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年収の高さだけではない…コンサル業界に就職する東大生が急増している本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年12月16日 10時15分

写真=Daderot/CC-Zero/Wikimedia Commons

この数年、東大生がコンサルティング業界に進むケースが増えている。東京大学でキャリア設計の授業を行ったこともあるコンコードエグゼクティブグループCEOの渡辺秀和さんは「最近の優秀な学生のキャリア観に合致しているからだ。それに対応できない会社では、優秀な若手が次々に退職してしまう」という――。

■この数年で東大生のコンサル業界への人気が急上昇

かつて東大生の卒業後の進路といえば、官僚やメガバンク、総合商社などをはじめとする大企業への就職が主流でした。しかし、ここ7、8年でその進路に変化が起きています。近年、東大生が最も注目を寄せる業界――それはコンサルティング業界です。

東京大学新聞が毎年発表している「就職人数順ランキング(学部生)」によると、2013年のTop20にあるコンサルティングファームはマッキンゼー1社のみでした。

これが、2021年になると、Top20にデロイトトーマツやアクセンチュアなど6社がランクインし、コンサルティングファームの台頭が感じられる結果となっています。

【図表1】東京大学 学部卒業者 就職先上位一覧

もちろんランキングの結果は経済環境や企業の経営状況によって変化します。しかし、特定の企業だけがランクインしているのではなく、同一業界で複数社が上位にランクインしていることは見過ごせない変化です。

■東大生が就職先を選ぶ3つの観点

2017年に私が東京大学で行った「キャリア・マーケットデザイン」の授業では、出席する約300人の学生に毎授業でアンケートを実施し、最終課題として自身のキャリアビジョンとその戦略に関するレポートを課しました。

これらの数多くのやり取りから、昨今の東大生はキャリア選択の際に3つの観点を重視していることが浮き彫りになりました。

①社会的インパクトとやりがいのある仕事

東京大学は、もともと国家公務員志望の学生が多いということに象徴されるように、公的な社会貢献意欲が強い学生が多数います。そのため、自分が関心を持つ領域で、社会的意義のある仕事を望む傾向があります。

このような考えを持っているため、当然自身が取り組むことになる仕事内容を重視して就職先や転職先を選定することになります。

さらに、「配属リスク」という考え方が学生たちの間に広がっています。もちろん日本を代表するような大企業であれば、社会的意義の大きな事業も行っており、その点については大変魅力的と言えるでしょう。

しかし、入社した後、実際に関心を持つ事業に関わることができるか否かは不透明です。そのため、学生からすると、何の仕事をするかわからない総合職採用はリスクが高いと認識され、敬遠される対象になっているのです。

②成長スピードが速く、スキルが身につく仕事

学生たちは以前にも増して成長できるキャリアを求めています。

しかし、所属した環境によって成長のスピードに雲泥の差が出てしまうことも事実としてあります。いまだに一般的な大企業では、20代は下積み期間として「まずは現場業務から経験して」などと企業理解のための職務に長期間あたることも少なくないでしょう。

終身雇用の時代が終わりを迎え、彼らは「これからは自身でキャリアを切り開く時代」だと認識しています。

会社に頼ることができなくなり、いつでも転職できるだけのスキル・専門性がつく仕事内容かどうかは、就職先選定において非常に重要なポイントとなっています。

③実力主義の評価体制がある職場

年功序列型の制度は、評価を積み重ねることで将来の報酬を上げる終身雇用を前提とした人事制度です。報酬が先送りになっているため、現代のように転職する可能性が高い時代においては、正当な対価を受け取ることが難しくなります。

だからこそ優秀な若手人材は、年齢に関係なく、結果や実力に見合った報酬やポジションを「今」欲しいと考え、実力主義の評価制度を強く望んでいます。

また、誰もが知っている大企業、財閥の冠がついた企業などのステータスが低下してきています。代わりに若手人材の間では、身も蓋もない話ですが「年収の高い企業」がステータスとなりつつあるのです。

就活を通して企業へ不安感を抱く学生がいることにも注意が必要です。

新卒採用の際、東大生○人、京大生○人などと、有名大学別の目標数を設定した採用を実施しているケースが見受けられます。確かに大学名は選考における判断基準のひとつとして有用でしょう。しかし、大学名が採用の手段ではなく、目的になっているとすれば問題です。

私の授業に出席していた学生たちからは「個々の志向や実力をあまり見ず、東大生だから採用されているのでは」という企業の採用姿勢に対する心配の声が聞かれました。

■東大生のキャリア観にフィットするコンサル

このような現状から、東大生のような優秀な若手人材が選ぶ企業の特徴が見て取れます。

新卒の職種別採用や実力主義の導入、個人の成長への配慮は、もはや彼らを引きつける上で必須事項といえます。さらに、やりがいのある仕事、社会的意義のある仕事であることを伝える努力も求められています。

東大生から人気を集めるコンサルティングファームには、まさにこのような条件がそろっています。

コンサルティングファームの業務は多種多様です。大企業のM&Aや組織改革、地方創生や国家レベルのプロジェクトもあれば、ソーシャルスタートアップ企業の経営支援や中堅企業の事業再生を支援することもあります。

若手でも経営課題の解決に日々携わることができ、やりがいのある仕事となっています。これらの経験を通じて、固有の業界や企業に縛られない汎用的な問題解決能力や、高度なコミュニケーション能力などを磨くことができるため、成長できる機会が十分にあります。

報酬についても、コンサルティングファームには実力や貢献度に比して評価する人事制度があります。外資系戦略コンサルなどは新卒で入社すると、30歳時点で1500~2000万円程度の年収が見込めます。一方、日本企業の多くは横並びの年功序列型の人事制度のため、このレベルの年収を得るためには20年以上の勤続と昇進が必要です。

コンサルティングファームの実力主義による高い報酬制度が、若手人材の目には魅力的に映ることは無理からぬことです。

それだけではありません。コンサルティング業界を経験するメリットは、魅力的なネクストキャリアにもあります。コンサルティングファームの出身者、いわゆる「ポストコンサル」と呼ばれる人たちは転職市場において非常に高い評価を受けています。

20代、30代の若さで企業の経営幹部に抜擢されることも珍しくありませんし、事業再生を担うターンアラウンドマネジャー、PEファンド、ハンズオンベンチャーキャピタルなどへのキャリアも開けています。また、自身の起業の際にもコンサルタントの経験は大いに役立つでしょう。

■デジタル系スタートアップ企業の人気も上がっているワケ

なお、優秀な若手人材たちが注目している業界はコンサルティング業界だけではありません。2021年度卒の東大生(学部卒)の就職人数順ランキング1位が楽天であることからもわかるとおり、Googleなどのビッグテックやサイバーエージェントなどのメガベンチャー、デジタル系スタートアップ企業への関心も高まってきています。

これらの企業も上述の若手人材層のキャリア観にフィットしていることから、今後人気がますます高まっていくことでしょう。さらに、就職という道を選ばずに起業する学生も、東京大学をはじめとするトップクラスの大学では珍しくありません。

つまり、単にコンサルティング業界が注目されているということではなく、優秀な若手人材の新しいキャリア観にフィットした仕事が選ばれているということを理解しておく必要があります。

オフィスでプロジェクトに取り組む若手たち
写真=iStock.com/nd3000
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nd3000

■優秀な若手人材の確保は以前よりも重要な課題に

優秀な若手人材は「厳しくとも、自分が成長できる環境に身を置き、やりがいのある仕事」を求めています。彼らは自身のキャリア観とのフィットを大切にしているからこそ、採用企業はその変化を的確に捉え、採用プロセスや人事制度を見直していくことが不可欠です。

それは一朝一夕にできることではありませんし、企業によっては大きな変化を伴います。当然、社内でも意見が割れることもあるでしょう。

しかし、それでも優秀な若手人材を採用できる体制を整えることは、現代の企業にとって、採用の枠を超えた企業経営の根幹に関わる重要な課題といえます。

仮に優秀な人材を採用できない組織運営をしていたとすると、いったいどのようなことが起こるでしょうか?

■優秀な若手が入社しない…は会社として「黄信号」

現在の人材市場には魅力的な転職先がたくさんあり、誰でも容易にアクセスできるようになっています。リクナビNEXTやビズリーチなどの人材サービスに登録すると、優秀な若手人材であれば月間100~200件程度のスカウトメールが届くでしょう。

このような環境下において、優秀な人材を引きつけられない組織運営をしていたとすれば、たちまち自社のエース社員が他社へ流出してしまいます。人数によっては会社の屋台骨を揺るがすような事態となってもおかしくありません。

つまり、優秀な若手人材を採用できる体制を整えることは、エース社員をリテンションするためにも必要であり、企業が発展するために欠かせないことなのです。

もし、かつては採用できていた優秀な若手人材の獲得に、最近苦労するようになったと感じている場合は「黄信号」です。

それはもはや新卒や中途採用がうまくできないという人事だけの課題ではありません。経営者や管理者、マネジャー層が真剣に向き合うべき組織の重要課題といえるのではないでしょうか。

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渡辺 秀和(わたなべ・ひでかず)
コンコードエグゼクティブグループ CEO
一橋大学商学部卒業。株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門を経て、2008年に株式会社コンコードエグゼクティブグループを設立。著書の『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)は東京大学での授業の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』(産学社刊)は東京大学生協本郷書籍部でランキング第1位を獲得する。

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(コンコードエグゼクティブグループ CEO 渡辺 秀和)

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