お互いを「ママ」「パパ」とは絶対に呼ばない…日本人とは根本的に違うドイツ人の人生観
プレジデントオンライン / 2021年12月13日 15時15分
■自己肯定感に大きな差がある日本とドイツ
2019年6月、内閣府は「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」を発表しました。
この調査は、日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの7か国の若者(13~29歳)に、人生観や学校、家庭、国家などについてアンケート調査したものです。
それによれば、「自分自身に満足している」という質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた日本人は半分弱で、調査国中で最低だったのに対して、ドイツ人はその2倍近い8割以上で、アメリカ、フランスに次ぐ数字となっています。
![データからわかるドイツ人の自己肯定感の高さ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/f/550/img_af5fa34f8316f273b64cac45abb1640d398534.jpg)
さらに、「自分には長所があると感じている」という質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた日本人は6割強いましたが、これも調査国の中では最低でした。
一方、ドイツ人は実に9割以上に達し、調査国の中でトップでした。ドイツ人がいかに自分に自信があるかをよく示しています。
また逆に、「自分は役に立たないと強く感じる」という質問には、日本人は5割弱しか否定しなかったのに対し、ドイツ人は最も多い7割弱が否定しています。
これらのデータから読み取れるのは、日本人の自己肯定感の低さ、そしてドイツ人の自己肯定感の高さです。
また、2017年に統計ポータル「スタティスタ」が行なったアンケート調査によると、「自分の生活に満足していますか?」という問いに対して、ドイツ人の「非常に満足している」「かなり満足している」と答えた比率は93パーセントに達しました。
一方、内閣府が2017年8月に発表した「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活に「満足している」「まあ満足している」と答えた日本人の比率は73.9パーセントに留とどまっています。
なぜ同じ経済大国でありながら、このような差が生まれてしまうのか? その大きな要因は、「自己肯定感」を高める生き方をしているかどうかの差にあるのだと、私は自らの経験を通して気づきました
■赤ちゃんとは別のベッドで寝る
私は妊娠8カ月のお腹を抱えてドイツに移住し、その2カ月後の1999年1月に長男を出産しました。
産婦人科検診からカルチャーショックの連続でしたが、出産は世界共通と思っていた私は、出産当日は想像していたより怖くありませんでした。
でも、その直後から、日本とドイツとでは育児の仕方がまったく違うことを知り、その後もさまざまな驚きに対応していくことになりました。
たとえば、ドイツで子どもは赤ちゃんのときから親とは別の寝室で寝るのが普通です。
赤ちゃんは雑音がないほうが眠りやすく、またお母さんもゆったりと眠れるという考え方があるからです。そのため、ベビーベッドは子ども部屋に置かれ、夜泣きがあるたびに起きて、その部屋に行かなければなりません。
私もそうしました。しかし私は初めての育児で、赤ちゃんが自分のそばにいないと本当に不安でした。そこで、音で確認できるベビーフォンというグッズを利用しました。現在はベビーモニターという映像で見守れるグッズもありますね。
これらを使えば、別室にいても安心です。乳児のときから別室で寝かしつけていると、一人で就寝する習慣が身につくので、成長してからもスムーズに、夜はベッドに行って眠ってくれるようになります。
■夫婦で「ママ」「パパ」とは呼ばないワケ
ドイツでは、子どもが小さくても夫婦の時間を大切にします。
ドイツ人夫婦が、お互いを「ママ」「パパ」と呼んでいるのを一度も聞いたことがありません。子どもが生まれる前から呼び合っている名前やニックネーム、あるいは「Schatz(シャッツ/宝物)」と呼んだりしています。
子どもが生まれても、夫婦の関係はそのまま変わることはないのです。
日本では、子どもが生まれたとたん、子どもが最優先となり、夫婦間での呼び名が変わってしまうことが多いと思います。
ドイツでも子どもはもちろん大事ですが、だからと言って夫婦の時間がなくなったり、二人の関係が変わったりすることを良しとはしないのです。
そのため、ドイツ人夫婦の家では、ベビーシッターを頼むことがよくあります。子どもの年齢は乳幼児でも小学生でも関係ありません。
夕方に夫婦二人で出かけ、コンサートに行ったり、映画を観たり、食事に行ったりと、“子ども抜き”の時間を持つのです。
お金を払ってでも、二人の楽しい時間を作ることを大切にしています。
■無理をして親を演じる必要はない
子どもが中学を卒業するくらいの年齢になると、家庭によっては、子どもは留守番をして、夫婦だけで小旅行をすることもあります。
ドイツ人がこのように子どもと接するのは、「子どもと親は別人格である」という当たり前の考え方が根づいているからです。
子どもが生まれても、親の生活や楽しみや人生は尊重されるべきであり、無理をして親を演じる必要などない、と思っています。
演じるまでもなく子どもは愛らしい存在で、自然に湧き上がってくる愛情で大切に育てれば、それだけで十分なのです。
子どものほうも、幼いころから一人でベッドで眠ったり、親が二人で出かけたりするような環境で育つと、「自立心」が育まれていきます。
「自分は一人でできる」という小さな成功体験の積み重ねが、その後の自己肯定感の形成に大きな影響を与えていくのです。
■親の自己肯定感の低さは子供にも影響してしまう
日本では、子どもに過干渉し、子どもを思いどおりに支配しようとする、俗に「毒親」という存在が問題になっているとも聞きます。
ドイツでは、日本に比べて毒親はさほど話題になりません。親も子どもも、お互いに自立した関係を築けているからだと思います。子は親を見て育つ、と言います。
子どもにとって、親は最初に接する大人です。親の言動や感情を、子どもは無意識にコピーしていくとも言われています。
親の自己肯定感が低いと、子どももまた自分を否定するような考え方を身につけてしまいかねません。だからこそ親は、子育て中も、「自分の人生」を生きることが大切なのです。
■子どもに束縛するような言葉をかけない
家庭の子育てを見ていると、日本の躾ほど厳しくはないとよく感じました。
たとえば、公園で遊ばせていても、いちいちお母さんがそばでピッタリとくっついていることはあまりなく、子ども同士で自由に遊ばせています。
すべり台から落ちるとか、ひどいケガをしない限り、放ったらかしています。
子どもたちは、雨の日にわざと水溜まりに入って泥んこになったり、木登りをしたりと、かなりワイルドに遊んでいます。
![ビーチで砂の城を構築している3人の子供](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/3/670/img_433f1be5a06b8efa7cc0a91e2ad0f5ba769486.jpg)
秋に、子どもたちが、かき集めた木の葉の中に突進して思いきり葉っぱだらけになっても、お母さんたちは微笑んでいるだけです。
日本では「電車やバスでは静かにしなさい」「幼稚園で大騒ぎするのはやめなさい」「挨拶をしなさい」「礼儀正しくしなさい」など、大人が子どもに強いる教育が一般的です。
でも、ドイツで子育てしてみると、そうした注意をすることがかえって、子どもが自分で考え、自分で感じて、自分で選択して行動する機会を奪っているように思えてなりません。
このことが、子どもが成長してからも、自分の意見を持って、意思決定し、主張するのが苦手になってしまう大きな原因となるのではないでしょうか。
“上からダメ出し”しない私は昔、日本で働いていたころ、上司から「上に馬鹿がつく真面目」と皮肉られたことがあります。たしかに、小さいころから学校や先生、親の言うことをしっかりと聞いて真面目に過ごしてきました。
しかし、真面目さが度を越して、何事にも挑戦できない、常に他人の評価を気にする、いわゆる「他人の人生」を歩むようになってしまっていました。
そんな自分の生き方を、第1章でも書いたように、私はドイツでがんになってからようやく見つめ直しました。
そして自分の子育てでも、親や先生の「束縛する言葉」によって、子どもに他人の目を気にする思考習慣を植え付けるのはやめようと思ったのです。
■ドイツで「他人に迷惑をかけるな」と聞いたことがない
ドイツでは、相手に対して挨拶やお礼を言うよう、親が子どもに無理強いするのも見たことがありません。
親や周囲の大人たちが挨拶やお礼を言っていれば、子どもたちはそれを見て自然と身につけていくのです。
「これをしてはいけない」「あれをしてはいけない」、あるいは「これをしなさい」という言い方は、ケガや危険な行為につながるとき以外は、まず使われません。
そういうところは、日本の躾とは大きく異なっていました。また、「他人に迷惑をかけるから」というフレーズを使って、子どもに注意することもありませんでした。日本では頻繁に使われている言葉だと思います。
たとえば、歩行者は歩道を歩かなければいけないというルールがあって、子どもがそれを守っていないときは、「自分がケガをしてしまうからやめなさい」と注意をします。
車や自転車に迷惑をかけるという表現をしません。他者を優先する物言いはしないのです。そして、子どもがやったことに対して、親が良いか悪いかという判断をするのではなく、どうしてそのようにしたのかを聞いたり、説明させたりすることで、必ず子どもの気持ちを優先します。
人に危害を加えたり、子どもに危険が差し迫ったりしていない限り、親や大人は、決して上から「ダメ出し」をしないのです。
■社会的な面からも、子どもを規制しない
そもそも、ドイツでは子どもは社会的に優遇される立場にあります。たとえばドイツには、「Ruhezeit(ルーウェツァイト/静かにする時間)」という規則があります。
![キューリング恵美子『ドイツ人はなぜ「自己肯定感」が高いのか』(小学館新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/a/200/img_aaceb5b1f4e6c419f9cd8f62374ce7a3281042.jpg)
地域や住居により若干異なりますが、昼の13時から15時、22時から早朝6時までは、掃除機の音や騒音を出さないように注意する規則です。
しかし、子どもや乳児の声は例外として許されています。
園児の遊ぶ声がうるさいと幼稚園にクレームが入る日本とは大違いです。
エレベーターや電車に乗る際も、役所や病院の行列で並んでいるときも、小さな子ども連れは優先されます。
子どもと一緒に肉屋に行けば、子どもは無料のハムを必ずと言っていいほどもらえます。ドイツでは、あちらこちらで子どもはVIP扱いなのです。
こういった社会的な面からも、子どもを「規制」や「束縛」によって締めつけるのではなく、のびのびと自由に育てようとするドイツ全体の考えが見て取れます。
日本では、公共の乗り物に乗る際にも、人ごみに乳児を連れていくにも、声を出さないように、泣かないようにまわりに気を遣わなければなりません。
ベビーカーを電車に乗せたお母さんが肩身の狭い思いをしていると聞くと、ドイツとは真逆で信じがたい思いです。
生きづらさやストレスを感じ、苦しい思いを抱えている方々は、もしかしたら、小さいころから親や先生の言いつけをしっかり守ってきた真面目な人なのではないでしょうか。
それが現在に至るまで続き、自分で自分を縛ってしまっているのではないでしょうか。
まわりの目や評価を気にしてしまう思考習慣を、すぐに変えるのは難しいかもしれません。
でも、そんな縛りは絶対に変わることのないルールではない、という「気づき」さえ得られれば、少しずつでも、自分のことを自分で肯定できるようになってくるはずです。
私自身がそうでした。私にもできたのだから、あなたにだってきっとできるはずです。
自分のことを、もっともっと肯定してあげましょう。
自分の思いを押し殺さず、「他人の迷惑」なんて気にしないで、あなたのやりたいことをやりたいようにしてみましょう。子育て中の方も、子どもたちがのびのびと育つように、「他人に迷惑をかけるから」の言葉を封印してみてはいかがでしょうか。
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ライフアドバイザー
埼玉県出身。大学卒業後、大手靴メーカー、旅行会社を経て、ドイツ法人の日本本社に勤務。ドイツ人と結婚。ドイツ、バイエルン州ミュンヘン近郊に移住。長男長女を出産し異文化の中で子育てに奮闘。ドイツ在住は20年を超える。また、バレエ留学生のコーディネイトやライフアドバイザーも行っている。
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(ライフアドバイザー キューリング 恵美子)
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