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結婚が破談、進学を断念…凶悪犯罪の加害者家族を追い込む「日本の世間」という不条理

プレジデントオンライン / 2021年12月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

日本の殺人事件の約半数は「家族間」で起きている。残された家族は、被害者遺族であり、加害者家族でもある。このため多くのケースでは、「加害者家族」として世間の冷たい目にさらされる。そこではどんな問題が起きているのか。長年にわたり加害者家族を支援し、『家族間殺人』(幻冬舎新書)を書いた阿部恭子さんに聞いた――。(第1回/全3回)

■公的なサポートを受けられない「犯罪加害者家族」

――阿部さんが、NPO法人World Open Heartの代表として、加害者家族のサポートをするようになったきっかけを教えてください。

【阿部恭子】加害者家族の支援を目的に、団体を結成したわけではないんです。もともとは支援を必要とするマイノリティーについての研究会でした。それが、私が東北大学大学院に在学していた2008年のことです。

その4年前には、犯罪被害者等基本法ができて、全国に被害者支援のネットワークが広がりました。そして2008年に裁判への被害者参加制度が導入され、翌年に裁判員裁判が始まった。私もマイノリティーとしての犯罪被害者に関心を持っていたので、そうした流れが日本社会に何をもたらすのか注意深く見守っていました。

その過程で、ひとつの疑問が出てきました。「家族間殺人」の場合、遺族は被害者、加害者、どちらの側なのか、と。

日本の殺人事件の約半数は家族間で起きています。「家族間殺人」ではない場合、被害者遺族は、犯罪被害者等基本法で公的なサポートを受けられる。しかし、「家族間殺人」の場合、残された家族は、被害者の遺族であり、加害者の家族でもあります。このため多くの加害者家族が、セーフティーネットからこぼれ落ちてしまうのです。

■加害者家族のなかには自殺してしまう人も

たとえば日本の加害者家族のなかには、自殺に追い込まれてしまうケースが少なくありません。連続幼女誘拐殺害事件の宮崎勤死刑囚の父親、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚の弟、和歌山カレー事件の林真須美死刑囚の長女、いずれも自殺しています。

これは支援を始めてからわかったことですが、加害者家族の相談データを分析したところ、「結婚が破談になった」が39%、「進学や就職をあきらめた」が37%、「転居を余儀なくされた」が36%という結果でした。

一方、海外では加害者家族のサポートが進んでいます。英語圏では「プリズナーズファミリー(Prisoner’s family)」で検索をかけると、研究論文もたくさん書かれているし、支援団体もある。日本でもそうしたサポートが必要なのではないかと感じたんです。

■設立から13年で1000組以上の加害者家族を支援

そこで2008年から加害者家族の支援を始めました。当初は、手探りで本当に苦労しました。日本には前例がありませんから。欧米の活動や論文を参考にはしましたが、やはり日本と欧米は違う。

欧米では家族に連帯責任を問うことはなく、社会的制裁の対象にもなりません。殺人犯のお母さんがインタビューに答えたからといって職場に苦情や抗議がくることはありません。ましてや仕事を辞めざるをえない状況に追い込まれるようなことはありえない。加害者家族が、自分たちの抱える事情や問題をオープンにできる社会環境にあります。

一方、日本には、欧米とは違って“世間”がある。世間は、犯罪加害者だけではなく、その家族の責任まで追求しようとする。日本では、まず加害者家族のプライバシーや、生活を守ることを最優先に支援を行う必要があると考え、活動を続けてきました。

――これまでどのくらいの加害者家族をサポートしてきたのですか?

私たちの団体が「相談」ではなく「支援」と打ち出しているのは、相談者に対するアドバイスだけでなく、面会や公判への同行、家庭訪問なども行うからです。それでも一度の電話相談で弁護士さんを紹介したり、ほかの支援団体につないだりして終わるケースも少なくないので、明確な数字ははっきり言えないのですが……。

凶悪犯罪、性犯罪、交通事故、いじめ事件などすべてを含めると2000組を超えるかと思います。現在は年間200件から300件くらいの相談を受けています。そのなかで、数年かけて面会や公判に同行したり、メディア対応をしたり……と支援を続けている家族は、50組ほど。ご家族が背負いきれない重い荷物を一緒に持って、伴走していく感じですね。

■状況が把握できず誰に何を相談したらいいかわからない

――加害者家族のプライバシーや、生活を守るという話がありましたが、逮捕直後、加害者家族が直面する問題などに共通点はありますか?

まずは報道対応ですね。凶悪犯罪の場合はメディアスクラムが組まれますから。加害者本人は、刑事手続きの流れに沿って逮捕、拘留され、捜査が始まります。ただそれは加害者本人に限った問題です。

多数のマイクを向けられるスーツの人
写真=iStock.com/microgen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/microgen

逮捕直後、家族の大半が警察から連絡を受けるのですが、状況がまったく把握できていないケースがほとんどです。誰に対してどんな罪を犯したのか。自分たちがこれからどうなるのか。隣近所や親族を含めた世間からどう見られるのか。誰に相談をすればいいのか……。誰にも分かりません。

実際には、メディアスクラムが組まれるような凶悪犯罪はさほど多くはありませんが、加害者家族になったみなさんが、メディアが押しよせてくるのではないかと不安を抱きます。

■「幸せそうに見える家族」ほど危ない

それと、約10年間の支援を続けた私個人の実感ですが「家族間殺人」の当事者となった家族の共通点という面では、一見するとみんなごく普通の、幸せそうな家族なんです。ただし“見た目は”“外見上は”という断りがつくんですが……。

普通の家族、理想の家族とは何か。改めて考えてみてください。突き詰めていけば、家族に普通も、理想もないでしょう。

――確かにそうですね。

私が支援を続けて実感するのは、実態のない理想や、普通の家族というイメージに縛られた結果、事件に発展するケースが多いということです。

阿部恭子『家族間殺人』(幻冬舎新書)
阿部恭子『家族間殺人』(幻冬舎新書)

男は家族を持って一人前。女は何歳までに結婚しなければならない。子どもはこうあるべき……。そんな世間体や古い価値観が、DVや配偶者へのモラハラ、親子間や兄弟姉妹間の支配的な言動、子どもへの度を超した躾(しつけ)につながっていく。そして恐怖の蓄積、怒りの蓄積が事件の引き金になってしまう。

事件を起こすくらいなら離婚したり、家を出たりすればいいのでは、と不思議に思う人もいるでしょう。ただ、家族内で追い詰められていくうち、そうした視野や選択肢を持てなくなる。そうなる前の段階で、支援団体や、力になってくれる知人に頼るべきなのでしょうが、どうしても一歩を踏み出せない。他人に弱みを見せたくない。知人に家庭について愚痴をこぼすのは恥ずかしい……。そこで邪魔するのも世間体です。

十数年、加害者家族の支援を続けてきてそのことに気づきました。傍(はた)からは幸せそうに見えるのに、深刻な問題を抱える家族は少なくないんだな、と。(第2回に続く)

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阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)がある。

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(NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子 聞き手・構成=山川徹)

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