アドラー流「家事をしない夫」があっという間に変わる"皿洗い後"の絶妙な声かけ
プレジデントオンライン / 2021年12月29日 8時15分
※本稿は、平本あきお 前野隆司『幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)の一部を再編集したものです。
■問題解決の2つのアプローチ
解決したい問題に直面したとき、私たちはたいてい原因論を用いています。「物事がうまくいかないのは、どこかに悪いところ(原因)があるせいだ。それを見つけて直せばいい」という考え方です。しかし、人の主観が関わると、それでは解決できないケースがあることがわかりました。それどころか、アドラーは意識を向けたところが強化されると考えますから、原因論の解決法はむしろ悪いところ(=原因)を増やしてしまう結果になりかねないのです。
ではどうするのか。目的論を使うのです。
あなたのパートナーや恋人、親友にが誠実で、思いやりがあって、努力家で、気が利いて、責任感があって、優しくて、素直で、几帳面という特徴があるとして、1つだけ悪いところ=退屈を見つけました。原因論では、この悪いところに焦点をあてますが、目的論では、ここに意識を向けるのではなく、その反対に意識を向けるのです。退屈の反対は楽しいとかロマンチックとかでしょうか。そう決めたら、そこに意識を向けて、強化するようにしていきます。
目的論の問題解決手順をまとめると、こうなります。
ステップ1=強化したいところ(悪いところの反対)を決める
ステップ2=指摘する
ステップ3=上手くいく
■「あなたのそういうところが退屈だ」の代わりに…
つまり、悪いところの逆(退屈ならば、楽しい・ロマンチック)が発生しているところを指摘すると、意識がそちらに向き、悪いところの逆の発生率が高まる、というわけです。
この例で言えば「あなたのそういうところが退屈だ」と指摘するのではなく、たとえば「去年のクリスマスにもらった手書きのカードはうれしかった」と伝えます。
言われたあなたはどう感じますか?
うれしくなって「今年もあげようかな」「今度はもっとすごいことをしようかな」なんて自然に思えるのではないでしょうか。少なくとも、原因論のときのように反発する気持ちは湧きにくくなると思います。
イメージをつかみやすくするために、具体例をいくつか挙げてみます。
■原因論と目的論の比較事例1 家事をしない夫
「うちの夫は家事をまったくやってくれない」となげく妻の例。
原因論
家事をしない夫に意識を向けて、「今週も何もしてくれなかった」と指摘して、改善してほしいと忠告する。たまに食器洗いをしても「珍しい。それが続けばいいけど」とか、「家事は食器洗いだけじゃない」と言ってしまう。夫はやる気が湧きにくい。
目的論
家事をしてくれたとき(=「家事をしない」の逆)に意識を向け、やり方が少々まずくても、ちょっとした手伝いレベルのことでも、そのたびに「ありがとう」とか「今日は疲れてたから助かった」と素直な感謝を示す。夫にやる気が湧きやすくなり、「またやろう」と自然に思える。
![マグカップを洗う男性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/670/img_7e45fb779f9135ff58cade1120f8e6f1325371.jpg)
■原因論と目的論の比較事例2 食卓をちらかす子ども
食事のたびにテーブルの上をひっくり返してしまう3歳の子どもとお母さんの例。
原因論
ちらかすたびに「やめなさい」と叱ったり、「自分で片づけなさい」と強く言っていたらかえって反発して、ひどくなった。子どもにやる気が起きていない。
そこで自由にさせたが、まったくやめない。片づけも大変で食事のたびにストレスがたまってしまう。
目的論
外で遊び疲れたときなど、ごくまれに(10回に1回程度)静かに食卓についていること(=「ちらかす」の逆)があった。そこですかさず「◯◯ちゃん、ありがとう。静かに座って食べてくれると、ママもパパもゆっくり美味しく食べられるよ」と伝えるようにした。子どもが静かに食卓につくことが増えていった。
事例2のお子さんの例は、平本式のカウンセリングセミナーに来られた方の実話です。
ご両親が目的論で関わるようになってすぐ、静かに食卓につく回数が5回に1回くらいに増え、数週間もしないうちに食卓をちらかすことはほとんどなくなったと言います。もちろん人それぞれですが、目的論の効果はかなり早く出るのが特徴です。子どもの場合はもっと早く、顕著に、変わることがあるのです。
もう1つ、子どもの例を紹介しましょう。これも平本式で目的論を学ばれた方の体験談です。
■原因論と目的論の比較事例3 自転車の練習をする子ども
子どもに自転車の乗り方を教えていたお父さんの例。
![平本あきお 前野隆司『幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/200/img_c07363190ab46c9336dc7b71546e92f7159196.jpg)
原因論
お父さんが「背筋が曲がってる。まっすぐにしなさい」「ヒジが曲がってる。もっと伸ばして」と、姿勢が崩れるたびにそこを直すように指摘していた。子どもも一生懸命直そうとしているけれど、まったく上達しない。意識することで、悪いところが強化された。
目的論
お父さんに声をかけて、代わりに目的論で教えてみることにした。
具体的には、たまたまバランスが整って背筋がまっすぐになったときに、すかさず「背筋まっすぐでいいね」と声をかけ、ヒジの角度が良くなった瞬間に「ヒジの角度、ちょうどいいよ」と言うようにした。すると30分ほどで乗れるようになった。強化したい行動(背筋がまっすぐで、ヒジの曲がらないバランスのとれた状態)が発生した瞬間にそれを指摘したことで、そちらに意識が向き、発生率が高まった。
■なぜ「原因論」になりがちなのか
ここからは、慶應義塾大学で幸福学を研究する前野隆司教授との対談のかたちで目的論について解説していきます。
【前野】こうやって学ぶと「そのとおりだ」と納得できますね。それなのに、僕も含めた多くの人が、こうした問題にたいてい原因論で関わってしまうのはなぜですか? 共同体感覚が現代社会で育っていないからでしょうか。
【平本】そうですね。「相手の立場で感じ、考えるという習慣がないから」と言ってもいいと思います。だから、このような事例で相手の立場に立ってもらい「大切な人に『退屈だ』と何度も言われたらどうですか」「家族に『家事をしてくれない』と言われ続けるのと『今日はありがとう』と言われるのと、どちらがやる気になりますか」と、仮想的にでも感じてもらうと、どんな人でもあっという間に「なるほど」となる。だからアドラー心理学を学べば誰でも変われる、と私は思っています。
【前野】なるほど。実体験ですね。それにしてもご紹介してもらった実例のように、そんなにすぐ、劇的に変わるものですか?
■自他共に認める自己チューな人も変わった
【平本】変わります。もう1つ私自身の体験をお話ししますと、昔、自他共に認める自己チュー(自己中心的)な女性とつき合ったことがあるんです。2人で花火を観に行って、私が場所取りしているあいだに「飲み物を買ってくる」と自分の分だけ買ってくるような子です。
【前野】それはなかなかすごいですね(笑)。
【平本】「その性格、直したほうがいいと思うよ」と言ったら「昔からずっと自己チューと言われてるし、私はそういう人間だから」と開き直っている。それで「自己チューと口に出すと原因論になるな」と思って、目的論で関わろうと思ったんです。自己チューの反対は「思いやりがある」だと考えて、思いやりがあるところを見つけようと決めました。
【前野】おお、どうなりましたか?
【平本】寝転んで花火を観ようとシートを広げたら、彼女がかなり広めに芝生で汚れた部分を掃き始めた。もしかしたら、自分の陣地を広げたかっただけかもしれませんが、見方によっては「僕のところまできれいにしてくれている」とも受け取れるので「思いやりあるよね。ありがとう」と言ったんです。ちょっと驚いていたものの、喜んでいるようでした。そのあと、たこ焼きとフランクフルトを買ってきたときも「ありがとう、俺がこれ大好きなのを覚えててくれたんだ。思いやりあるよね」と言いました。もしかしたら、私のためではなくて自分の分だけだったのかもしれませんが(苦笑)、それでも少しうれしそうでした。
それからしばらくしたとき、ついに向こうから「あきおさんも何か飲む?」と聞いてくれたんです。当然だとも言えるし、「やっと気にかけてくれたのか」という気持ちがありましたが、「ありがとう。聞いてくれるなんて思いやりあるね」とお礼を言いました。そうこうしているうちに、どんどん自己チューな振る舞いは減り、思いやりのある彼女になったんです。
■Yes butではなく、Yes andで話す
【前野】どのくらいの期間でそうなったですか?
【平本】彼女に関しては数週間で、はっきり変わりました。
【前野】そんなすぐにですか、しかも激変した。
【平本】はい。ちなみに目的論で話すときは、Yes but(それいいね。けれど、ここはダメ)ではなく、Yes and(それいいね。そして、これをしてくれたらさらにうれしい)という言い方にするのがポイントです。
【前野】アメリカに留学したとき、驚いたのがまさにそのことでした。どこの大学のどの教授もみんなが常にYes andで話すんです。1990年前後でしたから、日本ではまだNoやYes butばかりで「どうしてこんなこともわからないんだ!」なんて叱責する先生も珍しくなかった時代なので、「なんてポジティブなんだろう」と衝撃を受けましたね。あれは、勇気づけだったんだなあと思っていましたが、目的論という意味でも合理的なんですね。
【平本】アメリカはヨコ社会が大前提ですから、自然にそうなったのかもしれませんね。
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米国アドラー心理学修士/メンタルコーチ
講演家、メンタルコーチ。東京大学大学院修士課程修了。日本では数少ない米国アドラー大学院修士号取得者。
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慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。
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(米国アドラー心理学修士/メンタルコーチ 平本 あきお、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司)
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