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「お客様は神様」という言葉が、日本人の職場環境を地獄に変えている

プレジデントオンライン / 2021年12月23日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

なぜ日本人は長時間労働をやめられないのか。エグゼクティブコーチの玉本潤一さんは「日本人には『長時間労働をしている人ほどたくさんの仕事をしている』という見方がある。だが、海外からはそうした価値観が異常なものにみえる」という――。

※本稿は、玉本潤一『ステートファースト 幸せな成功者になれる「頑張り方」革命』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■なぜ日本人の幸福度は低いのか

とても残念なことですが、「世界幸福度ランキング」での日本の順位はかなり低いと言わざるを得ません。

〈世界幸福度ランキングとは?〉
国連の関連団体発表。各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、GDP、健康寿命、寛大さ、社会的支援、自由度、腐敗度といった要素をもとに幸福度を計る。

トップ10(2021年):1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位オランダ、6位ノルウェー、7位スウェーデン、8位ルクセンブルク、9位ニュージーランド、10位オーストリア

日本の順位:2015年46位、2016年53位、2017年51位、2018年54位、2019年58位、2020年62位、2021年56位

経済的にはそれなりに豊かな国である日本の幸福度順位が、その経済力に比べてかくも低いのはなぜでしょうか。

■日本は顧客側に立つと天国、サービス側に立つと地獄

その大きな理由の一つは、日本の社会が顧客側に立つと快適すぎるほど快適な反面、サービス側に立つと逆に苦しさを強いられて当然という社会通念があることだと私は考えています。「サービス側は苦しんでも、顧客に最上級のサービスを提供して当たり前」という美徳があるのです。

「お客様は神様」という言葉が、過剰に作用してしまったのではないでしょうか。

海外に出ると、日本のサービス全般のクオリティは高い、と痛感させられます。赴任したドイツのスーパー店員のお客の扱いが雑なこと雑なこと。どっちが客かわからなくなるほど、つっけんどんとした態度で話しかけてきます。

「おもてなし」という言葉に代表されるように、日本人は気遣いができ、サービスクオリティも高く、海外の人たちもそこを評価してくれています。

ただ、いくら顧客に対するサービスとはいえ、供給側のステート(感情状態)を崩してまでサービスするのは社会のバランスを欠いているように思います。最終的に供給者側も社会の一員であり、家族もいるわけで、ブーメランのようにそのひずみが返ってきます。

仮に、みなさん一人ひとりが自分の「ステート」を大事にしていて、なおかつ周囲の人々の「ステート」をも気遣える「ステート最優先」の社会であれば、「お客様は神様」といえどもそのバランスの節度はあると思います。

私は、日々幸せ、つまり「日々良いステートでいるためにはどうしたらいいか?」を、個々人が真剣かつ直接的に考える必要が出てきていると思います。

■「犠牲が多い人ほど評価に値する人」という風土

日本はステートを崩しても我慢できる人が多いからか、「ステートそっちのけ」という前提で作られた社会なのかもしれません。リモートワークが当たり前になる前の東京の毎朝の満員電車は、その最たるものです。

ビジネスでも、従業員の高いストレス耐性を前提としたビジネスモデルや組織作りになっていることが少なくありません。私がおうかがいしたある企業では、最近まで「売れるまでオフィスに帰ってくるな」という怒声が飛んでいたそうです。こうした労働環境の過酷な企業が少なからず存在します。

職場でも、「犠牲が多い人ほど、職場や組織に貢献しており、評価に値する人」という風土や考え方が根強くあるように思います。

たとえば、忙しそうな人ほど一生懸命働いている、ムスッとして笑わない人ほど真剣に仕事をしている、長時間労働をしている人ほどたくさんの仕事をしている、家族を犠牲にして土日も働いている人のほうが仕事によりコミットしている、スケジュールがびっちり詰まっている人ほど優秀……これらは、日本人独特の見方のようです。

残業しているビジネスマン
写真=iStock.com/pixdeluxe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pixdeluxe

■「なぜ日本人は遅くまで仕事をするのか」という素朴な疑問

私は、一般的な日本人駐在員よりも、ドイツ・ベルギーの現地組織の中にどっぷり入り込んでいました。そのため、彼らから本音の質問をよく受けていました。

「Tama、なんでいつも日本人は不機嫌なんだ? 笑わないんだ?」
「Tama、なんで日本人は忙しそうに、いつもフロアを走っているんだ?」
「Tama、日本人は遅くまで仕事して、家族はなんとも言わないのか?」

彼らにとっては、そんな日本人の行動パターンが理解できないようでした。私が、「その時々の良いステートを彼らが何より大事にしていること」を理解していなかったように。

私はドイツ・ベルギーのすべてが素晴らしいとはまったく思っていません。むしろ、比較すればするほど、日本には本当に素晴らしいところがたくさんあります。ただ、「今この瞬間にステートが良いことにこだわる生き方」は、日本人がもっと参考にすべきだと強く思っています。

■「成果目標達成」と「ステート」の関係は4つに分類できる

ここで、「成果目標達成」と「ステート」の関係を整理したマトリクス図をご紹介します。「成果目標達成(未達成)」を横軸、「ステート」を縦軸で示しています。

【図表】どのステートで成果目標を達成するか
玉本潤一『ステートファースト 幸せな成功者になれる「頑張り方」革命』(PHP研究所)より

第1象限は、日々幸せな良いステートではあるものの、成果は出ていない領域です。

第2象限は、日々幸せな良いステートであり、成果も出している理想的な領域です。

第3象限は、日々苦しいステートで、なおかつ成果も出ておらず、抜本的な見直しが必要な領域です。

第4象限は日々苦しいステートですが、比較的成果を出している領域です。

以前の私を含めて日本のビジネスパーソンの多くに、第4象限の方が見受けられます。この象限の方々がいかに第2象限にシフトしていくかが、日本全体のステートを上げるカギとも言えるのではないでしょうか。

私のクライアントも第4象限にいた方が多く、「経済的な豊かさや社会的な評価をある程度手に入れているものの、ステートは日々苦しかった……」という方々が大半です。

一方、ドイツ・ベルギーで仕事をして感じたことは、第1象限と第2象限の人が比較的多いということです。中には、正直もっと仕事をしてほしい、自分で行動してほしいと思う第1象限の人も少なからずいました。

そして、非常に大事な気づきは、彼らには第1、第2象限にいることを尊ぶ姿勢があったことです。実際に、経営幹部層から従業員まで、「ステートが少しでも悪いなら勤務しない」という文化がありました。クリニックではうつ病の診断書がすぐ出ますし、社会的にも働く人のステートを尊重する風潮でした。

■「どのステートから行動するか」が目標達成のカギ

ステートが悪い人やチームから出来上がった商品・サービスは、人のためになるどころか人に害を及ぼしています。今、ネット上やテレビで流れる情報やサービスのどれだけのものが、本当に人々を幸せにするものでしょうか。

今の世の中には、恐怖をやたらと煽って消費者のステートを崩させ、それによって関心を引きお金を稼ごうとする商品・サービスが少なくない……そう感じているのは私だけでしょうか。

玉本潤一『ステートファースト 幸せな成功者になれる「頑張り方」革命』(PHP研究所)
玉本潤一『ステートファースト 幸せな成功者になれる「頑張り方」革命』(PHP研究所)

商品・サービスの質という観点でも、サービス提供側にステートの良い人やチームが求められる時代です。繰り返しますが、ステートが悪い人やチームからは良い商品・サービスは生まれにくい。一消費者として言うならば、ステートが悪そうな人やチームのサービスを受けることは要注意です。

書店に足を運ぶと、行動量を増やすためのメソッド本が溢れています。私もそのような本をたくさん読んでいた一人です。手軽に今すぐ最短距離で成功が手に入りそうなこのような本が流行るのもわかります。

しかし、「どれだけ行動するか」はもはや時代遅れ、「どのステートから行動を起こすか」が成果目標達成と未達成を分ける時代に入っています。

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玉本 潤一(たまもと・じゅんいち)
エグゼクティブコーチ
LIFE SHIFT JAPAN代表。インサイトアカデミーの研修動画「国別駐在員研修シリーズ ドイツ編」登壇講師。起活会理事。エンジェル投資家。1978年生まれ。2001年、ミノルタ(現・コニカミノルタ)に入社。以来17年間、情報機器事業部に所属。27歳から9年間は、ドイツとベルギーの子会社にて経営企画を担当。組織再編のプロジェクトマネージャーとして、欧州クロスボーダーの組織変革に参画後、日本に帰国。本社にて海外各国子会社の事業管理に従事。40歳で独立し、経営者・経営幹部向けにエグゼクティブコーチング・経営コンサルティングを提供している。ビジネス・ブレークスルー大学大学院にてMBAグローバリゼーション専攻課程修了。

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(エグゼクティブコーチ 玉本 潤一)

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