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「暴力団との交際を堂々とアピール」そんな人間になぜ日本大学は牛耳られていたのか

プレジデントオンライン / 2021年12月10日 11時15分

所得税法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された田中英寿氏 - 写真=時事通信フォト

■暴力団幹部と一緒に写った写真が次々と流出

住吉会の福田晴瞭会長(当時)、山口組六代目の司忍組長、弘道会傘下佐々木一家の山本岩雄総長(故人)と一緒に写っている人間が大学を牛耳っている理事長だったら、その学校の学生やOBはどう思うのだろう。

日本大学の理事長だった田中英寿(74)が、11月29日に東京地検特捜部に逮捕された。田中は歴代の総長選で、自分の推す候補者を勝たせてきた。こんなエピソードがあると週刊新潮(12月9日号)が報じている。

「13年前の総長選では自分がついた候補の対抗馬を向島の料亭に呼び出し、“出馬を辞退してくれたら5000万円渡す。次期総長選は勝たせるようにするから”と協力を仰いでいました。あまりに一方的な申し出に、その候補は断っていましたが」(さる日大関係者)

気にいらない教授がいると、「夜道に気をつけろ」と脅したこともあったという。俺のバックには暴力団がいるとほのめかし、わが物顔に振る舞っていた。

■対立していた幹部は、グラウンドの守衛に左遷

瀬在幸安総長は田中(当時は常務理事)の言動に疑問を持ち始め、6人の弁護士からなる特別調査委員会をつくり、疑惑の調査を指示したと週刊文春(12月9日号)が報じている。

だが調査はうやむやになり、反瀬在に転じた田中は、2005年の総長選では小嶋勝衛を推して瀬在を破ったという。

文春によれば、その後、名古屋で行われたイベントに出席した小嶋総長に、「会わせたい人がいる」と田中が誘った。行った先にいたのは、「司(忍=筆者注)氏だったそうです」と、同大学の元幹部が話している。

田中が2008年に理事長に就任すると、

「まず着手したのは学内にある在籍を知らせる電光掲示板の『総長』と『理事長』の位置を入れ替えることでした。

それまでは総長が上だったのを、理事長を上にし、自らがトップだと宣言した。対立していた幹部を左遷し、最終的に東京・稲城のグラウンドの守衛にするなど、逆らう奴がいれば呼び出して“北海道の大学施設の管理人が空いてるぞ”と脅すのです」(週刊新潮(同))

■教育を食いものにする社会悪

逮捕の発端は、田中の側近だった大学理事の井ノ口忠男と医療法人「錦秀会」の藪本雅巳理事長が、日大医学部附属板橋病院の建て替えを巡り、大学に4億2000万円の損害を与えた背任容疑で逮捕、起訴されたことだった。

そのカネの一部が田中に渡っているのではないか。特捜部は今年9月8日に阿佐ヶ谷の彼の自宅で1億円超の現金を発見、藪本からも約6000万円を田中に渡したという供述を引き出していた。

約5300万円を脱税した所得税法違反容疑だが、特捜部は最初から、5年以下の懲役である背任ではなく、10年以下の懲役の所得税法違反でやるつもりだったと、週刊文春(同)が報じている。

それが証拠に、特捜部から上級庁には、このような報告がなされていたというのである。

「特捜部は、すべて当初の予定通り、田中を逮捕いたします。かねてよりご報告の通り、教育を食い物にする社会悪としての田中を、可罰において重い量刑を科す本来目的の、所得税法違反による逮捕です。すべては狡猾な巨悪を油断させるための“死んだふり”が功を奏しました」

だが、立件・逮捕に至るまでには高いハードルがあったようだ。

■決定的な証拠をつかめない中、作戦を変え…

捜査の手が伸びると、田中は駿河台にある日本大学病院に逃げ込んだ。そこで行われた特捜部の任意の事情聴取では、一貫して容疑を否認し強気だったという。

「田中氏が背任工作のスキームを指示、あるいは承知していたことを証明する必要がありましたが、それが難しかった」(司法担当記者)

田中はいちいち細かいことには口を出さないため決定的な証拠がない。背任の共犯での立件は困難だという見方が広がったそうだ。

そこで特捜部は、田中が会長を務める国際相撲連盟を使った金の出入りと、昨年行われた田中邸のリフォームをめぐる支払いの疑惑へと、戦線を拡大していった。

だが、相撲連盟のほうは任意団体で、会計報告の義務もなく、突破口にはならなかったようだ。

リフォームのほうは、工事の窓口になったのは田中が信頼を置く相撲部のOBで、かつて日大の建設工事などの差配役を担った会社の元社員だった。

その人間は田中の紹介で石川県の建設会社の営業部長になり、日大の子会社・日本大学事業部にも籍を置いていて、リフォームは件の会社が請け負い、日大工学部がこの会社に発注した別の工事費用と併せて処理されていたフシがあったが、このルートも不発に終わった。

そこから特捜部は、脱税に焦点を合わせていって、ようやく逮捕にこぎつけたというのである。

田中は逮捕されて理事長を辞任したが、彼にはいくつもの疑惑がある。冒頭書いた暴力団との強いつながりがひとつである。

■田中体制の集金マシンと化していた「日大事業部」

週刊文春にはこんな話が載っている。

「日大出身のある親方が部屋を開いた際は、小雨の降る地鎮祭に、後に山口組若頭となる高山清司氏が姿を見せたと言われていた。田中氏と弘道会(司忍山口組六代目の出身母体=筆者注)の関係が密かに話題になり、高山氏が田中氏の妻、優子夫人にエルメスのバーキンを一ダース送り、優子夫人が感激していたとの話も耳にしました」(日大関係者)

田中の側近である井ノ口が牛耳っていた日大事業部という伏魔殿の実態も、明るみに出されなければならない。

ここは別名「日大相撲部」といわれていて、田中が率いる相撲部の関係者が複数採用されているという。

土俵に盛られた塩
写真=iStock.com/c11yg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/c11yg

その利益の大半は日大への寄付として処理されていて、田中体制の集金マシンになっていたといわれる。

薮本の政界人脈と豪遊ぶりも週刊新潮(10月21日号)と週刊文春(同)で報じられた。週刊新潮は、薮本が安倍晋三元総理と親しく、加計学園の加計孝太郎理事長らとゴルフクラブで撮った写真も掲載していた。

口ひげを蓄えた面構えはいかにも“政商”という雰囲気である。

藪本の仲介で田中と安倍が会ったことはないのだろうか。

■「政治家に渡した裏金のことも全部ぶちまけてやる」

田中との関係が最も強いのは相撲界だ。週刊文春によれば、

「一九八三年には日大相撲部の監督に就任。田中氏が指導した角界の日大出身者は五十人を超えています。現役理事の境川親方を始め、木瀬親方や入間川親方、解説者の舞の海もいます。

さらに角界に力士を輩出し続ける鳥取城北高の石浦外喜義総監督や埼玉栄高の山田道紀監督も田中氏の薫陶を受けています」(角界関係者)

薫陶ばかりではない。

「田中氏はその豊富な人脈を駆使し、日大に有望な学生を集め、高値で相撲部屋に力士を送り込むことで絶大な影響力を誇った」(週刊文春)という。

田中は入院中に、こんな言葉を口にしていたようだ。

「俺が逮捕されるようなことがあれば、今まで政治家に渡した裏金のことも全部ぶちまけてやる」

逮捕されたのだからぜひ、そうしてもらいたいものである。

■日大の「暗黒の歴史」が繰り返されている

日大という大学には帝王やドンといわれる人間たちが、莫大な私学助成金や学生たちの学費を私してきた「暗黒の歴史」がある。

1960年代後半、吹き荒れた学生運動の「先駆」となったのは「日大闘争」だった。

以前にも書いたことがあるから詳しくは繰り返さないが、当時「帝王」とまでいわれた古田重二良会頭は、学費の相次ぐ値上げに怒った学生たちを右翼学生や体育部の学生たちに襲わせた。その中に相撲部の田中もいたといわれている。

古田は、学生たちのデモ鎮圧のために機動隊まで導入したが、ついには学生たちに屈し、3万5000人の学生が見つめる中で大衆団交に応じ、要求を認めた。

だが、当時の佐藤栄作首相が「日大の大衆団交は常識を逸脱している」と発言。約束は反故にされ、古田は会長として再び日大に戻るが、その年に死去。

あの時、古田的なものを一掃できていれば、田中英寿前理事長も出てこなかったかもしれない。

田中は警察関係とのつながりも強い。

週刊新潮は、安倍元首相時代、官邸の守護神といわれた警察庁出身の杉田和博前官房副長官もその1人ではないかと報じている。

もっとも杉田は、「サシではないと思いますよ。記憶にございませんね」と週刊新潮に答えているが。

警察官僚出身で衆院議員だった亀井静香も週刊新潮で、「相撲取りからマンモス校のトップまでいったんだから、大人物だよ」と田中を擁護している。

■“田中派”の評議員が理事長に復帰させるのではないか

特捜部は、悪質な所得隠しに妻の優子も共謀していたと見て捜査を進めているという。実刑も視野に入れているともいわれる。だが、もしそうなっても、数年後に再び田中が理事長に復帰する可能性があると囁(ささや)かれているようだ。

現在の加藤直人学長はアメフト事件(日大の選手が監督やコーチの指示で相手選手に危険なタックルをして負傷させた)当時、アメフト部の部長だったが、不祥事にもかかわらずトップに就けたのは、田中の力があったからだといわれている。

今回の件で理事は総辞職したが、大半が田中派といわれる評議員はそのままである。彼らを理事に横滑りさせ、時機を見て田中を理事長に復帰させるのではないか。

こういうケースはほかにもあると大学ジャーナリストの石渡嶺司が「揺れ動く日大~田中色一掃かそれとも復権狙いか、今後のシナリオは」(Yahoo!ニュース 12月2日 7:54)で書いている。

「2008年の東京福祉大事件です。当時、総長だった人物がわいせつ事件により逮捕。総長も辞任し、大学は『今後、大学経営に関与させない』と表明します。

しかし、服役後には大学職員(事務総長)として大学に復帰。2020年には学長としても復帰します」

■政界まで深く食い込んでいる日大を改革できるのか

石渡は、こうしたシナリオは文科省も承知しているから、田中派を学内から一掃した日大再建を考えているという。

その切り札は年間90億円といわれる私学助成金。日大側が説明責任を果たして徹底的な改革を断行しなければ文科省は、これを減額、または不支給にすると“脅し”て学内の田中派を一網打尽にするというのである。

たしかに学生数6万5000人といわれるマンモス校でも、助成金が減らされれば学校経営に大きな支障が出るだろう。ましてや、理事長が反社と深い付き合いがあったというのでは、来年の志望者が激減することも予想され、受験料収入が大幅にダウンするかもしれない。

無人の大教室
写真=iStock.com/jyapa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jyapa

それでは、文科省主導の日大改革が行われるかというと、私には大いに疑問である。安倍元首相時代の官邸にまで食い込んでいた田中グループが、文科省の官僚や大臣たちを手なずけていないはずはないからである。

彼らを饗応した際の明細や録音を録っているかもしれない。それが“ヤクザの流儀”である。もし、それを公開するといえば、それでも日大改革をやるという気骨のある人間が出てくるだろうか。

第2の日大闘争を起こせとはいわないが、良識ある教授、学生たちが立ち上がり、学長の説明責任を求め、納得できなければ辞任を要求するべきである。

学外に新学長にふさわしい人材を求めることを考えてもいいのではないか。この機を逃さず、真の改革に着手しなければ、日大は「マンモスの化石」になる。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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