1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

残念ながら手術では治らない…専門医が見た「腰痛が酷くなる人」に共通する"ある特徴"

プレジデントオンライン / 2021年12月18日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

腰痛を治すにはどうすればいいのか。横浜市立大学附属市民医療センターペインクリニック内科の北原雅樹医師は「慢性腰痛の原因は腰ではない場合が多い。筋肉量を増やし、柔軟性を高め、生活習慣を見直すことが必要だ」という——。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

■なぜ慢性腰痛に悩む人が増え続けるのか

慢性の腰痛に悩む人々は1271万人と推計されています(厚生労働省資料2019年「国民生活基礎調査の概況」)。まさに「国民病」と言えるでしょう。

私のもとにも、何らかの誤った治療によりこじれ、腰痛が悪化してしまった患者さんが多くいらっしゃいます。腰痛に悩む患者さんが行く当てもなく「慢性腰痛難民」となっている現状があるのだと、現場で実感しています。

腕のいい整形外科とはいえ、彼らは慢性痛の専門家ではありません。やることは手術、注射、投薬です。安易に手術を勧めるケースもあると患者さんから伺います。日本の整形外科医、さらに言うと医師も、慢性痛についての教育を受けません。慢性腰痛に悩む患者さんが減らないのは、こうした医療者側に原因の一端があると言えます。

慢性腰痛の原因が腰にあるケースは稀です。実際は「筋肉のコリ」であり、何十年にもわたる生活習慣や心理的な要因が積み重なって発症します。慢性腰痛の治療は非常に複雑で、患者さんからじっくり話を聞いて特定していく丁寧な過程が求められます。

では、慢性的な腰痛に悩む人にはどのような共通点があるのでしょうか。私のもとを訪れた患者さんに共通して見られた特徴をご紹介します。

■慢性腰痛に悩む人の共通点

一つ目は相対的に筋力がない人です。腰や関節を守るには、それを支える筋肉がついていなければなりません。筋肉が少なければ、その少ない筋肉に過度な負担がかかります。結果、血行が悪くなり「コリ」を生む原因になります。

特に、やせ型の若い女性の患者さんを多く見かけます。若い女性は「痩せていてきれいね」と言われ喜びを感じる人は少なくないと思います。そのせいか、根っから食が細くなっている人もいます。それでも20代、30代の女性には、カロリー制限しながら「とにかく食べて運動してください」と指導します。それだけで改善する人もいらっしゃるのです。

痩せていて運動をしない、60歳後半以上の人はさらに注意が必要です。なかなか食べる量を増やせません。栄養補助食品を勧めても、ドロッとした触感が苦手だったり、下痢したりなどで受け入れてくれません。栄養指導をしてもドロップアウトしてしまいます。

特徴の二つ目は筋肉が固まっている人です。

これも運動不足や、同じ姿勢をとり続けたりすると筋肉は柔軟性を失います。筋肉のそんな方は、ストレッチで柔軟にすれば慢性腰痛が治りやすいです。ストレッチの具体例は後述します。

筋肉が少ない、固まっている人——。それは一種の生活習慣病を抱えた人たちです。太りすぎ(過体重)、運動不足、偏った運動、同じ姿勢での長時間労働、精神的なストレス、喫煙、不十分な睡眠、不規則な生活時間などです。慢性腰痛は、これらの要因が複雑に絡み痛みを引き起こし、継続させているのです。

つまり慢性腰痛の撲滅には生活習慣の見直しが不可欠です。私は生活習慣の改善点として以下の11項目を指導しています。

北原式 本当に厄介な慢性腰痛患者が変えるべき生活習慣11のポイント
1.飲酒はほどほどに(寝酒は禁止)
2.喫煙しない
3.カフェイン(エナジードリンクも)はほどほどに
4.適切な睡眠(睡眠時無呼吸症候群の改善、寝る前の深酒の禁止など)
5.規則正しい生活
6.減量(筋骨格系や心肺機能への負担の減少)
7.減量のための栄養管理
8.ホルモン系の調整(更年期など)
9.適切な運動(代謝を落とさないために)とストレッチ
10.リラクゼーション
11.不要な薬の減薬・中止(肝臓・腎臓などへの負担、副作用、薬物相互作用の減少)

■真の原因にたどり着けば根治できる場合も

整形外科に通ってもなかなか根治できない慢性腰痛ですが、治療法が全く無いわけではありません。腰痛を引き起こす真の原因を特定できればいいのです。

例えば、人気落語家の林家木久扇さんはひどい慢性腰痛に悩まされ、レギュラー出演しているテレビ番組「笑点」の出演も断念するところまで追い込まれていました。

治療をしてもなかなか良くならず、私のクリニックにいらっしゃいました。お話を伺うと、木久扇師匠の場合は、腰に出る痛みの原因が膝にありました。仕事で正座することがありましたから、まさしく生活習慣病でした。

このように腰痛患者さんの痛みの真犯人が、腰とは別の部位にあることもあります。転んで骨折した足首をかばうような歩き方を続け、腰痛を引き起こす人もいます。首の捻挫(ねんざ)でバランス感覚を失ったため、肩から腰に痛みが出ている人もいます。

ちなみに、木久扇師匠を救ったのは「IMS療法」で、筋肉の異常な緊張が原因で起こる痛みに有効なものです。カナダ人医師が西洋医学のリハビリテーションと東洋医学の鍼(はり)治療をもとに開発した治療法で、疼痛を引き起こす「トリガーポイント」を探し、その筋肉が凝り固まった部分に鍼を刺して集中的にほぐします。

このようにしぶとい慢性腰痛であっても、真の原因にたどり着ければ根治は可能です。患者さんは驚きますが、腰痛の原因は必ずしも腰に存在するわけではなく、腰を手術しても、レントゲンを撮っても痛みの原因は分からないのです。

■簡単にできる腰痛を和らげるストレッチ

腰痛を和らげるには、患者さん自身にもできることがあります。それはストレッチです。

60歳過ぎてからはなかなか生活習慣、食習慣を変えることは難しいですが、希望はあります。人それぞれ体力や心身の状態は違えども、腰痛を和らげることに“時すでに遅し”はありません。ぜひ以下の腰痛改善・予防ストレッチをお試しください。

【北原式 慢性の腰痛の改善、予防のための3つのストレッチ】

臀部筋をテニスボールでほぐす
出典=『慢性痛は治ります!』
腰背部ストレッチ
出典=『慢性痛は治ります!』
体幹回旋
出典=『慢性痛は治ります!』

■マッサージ師や鍼灸師は強い味方になる

皆さんにお馴染みの湿布についても、少し触れたいと思います。膝や肩などの関節という表面から浅いところであれば湿布は有効です。単に久しぶりの運動で、腰の浅い部分の筋肉痛であれば、医者に行くまでもなく、運動直後のストレッチやシップ薬で治ります。

しかし、残念なことに筋肉の深いところがコリ凝り固まっている慢性腰痛には効果が期待できません。鎮痛薬が有効(痛みが半分になる)なのは約30%と言われています(慢性疼痛治療ガイドライン2018年より)。

このほか、「IMS療法」のような鍼を刺す治療もあります。これは湿布では届かない深い部分に届くため疼痛(とうつう)対策には有効です。腕のいい鍼灸(しんきゅう)師であれば、筋肉のコリに対して適切な治療をしてくれます。マッサージも、上述した生活習慣改善11のポイントの一つであるリラクゼーション効果が期待できます。選択肢の一つとして取り入れるといいでしょう。

鍼灸やマッサージは、競争の厳しい実力の世界です。整形外科よりも慢性痛をよく理解している理学療法士や、相性のいい鍼灸師、マッサージ師、パーソナルトレーナーもいらっしゃいます。彼らは慢性腰痛に悩む患者さんの強い味方になります。

彼らとの出会いで痛みが緩和することがよくあります。2、3カ所通ってみて、痛みをよくわかっている、相性の良い専門家を選ぶことも検討してみてください。

複数の医療従事者
画像=iStock.com/sh22
※画像はイメージです - 画像=iStock.com/sh22

■慢性腰痛の治療で最も重要なこと

これまで見てきたように、慢性腰痛の原因は筋肉のコリであり、長年蓄積された生活習慣が複雑に絡み合って引き起こされるものです。よって痛みそのものは、残念ながら治るかどうかわかりません。特に、年齢が上がったり、手術をしていたりすれば、完全に治るのは極めて難しくなります。

私のペインクリニック内科では初診時も含めて、痛みについての質問はほとんどしません。ですが、患者さんは具体的に何に困っているのか? 困っていることは痛みによるものなのか、それともほかに原因があるのか? という点から切り込んでいきます。

腰痛を含む慢性痛は、特に原因がこじれている場合、痛みを治そうとすればするほど、治りにくくなります。痛みを「棚あげ」して、どうやったら困っていることを解決できるかに視点を移して行動することが重要です。そうすれば痛みは自(おの)ずと良くなることが多いです。

強調したいことがあります。それは慢性腰痛治療は、痛みの軽減は最終目標の一つであり、第1目標ではないということです。痛みのない状態にすることは難しいのが現実です。よって、患者さんの生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の向上に第1目標を置くことが重要になります。

もし近所の整形外科医がダメな医者で、治療の入り口を間違えると遠回りをしてしまうことがあります。正しい治療に導くことはできません。永遠に治らないこともあります。そのため慢性痛に詳しい専門家と出会うことも対策の上で非常に重要になるのです。

■腰痛ウォッチのススメ

腰痛対策は、健康で長生きするためにも欠かせません。皆さんには、ご自身で「腰痛ウォッチ」をしてほしいと思います。医者任せにせず、腰痛を観察するメリットは多くあります。

前々回の記事で紹介したように、腰痛の裏に隠された重大な病気を見逃すリスクを減らすことができます。主治医に的確な報告ができ、痛みの真の原因を最短距離で突き止められることにもつながります。好きなスポーツを楽しめ、老後の寝たきりを予防し、要介護になって施設で何年も暮らすリスクを減らすことができます。

私は患者さんに「今からでも遅くはありません。よくご自身の腰痛を観察して、何でもいいですから心当たりを私に教えてください。そこに大きなヒントが潜んでいることが多いのです」と伝えています。

自身の腰痛をしっかりと観察すること。それが健康で長生きするためには欠かせません。

次回は、腰痛番外編として、尿漏れや子宮脱など、放置しては恐ろしいことになる骨盤底筋群の鍛え方について解説します。

(詳しく知りたい方はこちら)
・慢性痛に関する医療者(患者・家族)向けYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」
第29回:慢性痛と検査
*MRIから腰部脊柱管狭窄症を指摘され、それが腰痛の原因だ、と説明される患者さんがいます。慢性痛における画像診断の位置づけについてお話ししています。
第57回:慢性痛講座 神経痛概論
第58回:神経痛概論② 神経痛の診断基準ほか
第59回:神経痛各論 坐骨神経痛ほか
*腰痛の原因として、坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症という病名をつけられる人が結構います。そのような、「神経痛」の診断がしっかり行われていないことについて、指摘しています。
・慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント」
*私が一般の方向けに総合監修しています。動画「あるペインの少女クララ」は必見です。

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。
(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは
「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の集学的痛みセンターの一覧をご参照ください▼
https://paincenter.jp/about/
(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口はこちらです▼
https://itami-net.or.jp/consultation

----------

北原 雅樹(きたはら・まさき)
横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授
1987年東京大学医学部卒業。1991〜1996年、米国ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに臨床留学。帝京大学溝口病院麻酔科講師、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授を経て、2017年4月から横浜市立大学附属市民総合医療センター。2018年4月から現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。複雑な要因が重なる痛みの「真犯人捜しの名探偵」。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」を日本に導入した。日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医、日本疼痛学会、日本運動器疼痛学会所属。公認心理師の資格を持つ。著書に『肩・腰・ひざ…どうやっても治らなかった痛みが消える! 原因解明から最新トリガーポイント治療法のIMSまで』(河出書房新社)、『慢性痛は治ります! 頭痛・肩こり・腰痛・ひざ痛が消える』(さくら舎)、『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム、共著)などがある。

----------

(横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授 北原 雅樹 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください