「外出しようとすると首を絞められる」中2少女が2歳上の姉に包丁を向けた"イビツな家族"の日常
プレジデントオンライン / 2021年12月11日 11時15分
■常に不機嫌な姉と溺愛される妹に挟まれた中間子
関西在住の門脇玲子さん(仮名・40代・独身)は、トラックの運転手の父親と、専業主婦の母親のもとに産まれた。2歳上に姉がいたが、門脇さんが産まれた2年後に妹が産まれると、両親は2人とも妹を溺愛。亭主関白な父親は子育てを母親に丸投げした。
門脇さんは両親に遊んでもらった記憶がなく、おもちゃを買い与えられたこともないため、しょっちゅう庭にいるアリと遊んでいた。おもちゃを使った遊びやお絵かきをして遊んだことがなかった門脇さんは、4歳になって幼稚園に入ると、何をしたらよいか困ったという。
学校に上がると、母親はなぜか門脇さんだけに掃除や食事の支度の手伝いを強要。さらに、身体が大きく、食欲旺盛な年上の姉と同じだけご飯を食べさせられた。少食だった門脇さんは全部食べるまでに時間がかかり、母親に怒鳴られるので無理やり食べていると、毎回吐いてしまう。トイレで吐いていると母親に、「トイレに食べ物を捨てるな!」とまた怒られ、父親はわれ関せずだった。
2歳上の姉は常に不機嫌で、話の中心に自分がいないと泣き叫び、怒り散らした。門脇さんは中学生になると友だちが増え、家にいる時間が減ったが、家にいる間は姉がトイレや入浴時までつきまとい、執拗(しつよう)に罵詈(ばり)雑言を浴びせるようになる。
姉は外面はよかったが、友だちができず、門脇さんが友だちと遊びに行こうとすると、玄関で首をしめられたり、枕で窒息させられそうになったりして、出かけるのを妨害された。
それでも両親や妹は傍観するだけ。初めは反抗していた門脇さんだが、ある日両親から、「姉を敬いなさい!」と言われ、それ以降、反抗ことを我慢するようにしていたら、姉の暴言や暴力はエスカレートした。
姉は、妹とケンカをすることもあったが、妹は弁が立つだけでなく、つかみ合いのケンカになっても姉に負けず、両親も「姉を敬え」とは言わない。そのせいか姉は、妹には当たらなくなっていった。
■姉への憎しみと怒り
当時のことを振り返ってもらうと、門脇さんの口から耳をを疑うような言葉があふれ出た。
「私が家にいると姉は、私の背後にピタリとくっついてきて、母がパートで家にいないと、『洗い物しろ!』『風呂掃除しろ!』など何かにつけて命令し、皿洗いをすれば大声で『洗い方がなってない!』『ポットのお湯が満杯じゃない!』『次は掃除機かけろ!』と」
「本を読んでいれば、『アホが読んでも仕方ない!』『そんなしょうもない本読むな!』などと怒鳴ります。友だちから電話がかかって来ると、『電話使うからと早く切れ!』と叫んで電話をさせてもらえませんでした」
「学校のテストでは私は常に90点以上、姉は赤点ばかりなのに、私が勉強をしていると『アホが勉強してる』と笑いながら言ってきたり、『あんな友だちと付き合ってるから、テストの点数が悪いんや! カスみたいなヤツとは付き合うな!』とののしったり。お風呂に入っていたら姉が入ってきて、当時痩せていた私に、『骨だらけで気持ち悪い! さっさと上がれ‼』と言って無理やり風呂から出される……などということが、毎日のように続きました」
たまりかねた門脇さんは、両親に何度も「姉をどうにかしてほしい」と懇願。だが、やはり「我慢しろ」と言われるだけで、門脇さんが姉に暴言を吐かれていても、終始傍観。
姉への憎しみと怒りが我慢の限界に達したのは、門脇さんが中学2年生の冬のことだった。包丁を手に、寝静まった姉の部屋に入り、枕元に座って姉の胸のあたりに包丁を高く掲げ、刺そうとした。
門脇さんは、包丁を掲げてどれくらいの時間が経ったかは憶えていないというが、「私が殺したら、外面がいい姉が被害者で、私が悪者になる」という思いが殺意をとどめた。結局、門脇さんは、眠っている姉に気づかれないまま、部屋を後にしたという。
その後はいつしか、姉へ怒りが募ると、自分の腹部を切り裂く想像をして抑えるようになっていた。
■父親の事故
門脇さんは高校を卒業すると、調理師の専門学校へ進学。本当はボランティアの専門学校へ行きたかったのだが、父親は、「そんなものを学んでも稼げない」と言い、次に建築の専門学校を希望したら、「女のする仕事じゃない」と言われ、トリマーの専門学校も許してもらえず、唯一許してもらえたのが調理師の専門学校だった。
高校卒業後、姉は医療事務の専門学校へ進んだが、卒業後は就職しても長続きせず、転職を繰り返していた。
門脇さんの就職活動が始まると、「アンタなんか受からんから行っても無駄や! 行くんなら家事してから行け!」と玄関でもみ合いになり、結局面接に行けなかったことも。門脇さんが隙を見て外出すると、「何をしてたんや!」と有無を言わさずその日1日の行動を尋問され、「どうせ男と会ってたんやろ! 淫乱女が!」と吐き捨てるように言われた。
「私と姉との間に、何があったわけでもありません。姉は外ではいい子なので、ただ単に私を虐待することが、ストレスのはけ口だったように思います」
やがて門脇さんは就職。妹は園芸の専門学校を卒業し、働き始めた。それから2年ほど経った1999年の1月、門脇さんが24歳の時に「事故」が起きる。
トラックの運転手だった父親(当時49歳)は、早朝に出勤後、階段の踊り場で倒れている状態で同僚に発見される。どうやら会社の事務所に着き、タイムカードを押したあと、階段から落ちたようだ。すぐに救急車で運ばれたが、死亡が確認された。
目撃者がいなかったため、遺体は警察に引き取られ、朝の6時ごろに警察から自宅に電話が入る。「ご主人が亡くなったので警察署に来てください」。母親(当時49歳)と私たち姉妹と、近くに住んでいた父親の姉夫婦と共に警察へ向かった。道中、父親の姉は号泣し、母親と妹は放心状態。姉は平然としていた。
警察署に着くと、事故の顚末(てんまつ)を聞かされたが、ショック状態の門脇さんたちは無言。「面会しますか?」と警察署の職員に言われると、母親と姉が面会した。しばらくして戻ってきた母親は、「狭い倉庫みたいなところに置かれていた!」と怒っていたが、姉は普段と変わらなかった。
その後、門脇さんは伯父(父親の姉の夫)と2人で死亡診断書を取りに行く途中で悲しみがこみ上げてきたが、涙を堪(こら)えた。医師からは、死因は脳挫傷だと知らされた。
■姉との別居
父親が亡くなってからというもの、母親は家の中に閉じこもり、食事も喉を通らない様子で、何もせずボーッとしていたかと思うと、突然泣き出したりするような情緒不安定な状態に。
子供の頃から、母親に一番怒られていたのは姉で、その次は門脇さんだったが、父親が亡くなってからは、全く怒らなくなっていた。半年ほど経つと、「何も考えなくてすむし、お父さんのことも忘れられるから」と言ってパチンコに出かけるようになった。
父親を頼りにしていた母親は、今度は妹を頼りにするようになり、妹が出かけるとなると、「どこに?」「誰と?」「何するの?」「何時に帰るの?」と質問攻めにしたり、妹が欲しがったものを何でも買い与えたりして、妹の気を引こうとした。
父親が亡くなって1年が過ぎようとしていた頃、引っ越しの話が出た。当時暮らしていた家は、長男だった父親が継いだ家だった。父方の祖母は交通事故で門脇さんが生まれる前に亡くなっており、祖父は門脇さんが幼い頃に亡くなっていた。母親が嫁いできてからというもの、母親は近所からよく思われておらず、歩いて5分ほどのところに住む父親の姉とも不仲だったため、父親は生前から、「俺が死んだら、家を売るなり自由にしていいからな」と口癖のように言っていた。
ところが、家を売ろうとしていることが父親の姉の耳に入ると、猛反対。父親には、東京で小さいながらも会社を経営している弟がおり、「引っ越すなら家を次男に譲るか、家を売るならお金をいくらか次男に渡せ!」と言う。
母親が困っていると、姉が、「私がここで一人暮らしをするから、アンタたち3人で引っ越せば?」と提案。
そうして2001年、姉と別れての生活が始まった。姉と離れれば、姉から罵倒される日々から解放されると思った門脇さんだったが、あろうことか姉は、毎日のように電話をかけてきては、門脇さんを罵倒。電話に出ないと、わざわざ1〜2時間かけて家まで来て、怒鳴り散らすように。
さらに姉は母親に対して、「私はアンタに虐待されて育った!」「いつも妹だけ特別扱いして! そんなんやから妹はマトモに育ってない、育て方が悪い!」「働けなくなったのはアンタのせいや! 面倒見ろ!」と罵倒し始める。
姉は定職につかず、1〜2カ月に1回は門脇さんたちが住む家に泊まりに来ては、毎回母親からお金をむしり取っていった。(以下、後編へ)
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ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。
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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
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