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「管理職の日韓給与比較」どの職種も大きく水をあけられ大敗北という現実

プレジデントオンライン / 2021年12月14日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eblis

OECDによれば、日本の年間の平均賃金(非正規社員含む)は424万円で35カ国中22位。お隣韓国の462万円を下回った。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が日韓の管理職(正社員)の給与を比較したところ、「例えば、ITサービス(営業職)の場合、韓国(セールスディレクター)は970万~1746万円、日本(部長級)800万~1200万円。業界・職種を問わず、韓国に見劣りする額になっている」という――。

■平均賃金「日本424万<韓国462万」は非正規社員含む調査

日本は給与が上がらない状態が長く続いている。実質賃金は1997年をピークに長期低落傾向にあり、個別賃金指数は97年を100とした時、2020年は95にとどまっている。

最も下がっているのは中小企業(従業員10~99人)の社員だ。大企業(1000人以上)社員の月給(所定内賃金)が97年に比べて2020年はマイナス8700円なのに対し、中小企業の社員は2万1300円も落ち込んでいる。

岸田文雄首相は12月6日の所信表明演説で賃上げした企業に優遇税制を引き上げる方針を表明。具体的には賃上げした大企業に法人税額の控除率を30%、中小企業は40%に引き上げる予定だ。しかし、日本企業の約6割が赤字で法人税を支払っておらず、控除の実効性を疑問視する声もある。

20年以上も賃金が上がらない状態の日本に、今年、追い打ちをかけるように飛び込んできたのが、OECD(経済協力開発機構)が発表した各国の平均賃金の調査だった。

それによると日本の年間の平均賃金は424万円(1ドル110円で換算)。35カ国中22位であるが、何より注目されたのはお隣の韓国が462万円と日本を上回っていたことだ。しかも2015年を境に5年連続で追い抜かれていた。

GDPで中国に抜かれたとはいえ、いまだに世界第3位の経済規模を誇る日本だが、平均年収ではOECD諸国の平均を下回り、2000年初頭までは100万円以上も引き離していた韓国に、逆に38万円もリードされている。

本当にそうなのか。実はOECDの平均賃金は物価水準を考慮した「購買力平価」をベースにしている。これは同じ品質・量の商品がアメリカで1ドル、日本で150円だったら、実際の為替レートではなく、1ドル150円のレートで換算して計算する。

代表的なものがその国でビッグマックがいくらで買えるかというビッグマック指数だ。つまりより生活実感に近い実質賃金ということになる。

ちなみに2021年のビッグマックの価格は韓国4ドルに対し、日本は3.55ドル。価格の違いが反映されて韓国の実質賃金が高くなる傾向がある。

一方、名目賃金だけの平均賃金を比較すると日本と韓国はそれほど変わらない。

また、平均賃金といっても非正規社員を含む労働者の平均であり、正社員との格差が大きい非正規社員が4割近くを占めるため、日本の平均賃金を低く抑えているという説明もなされる。

■日本と韓国の正社員の給与を比べてみると……残酷な事実

では実際に日本と韓国の正社員の給与はどれだけ違うのか。人材紹介業のロバート・ウォルターズ・ジャパンの「給与調査2021」と、ジェイエイシーリクルートメントの「ザ・サラリーアナリシス イン アジア2021」を使って調べてみた。

韓国と日本の貿易戦争の政治・ビジネス概念
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

いずれも各国の職種別・職位ごとの転職時の年収である。ロバート・ウォルターズ・ジャパンの給与調査による日本と韓国の年収を比較すると、職種・職位別年収は韓国に比べて日本が2割程度高かった。

例えば韓国の経理部門の税務担当者485万~679万円の幅であるが、日本の税務会計担当者は700万~1100万円だった(1000ウオンを97円に換算)。

ただし、日本企業の経理部門の担当者でこんなにもらっている人は少ないだろう。この数字は日本企業の社員より1~2割程度高い外資系企業も含まれているためかもしれない。

そこで各国ごとに外資系と日系企業とに分けて調査しているジェイエイ シーリクルートメントの日本国内の日系企業と同一職種・職位と、韓国の調査(ロバート・ウォルターズ・ジャパン)を比較してみた(1000ウオンを97円に換算)。

■<経理部門>

韓国

財務/一般会計担当者 437万~534万円
会計マネージャー 679万~776万円
ファイナンスマネージャー 679万~873万円
財務部長 873万~1164万円
チーフファイナンシャルオフィサー 1552万~2134万円

日本

非管理職級 400万~800万円
課長級 600万~1100万円
部長級 800万~1500万円
役員級 1000万~4000万円

■<人事部門>

韓国

採用担当者 388万~582万円
HRD/トレーナー 679万~970万円
HRマネージャー 582万~776万円
HRディレクター 1164万~1746万円

日本

採用担当 400万~800万円
教育研修・組織開発 450万~800万円
課長級 600万~1000万円
部長級 700万~1300万円

■<消費財>

韓国

セールスマネージャー 679万~873万円
セールスディレクター 1067万~1455万円

日本

営業職課長級 500万~800万円
営業職部長級 700万~1200万円

黒い背景にお金の札束
写真=iStock.com/Hanasaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanasaki

■<製薬・ヘルスケア>

韓国

営業担当者 582万~873万円
セールスディレクター 776万~1358万円

日本

医薬情報担当者 500万~900万円
医療機器営業 500万~800万円
部長級 800万~1200万円

■<ITサービス>

韓国 営業職

セールスアソシエイト 485万~776万円
セールスマネージャー 776万~1261万円
セールスディレクター 970万~1746万円

日本 営業職

非管理職級 500万~900万円
課長級 600万~1000万円
部長級 800万~1200万円

■日本企業の部長は韓国のディレクターに比べ年収で明らかに見劣り

韓国と日本の類似の職種・職位の年収を比較すると、それほど大きな差が開いていないことがわかる。

非管理職の担当者レベルでは日本がやや高いが、管理職クラスになると、業界・職種に限らず韓国のほうが高いことがわかる。とくに部長・ディレクタークラスでは、下限年収も含めて韓国が上回っている。

例えばITサービスの営業職では、非管理職の年収は日本と同程度であるが、管理職以上では下限・上限年収ともに日本を上回っている。それだけ韓国では非管理職と管理職の給与格差が大きいことを示しているが、逆に言えば日本企業の部長は韓国のディレクターに比べて年収では見劣りするということだ。

前出のOECDの平均賃金比較には非正規を含めた全体の比較であるが、正社員のホワイトカラー職種の比較でも韓国が日本に肉薄し、職種・職位によっては上回っていることがわかる。

しかもアメリカをはじめとするG7と韓国は2000年以降、徐々に賃金が上昇にしているのに対し、日本の賃金は停滞状態が続いている。このままだと正社員の給与でも韓国に水をあけられることは間違いないだろう。

それだけではない。図表1(ジェイエイシーリクルートメント調査)はアジア各国の2013年以降の中途採用時給与の上昇率を示したものだ。

アジア各国・地域のホワイトカラー中途採用時給与 上昇率推移
アジア各国・地域のホワイトカラー中途採用時給与 上昇率推移

コロナ禍で2020年は各国とも上昇率は落ち込んでいるが、2013年以降、各国とも高い水準で上昇している。インド、ベトナム、中国は8~10%(2020年除く)、日本は2013年以降、1~2%程度の上昇率であるのに対して、韓国は4~5%の上昇率だ。

すでにシンガポールの給与水準は日本を上回っている。日本の凋落や韓国にも追い抜かれつつある状況は、ある意味で日本人が見たくない真実かもしれない。しかし諸外国に比べて低い日本の労働分配率(50.1%=2019年、OECD調査)を受け入れているのも日本人である。

日本の給与上昇率の低迷状態がこのまま続くと、日本企業で働くことの優位性がなくなり、いずれ日本人もアジアに出稼ぎに行く日が近いかもしれない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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