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「本屋に行かない知的生活は危ない」宇野常寛が"アマゾンでは買えない雑誌"を創刊した狙い

プレジデントオンライン / 2021年12月10日 9時15分

[紀行文]10年目の東北道を、走る:あの震災から10年、そろそろ次のステージへと考えたくなるタイミングだからこそ、もう一度しっかりとあの土地たちを歩いてみたい。そんな視点から綴られたかつての「被災地」の旅の記録が、本誌の巻頭を飾っている。 - 提供=PLANETS

書店で目当ての本を買うには、店内をうろうろする必要がある。これはムダな時間なのだろうか。評論家の宇野常寛さんは、新しい雑誌『モノノメ』の創刊にあたり、「アマゾンでは売らない」というテーマを掲げた。宇野さんは「アマゾンを否定するわけではないが、『本屋で時間をかけて本を選ぶ』ということの豊かさを手放すのはまずい。だからモノノメを創刊した」という――。

■批評家と編集者は「車輪の両輪」

——宇野さんは、評論家としての活動のほか、批評誌『PLANETS』の編集長としても著名です。そもそもなぜ雑誌を創刊しようと思い立ったのですか。

【宇野】僕はもともと会社員サラリーマンをしていたのだけど、あるとき物書きをやってみたいと考えて、そのときに自分の能力を証明する必要があったんです。その手段として選んだのが批評の雑誌を自分で作ることだった。当時ははてなダイアリーを中心に文化系でもブログが盛り上がっていたのだけれど、当時すでにものすごく陰湿なムラ社会化が進んでいた。言ってみればいいものが書ける人ではなくて、潮目を読むのがうまく、徒党を組んでイジメる側に回る人が大きな顔をしている世界だった。

僕はそういうものに、はっきり言って軽蔑を感じていた。だからそういったものへの抵抗の意味も込めて、あくまで自分がおもしろいと思う書き手に声をかけていって2005年に『PLANETS』を創刊しました。

『モノノメ 創刊号』誌名の由来は春の季語の「物の芽」で、いろいろな植物の芽の総称で、「ものの目」という意味も。人の目のネットワークの中に閉じ込められてしまった現代の情報環境にあって、別の目から世界を観てみたいという思いが込められている。
『モノノメ 創刊号』:誌名の由来は春の季語の「物の芽」で、いろいろな植物の芽の総称で、「ものの目」という意味も。人の目のネットワークの中に閉じ込められてしまった現代の情報環境にあって、別の目から世界を観てみたいという思いが込められている。

僕のアイデンティティは、やはり物書きなんです。批評誌の創刊も、最初は手段でした。でもそれと同じくらい、メディアをつくること自体にも興味がありました。僕は自分で書くことと同じくらい、人に書いてもらったり人の文章を編集したりすることが好きなんです。

出版の仕事をすることは、物書きとしてのアドバンテージにもなっています。僕はそれこそ政治からサブカルチャーまで、さまざまな対象を批評していますが、それができるのは、本になる前の生の知見に触れられたことが大きい。まだ大学院生だったころの落合陽一さんにデビュー作(『魔法の世紀』PLANETS、2015年)を書いてもらったのは、その代表例かもしれない。

そうやって国内最先端の知見に触れることで、批評家として効率よく勉強ができた。批評家と編集者は、まさしく車輪の両輪です。僕は独立系メディアの編集者として15年以上やってきたことで、自分の批評的なエッジを確保してきた人間なんです。

■かつてのサブカルチャーの位置にいまはITがある

——『PLANETS』はサブカルチャー批評誌として始まりました。一方、『モノノメ』創刊号の特集は「『都市』の再設定」。宇野さんの中で関心の変化があったのでしょうか。

【宇野】それはたぶん、僕ではなくて時代の変化だと思います。僕は、1970年代から90年代までの、サブカルチャーが先進国の社会で独特の位置を占めていた時代の文脈を引き継いでいるたぶん最後の書き手です。要するに、若者が革命で世界を変えるのではなく文化の力で世界の見え方を変えることを志向していた時代を知っている最後の世代だということです。

そこから先だと、市場に技術を投入することで世界を変えることが選ばれていた時代があって、それが今、再政治化しているというのが僕の判断なのですけれど、要するに、かつてのサブカルチャーの位置に、いまは情報技術とそれを応用したビジネスや政治がある。

僕はその変化に対して、サブカルチャーの灯を守る人になるのも、ITビジネス評論家になるのも嫌でした。そこで、サブカルチャー批評のある種のマイナーな視点から現代の情報社会を考えるということをはじめたわけです。その結果として2012年の『PLANETS』vol.8以降、サブカルチャー批評から総合誌路線へと舵を切りました。今回の『モノノメ』はその延長線上にあります。

「[紀行文]10年目の東北道を、走る」より。宇野が10年ぶりに訪ねた石巻市では、石ノ森章太郎の生み出したヒーローたちが、さまざまな歪みを抱えたこの街の復興を見守っていた。
提供=PLANETS
「[紀行文]10年目の東北道を、走る」より。宇野が10年ぶりに訪ねた石巻市では、石ノ森章太郎の生み出したヒーローたちが、さまざまな歪みを抱えたこの街の復興を見守っていた。 - 提供=PLANETS

■「記事単位でしか読まれない」ウェブメディアの現実

——宇野さんが2020年に立ち上げたウェブメディア「遅いインターネット」からなぜ立て続けに、しかも紙媒体を創刊したのでしょう?

【宇野】「遅いインターネット」は、実はああいった硬めの、そして長い記事ばかりが並んでいるウェブマガジンの中ではけっこう読まれているんです。例えば、成田悠輔さんの「出島社会のすすめ──連帯ブランディングより幸福な分断を」や清水淳子さんの「視覚言語としてのグラフィックレコードが見せる世界」という論考は大きな反響がありました。

ただ、手ごたえがあった一方で、誤算もありました。読んだ人は「あの記事、おもしろかった」と言ってくれても、「『遅いインターネット』、おもしろいね」とはなかなか言ってくれない。つまり記事単位で読まれていて、メディアとしてそもそも意識されていなかったんです。

[特集]「都市」の再設定:創刊号の特集は「都市」。メガシティへの人口集中化、気候変動により高まる災害リスク、コロナ禍が後押しするデジタルトランスフォーメーションなど、大きな転換を迎えつつある現代都市の問題に、様々な切り口から光を当てている。
提供=PLANETS
[特集]「都市」の再設定:創刊号の特集は「都市」。メガシティへの人口集中化、気候変動により高まる災害リスク、コロナ禍が後押しするデジタルトランスフォーメーションなど、大きな転換を迎えつつある現代都市の問題に、様々な切り口から光を当てている。 - 提供=PLANETS

僕は個別の記事と同じくらい、いくつかの記事が並んでいるからこそ伝えられる世界観を大事にしています。しかし、今はメディアよりプラットフォームの力が圧倒的に強く、Webメディア事業者の多くはプラットフォームからお溢れ的にPV数をもらえればいいと考えている。僕はそういうゲームをやりたくなくて「遅いインターネット」を立ち上げたのに、記事単位でしか読まれない現実が壁として立ちはだかってしまった。

プラットフォームの外側に出て世界観を伝えるために、やはり物理的な媒体が持っている強制力——パラパラめくっているときに他の記事が目に入るといったシンプルな強さ——に、もう一回賭けてみたい。それが新雑誌を創刊した直接の動機です。

[座談会]「都市」を再設計する_創刊特集基調をなす座談会。饗庭伸、安宅和人、菊池昌枝、渡邉康太郎の各氏を招き、復興、防災、地方創生といった切り口から、この10年ほどで浮上してきた世界と日本での都市にまつわる論点の洗い出しが行われた。
提供=PLANETS
[座談会]「都市」を再設計する:創刊特集の基調をなす座談会。饗庭伸、安宅和人、菊池昌枝、渡邉康太郎の各氏を招き、復興、防災、地方創生といった切り口から、この10年ほどで浮上してきた世界と日本での都市にまつわる論点の洗い出しが行われた。 - 提供=PLANETS

■アマゾンと大手書店での流通を拒む理由

——創刊の手ごたえは?

【宇野】これまで定期刊行はやったことがなかったから、いつもは自信過剰気味な僕も珍しく自信がなかったんです。しかし、ふたを開けてみると予想外に評判がいい。読んでくれた人はすごく喜んでくれて、ホッとしています。

ただ、正直に言って流通は苦戦しています。今回、『モノノメ』はアマゾンと大手書店では扱わず、主な販路を僕が信頼する書店に限りました。大手チェーンでも、雑誌の趣旨を理解してくれている書店員さんのいる店には出しています。あとはクラウドファンディング、そしてBASEによるネットショップでの直販です。

[特別企画]虫の眼、鳥の眼、猫の眼──人間外から都市を読む_『国道16号線 日本を創った道』が話題になった柳瀬博一氏のガイドで、人間以外の生物の眼を介することで都市という環境がどう捉え直せるのかを探った異色ルポルタージュ。
提供=PLANETS
[特別企画]虫の眼、鳥の眼、猫の眼:人間外から都市を読む_『国道16号線 日本を創った道』が話題になった柳瀬博一氏のガイドで、人間以外の生物の眼を介することで都市という環境がどう捉え直せるのかを探った異色ルポルタージュ。 - 提供=PLANETS

創刊号は5000部を刷ったのですが、これに対してクラファンでは1129人から750万円の支援が集まりました。予想以上の反響でした。これまでの経験からすると、このままアマゾンで流通させれば、たぶん、8000部くらいは少なくとも刷らないと在庫はあっという間になくなってしまうと思います。

ただ、それはやりたくないんです。僕が信頼する本屋さんやコンセプチュアルなスペースに卸しているので、そういった施設を訪れてくれる読者に、『モノノメ』を届けていきたいと考えています。その結果として、初版の5000部がまだ売り切れていない。やっぱりアマゾンや大手チェーンは強いですよ。いや、分かっていたんですが……。

■「プラットフォームの“外”で売る」という問題提起

——なぜ流通を絞ったのですか。

【宇野】ただ「この本を読んでください」じゃなくて、「本屋さんに足を運んで、棚に触れて、時間とお金をかけて本を選んでください」と言いたいんですよ。プラットフォームに流れてくるものではなく、その外側にあるものに意識的に触れることがいまの僕らの知的生活には大事だということを、まずは伝えていかないといけない。

“本屋で本を買う運動”を並行してやっていくべきだと思ったんですね。「本屋で本を選ぶ時間がもったいない」という人もいるけれど、あの時間こそがもっとも豊かな時間じゃないですか。それに共感できる人をゲリラ的に増やしていくことが大事だと思っています。

[特別座談会]オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト再考:宇野らが2015年時点に『PLANETS-vol.9』で東京五輪2020の「対案」として提出した「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」の可能性を、いま改めて検証した座談会。
提供=PLANETS
[特別座談会]オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト再考:宇野らが2015年時点に『PLANETS-vol.9』で東京五輪2020の「対案」として提出した「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」の可能性を、いま改めて検証した座談会。 - 提供=PLANETS

——アマゾンや大手書店を通さずに5000部を売り切るのは大変だと思いますが、次号以降もこの売り方を続けられるのですか。

【宇野】分かりません。でも、工夫してやっていければと思っています。

この売り方は問題提起です。実は僕もアマゾンをよく使っているし、自分が欲しい本がキンドルにないと不満だったりします。ただ、そのときに失っているものが確実にある。だからこの時代にはそれを意図的に補っていかないと、本来味わえるものを味わえなくなってしまう。だからそうでない時間を確保しないといけないと思うんです。

[論考]井庭崇 創造社会における創造の美:建築や芸術作品の制作から日常生活まで、さまざまな創造や行為に通底する普遍的な規則を抽出するパターン・ランゲージ研究の第一人者・井庭崇氏が、日本独自の生活工芸運動「民藝」の思想との関係性に迫った書き下ろし論考。
提供=PLANETS
[論考]井庭崇 創造社会における創造の美:建築や芸術作品の制作から日常生活まで、さまざまな創造や行為に通底する普遍的な規則を抽出するパターン・ランゲージ研究の第一人者・井庭崇氏が、日本独自の生活工芸運動「民藝」の思想との関係性に迫った書き下ろし論考。 - 提供=PLANETS

■「のるか、そるか、冷笑するか」以外の選択肢を

——宇野さんは「いまのインターネットは速すぎる」と指摘しています。問題意識は共通していますね。

【宇野】そうですね。僕は数年前から「遅いインターネット」を提唱していますけれど、その必要性を痛感している人も増えていると思います。

SNSが普及してからのインターネットは、ユーザー同士の相互評価のゲームが強く働きすぎていると思います。誰もが自分のアカウントに多くの反応を得ようとしているこの状況では、すでにみんなが話している話題に対して投稿するインセンティブが高すぎる。そしてその投稿の内容も、すでに支配的なある意見に「のるか、そるか、冷笑するか」のせいぜい3パターンくらいで、それ以上に意見が多様化しないゲームになっている。つまり、新しく問題設定をするインセンティブがありません。

[エッセイ]最上和子 身体というフロンティア:舞踏家の最上和子氏が、自らの身体との対話から得た発見をあえて言語に置き換えていく身体論エッセイ。外側への表現ではなく、内側に潜るスリリングな「読む舞踏」。
提供=PLANETS
[エッセイ]最上和子 身体というフロンティア:舞踏家の最上和子氏が、自らの身体との対話から得た発見をあえて言語に置き換えていく身体論エッセイ。外側への表現ではなく、内側に潜るスリリングな「読む舞踏」。 - 提供=PLANETS

今日のインターネット言論が貧しくなっているのはそのせいです。だから新しい雑誌をつくるときに、「SNSの相互評価のゲーム」でセルフブランディングしている人は基本的に出さないと決めたんです。

[創作]浅生鴨 穴:作家・浅生鴨氏による書き下ろし小説。80年ものあいだ「戦争」が続くもうひとつの日本らしき国のとある工場を舞台に、ディストピア的な日常とその裂け目が描かれる。
提供=PLANETS
[創作]浅生鴨 穴:作家・浅生鴨氏による書き下ろし小説。80年ものあいだ「戦争」が続くもうひとつの日本らしき国のとある工場を舞台に、ディストピア的な日常とその裂け目が描かれる。 - 提供=PLANETS

■コンプレックス層を動員する言論ポルノに抗う

これは、今のSNSで行われている相互評価のゲームではあたらしく問題設定するインセンティブが低いことを意味します。例えば、保守とリベラルの論争がくだらない、と考えたときにより建設的な論点を示すよりも、どちらもバカだと自分のことを棚に上げてこき下ろしたり、弱いほう、負けたほうをバカにするスネ夫的なコミュニケーションのほうが手っ取り早くユーザーを動員できる。

特に、弱いほう、負けた側をバカにすることで自分のことを「賢い」と思い込みたいコンプレックス層を動員して課金させるスネ夫的な言論ポルノはすっかり定着してしまった。これはすごく悪質です。

だから、こうした不毛なゲームから切り離された時間を積極的に自分の生活の中で確保していく人を増やしていかないといけない。それは単に内容がきちんと独自の問題を設定できる建設的な批判になっていることだけではダメで、メッセージの届け方も工夫しないといけない。それが、僕が「本屋で本を買う」ところに回帰しようと考えた理由の一つです。

沖本ゆか×丸若裕俊 もののものがたり:骨董の域に到達しそうな工芸品からジャンクな日用品まで、EN-TEA代表の丸若裕俊氏と沖本ゆか氏のコンビで、古今東西の「もの」の魅力を語り尽くす対談連載。初回に取り上げたのは九谷焼の箸置きと朝日焼の湯呑。
提供=PLANETS
沖本ゆか×丸若裕俊 もののものがたり:骨董の域に到達しそうな工芸品からジャンクな日用品まで、EN-TEA代表の丸若裕俊氏と沖本ゆか氏のコンビで、古今東西の「もの」の魅力を語り尽くす対談連載。初回に取り上げたのは九谷焼の箸置きと朝日焼の湯呑。 - 提供=PLANETS

■社会を変えるには「暮らし」を変えること

——次号以降の『モノノメ』では、どのようなテーマを扱っていきますか。

【宇野】一つは生活です。10年ほど前、「アラブの春」がまだ成功例として記憶されていたころ、インターネットが政治を変えることはポジティブな可能性として議論されていた。たしかに僕もそう考えていたのだけれど、その一方でそれだけではダメだとも思っていた。要するに、当時はインターネットがアーリーアダプターたちのサブカルチャーから一般層のライフスタイルとして定着していく段階の最後のフェーズだったわけですが、僕は文化が政治を変えるのではなく、文化がまず生活を変え、そこから政治を変えるという段階を踏まないといけないと指摘していました。

[連載]おいしいものにはわけがある:宇野常寛とPLANETS編集部が出会った「おいしいもの」にはまつわるさまざまなエピソードを紹介する連載ルポ。初回に取り上げたのは知る人ぞ知る「たかまつ」の弁当。
提供=PLANETS
[連載]おいしいものにはわけがある:宇野常寛とPLANETS編集部が出会った「おいしいもの」にはまつわるさまざまなエピソードを紹介する連載ルポ。初回に取り上げたのは知る人ぞ知る「たかまつ」の弁当。 - 提供=PLANETS

だから、当時からポスト戦後中流のライフスタイルに注目して取り上げていたのだけど、今回の『モノノメ』では、その延長で徹底的に「暮らし」から社会を考えています。それがないと、今僕が指摘したような空疎な相互評価と動員のゲームに巻き込まれてしまう。

[連載]絵本のはなしはながくなる:毎回、様々な人を訪ねて好きな絵本についてたっぷり話してもらう連載。初回は、作家の川上弘美氏に不可思議な日常に出会える2冊の絵本を選んでもらった。
提供=PLANETS
[連載]絵本のはなしはながくなる:毎回、様々な人を訪ねて好きな絵本についてたっぷり話してもらう連載。初回は、作家の川上弘美氏に不可思議な日常に出会える2冊の絵本を選んでもらった。 - 提供=PLANETS

■「飲む以外のおとなの遊び」を東京から発信する

——「暮らし」から社会を考えるという試みについて、具体的に実践していることは。

【宇野】例えば、今回の特集「『都市』の再設定」で取り上げた「飲まない東京」プロジェクトは、その実践ですね。僕は政府の感染症対策の中で行われた見せしめ的な飲食店イジメにはもちろん反対だし、飲酒の文化そのものを否定するつもりはまったくないです。ただ、「大人の遊び」=「飲み会」というこの国の文化はちょっと貧しいと思うし、日本的な「飲みニケーション」文化もちょっと有害にすぎると思います。

有名な話かもしれないけれど、僕が昔関わっていた批評とか思想の世界って、本当に陰湿な飲み会政治がはびこっているんですよ。業界のボスみたいなやつが取り巻きを連れて飲み歩いて、取り巻きはボスの敵の悪口を言ってご機嫌を取って盛り上がる。それをネットで中継して、見ている人がそうだそうだと囃(はや)し立ててイジメの快楽を手にする。表面的には偉そうなこと言っていても、実態はそんなもんです。でも、昭和の古い体質やオヤジ的な文化が残る業界の「飲み会」ってそんなもんだと思うんですよ。

[妄想企画]「飲まない東京」プロジェクト2021_昭和的な「飲みニケーション」文化を脱却するため、お酒を飲まない人の視点からの新しい飲料の開発や、「飲む」以外の夜の遊びの提案、拠点となるようなスポットづくりについての提案企画が行われている。
提供=PLANETS
[妄想企画]「飲まない東京」プロジェクト2021:昭和的な「飲みニケーション」文化を脱却するため、お酒を飲まない人の視点からの新しい飲料の開発や、「飲む」以外の夜の遊びの提案、拠点となるようなスポットづくりについての提案企画が行われている。 - 提供=PLANETS
[妄想設計]「飲まない東京」カフェ計画_「飲まない東京」プロジェクトの拠点となる、カフェと図書館とコワーキングスペースが一体となったような夢の施設の構想が、実際にイメージパースとして可視化されている。
提供=PLANETS
[妄想設計]「飲まない東京」カフェ計画:「飲まない東京」プロジェクトの拠点となる、カフェと図書館とコワーキングスペースが一体となったような夢の施設の構想が、実際にイメージパースとして可視化されている。 - 提供=PLANETS

■こんな時代だからこそ「草の根の運動」を

【宇野】僕はこうした悪い意味での「飲み会」の文化が、人間関係至上主義というかたちで、日本社会のダメなところを象徴していると思う。でも、どうせやるならあいつらはダメだ、というんじゃなくて「こんな新しいかたちも楽しいのでは?」と提案型でやりたい。だからこの計画を考えついたんです。

[連載]ひとりあそびの(おとなの)教科書:宇野常寛と編集部がハマった、とっておきの「あそび」を紹介するフォトエッセイ。初回はドイツの多目的作業用車両「ウニモグ」のラジコンを走らせてみた、ある1日の記録。
提供=PLANETS
[連載]ひとりあそびの(おとなの)教科書:宇野常寛と編集部がハマった、とっておきの「あそび」を紹介するフォトエッセイ。初回はドイツの多目的作業用車両「ウニモグ」のラジコンを走らせてみた、ある1日の記録。 - 提供=PLANETS

「飲み会」以外にも、大人の夜の遊びはもっともっともっと拡張できる。その可能性をどんどん提案していくのがこの「飲まない東京」プロジェクトです。大人の新しい夜の「遊び」や、それができる場所も提案していきたいし、アルコール以外の新しい飲み物そのものも提案していきたいと思っています。

[寄稿]猪子寿之『「祈り」展』のこと:世界がコロナ禍に閉ざされるなか、高野山三宝院で収録した「祈り」の声を「書」にしたアート作品をめぐって、チームラボ代表の猪子寿之氏が創作に込めた思いを綴る。
提供=PLANETS
[寄稿]猪子寿之『「祈り」展』のこと:世界がコロナ禍に閉ざされるなか、高野山三宝院で収録した「祈り」の声を「書」にしたアート作品をめぐって、チームラボ代表の猪子寿之氏が創作に込めた思いを綴る。 - 提供=PLANETS

——そうしたコンテンツをいかにプラットフォームの外に届けるのか、というのが課題ですね。

【宇野】これはもう、草の根の運動しかないと思っています。僕のやっていることは、反時代的だという自覚があります。でも、こうした地道な運動を今はじめないといけないと思ってくれる人、僕の作ったものが面白いと感じてくれる人に一人ずつ出会っていくしかない、そう思っています。僕の作るものを読んでも、自分が正しい側にいるという正義の陶酔は得られないし、自分は賢いと錯覚することもできないと思います。でも、もっとしっかり考えるための手がかりや新しい視点は提供できているはずです。そこに価値を感じてくれる人には、満足してもらえるかなと思います。

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宇野 常寛(うの・つねひろ)
評論家、『PLANETS』編集長
1978年生まれ。著書に『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『母性のディストピア』(集英社)、石破茂との対談『こんな日本をつくりたい』などがある。立教大学兼任講師。

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(評論家、『PLANETS』編集長 宇野 常寛 構成=ライター・村上敬)

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