛皮のための繁殖が認められている。大騒ぎとなったのはワニ、スッポン、ウシガエル、ヘビ、ザリガニの類だ。

■年間1000万頭を消費する“犬食”も禁止されることに

先の2003年の繁殖許可リストには入っており、近年も中国全土で一般的に食べられている食材である。養殖産業の規模も大きい。他に先駆けて地方条例を定めた広東省深圳市の担当官僚が質疑でスッポン禁止と発言したため、これがトップニュースになるほどの騒ぎとなった。

最終的にはホワイトリストで制限されるのは哺乳類と鳥類のみという解釈となり、爬虫類や両生類、甲殻類は規制されないこととなった。特にザリガニとビールのセットは中国の夏には欠かせないB級グルメとして定着しているため、安堵した人は多いようだ。

この決定によりハクビシンやセンザンコウなど多くの野味は禁止されることとなった。特に衝撃が大きいのは犬肉が違法となったことだろう。中国は年に1000万頭、全世界の消費量の約半分を消費していると言われている。広西チワン族自治区の玉林犬肉祭りは多くの犬肉ファンと、それ以上に反発する多くの動物愛護団体を集める世界的イベントとなってきた。

中国でもペット愛好家が増えるなか、動物愛護の観点から犬肉を禁止すべきか、それとも犬肉食の文化と関連事業者の商売を守るべきかというジレンマが常につきまとってきた。中国共産党の機関紙『人民日報』は2014年6月23日の記事で「犬はパートナーでもあり、食材でもある」との論説記事を掲載しているが、賛成派も反対派も互いの意見を尊重して解決策を見つけようという、腰の引けた内容であった。

犬の販売中国
写真=iStock.com/ImageegamI
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ImageegamI

ところが2020年のホワイトリスト方式から犬、さらにネコが外され、ペット愛好家から悪名高かった中国の食習慣は違法となったのであった。

新型コロナウイルスの出現を契機として世界は大きく変わる。盛んに言われている話だが、中国においては野味の厳格な禁止というアフターコロナが待ち構えていた。新型コロナウイルスは他にどのようなレガシーを残すのだろうか。

■禁止されても開催された犬肉祭り

マスクの着用や手洗いなど、衛生に関する啓蒙活動が徹底的に行われた。

高口康太『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)
高口康太『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)

パーソナルスペース、つまり人間同士の距離をとり、ソーシャルディスタンスを保つ習慣も広がった。流行初期に、ある中国在住の日本人企業家に話を聞くと、「中国人の衛生観念が変わる歴史的転換点になるでしょう。どれだけ豊かになっても、清潔にはならなかった街が、そして人々が一気に変化すると思います」と語っていた。

ところが半年ほどが過ぎた頃、再びその企業家に話を聞くと、ほとんどがコロナ前に戻ってしまったという。中国では今でも感染が時々確認されているが、大半は海外からの来訪者で、国内での感染は抑止できているといっていい。多くの人にとってはコロナ前の暮らしが戻ってきた。それに伴って、衛生に関する意識も元の木阿弥になったのだとか。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のは個々の国民だけではないようだ。前述の野味禁止の大号令もどこまで実施されるのかは不透明なままだ。先述の玉林犬肉祭りは2020年も21年も、いつもどおりに開催されたという。明らかに違法行為だが、法律があっても本当に運用されるかどうか、わからないのが中国である。

大事件が起きれば、それに対応して何かを禁止したり対策したりすることはできる。だが、そうした変化はあくまで一時的なもので長続きさせることができないのだ。これこそ中国の課題だ。

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高口 康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。

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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太)

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