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「流産や尿漏れのリスクが高まる」スリム体型を目指す女性を待ち受けるヤバい落とし穴

プレジデントオンライン / 2021年12月19日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AntonioGuillem

スリムな体型を目指すダイエットが、女性の健康リスクを高めることがある。痛みの専門医、横浜市立大学附属市民医療センターペインクリニック内科の北原雅樹医師は「運動を伴わないダイエットは危険だ。筋肉低下の影響で、流産などのリスクが高まる」という——。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

■増加する若い女性の「骨盤臓器脱」の重大リスク

皆さんは「骨盤臓器脱」という症状をご存じでしょうか。

骨盤臓器脱とは、女性特有の病気で、骨盤内の臓器(膀胱、子宮、直腸)が「腟」や「肛門」から出てしまう疾患の総称です。主な原因は、骨盤内の臓器を支える筋肉の衰えです。経産婦(出産を経験した女性)に多く、スウェーデンの疫学調査では、出産経験者の44%がかかったというデータが報告されています(Prevalence and co-occurrence of pelvic floor disorders in community-dwelling women)。日本人に関するデータはありませんが、一定の割合でいらっしゃることが推測されています。

これまでは高齢者に多い疾患でしたが、最近、出産を経験していない比較的若い女性、特にやせ型の女性の発症が目立っています。

これは大変由々しき事態です。なぜなら子宮が支えられなくなるわけですから、出産も大きく負担になります。妊娠中に子宮口が緩んでばい菌が入ったり(絨毛膜羊膜炎)、流産や早産になったりするリスクが高まってしまうからです。

■「尿漏れ」を見逃してはいけない

もちろん骨盤底筋の状態は直接見て把握することができません。しかし、骨盤底筋の緩み・衰えを把握できるサインはあります。それが「尿漏れ」です。

私のところに痛みの治療に来た30代の出産を経験した女性に、初回の問診時に「尿漏れはありますか?」と聞いて驚いたことがあります。「あります。子供を産めば普通に漏れるんではないですか?」と当たり前のように答えたからです。

念のため、私の病院のある20代の女性研修医に、骨盤全脱出についてレクチャーをした際に尋ねてみると「私も尿漏れしています。友人も尿漏れしているので普通だと思っていました」と答えました。

尿漏れは「普通」ではありません。昔は出産を経験した経産婦でも尿漏れは稀でしたが、このやり取りを機に、最近の若い女性の骨盤底筋の衰えを強く憂慮することになりました。

■なぜ骨盤底筋の緩み・衰えが若年化しているのか

加齢とともに尿漏れの患者さんが増え、成人女性の約25%、つまり4人に1人は尿漏れの経験者という調査もあります。根本的な原因は、妊娠や出産、加齢、肥満、閉経による女性ホルモンの低下で、これらによって骨盤底筋の筋力低下が進みます。

しかし、なぜ出産を経験していない若い女性にも骨盤底筋の緩み・衰えがみられるのでしょうか。私は、その原因は「痩せすぎ体型」にあるのだと考えています。今、若い女性はこぞって痩せていますが、痩せすぎるものも考え物です。

痩せること、体重を減らすことを重視するあまりに筋肉をつけず、脂肪だけが身体についた状態になっている恐れがあります。俗にいう「痩せデブ」の状態は「骨盤臓器脱」予備軍ともいえます。

これは近年の偏った美意識が原因だと考えています。スリムなテレビアイドルに憧れて「痩せよう」という風潮が若い女性たちに浸透しているのではないでしょうか。周囲も「痩せていてかわいい」と褒めますから深層心理に刷り込まれてしまっているように思えます。

減量中のイメージ
写真=iStock.com/vadimguzhva
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vadimguzhva

勘違いしないでいただきたいのは、アイドルたちはステージで3時間、4時間飛び跳ねて歌って踊っていますし、そのために日頃から筋力トレーニングをしています。運動量が多く、よく食べていますから、痩せていても筋肉がついています。

にもかかわらず、体型だけを真似るのは誤りです。自身の身体にとっても怖いことです。心当たりのあるやせ型の人は、よく食べて運動して筋肉をつけることを、今すぐ「待ったなし」でお勧めします。

往年の女優、マリリン・モンローは、寝る前にバーベルを上げるなどして筋力トレーニングをしてスタイルを維持していたそうです。外見だけを真似てはいけないのです。

最近の子供たちは外で遊ぶ機会が少なくなっています。こういう生活習慣もじわじわと筋力低下につながっています。私が所属する運動器疼痛学会の関係者では「そのうち30代でロコモティブシンドローム(運動器症候群)になるだろう」と冗談抜きで話し合われています。

■「胸が垂れてしまった」と打ち明けた10代女性

話は少し脱線しますが、若年層の筋力低下症状は骨盤底筋だけにとどまりません。これは、「慢性の腰痛」で来院した18歳の女性患者のケースです。

初診の問診時、この女性患者さんが「最近、胸が垂れてしまって悩んでいるんです」と打ち明けてくださいました。胸をふくよかにしたい一心で、一生懸命食べて太ることにしたそうです。当初は願い通りに胸が大きくなって喜んでいましたが、時間が経つにつれて大きくなった胸はハリをなくし、垂れてしまったというのです。

お母さん同席の上での衝撃の告白でした。これは、明らかに大胸筋を鍛える筋力トレーニングをしなかったから起こった現象です。筋力低下症状の典型例の一つと言えます。

これまで挙げた骨盤底筋や大胸筋だけの話ではなく、腹筋もできなくなっている若い女性も増えています。痛み治療の最前線にいると、まったく運動をしない若い人たちがどれほど多いか痛切に感じます。

私が患者さんや女性研修医を通じて知った若い女性たちの「筋力低下」による症状は氷山の一角です。実は多くの女性が悩んでいるのではないでしょうか。

若い女性たちは仲間同士で話をしても、仲間が皆、筋力が弱いので、それが当たり前と思っているのです。

20代の女性研修医でも尿漏れについて仲間内で話し合って、傷をなめあうだけで、大きな問題と認識していませんでした。尿漏れや胸の衰えなどの症状が起こっても、誰にも相談できずに、一人悶々と悩んできるケースも多いのではないかと推察できます。

ただ痩せるのではなく、よく食べ、筋力をつける——。若い女性たちの行動変容が求められます。

■ストレッチで筋力をつける

一方、私たち医療者側の問題としては、それを指摘、指導する医者が少ないことです。

痛みの治療体制を充実させるとともに、運動による体力向上を患者さんや患者予備軍にインストラクトする、これは医療界ならびに関係する機関、パートナーが集学的に横の連携を取り合って対応していくべき大きな課題です。

ちなみに先述した女性研修医は、早速ストレッチと筋力強化を始め、3カ月後に「骨盤底筋を鍛えたので尿漏れが収まりました」と喜んで報告してくれました。即効性があるのだなと感心しつつ、「お友達にもトレーニングを勧めてね」とお願いしました。

北原式 骨盤底筋群の劣化による尿漏れを防ぐ3つのストレッチ

骨盤前後傾運動
出典=『慢性痛は治ります!』
大殿筋のストレッチ
出典=『慢性痛は治ります!』
腸腰筋のストレッチ
出典=『慢性痛は治ります!』

上記のストレッチは大変地味で、若い女性からすると食いつきにくいかもしれません。しかし筋肉をつけることはコツコツとした地道な取り組みです。

まさに「ローマは1日にしてならず」「千里の道も1歩から」です。安心・安全に子供を産める筋力をつけて、ご自身と未来のご家族を守っていただきたいと思います。

■キセキのコトバに振り回されない

本稿を含め、これまで4回にわたって腰痛編をお送りしてきました。最後にぜひ皆さんにお伝えしたいことがあります。

「運動法Aを用いたら、腰回りの筋肉がつき、腰痛の80%は解消します」
「器具Bを用いたら、あっという間にあなたの腰痛はなくなります。満足度90%以上」
「薬剤Cで長年の腰痛から解放されました。効果を80%以上の人が実感」
「サプリメントDで腰痛が劇的に改善した」

慢性の腰痛や腰回りの筋肉の弱体化に悩む人々にとって、ワラにもすがるような「キセキのコトバ」をよく見受けます。

もちろん誇大広告もありますが、①どんな腰痛に対して、②どの程度の改善を目標にして、③どれだけの期間有効か、が明示されていません。「効果・効能には個人差があります」という注釈はエビデンスがないことを物語っています。

多くの人は年齢を重ねるごとに体のどこかに慢性の痛みに悩まされます。腰痛、肩こり、ひざ痛、頭痛……急性一過性のギックリ腰のように突然起こることもあります。症状がひどい人は体の複数部位から同時に、または代わる代わる痛みに襲われます。

医学が発達し、人の寿命は長くなりました。痛みとの向き合い方は生活の質に大きく関わってきます。痛みの予防に大きく影響する「筋力アップ」に取り組むのに遅すぎることはありませんが、早いほどより有効であることも事実です。

走っている人たち
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

これを機に痛みに対する知識と理解を深めていただき、単なる長寿ではなく、健康で充実した長寿を目指していただきたいと考えています。痛みの臨床現場最前線からの心からの願いです。

(詳しく知りたい方はこちら)
・慢性痛に関する医療者(患者・家族)向けYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」
*MRIから腰部脊柱管狭窄症を指摘され、それが腰痛の原因だ、と説明される患者さんがいます。慢性痛における画像診断の位置づけについてお話ししています。
第57回:慢性痛講座 神経痛概論
第58回:神経痛概論② 神経痛の診断基準ほか
第59回:神経痛各論 坐骨神経痛ほか
*腰痛の原因として、坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症という病名をつけられる人が結構います。そのような、「神経痛」の診断がしっかり行われていないことについて、指摘しています。
・慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント」
*私が一般の方向けに総合監修しています。動画「あるペインの少女クララ」は必見です!

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。
(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは
「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の集学的痛みセンターの一覧をご参照ください▼
https://paincenter.jp/about/
(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口はこちらです▼
https://itami-net.or.jp/consultation

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北原 雅樹(きたはら・まさき)
横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授
1987年東京大学医学部卒業。1991〜1996年、米国ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに臨床留学。帝京大学溝口病院麻酔科講師、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授を経て、2017年4月から横浜市立大学附属市民総合医療センター。2018年4月から現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。複雑な要因が重なる痛みの「真犯人捜しの名探偵」。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」を日本に導入した。日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医、日本疼痛学会、日本運動器疼痛学会所属。公認心理師の資格を持つ。著書に『肩・腰・ひざ…どうやっても治らなかった痛みが消える! 原因解明から最新トリガーポイント治療法のIMSまで』(河出書房新社)、『慢性痛は治ります! 頭痛・肩こり・腰痛・ひざ痛が消える』(さくら舎)、『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム、共著)などがある。

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(横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授 北原 雅樹 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

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