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ライザップの「結果にコミットする」というフレーズに秘められた戦略的シナリオの中身

プレジデントオンライン / 2021年12月16日 12時15分

2020年9月24日、RIZAPの看板(福井県福井市) - 写真=時事通信フォト

ヒットするサービスの背景にはなにがあるのか。ビジネスコンサルタントの三坂健さんは「顧客のネガティブな感情にアプローチするといい。例えば『RIZAP』の『結果にコミットする』というコピーは、顧客の『本当にダイエットに成功できるか不安』という感情をとらえている」という――。

※本稿は、三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■「競合が提供できず、自社が提供できる」という部分を定義する

バリュープロポジションを定義する流れについて話を進めましょう。

バリュープロポジションとは、「市場(顧客)が求めていて、競合が提供できず、自社が提供できる価値」のことです。

「顧客を分類して、ターゲットがわかったら、それでいいのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、これだけでは不十分です。

ターゲットに設定したシンボリックな顧客が何を求めているのかを理解することが、その後のバリュープロポジションの定義につながります。

例をあげて考えてみましょう。

【演習問題】
人気を博した「RIZAP」のボディメイク。シンボリックなターゲット顧客は誰で、その顧客はどんな価値を求めているのでしょうか?

誰もが知っているサービスということで、RIZAP社のボディメイクを例にあげたいと思います。

RIZAP社は、ボディメイク市場において、パーソナルトレーニングという手法を定着させた企業です。ヒットしたということは、顧客が求める価値と企業が提供するサービスが重なったと考えられます。

では、誰に対して、どのような価値を提供したのでしょうか。ターゲットと、その顧客が求めている価値を想像してみましょう。

本来はデータから仮説を立てるべきですが、ここではCMから読みとれる情報で仮説を立てます。

ターゲットについては、

○性別:問わず
○年齢:40~50代
○職業:運動を必要としない仕事
○生活時間帯:日中だが、夜間に飲酒や食事の機会が多め
○家族形態:問わず
○利用目的:ダイエットをしたい

とイメージすることができました。

ただ、これだけでは、RIZAPを他のスポーツクラブと差別化するだけの視点が不足しています。

このクラスターの人が抱える課題やニーズをより深く知ることで、「競合が提供できず、自社が提供できる」という部分を定義しやすくなります。

では、顧客のニーズをさらに深掘りするためにするべきことは何でしょうか?

■顧客の「"不"の感情」を洞察せよ

それは、「顧客の“不”」を考えることです。こうした顧客の潜在的な欲求を探る思考を「顧客インサイト」と呼びます。インサイトとは洞察すること。つまり、顧客インサイトとは、顧客の立場から顧客が感じていることを深く洞察することです。

顧客の“不”とは、不のつく感情を意味します。

○不便
○不安
○不信
○不適
○不要
○不満
○不快
……

他にもありますが、顧客が感じる不の感情をキャッチすることが、より深く顧客を知ることになります。

ニーズとサービスが飽和気味な市場においては、ほとんどのニーズは既存の商品やサービスで満たされています。しかしながら、どんなに商品やサービスが充実しても、新たな不満が生じるものです。顧客インサイトを通じて、そこを素早く、正確にキャッチすることができると、競合との差別化につなげやすくなります。

ソファに座っている女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■「結果にコミットする」という言葉が顧客の“不安”を解消した

話を戻して、RIZAP社がターゲットとする、先にあげた顧客は、どのような不の感情を持っているでしょうか。

○不便:時間や場所の融通が利かないと不便
○不安:本当にダイエットに成功できるか不安。長続きするか不安
○不信:本当に成果が出るのか不信
○不適:本気で痩せようと思っている自分にとって既存サービスは不適
○不要:痩せるうえで効率の悪い機材や施設は不要
○不満:もっと自分にあったアドバイスが欲しいけれど、もらえないことが不満
○不快:人に見られながら運動をするのが心理的に不快

あくまで憶測で並べてみましたが、このような不の感情があげられるのではないでしょうか。

RIZAP社は、顧客が抱える不の部分を解消するサービスを考案し、提供することで、顧客の支持を得ることに成功しました。

特に、ダイエットに臨む人が抱える「不安:本当にダイエットに成功できるか不安」という部分に対して、「結果にコミットする」という言葉と成果保証のサービスで安心感を与えたことが、支持につながったのでしょう。

過去にダイエットに失敗した経験があり、不を感じている顧客を、クラスターとして顕在化させ、既存の競合のサービスでは満たされていなかったところを解消するサービスを提供することが、RIZAP社の戦略的なシナリオだといえると思います。

■競合と比べたときの自社の強み・弱みを整理する

バリュープロポジションを定義する最後のステップは「強みと弱みを知る」です。

市場の傾向をつかみ、顧客を分類し、顧客を知ることができたら、「競合が提供できず、自社が提供できる価値」を定義するステップに進みます。その際に、顧客が求める価値に照らして自社の強み・弱みを仕分けし、そして、「強み」にフォーカスすることが必要となります。

では、具体的に、どのように強みや弱みを知り、定義すればいいのでしょうか。

ここではフレームワークを用いると効果的です。

先に示した不の感情の一覧をフレームワークとして、それに照らして競合と自社を比較することで、競合と比べたときの自社の強み・弱みを整理することができます。

どういうことか、例をあげて考えていきましょう。

【演習問題】
アメリカ発のコストコが日本で成功した理由は何でしょうか?

コストコは大型のスーパーマーケットです。一度でも行ったことがある人は、その規模、商品の豊富さや大きさ、独特な雰囲気に圧倒されたのではないでしょうか。のびのびと回遊することができ、大型のカートを押しながら、他のスーパーではあまり見られないサイズと種類の商品に出会うことができます。

コストコはアメリカ以外でも自社の強みを軸に成功しています。

では、日本のスーパーと比較して、日本におけるコストコの強み(弱み)はどこにあるのでしょうか?

■「顧客の不」から強みを考える

強みや弱みを考える前に、これまでの定石にならって、コストコがターゲットとしている顧客をイメージしておきましょう。

○性別:問わず
○年齢:30~40代
○職業:会社員または自営業
○生活時間帯:平日は忙しく、週末に休み
○家族形態:4人以上、多世帯住まい(または近隣に居住)、車所有
○利用目的:必要なものや目新しいものをまとめ買いしたい、友人とシェアしたい

ポイントは、「利用目的」の「必要なものや目新しいものをまとめ買いしたい、友人とシェアしたい」というところにあります。この利用目的を軸に、顧客の不を洗い出すと、どうなるでしょうか。

○不便:車で行けないと不便
○不安:安く買えているのか不安
○不信:よく知らない海外製品への不信感
○不適:週末にまとめ買いをする目的では街中のスーパーは不適
○不要:過剰なサービスは不要
○不満:いつも同じような商品しか買えず、エンタメ要素がないことが不満
○不快:狭いスーパーでの買い物が不快

といったところでしょうか。

あくまで私の解釈をもとにした仮説を並べていますが、実際にこの作業を行うためには、データの分析、アンケートの収集、顧客へのヒアリングを重ねて検証する必要があります。

■ターゲットに対して強みを最大限に生かすことで成功した

では、この不を軸に、コストコの強みを考えてみましょう。

○不便:車で行けないと不便→アクセスしやすく、広い駐車スペースを確保
○不安:安く買えているのか不安→間接費を抑えることで、安値で提供
○不信:よく知らない海外製品への不信感→グローバルチェーンの安心感
○不適:週末にまとめ買いをする目的では街中のスーパーは不適→まとめ買い推奨サイズ
○不要:過剰なサービスは不要→会員制、セルフサービスで安さ重視
○不満:いつも同じような商品しか買えず、エンタメ要素がないことが不満→見たことのない商品を品ぞろえ。ホットドッグやジュースが安価でゲットできるエンタメ要素あり
○不快:狭いスーパーでの買い物が不快→広い空間。大型カートで買い物

このようにあてはめることができます。

コストコは、ターゲットとした顧客に対して、自社特有の強みを最大限に生かすことで、ビジネスを有利に展開していることがわかります。

■弱みを克服するよりも強みを武器にする

もちろん、コストコにも弱みはあります。しかし、強みを軸に戦える(ビジネスができる)ターゲット顧客を設定することで、強みを生かす経営・事業ができているということです。

三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)
三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)

あなたの企業や事業にも強みや弱みがあるでしょう。

問うべきは、「強みを生かした経営・事業ができているか?」ということです。

弱みを克服するという視点も大切ですが、それには時間がかかります。「自社が有している強みを武器にできないか」と考えるほうが、より効率的で、効果的です。

そこで必要になるのは、自社が有している強みを軸にした商品やサービスとマッチする顧客を見つけること、定義すること、場合によっては創り出すことです。

ただし、間違えてはいけないのは、アウトサイド・インであることは必須だということです。

「自社の強みはこれだから、この強みをPRしていこう」という内側からのインサイド・アウト的思考では、変化が激しく、競合が多い市場環境を生き抜いていけません。

まず、市場はどうで、顧客は誰で、どんな不を抱えているか、ということをしっかりと踏まえたうえで、自社の強みが生かせる顧客をターゲットとして据える。そして、価値をしっかりと創り上げ、届けていく。この思考のプロセスを踏むことを忘れてはいけません。

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三坂 健(みさか・けん)
ビジネスコンサルタント
HRインスティテュート代表。1977年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)にて法人営業などに携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。2020年1月より現職。企業向けの経営コンサルティングを中心に、組織・人材開発、新規事業開発など、様々な支援を行っている。また、各自治体の教育委員会、国立高等専門学校における指導・学習支援にも積極的に関わっている。

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(ビジネスコンサルタント 三坂 健)

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